グローバル人材とは?必要な能力や育成事例などをわかりやすく解説

公開日:2023.11.09 更新日:2023.11.09

企業活動のグローバル化に伴い、人材育成の観点からも「グローバル人材」が求められるようになりました。しかしグローバル人材といっても、具体的にどのような人を指すのかイメージしづらいですよね。

ここでは、グローバル人材の定義や能力を解説し、育成の方法や事例を紹介します。

グローバル人材とは?

グローバル人材について、ビジネスにおける一般的な意味や文部科学省・総務省が用いている定義を紹介します。

国内でも海外でもビジネスで成果を出せる人材

ビジネスにおいてグローバル人材というと、一般的に「国内でも海外でも自分の能力を発揮でき、企業が求める成果を十分に出せる人」を指します。外国語でのコミュニケーション能力や専門分野の知識・経験に加えて、主体性・柔軟性など精神面の条件もグローバル人材の素質として挙げられることが多いです。

グローバル人材というと、駐在員や現地採用社員など海外で働く人のみを指すイメージがあるかもしれません。しかし、日本国内でも外国人労働者が増えていて海外企業との取引も盛んになっていることから、国内で活躍するグローバル人材の重要性も年々高まっています。

文部科学省の定義

柔軟性、責任感・使命感」「異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」の3要素に整理しています。また、これらの要素に加えて「幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークと(異質な者の集団をまとめる)リーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー」なども定義の中に含まれています。

同省はグローバル人材を能力水準で5段階に分けていて、下から順に「1.海外旅行会話レベル」「2.日常生活会話レベル」「3.業務上の文書・会話レベル」「4.二者間折衝・交渉レベル」「5.多数者間折衝・交渉レベル」となっています。これらの中でも特に「4.二者間折衝・交渉レベル」「5.多数者間折衝・交渉レベル」など上級のグローバル人材の育成・確保が重要とされています。

出典:文部科学省「グローバル人材の育成について」

総務省の定義

総務省は、グローバル人材を「日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けてさまざまな分野で活躍できる人材」と定義しています。

文部科学省と総務省はどちらも「日本人としてのアイデンティティー」をグローバル人材の中心的な要素として定義していて、海外でも自国の文化や考え方を大切にできる人材が求められているとわかります。

出典:総務省「グローバル人材育成の推進に関する政策評価」

グローバル人材はなぜ必要なのか?

日本でグローバル人材の必要性が高まっている背景にはどのような理由があるのか、わかりやすく解説します。

日本経済が停滞しているため

グローバル人材が求められている背景には、少子高齢化や国際競争力の低下などによる日本経済の停滞が大きく関係しています。

日本は少子高齢化の影響で、国の経済や社会保障などを支える15歳〜64歳の生産年齢人口が年々減少しています。2021年の生産年齢人口は7,450万人で、ピーク時の1995年の生産年齢人口8,716万人と比較すると1,000万人以上減っている状態です。生産年齢人口が少なくなると、労働者不足で企業の事業規模の維持・拡大が難しくなります。これが1990年代から現在まで約30年以上経済が停滞している原因の一つと考えられています。

また、国際競争力の低下も、日本が長い経済停滞からなかなか抜け出せない原因の一つとされています。スイスのIMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が発表した2022年版世界競争力年鑑では、日本の国際競争力は60カ国中34位。アジア・太平洋地域に限定しても、14カ国中10位と下位グループに入っています。年鑑の公表が始まった1989年からバブル期の終わりの1992年まで日本は世界ランキング1位でしたが、1990年代後半に順位が急落し、2019年以降は30位台にとどまっています。

日本経済の低迷が続く中で、企業は利益を伸ばすために海外市場へ参入し始めました。その結果、海外事業の売上拡大・販路獲得に貢献できるグローバル人材の需要が年々高まっているのです。

出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)(PDF版)」


出典:IMD「World Competitiveness Ranking」

日本企業がグローバル化しているため

日本国内においてグローバル人材の必要性が高まっている背景には、日本企業のグローバル化も大きく関係しています。人口減少に伴う人手不足や海外での事業展開をきっかけに海外人材を積極的に採用する日本企業が増え、2022年10月末時点の外国人労働者数は約182万人と過去最高を更新しました。

さまざまなバックグラウンドを持つ海外人材と共に働くためには、相手の文化や価値観を尊重したうえで自分の意見をわかりやすく伝えられる人材が多く必要です。そのため、基本的な語学力・コミュニケーション能力に加えて異文化理解の精神も持つグローバル人材が社会全体で求められているのです。

