ジョブ型雇用は導入すべき?メリットから事例まで徹底解説!

公開日:2024.05.14 更新日:2024.05.14

近年の社会情勢の変化や、働き方に対する価値観の多様化を背景に、日本企業の間で「ジョブ型雇用」への関心が高まっています。

しかし、安易に雇用形態を変えるだけでは、組織と従業員の両方に混乱をもたらすおそれがあります。

ジョブ型雇用の導入には、慎重な検討が必要です。概念を深く理解し、適切に取り組めば、企業の競争力を向上させるための重要な一歩となり得ます。

この記事が、貴社にとって、最適な人材活用戦略を見つけるうえでの一助となれば幸いです。

ジョブ型雇用の基本

ここでは、ジョブ型雇用という形態の定義と仕組み、およびその他の雇用形態との違いを整理します。

ジョブ型雇用とは

「ジョブ型雇用」とは、従業員が特定の職務や役割を基準に雇用され、その職務に対するスキルや成果が重視される雇用形態です。

従業員のキャリア開発と組織の生産性向上に焦点を当て、個々の成果や貢献度によって評価される点に特徴があります。

この制度のもとでは、従業員は個々の職務に特化したスキルや専門知識が求められます。

メンバーシップ型雇用との違い

ここでは、これまでの日本の企業で一般的であった「メンバーシップ型雇用」との比較により、ジョブ型の特徴を確認していきます。

メンバーシップ型雇用とは、採用時は企業全体の「メンバー」として雇用され、入社後に職務が決定される雇用形態です。

メンバーシップ型雇用では、職務よりも従業員の全体的な能力や潜在能力が重視され、長期にわたる企業への貢献が期待されます。そのため、新卒者の採用に重点が置かれ、企業内で長期的なキャリア開発が行われます。

一方のジョブ型雇用は、個々の職務に特化し、その職務に必要なスキルや成果によって従業員を評価するシステムです。個人の専門性と職務達成が重要で、企業内での職務転換や異動はほとんどありません。

ジョブ型に対する3つの誤解

ここでは、ジョブ型雇用に対する誤解という視点から、この雇用形態の特徴を確認していきます。


1. 「ジョブ型雇用は解雇しやすい」という誤解

ジョブ型雇用に関する一般的な誤解の一つは、「ジョブ型雇用は解雇しやすい」というものです。

ジョブ型雇用は職務に基づく雇用形態ですから、職務が消滅すれば解雇の正当な理由となり得ます。しかし、米国のように解雇規制が緩い国は特殊であり、解雇は必ずしも容易ではありません。

