職場環境改善とは?具体的な取り組み方・アイデア・事例を紹介

公開日:2023.10.11 更新日:2023.10.12

職場環境改善に取り組むといっても、何から始めたらよいか分からない担当者の方も少なくないでしょう。この記事では、職場環境改善の取り組み方や具体的な改善アイデア、改善に成功した他社の事例などを紹介します。

職場環境改善とは?

職場環境改善とは、具体的にどういった取り組みを行うことなのでしょうか。ここでは、職場環境改善の概要や求められている社会的な背景について説明します。

働きやすい労働環境を整える取り組み

職場環境改善とは、作業環境や人間関係など従業員に影響を及ぼす職場環境を改善してメンタルヘルス不調などの健康リスクを減らし、従業員にとって働きやすい労働環境を整える取り組みのことです。

特に従業員のメンタルヘルス不調は労働力不足の課題と直結しているため、職場環境の改善は企業にとって非常に重要なテーマであると言えます。厚生労働省の令和4年労働安全衛生調査では、調査に協力した労働者の82.2%が「仕事や職業生活においてストレスを感じていることがある」と回答しました。また、事業者を対象とした調査では事業所全体の13.3%が「過去1年間で、メンタルヘルス不調で連続1ヶ月以上休職した従業員や退職した従業員がいた」と回答しています。

労働者のほとんどが仕事によるストレスを抱えていて、メンタルヘルス不調が原因で労働力を欠いた経験がある事業所も珍しくない状況であることから、ストレスが少なくメンタルヘルスにとって良い職場環境を整えることが非常に重要であると分かります。

出典:厚生労働省「令和4年労働安全衛生調査」

ストレスチェック制度によって企業の努力義務に

2015年に施行された「ストレスチェック制度(労働安全衛生法第66条の10)」に基づき、職場環境改善に取り組むことは企業の努力義務となっています。同制度は、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的としていて、従業員自身が自分のストレス状態を客観的に把握するだけでなく、企業が職場環境改善に取り組む際に活用することも想定して導入されたものです。

ストレスチェック制度に関する取り組みの方針を定めた「労働安全衛生規則 第52条の14」では、事業者はストレスチェックの結果を集計して、必要に応じてストレス軽減措置を実施するよう努めなければならないとされています。

努力義務とはいえ国の方針として明確に定められている以上、企業は職場環境改善に積極的に取り組むべきでしょう。

出典:e-Gov「労働安全衛生法」

「労働安全衛生規則」

職場環境をつくる4つの要素

職場環境と一口にいっても言葉が抽象的すぎて、具体的に何を指しているのかイメージしづらいかもしれません。

職場環境は「設備」「空間」「労働条件」「人間関係」の4つの要素に分けることができます。ここでは、各要素の具体例を紹介します。

設備(作業スペースや共有施設など)

設備とは、パソコンや机など個人の作業場所や、自動販売機・トイレ・更衣室・休憩所・食堂などの共有施設などを指します。

設備は従業員のパフォーマンスに直接的に影響する要素ですので、職場環境改善では設備の使いやすさや清潔さ、居心地の良さなどを上げることが重要です。

たとえば、トイレが全体的に汚れていると従業員が使うたびに不快な気分になり、ストレスが増えた状態で仕事に向かわなければなりません。

反対に、清掃が行き届いたきれいなトイレであれば従業員が気持ちをリフレッシュでき、仕事の集中力も増して効率良く業務を進められるでしょう。

空間(ニオイや環境音など)

空間とは、空調や照明、環境音、匂いなど従業員の心身に影響を与える環境的な要素を指します。

適切な空間がつくられていないと従業員は周辺の環境にストレスを感じ、集中が切れて仕事の効率が下がってしまいます。

たとえば、営業担当がWeb会議で商談する場合に、個人のデスク以外に仕事ができる環境がないと騒がしいオフィスでやらざるを得ず、商談にあまり集中できません。周りの席の従業員も、Web会議の音声が聞こえることで普段よりも注意力が散漫してしまい、業務に支障が出る可能性があります。

Web会議専用の静かなスペースが用意されていれば、会議に参加する人もそうでない人も仕事に集中しやすくなり、会社全体の生産性向上にもつながるでしょう。

労働条件(勤務時間や業務量など)

