教育研修の基本 - 経営成果に結びつけるための「人材育成」とは

公開日:2023.12.06 更新日:2023.12.06

教育や研修を含めた人材育成は、言うまでもなく、企業経営における重要な戦略の一つです。

とくに、多様な人材と複雑な業務プロセスを有する企業や、新たな取り組みを始めようとする企業にとっては、教育研修の重要性は高まる一方です。
しかし、「研修」と「教育」の違いは何なのか、何を重視し、どのように実施すればよいのか、といった基本的な疑問をお持ちの方も少なくありません。

この記事では、教育研修の基本的事項から、設計から効果測定のプロセス、そして、これからの人材育成のあり方に至るまで、幅広く解説します。

人事、経営企画のみならず、マネジメントとして人材育成に励む担当者の方にぜひご一読いただきたい内容です。

職場における教育と研修の違い

教育も研修も、人材育成の一環として行われる点や、「望ましい姿になることを目指す」という目的は同じです。

しかし、 「教育」は長期的・広範で他人が主体的に働きかけるのに対し、「研修」は決められた期間、特定のスキルに焦点を当てるという違いがあります。

企業における「教育」と「研修」は、それぞれ異なるニーズと目的に対応しています。適切な人材育成戦略を考える際には、これらの違いを理解して活用することが重要です。

企業における「教育」とは

企業において「教育」は、従業員等を「求める姿にするための働きかけ」を意味します。

教育は、経営戦略に基づく人材育成の一環として、知識やスキルのみならず態度も含めた心身の両面に働きかけて形成する長期的かつ継続的なプロセスです。

企業のビジョンや価値観を浸透させること、そして専門的な知識・スキルを高めることも含みます。

教育は自分以外の他者が主体となりますが、研修は受講者自身も主体となるという違いがあります。

 企業における「研修」とは

研修は人材育成や教育の一つの手段として行われ、職務などで必要なスキルや能力を磨くために、ある一定期間学ぶものを指します。

たとえば、新任管理職のための1日のセミナーや、新入社員の1ヶ月間の研修などが該当します。

なぜ職場で教育研修が必要とされるのか?

教育研修は企業にとって、なぜ重要なのでしょうか?

これまでの労働環境における背景から概観し、企業が教育研修を必要とする理由を整理します。

教育研修をめぐる社会的背景

終身雇用や年功序列が雇用慣行として一般的だった時代には、人材育成が整備されていなくても「人が育つ」環境が確立されていました。

若手には「時期が来れば昇進する」という安心感があり、業務を通じて経験を積む機会が豊富でした。中堅社員も余裕を持って若手の育成に取り組み、その結果、若手は企業の成長に貢献できていました。環境変化や技術進化がそれほど速くなかった背景も手伝い、戦略的な育成制度がなくても、企業は必要な人材を確保できていたのです。
しかし、バブル経済の崩壊後、終身雇用や年功序列制度は揺らぎを見せ、かつて職場にあった「安心感」が減退しはじめました。成果主義が広まる中で、個々人が自己の業績だけを追求する風潮が広がり、他人を気にかける余裕が失われていったことも要因となって、企業の人材育成は難しい状況に陥ったのです。

企業が教育研修を必要とする理由

こうした背景により、企業には「自社が求める人材を意図的に育てるシステムをつくる」必要が生じました。

教育研修が必要とされるのは、単に従業員のスキルや知識を高めるためだけではありません。企業全体としての方向性を整え、組織の成長を促進する多面的な効果があるのです。

企業が教育研修を必要とする理由は、以下のようにまとめられます。

企業文化とミッションの浸透

教育研修は、企業文化やミッション、ビジョンなどを従業員に理解させ、浸透させる手段です。従業員が企業の経営哲学や価値観を共有することは、企業の目標に対して一体感を持ち、高いモチベーションで働くうえでの一助となります。

個々のスキルとチームの生産性の向上

個々の従業員が教育研修を通じて必要なスキルと知識を習得すれば、チーム全体の生産性も向上します。

特に、多様なバックグラウンドを持つメンバーが協力して働く現代のビジネスにおいては、共通のスキルセットや知識があると、より効率的なチームワークが可能になります。

 企業の信頼感を高める

従業員の接客や業務中の行動によって、企業の信頼性が左右されるケースがあります。教育研修を通じて、従業員にビジネスマナーやコンプライアンスをしっかりと教えておけば、企業の信頼を損なうおそれを低下させることができます。