日本においても、解雇には高いハードルがあり、整理解雇の際には特定の要件を満たす必要があります。

解雇が比較的容易であるのは一部の国における雇用の特徴であって、一般的なジョブ型雇用の特徴ではありません。

「ジョブ型雇用は解雇しやすい」という見解は、誤解であると言えます。


2. 「ジョブ型=成果主義」という誤解

ジョブ型雇用と成果主義はしばしば混同されますが、これも誤解の一つです。

ジョブ型雇用は、業務遂行に特化した人材確保のシステムです。ジョブ型雇用においては、業務の内容や遂行度が重視され、報酬や評価は定められた業務内容に基づきます。

一方の成果主義は、個人の業績や成果によって決定される報酬や評価のシステムです。一人ひとりの業務の結果やクオリティに応じて報酬が変動します。

ジョブ型雇用は雇用形態の一つであり、成果主義は報酬・評価システムの一つの形式です。ジョブ型雇用=成果主義であるとは必ずしも言えません。


3. 「職務記述書があるのはジョブ型雇用」という誤解

ジョブ型雇用に関する「職務記述書の存在がジョブ型雇用を特徴づける」という考えも、代表的な誤解のひとつです。

職務記述書(ジョブディスクリプション)とは、特定の職位や役職に関する具体的な職務内容、責任範囲、必要なスキルなどを記した文書です。

職務記述書は職務内容や必要なスキルを明確にするうえで有用なのであって、その存在事態がジョブ型雇用を特徴づけるわけではありません。

また、「職務を明確にする」という性質から、メンバーシップ型雇用であっても職務記述書は利用可能です。

ジョブ型雇用を構成する5つの要素

ここでは、ジョブ型雇用を構成する要素について説明します。これらは相互に関連して、ジョブ型雇用を特徴づけています。


1. 職務の明示

職務の明示は、ジョブ型雇用の中核を成す要素です。各職務の内容と要件が明確にされ、職務記述書で詳述されます。


2. 職務要件に基づく採用

採用プロセスでは、明確にされた職務要件を満たす候補者の選定が重要視されます。そのため、新卒採用よりも中途採用が中心となる傾向があります。


3. 職務に基づく賃金

賃金は職務に基づき、同一労働同一賃金の原則に従います。給与水準は外部労働市場と連動しており、転職や起業といった外部への転出が比較的容易です。このため、特定の職務において社内での昇進機会が閉ざされると、退職の意向が強まることもあります。


4. 雇用の維持

メンバーシップ型雇用では、たとえば携わっていた業務が完了した場合でも配置転換などで雇用の維持が可能です。しかしジョブ型では、職務の消失とともに雇用も失われるのが一般的です。


5. 昇進=職務価値(職務等級)の変更

メンバーシップ型雇用の場合は役職名が必ずしも職務と紐づかないため、名称が変わっても職務内容が変わらないケースがあります。

ジョブ型雇用における昇進は単なる役職名の変更ではなく、職務価値や等級の変化を意味し、職務等級が変われば職務内容も変化します。そのため、昇進のチャンスは上位職務に空席がある場合に限られます。

また、ジョブ型雇用では、役職名が同じでも昇進とみなされるケースがあります。

参考:メンバーシップ型雇用管理とジョブ型雇用管理

ジョブ型雇用が注目される5つの理由

ジョブ型雇用が注目される理由について、その背景を簡潔に説明します。

1. 政府や経団連で言及された

ジョブ型雇用への注目が集まったのは、政府や経団連からの報告書等がきっかけとされています。

2013年と2014年の規制改革会議の答申では、ジョブ型正社員の雇用ルールの整備についても言及されました。

2020年に経団連が発表した春闘の指針(経営労働政策特別委員会報告)では、日本の雇用システムを「メンバーシップ型」と定義し、そのメリットを活かしてのジョブ型雇用の適宜導入を提言しています。

2. 専門性を持つ人材の重要性が高まった

他社との差別化と国際競争力の向上を図るためには、デジタル分野を含む専門性の高い人材の存在が不可欠です。

多様化や複雑化に対抗できる人材を確保するため、スキルや職務内容を明確に限定し、特定の職務に特化したスペシャリストを採用する動向が強まっています。

3. 多様な働き方に対応する必要性が高まった

現代の労働市場では柔軟性と個々の専門性が重視されており、働き手はライフスタイルやキャリア目標に合わせた働き方を求めています。

ジョブ型雇用は、これらの個別ニーズに柔軟に対応可能であるため、さまざまな働き方を希望する従業員にとって魅力的な選択肢となっています。

4. 終身雇用制度の限界が浮き彫りになった

日本で長年続いてきた終身雇用制度は、経済の持続的な成長を前提としていました。

しかし、不透明な経済情勢の中で、長期雇用に伴う人件費は、企業にとって重い負担となりつつあります。

組織の硬直化を防ぎ、柔軟な人材戦略を推進する動きも、企業が終身雇用からジョブ型雇用へと移行する動機の一つとなっています。

5. 業務管理の刷新が必要になった

コロナ禍での在宅勤務やテレワークの普及は、従来の人事制度では業務目標や成果が不明確になるという問題点を浮き彫りにしました。

遠隔での管理では、勤務態度や意欲などの評価が困難になるという課題が生じたのです。

これに対して、ジョブ型雇用は明確な職務内容や業務目標をもとに成果を評価するため、テレワークとの相性が良いとされています。

ジョブ型雇用導入のメリット

ここでは、ジョブ型雇用を導入する企業が期待できるメリットを確認していきます。

職務に最も適した人材を確保できる

ジョブ型雇用では職務要件を明確に定義するため、以下のように職務に最も適した人材を効率的に採用できます。

  • 職務の具体的なスキルや要件がはっきりしているため、それに合致した人材が応募しやすい
  • 採用担当者は、特定のスキルや経験をもとに候補者を選定できるため、採用プロセスがより効率的になる
  • 職務要件の明確化により、企業と応募者間のミスマッチが減り、適切な人材を確保しやすくなる