労働条件とは、業務の量やレベル、求められるスキル、体力、個人に与えられた裁量の範囲などを指します。労働条件が個人の能力や希望とかけ離れていると、従業員が過度に負担を感じてストレスが溜まってしまいます。また、働きすぎて心身の健康が悪化することもあります。

たとえば、特定の人に業務が集中していると、残業や休日出勤が増えて心身を休める機会が減り、病気やメンタルヘルス不調につながる可能性があります。

反対に、個人の希望や能力に合った労働条件が設けられていると従業員のストレスが減り、仕事に対するモチベーションが上がりやすくなります。健康状態の改善も期待でき、休職や退職を選択する従業員も減るでしょう。

人間関係(上司の支援や同僚との関係性など)

人間関係とは、上司と部下、部署同士など、従業員の関係性を指す要素です。人間関係は従業員のモチベーションや生産性に大きな影響を与えます。職場で人間関係のトラブルがあると強いストレスにつながり、職場に行くのが億劫になる、業務に集中できないなどネガティブな反応が増えてしまいます。対処が遅れれば、休職や離職につながる可能性もあります。

たとえば、従業員がいくつかの派閥グループに分かれていて関係がギクシャクしていると、あらゆる方面に気を使わなければならずストレスフルな職場環境になってしまいます。

また、従業員同士のコミュニケーションが少なすぎる状態も人間関係が良好とは言えません。従業員のエンゲージメント(職場への愛着)も高まらず、より良い労働条件の仕事が見つかれば転職を選ぶ人も少なくないでしょう。

職場環境改善によって期待できる効果

職場環境改善に取り組むと「仕事のストレスが減る」「生産性が向上する」「職場の人間関係が良くなる」「人材の流出を防止できる」「企業のイメージ向上につながる」などの効果が期待できます。

仕事のストレスが減る

職場環境を改善して従業員が不満を抱いたり不快な気持ちになる機会が減ると、仕事や職場環境から受けるストレスが減少します。職場でのストレス減少はメンタルヘルス不調の予防に直結するため、職場環境改善に取り組む大きなメリットの一つです。

生産性が向上する

職場環境改善によって無駄な業務が減り、従業員が仕事に集中しやすくなれば、一人ひとりのパフォーマンスも良くなり、会社全体の生産性の向上が期待できます。近年は、職場環境改善の一環でITツールを導入して業務効率化や生産性の向上に成功する企業も増えています。

職場の人間関係が良くなる

職場環境の改善によって従業員間のコミュニケーションが活発になれば、人間関係の改善が期待できます。職場の人間関係が良好であれば、「同僚と一緒に働き続けたい」という認識につながり、従業員のエンゲージメント向上も期待できます。

人材の流出を防止できる

職場環境が快適であれば従業員の働き続けるモチベーションにつながり、転職や退職を考える従業員が減って人材の流出防止につなげられます。

また、職場環境の改善に取り組んでいる経営側の姿勢が従業員に伝われば、従業員の間で会社に対する感謝の気持ちが生まれ、エンゲージメント向上も期待できます。

企業のイメージ向上につながる

職場環境改善として取り組んでいる内容を外部に発信することで「従業員を大切にしている」「健康経営に積極的である」といった企業イメージの向上につながります。取引先や株主などのビジネスパートナーからもさらなる信頼を得られるでしょう。

また、SNSを活用して求職者の耳にも届くように発信すれば、就職希望者が増えて採用力向上にもつながります。

職場環境改善の取り組み方

職場環境改善の取り組み方に正解はなく、それぞれの企業が課題に合わせて検討することが重要です。ここでは職場環境改善の手順や計画を考える際の参考として、取り組み方の一例を紹介します。

【STEP1】体制を整える

最初に、職場環境改善を進めるための社内体制を整えます。経営者や管理監督者など指導的な立場にある人が主導しても問題ありませんが、部署単位で従業員が進めたほうが現状に即したきめ細かい改善策を立てられるでしょう。

ただし、効果的な改善策を考えるためには遠慮や忖度を抜きにした本音のコミュニケーションが求められるため、従業員中心の体制にする場合は、お互いの意見を素直に尊重し合えるような関係性が良好なメンバーを選ぶ必要があります。また、一定の業務時間を職場環境改善の活動に割くことになるため、業務量に比較的余裕がある人をアサインしたほうが良いです。