企業が負うリスクを回避する

社員教育は、企業が直面する可能性があるさまざまなリスクを回避する役割も果たします。

近年は、個人情報の流出やコンプライアンス違反など、社員が一度軽率な行動を取っただけでも、企業の信頼・存続が揺るぎます。情報セキュリティーやコンプライアンスに関する社員教育を徹底することは、企業経営においての必須事項となっています。

教育研修の種類と方法

続いて、教育研修にはどのような種類があるのかを確認していきます。

研修は大きく、自社の社員が講師になって行う「社内研修」と、外部のサービスを利用する「社外研修」の2つに分けられます。

このほか、「対面か、非対面か」によっても分けることができます。さらに、以下のように分類できます。

どのような形式か〜実施方法による分類

研修の実施方法などにより、以下のように分類できます。

名称 内容
集合型研修(座学研修) 参加者が同じ場所に集まって行う対面研修。
講師による講義やグループワーク、実習などが行われる。
一度に複数人に対して均等な教育を行うことができる。
OJT/Off-JT OJT(On-the-Job Training)は、実際の仕事を通じて行う研修。
Off-JT(Off-the-Job Training)は、職場外で行われる研修。
セミナーやワークショップなど、専門の講師が指導する場合が多い。
オンライン研修 オンライン上(Zoom等のWeb会議システム)で開催される研修。
講師や受講者ともに、パソコンやスマートフォンを用いて参加する。
eラーニング オンラインプラットフォームを用いて、
自分のペースで学ぶ形式。
オンライン上で共有された学習コンテンツ
(研修動画やチェックテストなど)で学習する。

誰に対して行うのか〜階層による分類

企業内の異なる階層にごとに、その役割や責任に応じた研修を行う場合の分類です。

階層別研修 目的 内容
新入社員研修 企業文化や基本的な業務スキルを身につける。 ビジネスマインド
ビジネスマナー
コミュニケーション
基本的な業務スキルなど。
若手社員研修 基本的な業務能力を向上させ、チームでの働き方を学ぶ。 コミュニケーション
セルフマネジメントスキル、
プロジェクト管理
問題解決力
基本的な専門スキルなど。
中堅社員研修 マネジメントスキルを高め、リーダーシップを培う。 プロジェクトマネジメント
リーダーシップ
高度な専門スキルなど。
マネージャー・リーダー研修 部下を指導・育成する能力と、組織を率いる力を高める。 リーダーシップ
マネジメント理論
コーチングスキル
戦略的思考力など。
役員・経営層研修 企業全体を見渡し、長期的な戦略を立てる能力を高める。 経営戦略
リスクマネジメント
経営倫理など。

何を学ぶのか?〜目的による分類

特定の目的や課題解決に焦点を当てた分類です。

階層別研修 目的 内容
スキルアップ研修 基本的な業務スキルの向上。 コミュニケーション
プレゼンテーション
エクセル・ワード操作など。
マネジメント研修 マネジメント能力の向上。 プロジェクト管理
人材育成
業績評価など。
リーダーシップ研修 法令遵守と企業倫理の理解。 企業倫理
セクシャルハラスメント防止
個人情報保護など。
ダイバーシティ研修 多様性の理解とその活用。 ジェンダー
文化
障害者理解など。
グローバル研修 グローバルなビジネス環境で活躍するためのスキル習得。 異文化コミュニケーション
海外ビジネスマナー
言語研修など。
メンタルヘルス研修 メンタルヘルスの維持と向上。 ストレスマネジメント
ワークライフバランス
心の健康など。
キャリア形成研修 自身のキャリアパスを考え、具体的な行動計画を作る。 キャリアプランニング
自己分析
目標設定など。

企業における教育研修の設計、実施、効果測定

ここからは、教育研修を効果的に設計し、実施するための具体的な手順とポイントについて解説します。

計画の作成からプログラム設計、そして実施上の注意点まで、一連の流れを把握しましょう。

教育研修の設計

教育研修は、企業のビジョンと経営目標に合致させたものであるべきです。まずはこれらを明らかにし、経営戦略における人材育成の方針を明確にしておきましょう。

そのうえで、人材育成における課題を整理し、これを解決するための研修を設計します。具体的なプログラム設計にあたっては、受講者のニーズと研修の目的を合わせることが大切です。