業務の成果に応じて社員を評価できる

ジョブ型雇用は、あらかじめ設定された職務記述書(ジョブディスクリプション)、評価基準、給与体系などに合意した人材を雇用します。

採用時点で評価の基準が決まっているため、上司や同僚の主観に影響されず、明確で正当な評価が可能となります。

プロジェクト形成が比較的容易である

ジョブ型雇用では、あらかじめ職務および要件を明確にしているので、社員の専門性やスキルが可視化されます。

これにより、特定の目標や課題に対応するための効果的なプロジェクトチームをスキルベースで形成できるようになります。

ジョブ型雇用を導入するデメリット

次に、ジョブ型雇用を導入する企業にとってのデメリットを整理します。

チームワークが弱体化する懸念がある

ジョブ型雇用では、各従業員が特定の職務に集中するため、部門やチーム間の協力関係が減少し、全社的な協調性やチームワークが低下する可能性もあります。

職務が個別化することにより、他部署やチームメンバーとの連携や共同作業の機会が減るためです。

ゼネラリストの育成には不向き

ジョブ型雇用では、職務が特定され、その職務に必要な特定のスキルや知識に重点が置かれます。

従業員が幅広いスキルや経験を身につける機会が限られるため、ゼネラリストの育成は難しくなる傾向にあります。

多角的な視点を持つ人材を必要とする企業や部署にとっては、ジョブ型だけでは対応できないおそれもあるのです。

柔軟な人材配置が困難

従業員が職務に特化し、その範囲内での業務を求めるジョブ型雇用では、急な事業の変化や人材の不足に対する柔軟な対応が困難になります。

たとえば、ある部署で急に人手が必要になった場合でも、ジョブ型雇用で採用された従業員が自己の職務範囲外の業務に異動するのは簡単ではありません。

このため、必要なタイミングで迅速な人員増ができないケースがあります。

従業員の転職リスクが増加

ジョブ型雇用の従業員は、自己のスキルや経験を高く評価してくれる企業への転職を選択しやすくなるため、企業は人材の流出リスクに直面する可能性が高まります。

職務と職場の結びつきが比較的緩いジョブ型では、従業員は他社に移る選択がしやすいからです。

ジョブ型雇用のメリットを活かした事例

ここからは、ジョブ型雇用のメリットを活かして導入した企業の事例をご紹介します。

事例1: 日立製作所

株式会社日立製作所は、「適所適財」という考え方を採用し、管理職だけでなく一般社員にもジョブディスクリプション(JD、職務記述書)を導入しています。

日立では、技術職をはじめとする幅広い職種にジョブ型採用を段階的に展開し、従業員が自己のキャリアを積極的に形成できるよう支援しています。

「日立アカデミー」を通じた学習プログラムの提供、社内公募の拡大やAIを活用した学習体験プラットフォーム(LXP)などにより、従業員が自律的にキャリアを築くための環境を整備しています。

参考:日立が進める「ジョブ型」とは? わかりやすく解説|日立

事例2: 資生堂

株式会社資生堂は、「PEOPLE FIRST」という考え方のもと、社員を企業の最も重要な資産ととらえ、人材育成に注力しています。

ジョブ型雇用の導入は、この取り組みの一つです。職務内容と必要な専門能力の明確化は、社員の自律性を高めています。

2020年には全社共通の人財像「TRUST 8コンピテンシー」を策定し、これをもとに社員の成長をサポートしています。

独自のトレーニングプログラムを通じ、従業員が目標を実現できるよう、それぞれの自律的なキャリア開発を支援しています。

参考:人財育成と公正な評価 | 資生堂

事例3: みんなのマーケット

みんなのマーケット株式会社は、ジョブ型雇用と評価制度の刷新を含めた制度により、従業員の成長を支援する企業です。

同社では、メンバーシップ型にジョブ型を加えたハイブリッド型の雇用形態を採用しています。入社直後はジョブ型で専門スキルを評価され、入社3か月後に基準を満たした者はメンバーシップ型への移行も選択できます。

