会社の行く末を決める、次世代リーダーの選抜。どのような人材が適しているのか、どのように選べばよいのか悩む企業は多いでしょう。
今回は、次世代リーダーの選抜方法をわかりやすく解説します。また、次世代リーダーの育成手順やおすすめの研修サービスも紹介します。
目次
次世代リーダーとは具体的にどのような人材なのか、なぜ次世代リーダーの育成が重要であるのか解説します。
次世代リーダーとは、今の経営層に代わって企業の将来を担う経営幹部・経営者候補の従業員です。多くのケースでは、すでに管理職やマネジメント人材として活躍している従業員の中から次世代リーダーが選ばれます。
今は、ビジネス環境が猛スピードで変化し未来の予測が難しいVUCA時代(Volatility/変動性、Uncertainty/不確実性、Complexity/複雑性、Ambiguity/曖昧性)であり、多くの企業が次世代リーダーの育成を重要な経営課題の一つとして捉えています。VUCA時代において企業が社会に対する価値提供を続けるためには、社会の変化に柔軟に対応しながら組織をあるべき方向へ強く導ける次世代のリーダーが必要になるのです。
企業が早い段階から次世代リーダーの選抜・育成に力を入れるべき背景として、若手世代を中心に出世に対してネガティブな感情を持つ人が増えていることが関係しています。
日本社会全体で働き方改革が進む中で、仕事とプライベートの両立を意識する傾向がより一層強まっています。従業員に出世を打診しても「これ以上仕事量や責任を増やしたくない」と断られるケースもあり、企業が理想とする組織体制を作れなくなる可能性が高まっていると言えます。そこで、企業はなるべく早期に次世代リーダーの候補者を決め、戦略的に経営人材を育成していく必要があるのです。
企業によって求める次世代リーダー像や組織運営の考え方は異なるため、候補者の選抜についても絶対的な方法はありません。
そこで以下では、一般的な次世代リーダーの選抜手順を紹介します。
まず、現在の経営層と人事部門が話し合い、自社の経営戦略やビジョン、目指している顧客価値提供の在り方などの観点から次世代リーダーの人材要件を検討します。
次世代リーダーの育成は、候補者の選抜からトレーニング、ポジション登用まで数年〜10数年かかる長期プロジェクトです。プロジェクトに一貫性を持たせるためには、次世代リーダーの理想像や役割について会社の上層部が共通認識を持つことが大切になります。
次世代リーダーの人材要件が定まったら、要件を満たすポテンシャルがある従業員を次世代リーダーの候補者としてリストアップします。
候補者を集める方法としては各部門からの推薦、経営者の指名、人事部門による推薦、自己推薦などがありますが、現場・経営者・人事などなるべくさまざまな立場の人材から意見をつのり、多角的な視点で取り組むことが大切です。
次世代リーダーの候補者をリストアップできたら、候補者の中から実際に経営を任せる人材を選ぶ段階に入ります。
次世代リーダーの選定では、現在の業務成績や人事評価の結果だけでなくポテンシャルも鑑みる必要があるため、候補者の絞り込みには年単位の月日がかかるケースがほとんどです。
まずは、マインドセットやスキルを身につけてもらうために候補者を対象にリーダー研修を実施し、必要な業務経験を積ませましょう。その過程で定期的に面接を実施したり、部下・上司など周囲からの評価を確認したりして、次世代リーダーの要件に最も合致する人材を探します。
次世代リーダーの選抜方法と同様に、次世代リーダーの選抜基準にも絶対的な指標や条件はありません。
今回は選抜基準の参考として、VUCA時代に広く求められる次世代リーダーの要件を紹介します。
次世代リーダーは将来的に企業経営に深く関わる人材であるため、一定以上の経営リテラシーを持っている必要があります。
経営リテラシーとは、財務・会計、人事労務、マーケティング、マネジメント、組織設計・運営などの分野に関する知識と経験を指します。また、近年はデジタル技術の発展が顕著であるため、デジタルリテラシーやサイバーセキュリティに関する知識も求められます。