産業医や衛生管理者などの産業保健スタッフにも一定期間フォローしてもらえるようにすると、改善計画をよりスムーズに進められるでしょう。

【STEP2】課題を発見する

社内体制を整えたら、メンバーで協力して職場の課題を洗い出します。課題を見つける方法としては「ストレスチェックの結果を集団分析する」「社内アンケートを実施する」「個人面談やチームミーティングで従業員の意見を集める」などが考えられます。

多くの視点から職場の現状を考察できるように、それぞれの従業員が本音を言いやすいような仕組み・環境をつくることが重要です。

【STEP3】改善計画を立てる

職場の課題を洗い出したら、課題を解決する施策を決め、施策を実施する時期や具体的な進め方、目標、施策実行後の評価期間などを検討します。

施策を考えるときは、職場の弱点やネガティブな部分にばかり注目するのではなく、職場の強みをさらに伸ばすという方向性で考えるのもOK。新しい施策を始めることで職場の負担増加が懸念される場合は、すでに実施している取り組みを発展させる方向性で計画を立てても良いでしょう。

【STEP4】計画を実行する

職場環境改善の計画を立てたら、実際に部署単位や会社全体で施策を実行します。改善活動に携わっていない従業員にも協力を仰ぐときは、取り組みの意義や内容をしっかり理解してもらえるように分かりやすい言葉で説明することを心がけましょう。

【STEP5】実施した内容を評価する

「【STEP3】改善計画を立てる」であらかじめ設定した評価期間になったら、目標と現状を比較して施策の良かった点やうまくいかなかった点などを振り返ります。検討した内容をもとに次の施策を考えましょう。

職場環境改善の取り組みが職場に浸透して効果が現れ始めるまでには時間がかかるため、最初の評価期間で目標を達成できなくても施策を大幅に変更する必要はありません。振り返りのときは結果だけに注目するのではなく、「上層部への提案で想定問答集をあらかじめ用意していたからスムーズに施策の許可が下りた」など過程にも意識を向けることが大切です。

もし施策がうまく進んでいる部署があれば、取り組んだ内容や実施のポイントなどをヒアリングして他の部署にも情報を共有し、全社で協力して職場環境改善を進めましょう。

職場環境改善のアイデア6選

職場環境改善に取り組むといっても、自社の課題に合った施策が思いつかない場合もあるかもしれません。そこでここでは、施策を考える上で参考になるアイデアを6つ紹介します。

老朽化した施設を改修する

老朽化した施設を改修することで汚れを目にしたり不快なニオイを感じたりする機会が減り、従業員のストレス減少が期待できます。

たとえば、トイレ・化粧室を改修して居心地の良い場所にすれば、従業員が業務中に立ち寄って気持ちをリセットすることができ、モチベーションアップやパフォーマンス向上につながる可能性があります。

水まわり住宅総合機器メーカーのTOTOが2019年に実施した「オフィストイレの水まわりに関する調査」では、執務スペース以外で仕事のモチベーションに影響する場所として「トイレ・化粧室」を選択したオフィスワーカーが最も多い結果となりました。調査結果によると、トイレの個室でスマートフォンを確認したり一休みしたりして、気持ちを切り替えている人が多いようです。

出典:TOTO「『オフィストイレの水まわりに関する調査』結果公表」

職場の快適さを上げる施設・備品を導入する

新しい施設や備品を導入してより快適な職場環境をつくることができれば、従業員のモチベーション維持や生産性向上などの効果が期待できます。

たとえば、コーヒーマシンや自動販売機、置き菓子などがあれば気持ちをリフレッシュできたり、休憩中の従業員同士で話す機会が増えて職場のコミュニケーション活性化につながったりするでしょう。施設の導入例としては、壁一面をホワイトボードにしてアイデアを発散しやすい会議室をつくる、横になって寝ることができる仮眠室を新設するなどが一つのアイデアとして考えられます。

仕事に集中しやすい環境をつくる

環境音やニオイ、照明の強さなどを調整・管理して従業員が仕事に集中しやすい環境をつくることで、ストレス減少や生産性の向上につなげられます。

コロナ禍で急激に利用が増えたWeb会議の専用ブースを導入することも職場環境改善の一例です。個室型ワークブースの提供を行う株式会社ブイキューブが2021年に行った調査によると、会議室が足りずオフィスの自席や(会議室以外の)フロア内でWeb会議をした経験があるビジネスパーソンは4割超でした。また、オフィスフロアで行われるWeb会議に対して「うるさい」と感じた経験がある人も、46.5%と半数近くいました。

