人工知能(AI)は、ECサイトの商品リコメンドから音声認識アシスタントまで、すでに私たちの日常に深く浸透しており、ビジネスの世界においても、その重要性は急速に高まっています。
AIの存在感が増していく中で、業務の在り方や推進方法は大きな変化の兆しを見せています。このような環境においては、ビジネスリーダーの「AIリテラシーの欠如」は、事業体自体の存続にも影響する重大なリスクとなり得ます。
本記事では、組織の競争力を維持し強化するために不可欠な「AIリテラシー」に焦点を当て、深く探求します。
AIリテラシーの定義から始め、ビジネスにおける役割を概説したうえで、AIリテラシー教育を導入する際のポイントにも触れていきます。
ビジネスにおけるAIの効果的な活用に関心を持つ経営者や経営企画担当者、そして人材育成を担う人事担当者向けの内容です。ぜひ最後までお読みいただき、AIリテラシー教育についての理解を深めてください。
目次
ここでは「AIリテラシー」について定義するとともに、これを構成する3つの主要な要素について説明します。
リテラシー(literacy、 識字)という言葉は元々、「読み書きの能力」を指すもので、さまざまな分野で必要とされるスキルセットを定義するために使われる言葉ですが、近年よく耳にする言葉の一つに「デジタルリテラシー」があります。
現代のビジネスパーソンに必須のスキルと認識されるようになったデジタルリテラシーの範囲は、IT技術の理解や活用、情報の取り扱い、コンピュータ等のハードウェアの使用スキルなどが含まれ、最近では「人工知能(AI)」にまで拡張されています。
AIリテラシーとは、現代のデジタル社会における人々の生活や学習、そして働くために必要な基本的な能力を指します。AIを支えるテクノロジーの仕組みを理解し、その機能性や限界を把握することや、AI活用に対する倫理的な側面からの検証およびAI技術を用いた協働のスキルへの理解も、AIリテラシーに含まれます。
AIリテラシーは、幅広い要素を含んだ包括的な概念です。
この概念の核となるのは技術的理解ですが、それだけにとどまらず、AI技術を日常生活やビジネスに応用する実践的な理解や、使用における道徳的・法的問題を考慮する倫理的理解も必要です。
要素 | 内 容 |
---|---|
技術的理解 | Iがどのようにデータを収集・処理し、意思決定や推奨を 行うかについての理解。パターン認識、機械学習、自然 言語処理など。 |
実践的理解 | AIシステムと効果的に対話する方法を知り、その実用的 な応用に対する理解。 音声で作動するバーチャル・ アシスタントの使用、AIを搭載したカスタマー・サービ ス・ボットとの対話、AIを搭載した分析ツールのビジネ ス・コンテキストでの使用など。 |
倫理的理解 | AIに関係する倫理的側面の理解(公平性、説明責任、透 明性、倫理、安全性など) |
参考:AIリテラシーのコーディングフレームワーク(Conceptualizing AI literacy: An exploratory review, Ng et al.)
ビジネスにおけるAIリテラシーの必要性は、AI技術の進化とその経済的、社会的な影響の両面から理解ができます。
以下、4つの重要なポイントに分けて説明します。
現代のビジネス環境では、データドリブン(データ駆動型)の意思決定がますます重要になっています。AIとビッグデータを扱う技術の進展により、膨大なデータの分析に基づく、より精度の高いビジネス戦略の策定が可能になります。データを理解したうえで適切な解釈を行い、戦略的な意思決定を行うためにもAIリテラシーがさらに求められています。
グローバル市場では、イノベーションの速度も範囲も、絶えず拡大を続けています。このような環境下では、AIリテラシーが新たな技術の理解および創造的な問題解決において中心的な役割を担います。AIの活用により、従来にはないアプローチで市場ニーズに対応し、競争優位を築くことが可能となります。また、AIによる分析と自動化は、製品開発を加速し、顧客の要望に迅速に応える一助となります。
AI技術は、ビジネス環境に革命的な変化をもたらし、カスタマイズされたユーザー体験の向上や業務プロセスの効率化を通じて、企業の成長と競争力向上に大きく貢献します。一方でAIは、特定の業界や職種においては、変化や衰退を引き起こす可能性も持ち合わせています。AIリテラシーを身につけることは、これらの成長の機会を最大限に活用し、同時に潜在的リスクを効果的に管理するために不可欠です。
AI技術の進化に伴い、AIを理解し活用する能力を持つ人材の需要が増加しています。多くの業界で新しい職種が登場し、AI技術の理解と運用能力を持つ人材は、そうでない人材に取って代わる可能性があります。このため、従来のリテラシーに加えて、AIリテラシーが今後のキャリア形成において必須のスキルセットとして認識されています。
ビジネスにおけるAIリテラシーとは、AI技術を活用して効率性、革新性、戦略的優位性を高めるための方法の理解を意味します。
ここでは、ビジネスにおいてAIリテラシーがどのような役割を果たすのかを概説します。
AIリテラシーは、データドリブン型の意思決定プロセスにおいて、リーダーが効果的な戦略を策定するのに役立ちます。これにより企業は、市場動向や顧客の需要に迅速に対応し、競争優位性の獲得が可能になります。
AIによる自動化は、ビジネスプロセスの効率化に大きく貢献します。自動化によって、企業は反復的なタスクを迅速かつ正確に処理し、生産性の向上を実現できます。これにより、市場の変化や顧客の需要に素早く対応する力も強化されます。
