従業員と企業が共に成長を目指す関係性を指す「エンゲージメント」は、近年注目されている考え方です。しかし、企業によってはエンゲージメントへの認識が薄く、従業員のエンゲージメントが低いケースも散見されます。
今回はエンゲージメントの概要や従業員のエンゲージメントが低い原因、高め方を解説します。また、エンゲージメント向上に取り組む企業の実例も紹介します。
目次
エンゲージメント(engagement)とは、深い絆や関係性というニュアンスがある言葉です。
ビジネスシーンにおいては、従業員が企業に対して抱く愛着心や思い入れを意味します。また、企業と従業員がお互いに良い影響を与え合い、共に成長できる関係を構築することをエンゲージメントと呼ぶケースもあります。
従業員のエンゲージメントが高い場合、主体的に業務に取り組む従業員が増加し、生産性の向上や離職率の低下につながることから、エンゲージメント向上に取り組む企業が増加しています。
エンゲージメントが重視されるようになった主な要因は次の3つです。
日本では少子高齢化が加速しており、企業は人材獲得に苦労しています。獲得した人材に長く働いてもらいたい、企業の業績に貢献できる人材を確保したいとの考えから、エンゲージジメントが注目されています。
また、働き方に対する価値観の多様化によって、企業は働く意義が共有でき、ワークライスバランスを重視した働き方を選択できる環境づくりを求められています。従業員に働きたいと感じてもらうためには、エンゲージメントの向上が不可欠といえるでしょう。
さらに、定年退職まで1つの会社で勤め上げるといった価値観が変化し、転職を希望する従業員が増加しています。人材の定着率を上げるためには、従業員のエンゲージメントを高める必要があるのです。
アメリカの調査会社・ギャラップ社の2022年の調査によれば、日本企業に属する従業員のうち、熱意にあふれる従業員の割合は全体の5%にとどまり、調査を始めてから4年連続で過去最低を記録しています。
これは、グローバル平均の23%、OECD(経済協力開発機構)に加盟する38ヶ国の平均20%を大きく下回る水準であり、調査対象国129ヶ国中128位となっています。
調査レポートは、従業員の72%が「ただ職場にいるだけ」「必要最低限の努力しかしない」となっており、熱意のある従業員と比較して、ストレスや燃えつきを感じていると指摘しています。
このように、日本におけるエンゲージメントはかなり低い状況にあり、改善が必要な状況にあります。
参考:ニッセイ基礎研究所|日本の従業員エンゲージメントの低さを考える
従業員のエンゲージメントが低い企業には、以下の特徴や傾向があります。
それぞれ詳しく解説します。
従業員のモチベーションが低いのが、エンゲージメントが低い企業の傾向です。
仕事に対してやりがいを感じておらず、無気力で業務をこなす従業員が多い傾向にあります。また、企業の目標や方向性などを理解しようとしないため、職場環境や他の従業員に悪影響を及ぼす恐れがあります。
離職率が高いのも、エンゲージメントが低い企業の特徴です。
言い換えれば、在籍する企業で働き続けたいという心理的価値が低いといえます。
このような企業では、労働条件や立地条件などが良くても、やりがいを求めて他の仕事や志の高い会社に人材が流出する可能性が高いでしょう。
エンゲージメントが低い企業では、社員同士や上司とのコミュニケーションが取りづらい傾向にあります。
仲間意識や一体感に欠けるほか、風通しが悪かったり、問題の解決に時間が掛かったりするケースが多いのが特徴です。
業績や信用に影響する恐れがあるほか、従業員が働きづらさを感じやすいため、エンゲージメントが低下してしまうのです。
エンゲージメントが低い企業では、人事評価が正当に実施されていないケースが多いといえます。
業務実績や仕事への取り組みを正当に評価されない場合、従業員は不満を感じ、会社への貢献が無意味であると判断するかもしれません。
このような状況では、エンゲージメントは大きく低下することになります。
従業員のエンゲージメントが低下する原因には、次の4つが挙げられます。
それぞれ詳しく解説します。
日本の多くの企業では、勤務時間に対して賃金が発生する仕組みとなっています。