グローバル人材に求められる能力

グローバル人材には具体的にどのような能力・素養が求められるのかを解説します。

円滑なコミュニケーションを行う「語学力・コミュニケーション能力」

グローバル人材にとって、基本的な語学力は必要不可欠です。英語や現地の言語のスキルが低ければ取引先や従業員など仕事で関わる人たちとスムーズにやりとりできず、トラブルが発生しやすくなるためです。

また、日本は曖昧な表現が多く文脈に依存したコミュニケーションが多い「ハイコンテクスト文化」の国と言われています。言葉ではっきり意思表示をする「ローコンテクスト文化」の国を相手に日本と同じ感覚でコミュニケーションを取ろうとしても、うまく連携できません。そのためグローバル人材には、コミュニケーションのスタイルが異なる相手であっても円滑に話を進められる高いコミュニケーション能力が求められます。

文化の違いを受け入れて対応する「柔軟性」

世界を相手に活躍するグローバル人材は、ビジネスパートナーの文化を尊重し、日本の文化との違いを受け入れる柔軟な考え方を持っている必要があります。仕事の価値観や習慣、常識は国によって大きく異なるため、自分の考え方が当たり前だと思って行動しても相手に理解してもらえず、十分な信頼関係を築けないからです。

失敗を恐れず挑戦する「積極性」

海外事業に関わるグローバル人材には、失敗を恐れず、成功するまで挑戦する積極的な姿勢が必要です。海外で新しい事業を展開するとなると、ビジネス環境や文化の違いによって日本国内と同じような進め方はできません。国内事業に比べて不確定な要素も多くあります。そのためグローバル人材には、失敗のリスクを理解しながらも次々とアクションを起こせる積極性・主体性が求められます。

日本の魅力をアピールできる「知識・教養」

海外のビジネスパートナーに、和食・着物など日本の文化に深く関連する商品・サービスを売り出すときは、商材の背景にある日本ならではの考え方や風習について分かりやすく説明できる知識・教養が必要です。日本の文化や特徴を深く理解していれば、日本と他国を比較しながら文化の違いを理解するうえでも役に立ちます。

グローバル人材を育成する方法

グローバル人材を社内で育成するためには、まずグローバル人材に求めるスキルや経験、マインドセットなどの人材要件を社内で定義する必要があります。企業に必要なグローバル人材は、各社のビジョンや事業内容、今後の経営戦略などによって異なるためです。

人材要件が定まったら、社員の中からグローバル人材の素養を持っている候補者をリストアップします。そして候補者がグローバル人材として活躍できるようになるまでの具体的な人材育成プランを立て、計画に沿って研修・教育を実施しましょう。

グローバル人材の育成において重要な点は、候補者自身が考えるキャリアプランを尊重することです。海外で活躍できる素養を持っている人材でも、本人が国内勤務を希望していれば育成はうまくいきません。候補者が今後のキャリアプランで迷っているようであれば、グローバル人材を目指すメリットを会社から積極的に伝える必要があるでしょう。

グローバル人材育成の取り組み事例

最後に、グローバル人材育成に取り組んでいる企業の事例を2つ紹介します。

三井住友海上火災保険株式会社

41ヵ国・地域に海外ネットワークを展開する三井住友海上火災保険株式会社では、海外拠点の経営幹部候補層がダイバーシティマネジメントやリーダーシップスキルを学ぶ「グローバルマネジメントプログラム」を実施しています。

その他にも、海外人材と協働するプログラムを通じて国内の社員がグローバルビジネスを疑似体験する「グローバルトレーニー制度」や、海外拠点での実習や国内外のスクール通学によるMBA・語学習得を目指す「MSビジネスユニバーシティ」などもあります。

参考:グローバル人財の活躍推進|三井住友海上

株式会社クボタ

世界79ヶ所以上の販売・生産・研究開発拠点を持つ株式会社クボタでは、世界の子会社・関連会社に、日本の従業員を研修生として一定期間派遣する活動を1997年から毎年実施しています。また、2015年からは、世界各国の管理監督者候補や技術者の育成を目的に、中国やタイの従業員を半年から1年間日本に派遣してモノづくりの考え方やノウハウなどを教える活動も行っています。

経営に関わるトップ層の人材育成も積極的に行っていて、北米地域5社とクボタ機械海外総括部・人事部が連携して現地の経営幹部を育成する取り組みも実施しています。

参考:採用情報 (キャリア開発)| 株式会社クボタ

まとめ

グローバル人材とは国内でも海外でもビジネスで成果を出せる人材です。グローバル人材には、語学力・コミュニケーション能力だけでなく、「柔軟性」「積極性」「日本に関する知識・教養」といったさまざまな能力・素養が求められます。そのため企業がグローバル人材を育成するには、人材要件の定義から研修の実施まで長期スパンで取り組む必要があります。

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