どのように進行するのか(例:グループディスカッション、ケーススタディなど)や、どのような教材を使用するのか等に加え、評価の方法や効果測定基準(KPI: Key Performance Indicator)も、この段階で設定すると良いでしょう。

教育研修の実施

教育研修の実施にあたっては、受講者が集中できる環境を整え、講師らが適切に進行することが重要です。

対面で行う場合は、昨今の社会情勢も鑑みて、研修会場を安全かつ清潔に保つように配慮しましょう。時間管理ももちろん重要ですが、受講者の理解度を確認し、心理的な負担が高すぎないように工夫も必要です。

また、研修後のフォローやフィードバックの仕組みを設けておくと、研修の効果をより高めることができます。

教育研修の効果測定

企業が教育研修を実施した後は、必ず効果を測定しましょう。

企業における教育研修は、経営戦略の一環として行われるものなので、研修にかかるコストとその効果を数値化し、ROI(投資対効果)を把握しておくべきです。

効果測定を通じて、研修プログラムの改善点や課題が明確になれば、より戦略的な教育研修の計画や調整が行えます。

効果測定の具体的な方法

効果測定にはいくつかの方法があります。

カークパトリックの四段階評価モデル(The Kirkpatrick Model)が有名です。このモデルを使うことで、受講者の反応、学習度、行動変容、結果に焦点を当てた評価が行えます。

このほか、満足度調査、知識の理解度テストなどで、効果を再評価する方法もあります。

これからの人材教育のあり方とは

最後に、これからの人材教育のあり方について、まとめておきます。

経産省は2022年5月、「人的資本経営の実現に向けた検討会」を設置し、これからの人材戦略に関する報告書(通称『人材版伊藤レポート2.0』)を公表しました。

技術進化とグローバリゼーション、および生産年齢人口の減少という厳しい環境における、これからの人材育成のあり方を示す内容です。

『人材版伊藤レポート2.0』のポイントは以下のとおりです。

  • 経営戦略と人材戦略の連動が必要

経営戦略に基づいて人材戦略を設計するため、経営陣と人材戦略の責任者が対話を深め、課題を共有することが重要である。

  • 多様性と専門性を高めることが必要

多様性は新しい視点やアイデアをもたらし、専門性はそのアイデアを具現化する力である。企業は多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、それぞれの専門性が活かされるような環境を作る必要がある。

  • 「動的な人材ポートフォリオ」が必要

固定的な職種や役職に縛られず、変化するビジネス環境やプロジェクトのニーズに応じて、最適な人材を選定・配置する「動的な人材ポートフォリオ」のアプローチが必要である。

  • 個人は主体的かつ自律的に変わる必要

従業員一人ひとりが自分のキャリアに責任を持ち、自律的に行動することで、企業全体が柔軟かつ効率的に動く。企業は、従業員が自分自身のスキルセットを理解し、リスキル(再スキル化)を支援すべきである。

  • 持続的な取り組みと改善が必要

人材育成は一度きりのイベントではなく、継続的なプロセスだ。中長期で評価し、必要な改善を逐次行うべきである。

  • 社会全体での支援が必要

企業だけでなく、政府や教育機関、業界団体なども人材育成に関与する必要がある。リスキルや学び直しの価値が社会全体としても評価されるべきだ。

 まとめ:教育研修を経営に役立てるには「進化」が必要

この記事では、職場における教育研修について、幅広く解説し、教育研修にかかる経緯を紐解くとともに、今後目指すべき方向性についても触れてきました。

教育研修は単に「人を育てる」ことに限らず、経営戦略としての側面も持っています。経営に資するためには、人材育成にもデジタル活用や新たな視点を持つなどの「進化」が必要です。

新しい教育手法やツールなどの情報アップデートには、ぜひ『リスキリングナビ』をご活用ください。


関連記事:

オンライン学習プラットフォームとは?選び方やメリット、おすすめ5選を紹介!|リスキリングナビ

eラーニングシステムの活用方法は?メリットや選び方のポイントも解説 | リスキリングナビ 

【2023年最新】完全版!eラーニングサービス比較27選 | リスキリングナビ 

学習管理システムとは?導入するメリットからおすすめシステムまで紹介|リスキリングナビ

おすすめの
パートナー企業