そのため、業務中に仕事を早く終わらせたり、多く仕事を捌いたりしても、報酬が加算されることはありません。
場合によっては、仕事を早く・多く終わらせる姿勢を喪失してしまい、従業員自ら生産性を下げてしまう恐れがあります。
企業によっては、社内外で発生したさまざまな事例やトラブルに対応するため、ルールが追加され、手続きやチェックなどが増えていく場合があります。
リスク回避の有効な手段ではあるものの、過剰な規制を続けた場合、従業員の意欲的なチャレンジが実現されず、成功の喜びを感じられない組織になる恐れがあります。
このような組織では、エンゲージメントを高めるのは難しいでしょう。
組織は規模が大きくなると、複雑化して仕事が細分化されます。連携が取りにくく、意思決定が遅くなりやすいため、スピードが必要な業務の場合、従業員が能力を発揮しにくくなる可能性があります。
また、手続きや調整などに掛かる時間がストレスになったり、誰のために仕事をしているのか分からなくなったりする場合が多く、従業員のエンゲージメントが低下しやすくなるのです。
日本では年功序列制度や終身雇用制度を採用している企業が多く、企業への帰属意識を従業員が優先しやすいという点が課題となる場合があります。
従業員が顧客やクライアントよりも自分の立場を守ろうとしてしまい、業績や信用に影響を及ぼすケースも少なくありません。
結果として仕事に対するモチベーションが維持できず、エンゲージメントも低下してしまうのです。
従業員のエンゲージメントが向上した場合、企業には次のようなメリットがあります。
それぞれ詳しく解説します。
エンゲージメントの向上は離職率低下につながります。
エンゲージメントの高い従業員は、企業への不満が少ないほか、業務に対するモチベーションが高くなりやすいためです。
仕事にやりがいを感じ、職場内での人間関係が良好になりやすいため、離職率が低下して人材を確保しやすくなります。
エンゲージメントの向上によって企業の生産性はアップします。
日本の研究機関であるモチベーションエンジニアリング研究所の調査によれば、従業員のエンゲージメントの向上が営業利益率や労働生産性に好影響を与えることが分かっています。
従業員が主体的に行動して成果を挙げやすくなるため、結果として業績アップが期待できるわけです。
従業員のエンゲージメントの向上に継続的に取り組むことは、企業にとって重要な施策となるでしょう。
参考:株式会社リンクアンドモチベーション|「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開
エンゲージメントの向上は、顧客満足度のアップに効果的です。
エンゲージメントがアップすれば従業員が主体的に業務に取り組むようになり、顧客への対応や提供するサービス、商品の質が高まります。
そのため、顧客満足度が向上するほか、企業の認知度が高まったり、良い印象が広まりやすくなったりすることから、人材の応募件数が増える可能性もあります。
従業員のエンゲージメントを向上させる具体的な方法は、次の5つです。
それぞれ詳しく解説します。
エンゲージメントを向上させたい場合、現状を正しく把握することが大切です。
現状や課題を明確にしなければ、問題を解決できないためです。
現状の把握には、エンゲージメントサーベイ(アンケート)を利用します。エンゲージメントサーベイでは、従業員のエンゲージメントの状態と、人間関係・労働環境・マネジメント・給与条件など、エンゲージメントに影響する要因を図ることが可能です。
できるだけ短いサイクルでエンゲージメントサーベイを実施して、現状や課題を更新すれば、エンゲージメント向上のきっかけにできるでしょう。
企業が掲げるビジョンを共有したり、浸透させたりすれば、従業員の貢献意欲を促進でき、エンゲージメント向上につながります。
新入社員やマネジメントクラスの従業員に対する教育・研修、経営層からビジネスの状況を説明する機会の設定など、ビジョンを共有・浸透できる取り組みが重要になります。
目指すべき方向や、やるべきことが明確になるほど、従業員が能力を発揮しやすくなり、エンゲージメントがアップしやすくなるでしょう。