上記の知識・経験をすべて兼ね備えている従業員はほとんどいないため、次世代リーダーの選抜段階では経営に対する関心や基本的なビジネス知識があるか、今後経営リテラシーを身につける意欲があるかどうかなど、将来性を重視して候補者を評価する必要があります。
次世代リーダーには、組織やチームのメンバーが「このリーダーが考える世界観を実現したい」と思えるような、強い求心力があるビジョンを設定する力が求められます。
VUCA時代は社会変化のスピードが速く企業に求められる役割も変わっていくため、先行きが不透明な中でも従業員が同じベクトルを向くには、魅力的なビジョンが必要不可欠です。
次世代リーダーは、ビジョンの設定力と合わせて、メンバーの足並みを揃えてビジョンを実現する「実行力」も求められます。
具体的には、目標達成までの戦略や実現可能な計画を立てたり、取り組む施策の優先順位を判断したりする力です。また、すべての決断には少なからずリスクが伴うため、うまくいかなかった場合の対処法を検討するリスク管理能力や、結果に対して責任を負う姿勢も必要になります。
次世代リーダーには、自分自身の能力を高めるだけでなく、チームや組織全体で結果を出すためのマネジメント力も求められます。
たとえば、チームの現状を分析して目標を達成できるようにメンバーを指導したり、個人の能力・意志に応じたポジションや業務を割り当てたりする役割を担う必要があります。
VUCA時代の次世代リーダーには、人を惹きつけ、社内・社外問わず多くの人を巻き込める高い人間力が求められます。変化の激しい社会において企業が価値提供を続けるためには、柔軟性や多様性が乏しくなりがちなトップダウン型の組織ではなく、従業員や関係者一人ひとりが内発的な動機を持ち、個々の能力を最大限に発揮できる組織が理想です。
周囲の人に「あの人のために頑張ろう」と思わせる人間的な魅力がリーダーにあればメンバーのモチベーションが高まり、変化に対応できる柔軟な組織になりやすいと考えられます。
次世代リーダーの候補者を選抜した後、実際に経営人材のポジションに登用するまでの育成方法について解説します。
まず、次世代リーダーの候補者が必要なスキル・経験を身につけられるよう、人材育成プランを設計します。
財務やマーケティング手法など経営リテラシーの一部は短期間の研修で習得可能です。しかし、実行力やマネジメント力などは実務経験を積むことでしか身につけられないため、部署異動を行ったり小規模プロジェクトのリーダーポジションを任せたりして実践の機会を用意する必要があります。
次世代リーダーの育成計画ができたら、候補者のトレーニングを開始します。研修の効果を最大化するためには本人の主体性・積極性が欠かせません。そのため、トレーニングを開始する前に候補者に対して期待する役割や今後身につけてほしいスキル・経験を説明し、トレーニングに対して意義を見出してもらうことが大切です。
次世代リーダーのトレーニングを開始した後は、候補者のスキルの習得状況を見てトレーニングの効果を検証します。次世代リーダー育成は年単位のプロジェクトで、トレーニングを始めてもすぐに結果が出ない場合もあります。特に、候補者のリーダーとしての心構えや経験が未熟であるトレーニング初期は、研修の成果が見えにくいです。そのため、育成施策を評価するときは中長期的な視点を持つことが大切です。
また、次世代リーダー育成はトレーニング期間が長く、候補者のモチベーション低下が起こりやすいという特徴があります。そのため、経営層との面談や人事部門とのキャリア設計の機会を定期的に設けるなど、候補者が高い意識でトレーニングに取り組めるような取り組みも必要です。
次世代リーダー育成を目的とした研修サービスを展開している企業を6社ピックアップし、それぞれの研修内容や特徴をまとめました。
法人向けの社会人教育事業を展開する株式会社インソースは、次世代リーダー向けの研修として「3年間で管理職候補の育成と中間層の底上げを図るプラン」「1年でリーダーの関係構築力や仕事の進め方を鍛えるプラン」「1年間のスキル強化で管理職を目指す意識を醸成するプラン」の3つのプランを用意しています。
