「人材育成」とは、企業が成果を上げるために社員を育て成長させること。近年、「リスキリング」の重要性が叫ばれるとともに、耳にすることが多くなったキーワードです。
しかし、一口に人材育成といっても「何から手を付ければよいか分からない」という担当者の方も少なくないでしょう。
本記事では、そんな方々に向けて人材育成に必要なスキルや手法を、企業の実例とともに解説していきます。
目次
「人材育成」とは、企業が業績を上げることを目的に、社員にスキルや知識を与え成長させることです。
似た意味の言葉に「人材教育」があります。「人材育成」が社員のスキルアップに向けた研修、啓発、グループワーク、人材配置などの取り組み全体を指すのに対し、「人材教育」はその手段の一つとして、知識やスキルを直接教えることを指す場合が多いです。
人材育成の目的は、社員の生産力を高めることで企業の経営目標達成に貢献することです。
近年、以下のような経緯から人材育成が重要視されるようになってきました。
昨今あらゆる業界で業務のIT化・DXが進展し、それに伴って不要になっていく仕事も多くみられます。そうなれば必然的に自社の人手が余ることになります。
また、現在日本では労働人口の減少などから新しい人材の採用もますます困難になってきています。
したがって、企業の持続的な成長のためにも、自社内の限られた人材に対し、新しいハードスキル・ソフトスキルを育てる必要があるということです。
人材育成を考えるうえで、考えるべきアプローチは大きく3種類に分けられます。
OJTとは「On-the-Job Training」の略で、上司が担当につき、職場で指導を行う方法です。現場で実務を行いながらインプットを行うため、接客や営業など、知識よりも実践が重要視される業務のトレーニングに向いています。
また、上司と部下の間にコミュニケーションが生まれるので、チームの関係構築にも良い効果があるという利点があります。
Off-JTとは「Off the Job Training」の略で、日常業務を離れ、別の場を設けて育成を行う方法です。具体的には、セミナー研修や動画研修などがあります。OJTに比べ、指導担当の能力による効果のばらつきが少なく、効率よく知識をインプットできるという利点があります。
現在では、Off-JTをオンラインで行う環境やプラットフォームも充実してきています。eラーニングなどを活用すれば、コストを抑えられる点も大きなメリットでしょう。
SDは「Self Development」の略で、「自己啓発」を意味します。その名の通り、社員本人が自らインプットの機会を作るように促す方法です。
方法としては、通信講座やのeラーニングの費用を補助したり、資格取得を奨励するために手当を出したりするものがあります。
人材育成を行う人が身につけるべきスキルは、以下の4つです。
人材育成を成果につなげるには、組織が抱える課題を的確に把握し、解決に適した計画を立てる必要があります。
企業の組織全体を俯瞰し、どのような人材・スキルの獲得が課題であるかを特定して初めて、有効な人材育成が可能となるのです。
そのためには、各業種・職種の業務の実態や求められるスキルを詳しく知っている必要があるでしょう。「現状の把握」が人材育成の第一のポイントとなるのです。
2番目に必要なスキルは、目標を管理する能力です。つまり、社員に対して目標と期限を定め、達成に必要な調整を促すスキルのことです。
人材育成にはすべきことも多いため、明確な目標とタスクがなければ、期待通りのスキルを育てることはできず、成果につなげることも難しくなります。
目標の作り方については「ベーシック法」「SMARTの法則」「カークパトリックモデル」など多くのフレームワークがあるので、まずはこれらを参考にするとよいでしょう。
育成担当者には、コミュニケーションスキルが大きく問われます。部下に指導やフィードバックを行うには、分かりやすく教えることはもちろん、信頼関係の構築が不可欠だからです。
部下にとって学びやすく成長しやすい環境を作るためには、常日頃から会話や気配りを行い、質問や相談をしやすい関係性を作っておく必要があるでしょう。
育成担当者は、部下の成長のマネジメントを担う役割ともいえます。つまり、部下の目標達成に長期的にコミットし、モチベーション面でもフォローする責任があるのです。
そのため、日ごろから1on1ミーティングなどを通して対話を深め、部下のキャリアのビジョンにも深い理解をしておく必要があります。
ここでは、いわゆるコーチングによって部下を導くスキルが求められます。
1つ目のポイントは、取り組みの目的を明確にし、チーム全体に共有することです。
大規模かつ長期的な人材育成の取り組みは、ただでさえ目的が曖昧になりがち。目的の設定や振り返りが甘い場合、効果的に成果につなげることは難しくなります。
また、計画の目的と具体的なアプローチが示されていれば部下も上司も積極的な気持ちで実践しやすく、結果として成長度合いも大きくなるでしょう。
部下のスタンスやスキルを伸ばすには、本人の主体的な学習が重要な要素になります。したがって、組織の側からも、メンバーが自ら考え、自発的に挑戦し成長したいと思えるような環境を整えることが必要です。
そのためには、「評価制度の改善」「クリアな目標設定」「チャレンジの奨励」などのポイントを押さえ、心理的安全性の高い職場づくりを目指すことが求められます。
人材育成によって成果を上げるには、指導される側だけでなくマネージャーや研修担当者など指導する側の能力も高める必要があります。
指導側のメンバーが教育スキルをインプットできるよう、定常業務を減らしたり、人材育成の目的を再確認したりとフォローすることを念頭に置きましょう。
システム開発や情報通信インフラの事業を行う富士ネットシステムズでは、これまで社員の技能を網羅的に把握できず、育成に向けた効果的な目標設定が困難であるという問題を抱えていました。
そこで、「職業能力評価シート」とよばれる自己評価シートを導入し、業務経験やスキルをチェックできる仕組みを構築。
これにより、社員が正しい自己評価と、求められているスキルを確認できるようになりました。また、評価シートを見ながら上司と話し合うことで、具体的な課題点を共有できるようになりました。
カフェチェーンのスターバックス コーヒー ジャパンは、体系的に構築された手厚いOJT・Off-JTの制度でも有名です。
スターバックス コーヒー ジャパンでは、正社員、アルバイトの区別なく入社した全員が同じ教育プログラムを受講します。最初のステップである「バリスタ」の研修だけでOFF-JTが4クラス、OJTが7つのモジュールの計11プログラム。26時間を要するとのこと。そして全ての研修を終えるまでには80時間もの時間をかけるのです。
また、企業理念の共有も徹底しており、「ラーナードリブン」の発想でスタッフ自らが行動の理由を考え、納得して動けるようにコーチングしているとのこと。
人材育成に必要なスキルや手法について、解説しました。
目的を明確にし、最適な手法を選び取ることで、本当の意味で成果につながる人材育成が可能になります。
他社の成功事例や幅広い情報を活用し、自社の継続的な成長を目指しましょう。