働きやすい職場環境を整えれば、エンゲージメントは向上しやすくなります。
仕事と家庭の両立を見据えて、テレワークや短時間勤務といった制度を取り入れたり、福利厚生を充実させたりすれば、従業員が仕事で抱えるストレスを緩和できるようになります。
結果的に、主体的に業務に取り組めるようになるため、エンゲージメント向上を期待できるでしょう。
職場で社員同士や上司とのコミュニケーションが取りやすい場合、従業員のエンゲージメントが高まりやすくなります。
エンゲージメントの向上には、職場の人間関係が大きく影響するからです。
1対1でのミーティングを実施したり、社内SNSを導入したりして、コミュニケーションが気軽に取れる環境を整えるといいでしょう。
また、上司から質問して部下に考えさせるオープンクエスチョンを利用すれば、従業員が主体性や当事者意識を持ちやすくなるため、エンゲージメント向上に効果的です。
人事評価の改善はエンゲージメントのアップにつながります。
従業員の成果や努力を認めて、正当に評価する仕組みがあれば、従業員は自分の頑張りが上司に伝わっていることや、企業に貢献できていることを実感しやすくなります。
エンゲージメントを高める人事評価の方法としては、360度評価やMBOの導入を検討しましょう。
360度評価とは従業員1人に対して、関係する上司や同僚が評価するという方法です。また、MBOとは目標管理制度とも呼ばれ、設定した対象期間に目標をどれだけ達成できたかを相対的に評価します。
最後に実例として、従業員のエンゲージメントが高い3つの企業を紹介します。
Googleでは、エンゲージメントが生まれやすいオフィス設計を導入しており、各フロアに飲食可能な簡易キッチンが設置されているほか、お菓子や飲み物が常備されています。
欲しいものがあるキッチンを利用するためには別部署のフロアを訪問する必要があり、普段、業務上では関わりのない従業員同士での対話が生まれやすい仕組みとなっています。
また「グーグリー」と呼ばれる独自のカルチャーが定着しているのも特色です。グーグリーとは、以下の要素を兼ね備えている人を指します。
このような社内文化が、従業員のエンゲージメント向上に大きく影響しています。
スターバックスではサービスに関するマニュアルがほとんど存在しません。たとえば、カップへのメッセージやおすすめドリンクの紹介などは、すべて従業員(パートナーと呼ぶ)が自発的に行っているものです。
スターバックスでは「Engaged Partner」というモットーを掲げており、従業員は企業と対等な立場として扱われます。これは、かつて業績が悪化したスターバックスが、エンゲージメントを重視した経営方針への転換によって業績が回復した経験に基づいています。
他にも、個人の成長目標を社員からアルバイトまでが設定し、4ヶ月ごとに人事考課でフィードバックを行うなど、エンゲージメント向上のための取り組みが定着しているのがスターバックスの特徴です。
日本国内で人口が減少している状況にあり、新築住宅の着工数も減少すると見込まれています。そこでLIXILが考えた戦略は、リフォーム需要を重要視することでした。
しかし、エンドユーザーとの接点をいかに持つかを考えた場合、従業員のエンゲージメントが低いと満足な接客はできないと考え、人事プログラム「変わらないと、LIXIL」を打ち出しました。
月1回のエンゲージメントサーベイやフォローアップミーティングを実施したり、情報共有システムを活用したりして、従業員のサポートを行うようになった結果、当初のエンゲージメントスコアの10ポイント改善を達成しています。
従業員のエンゲージメントが向上すれば、主体的に行動する従業員の増加や生産性、業績のアップ、人材の確保など、企業にさまざまなメリットをもたらします。
ライフスタイルや価値観が変化している現代では、従業員が働きたいと感じられる企業でなければ、淘汰される可能性もあるでしょう。エンゲージメント向上の施策導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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