Web会議の専用ブースを導入すれば、会議に参加する人が話に集中しやすくなるだけでなく、他の従業員もストレスが減って職場全体の生産性向上につながると考えられます。

出典:V-CUBE「第1回緊急事態宣言から1年、テレワーク本格化の“その後”に関する調査結果」

個人の裁量を増やす

自分の考えが担当業務や事業、組織の方向性に反映されると、仕事に対する満足感に影響し、従業員のモチベーション維持につながりやすくなります。分業制をやめる、従業員の投票で管理職を選ぶなどが取り組みの例として挙げられます。

働き方の面でも、フレックスタイム制度や在宅勤務制度の導入など、勤務の時間・場所を自由に選択できるようにすると、個々にとってより働きやすい職場環境になります。

コミュニケーションの機会を増やす

コミュニケーションの機会が増えれば社員同士の仲が深まり、人間関係の改善が期待できます。

上司と部下など会社の縦の関係を強化する取り組みとしては、一対一で面談を行う1on1ミーティング、経営層と従業員の意見交換会、在籍年数や年齢が近い先輩社員が後輩社員をサポートするメンター制度などが挙げられます。同僚との横の関係を深める施策は、日頃の感謝を伝えるサンクスメッセージ、昼食時に新入社員と既存社員が交流するウェルカムランチ、同じ年度に入社した社員を集める同期会などがあります。また、社内イベントを実施したり、オフィスの席を自由に選べるフリーアドレス制を導入したりすれば、部署や所属を超えた会社全体の交流が増えるきっかけになります。

研修を実施する

働きやすさにつながる研修を定期的に実施して、理想的な職場の状態について全社の共通認識をつくることも職場環境改善の一つです。

たとえば、ハラスメント防止研修やメンタルヘルスのセルフケア研修などを行えば、人間関係や個々の健康状態の改善につながります。

厚生労働省の職場環境改善のためのヒント集もチェック

職場環境改善に関してより多くのアイデアを知りたい方は、厚生労働省の「職場環境改善のためのヒント集」もチェックしてみてください。実際に役に立った改善アイデアを日本全国から集めてまとめてあるため、自社の課題に合ったアイデアを見つけられるかもしれません。

職場環境改善に取り組む企業の事例

最後に、職場環境改善に取り組んだ企業の成功事例を2つ紹介します。

オリンパスグループ

医療機器メーカーのオリンパスグループは、従業員やその家族の健康維持・増進を支援する目的で、2018年から段階的に敷地内の全面禁煙を実施しました。

2020年3月末には建屋内、2021年末には敷地内の全面禁煙を達成。また、オンライン禁煙外来の全額費用負担や産業保健スタッフのサポート提供など、喫煙者への禁煙支援にも取り組みました。

その結果、2018年3月期時点では33.9%だった従業員の喫煙率が、2022年3月末時点では20.5%まで減少しました。

出典:オリンパスマーケティング会社情報サイト「健康経営に関する取り組み」

NTT西日本グループ

1,000人を超える女性社員が在籍しているNTT西日本グループは、女性の生理時の不安解消や働きやすさの向上を目的として、2023年5月から1ヶ月間、試験的に生理用品をオフィスのトイレに備品化しました。

取り組み実施後の社内アンケートでは、回答した女性社員の約8割が「生理用品の常設によって不安が軽減され、より仕事に取り組めそう」と回答しました。

同グループはアンケート結果を受け、生理用品の正式な設置を検討すると発表しています。

出典:NTT西日本グループ「NTT西日本グループ 社内アンケートの声を反映し、オフィスに生理用品の設置を推進~女性社員による職場環境改善活動の一環として~」

まとめ

今回は職場環境改善の具体的な取り組み方やアイデア、企業の事例などを紹介しました。従業員にとって働きやすい環境が整えば、従業員のモチベーションアップや企業の生産性向上、人材の流出防止などさまざまな効果が期待できます。まずは今の職場環境を振り返って課題を見つけ、できることから少しずつ取り組みましょう。

リスキリングナビでは、職場環境や人材流出のテーマについて、以下のコラムでも紹介しています。ぜひご覧ください。

職場環境とは?改善するメリットや具体的な方法、取り組み事例を解説 | リスキリングナビ

企業が頭を抱える人材流出の原因とは?未然に防ぐ対策について詳しく解説! | リスキリングナビ

おすすめの
パートナー企業