AIリテラシーは採用プロセスにおいても重要です。AIの活用で、候補者のスキルや経験に基づいて適切な人材をより効率的に見つけられます。たとえば、履歴書の自動スクリーニングや、過去の採用データから最適な候補者プロファイルを予測するなどの方法があります。
AIリテラシーは、顧客中心のアプローチを強化します。企業は、AIを活用して顧客体験をカスタマイズし、個々の顧客のニーズに合わせたサービスを提供します。このアプローチにより、顧客の満足度は大きく向上し、長期的な関係強化につながります。
AIリテラシーは、ビジネスリーダーが業界内でAIを活用する機会を見定め、これらの技術を自社の戦略計画に統合するうえでの力となります。また、ビジネスリーダーが既存のビジネスモデルを再考し、新しい収益の機会を探るための洞察を与えます。これにより、企業は市場の変化に迅速に適応し、競争上の優位性維持が可能になります。
ここでは、ビジネスにおけるAIリテラシーの習得に必要な「教育プロセス」に注目します。
AIリテラシー教育でも、他の学問分野と同様に段階的な学習アプローチを取り入れることが重要です。このときの参考モデルに、ベンジャミン・ブルームによる1956年の「ブルームの分類法(Bloom's taxonomy)」があります。
この古典的な教育理論は、人間が技術を習得するときの、教育の目標を分類するための枠組みとして機能します。
『AIリテラシーの概念化』という論文では、ブルームの分類法をAIリテラシー教育に適用し、3つの段階に分類しています。
最初の段階「AIを知る・理解する」では、AIの基本的な知識と概念の理解に重点が置かれます。次に、「AIを使う・応用する」の段階では、AIの知識を実際の状況に応用する能力が求められます。
最終段階である「AIを評価する・創造する」では、AI技術の分析や評価、創造に対する深い洞察が重視されます。
AIだからといって特別な教育プロセスを要するわけではなく、他の学問と同様に、段階的かつ体系的なアプローチでレベルアップを目指しましょう。
参考:『AIリテラシーの概念化(Conceptualizing AI literacy: An exploratory review)』
ここでは、企業がAIリテラシー教育を効果的に導入するための、主要なポイントを整理します。従業員が、前項で述べた「3つの段階」を順序よく進み、「AIと協働できる人材」になれるよう支援するためのポイントを紹介します。
AIリテラシー教育の導入は、企業トップの強いコミットメントが不可欠です。リーダーはAIリテラシーの重要性を認識し、学習文化の醸成、組織の戦略目標への統合など、人材育成に向けたリソースを投入する必要があります。
企業は、従業員のAIリテラシーを向上させるための研修や教育プログラムへの投資が求められます。
研修には、基礎知識の習得やビジネスでの応用を見越した実践的な学習だけでなく、倫理的・社会的な影響力やAIの限界に関する内容も含まれていると良いでしょう。
AIの分野は絶えず進化しており、従業員は最新のAIトレンドやテクノロジーにアップデートされた知識を持つ必要があります。企業は、従業員が継続的な学習とスキルアップのためのリソースと機会を持てるように奨励すべきと言えます。
AIリテラシーには、AIの倫理的側面や社会的影響について理解し、配慮することも含まれます。企業は、倫理的なAI利用の文化を醸成し、倫理的側面に焦点を当てた研修を行うなど、偏見を排除し、プライバシーに配慮した意思決定ができるように心がけましょう。
AIリテラシーの教育は、IT部門だけでなく、企業の全ての部門や階層にわたって重要です。AI技術とその応用はビジネスのあらゆる面に影響を及ぼすため、各部門の従業員がAI知識を持つことは不可欠です。
部門を超えた横断的な教育は、より幅広い視野と理解を持つ人材の育成につながります。
ビジネスにおけるAIリテラシーを深めるには、実際の体験と実世界での応用が不可欠です。これには、AIを搭載した分析ツールの使用、顧客サービスへのAI導入、製品開発におけるAIアプリケーションの活用、および実際の成功事例や失敗事例を学ぶことも含まれます。
「NECアカデミー for AI」とは、NECグループが長年培ってきたAI人材育成のノウハウを体系的に集約した学びの場です。
1年間しっかり学ぶ「入学コース」、3ヶ月間のオンライン学習が可能な「NECアカデミーOnline for AI」、そして研修を個別に申し込むことができる「オープンコース」があります。「AIリテラシー教育」は、「オープンコース」で提供される、若手社員から若手指導担当者までを対象にした、包括的なプログラムです。
受講者が段階を踏んで「実際に応用できる」AIリテラシーの獲得を支援する、以下のような内容が含まれます。
参考:NECアカデミー for AI 『AIリテラシー教育』
この記事では、今後のビジネスにおける成功の鍵となる「AIリテラシー」に焦点を当て、その定義、ビジネスにおける役割、そして企業がAIリテラシー教育を導入する際のポイントまで詳しく解説しました。
AI技術によって変化し続ける世界において、この技術を理解し、倫理的・社会的な責任を持って活用する能力は、事業の力強い発展の土台となり得ます。
企業におけるAIリテラシー教育は、単なる一時的な取り組みではなく、絶えず進化するAI技術に適応するための継続的な学びと探求のプロセスです。私たちは学び続け、AIの可能性の限界に挑み続けることが必要です。
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