株式会社インソースの次世代リーダー研修は、トレーニングを通してリーダー職に対する候補者の苦手意識を払拭したうえでスキル習得に取り組む点が特徴です。たとえば3年間の育成プランでは、1年目に次世代リーダーに期待されている役割を知り、より高い視座から業務・組織を捉える重要性を学ぶ研修が行われます。
経営大学院や企業研修などの教育・人材育成事業を展開する株式会社グロービスは、次世代リーダーの人材要件を「経営の定石」「考える力」「人を巻き込む力」「志」と定めたうえで、企業の育成課題に合わせた研修プログラムを提供しています。
たとえば「候補者に次世代リーダーとしてのブレない志を確立してほしい」という要望を持つ企業には、研修プログラムに経営者との対話や外部イノベーターの講演を入れ、自分の価値観を見つめ直す機会を設けています。
参考:ソリューション活用事例 次世代リーダー育成(3年)|株式会社グロービス
法人向けのオンライン教育サービスを提供している株式会社Schooは、次世代リーダー育成研修を初級・中級の2レベルで実施しています。
初級の研修では、デザイン思考や発想力・アイデアの生み出し方、プロジェクトマネジメント、財務知識などを学び、リーダーとしての基礎能力を高めます。中級の研修では、経営学や組織理論、人的資本、ダイバーシティなどを学び、経営リテラシーを獲得します。
企業内研修や組織開発コンサルティングを行うリ・カレント株式会社は、次世代リーダー候補として選抜された人材向けに約1年半の研修プログラムを提供しています。
プログラムでは、リ・カレント独自の現場実践手法「ビジネスドラマシミュレーション」で周囲を巻き込む力や論理的思考力など経営人材に求められるスキルを身につけます。最終的には次世代リーダー人材の仕事に対する視座を上げ、目の前の課題だけにとらわれず事業や会社の社会的価値を意識した中長期的な視点の獲得を目指します。
法人向けの公開型研修サービスを提供している株式会社リクルートマネジメントソリューションズは、次世代リーダー育成の工程をインプット・企画・事業構想・事業計画・現場推進の5段階に分け、それぞれの段階に適したテーマの研修を提供しています。
インプットの段階では問題解決思考や発想力の鍛え方を、企画の段階ではデータ分析や統計手法、戦略思考を学習し、事業構想の段階でマーケティングや会計の講義を受けます。事業計画の段階に入るとKPIの設定方法やプロジェクトマネジメントなどより実践的な学びに変わり、最後の現場推進の段階ではコーチング、コミュニケーションなどチームビルディングに関連する研修が行われます。
参考:次世代リーダー育成研修|株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
ビジネス研修や人材育成コンサルティングなどの社会人教育事業を展開する株式会社リスキルは、オーナーシップやリーダーシップ、調整力など次世代リーダーに求められるソフトスキルを強化する「次世代リーダー育成研修」を実施しています。
また、組織変革をテーマに周囲の巻き込み方や企業風土の醸成について学ぶ「変革リーダーシップ研修」、部下への適切なフィードバック方法や目標設定について学び、リーダーとしての基礎力を高める「中堅社員向け スキルアップ研修」などのプログラムもあります。
次世代リーダーの選抜は人材要件の定義から始め、候補者をリストアップして研修を行ったり実務経験を積ませたりしながら育成し、適切な人材を絞り込みます。次世代リーダーには経営リテラシー・ビジョン設定力・実行力・マネジメント力・人間力など幅広いスキル・能力が求められるため、長期スパンで人材育成計画を立てる必要があります。
本記事では次世代リーダーの育成をテーマとして取り上げましたが、リスキリングナビでは人材育成に関するさまざまな視点のコラムを掲載しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
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