組織文化とのフィットを最重要としつつ、個々人の能力も評価するのが、同社の人事戦略の特徴です。正確な評価によって個人の「頑張り」を認める環境を構築しています。

参考:「馴れ合い」はご法度。同僚と評価し合う「ジョブ型」雇用で、組織の連携を生む秘訣 | SELECK [セレック]

ジョブ型雇用のメリットを活かした導入方法

ジョブ型雇用導入における課題

企業がジョブ型雇用を導入する際に課題となるのは、以下のような項目です。


  • 人事部の作業負担
    • 職務記述書を作成するためには現場の業務把握が必要だが、人事部がすべてを把握するのは困難
    • 職務記述書には定期的な見直しや評価基準の調整が必要で、これには大きな工数がかる
    • メンバーシップ型とジョブ型の違いによる制度上の矛盾を避けるため、十分な準備期間が必要
  • 社員に対する説明と合意形成
    • 既存社員に丁寧に説明し、不満の発生や退職リスクを避けるための合意獲得が必要
  • 社員教育の必要性
    • 適切な評価や、評価をもとにした教育機会の提供など、制度運用が難しい
    • 若手社員は専門性が育っていないことも多く、従来型に準ずる教育機会を提供する必要がある
    • 幹部候補者に対しては、専門性を超えた多角的かつ横断的な視点を持つための教育の必要がある

自社に合わせてジョブ型雇用を導入する

前述の課題をすべて克服して、ジョブ型雇用に完全移行するのは、必ずしも容易なことではありません。

従業員が不満を解消できないままに移行をしても、ジョブ型雇用の本来の効果が十分に得られない可能性があります。

そこで、ジョブ型雇用かメンバーシップ型雇用かの二択ではなく、各企業の状況や戦略に応じて独自のジョブ型を模索していくと良いでしょう。


導入にあたっては、以下の点に留意しましょう。

  • 自社の特性や戦略に合わせてジョブ型雇用をカスタマイズし、従業員と企業の両方に利益をもたらすよう設計する
  • 急激な変更ではなく、段階的にジョブ型雇用を導入し、従業員の適応を促進する

ジョブ型雇用モデルを開発し、導入するプロセス

自社に合ったジョブ型雇用モデルを開発し、導入するためのプロセスの一例を紹介します。


1. 組織ニーズの評価

現状の問題点や組織の特性を評価し、どの職務がジョブ型やメンバーシップ型に適しているかを明確にします。


2. 職務の可視化と明確化

各職務に求められる役割、責任範囲、必要なスキルや成果の目標を明確にし、職務記述書に職務要件や評価基準として記述します。


3. 柔軟な給与制度の検討

職務内容やスキルに基づく給与体系を構築し、従業員の能力や貢献度に応じた報酬を提供します。


4. 従業員とのコミュニケーション

従業員との積極的な対話を通じて、懸念や提案を取り入れ、ジョブ型雇用を段階的に導入します。


5. 柔軟な運用モデルの採用 

メンバーシップ型とジョブ型の要素を組み合わせた独自の運用モデルを設計します。

具体的には、ジョブ型として採用した人材を一時的に異動させる制度を取り入れる、従業員のライフイベントに合わせてジョブ型とメンバー型を選択制にするなどの方法があります。

また、従業員が自分のキャリアを自律的に形成できるよう支援するための教育プログラムを準備し、社内でのキャリア形成の機会を提供するのも良いでしょう。


6. 継続的な制度の改善

導入後も継続的に制度の評価と改善を行い、変化する組織のニーズに対応できるようにします。

自社に合った「ジョブ型」導入が成功の鍵!

この記事ではジョブ型雇用について、概念やメリット、および事例に至るまでを網羅的に解説しました。

ジョブ型雇用は、社会や従業員のライフスタイルの変化に柔軟に対応できる雇用スタイルです。導入によって、人材戦略の課題に対処し、目標達成に向けて重要な一歩を踏み出すことが可能になります。

しかし、教科書的な理想形を取り入れるだけでは、組織に負担を増やし、実行が困難になるリスクもあります。

自社の文化や状況を考慮し、「自社ならでは」の取り組みにすることが重要です。本記事を参考に、貴社独自の人材育成計画を策定し、企業基盤の強化に役立ててください。


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