DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の波は不動産業界も例外ではありません。2022年に不動産テック4社・2メディアで行われた「不動産業界のDX推進状況調査」によれば、不動産DXを推進すべきと回答した人の割合は98.4%にものぼりました。
参考:不動産テック4社・2メディア共同企画 766名に聞いた不動産業界のDX推進状況調査 | PRIME TIME
本記事では不動産DXについて、概要や推進するメリット、実際の事例なども紹介しながら解説していきます。
目次
不動産DXとは、デジタル技術を活用して不動産に関わるビジネスモデルを変革していくことです。単なるITシステムの導入にとどまるのではなく、不動産取引や顧客管理、書類の手続きなどをデジタル化によって改善し、業務効率化の達成や顧客のニーズに応える体制を整えることで、市場における競争優位性を目指していくのが目的です。
現在の不動産業界には、以下の3つの課題が挙げられます。
それぞれの課題から導入が必要な背景を解説します。
これまでの不動産業界では、アナログで行われる業務がほとんどでした。不動産売買や賃貸の契約で利用される紙の書類や契約資料、電話やFAXを用いる顧客とのやり取りなどです。こうしたアナログの商習慣が長年積み重なり、業務フローもアナログ対応を前提としたものになっているのが大きな課題でした。
こうした課題を解決するためには、デジタル技術を活用した業務フローの変化が必要です。たとえば契約書類や提案資料をデジタル化し、ペーパーレス化を実現する。他にもメタバース空間を活用して、顧客と完全非対面で不動産販売を行うなどです。
アナログの商習慣が残存してしまうと、これからの社会やビジネスの変化への対応が難しくなることが想定されるため、デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルの構築が求められています。
インターネットやスマートフォンが一般的になったことで、不動産における消費者ニーズも変化してきています。たとえば、従来は賃貸を探す際に不動産屋をハシゴして、物件を何軒も周っていたものが、現在は事前にインターネットで情報を収集し、要望に合う物件をあらかじめ絞ったうえで、取り扱っている不動産屋に足を運ぶ消費者が多くなりました。他にも非対面で内見をしたいという要望や、契約書類のやり取りを紙ではなく電子で行いたいというニーズなども増えています。
こうした消費者ニーズの変化に対応するためにも、デジタル技術を活用した柔軟なサービスの開発や導入が必要です。
不動産業界ではアナログの商習慣が残り、デジタル技術に関する知識やIT人材・DX人材が不足している点も大きな課題です。不動産DXを推進していきたいという考えはあっても、ノウハウや知識、人材が足りていないため、組織として取り組めないという企業も少なくありません。
不動産DXを推進していくためには、全社的な取り組みとする組織体制の確立や、IT人材の積極的な登用が必要です。自社で体制を整えることが難しい場合には、不動産業界に特化したDX支援を行なっているITベンダーなどに協力をしてもらいながらDX推進を進めるなどの対策も必要になってきます。
不動産DXを推進するメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
それぞれのメリットについて解説していきます。
デジタル技術を活用し、アナログだった業務をデジタルに移行させることで、業務効率化を実現できます。紙で行なっていた業務のペーパーレス化をデジタル技術によって実現する、顧客情報の管理や更新をExcelからクラウドシステムに変更し、リアルタイムで管理するなどです。他にも商談で利用する資料や契約書類をクラウド上で管理することも、必要な時に必要な書類を簡単に見つけられるようになり、業務効率化に貢献します。
さらに情報のデジタル化を実現すれば、部署間の共有も容易になり、スムーズな業務につながります。
労働環境の改善不動産業界はサービス残業が多い業界として知られています。パーソル総合研究所と東京大学が行なった「希望の残業学プロジェクト」によれば、残業しているメンバー層が多い業界として、不動産業が第4位にランクインしています。アナログの業務をデジタルに移行することで進む業務効率化によって、このような労働環境の改善が期待されます。
Excelなどで行っていたデータ管理をデジタル化すれば、業務工数の削減、ひいては残業時間の抑制につながります。他にも不動産の価格査定といった専門的なスキルが求められる業務も、デジタルツールの活用により経験が浅い従業員でも対応ができるようになります。
DXの導入によって労働環境が改善されれば、業務効率化が進むとともに人手不足への対応も行えるようになります。さらにDX導入を採用活動のアピールポイントにして、より良い人材確保を目指すこともできるでしょう。
時代の変化が激しくなり、DXの導入が進む中でAIやビッグデータの活用は避けては通れない道です。不動産ではインターネットを活用した物件探しやVRを活用したオンライン内見などが、新たなニーズとして台頭してきています。
今後も、時代とともにユーザーのニーズは変化していきます。顧客満足度を向上させるためには、こうした変化に対応し、自社サービスの改善を適切に行っていかなくてはなりません。不動産DXの導入によって、既存サービスの改善や新たな価値提供に向けたサービス開発を、スピーディーに行うことができます。
本章では実際の不動産DXの事例として、以下の5社の取り組みを紹介します。
三井不動産では、完全タッチレスオフィスの導入やメタバース空間を活用した内見、AIカメラを活用した街づくりへの貢献など、さまざまなDXを推進しています。
たとえばメタバース空間の活用としては、実際のモデルハウスの内見を3D空間であるメタバース内で行え、オンラインでもリアルに近い形で顧客に物件を紹介できます。遠方で足を運べない顧客でも、メタバース空間上で営業の担当者とリアルタイムでコミュニケーションを取りながら、簡単に内見ができます。三井不動産ではDXへの取り組みを「三井不動産株式会社 DX白書2022」で公開していますので、自社の分野で活かせないかを確認してみてください。
長谷工コーポレーションでは、LINEを活用した新サービスである「マンションFit」を開発し、顧客の新築分譲マンション探しのサポートを行なっています。
新規顧客の拡大に課題を抱えていた同社では、潜在ニーズに早期アプローチをするため、認知度の高いLINEを活用してアプリを開発。友達登録をしてもらい、家族構成や年齢、現在の居住形態など5項目を入力するだけで、おすすめの物件が3件表示される仕組みになっています。
アプリを活用して非対面モデルルーム見学を導入したことも大きな反響を呼び、新たな不動産サービスとして注目を集めています。
東急不動産ホールディングス株式会社では、DXによる価値創造の加速を目的にDX機能会社「TFHD digital株式会社」を設立。データ分析・活用のためのシステム開発やデジタルマーケティング支援など、グループ会社のDX推進を支援しています。
また、NFTを活用したリゾートでの特別な体験の価値化(東急不動産)、不動産売買ワンストップサービスの構築(東急リバブル)、建物検査における画像データの活用(東急コミュニティー)など、グループ会社内でさまざまなDX推進への取り組みが実施されており、ビジネスプロセスの転換やよる生産性の向上や新しいサービスの創出につながっています。
参考:東急不動産ホールディングス|DX機能会社「TFHDdigital株式会社」設立について
野村不動産ホールディングスでは、DX推進による顧客のQQL(Quality Of Life)の向上をDX戦略として掲げており、人を中心とした商品やサービスの開発・提供を行っています。
デジタル技術の活用によって、これまでにない利便性や新しい価値を創出することを「デジタルドリーム」と表現し、顧客基盤をベースにしたプラットフォームの構築によって、商品力の強化や効率性・利便性の高い新しいサービスの提供を計画しています。
また多様な人材の活躍や成長人材の確保のための取り組みを実施している他、デジタル化の流れにおいて取り組むべきテーマに対応するべく、MaaSやEC領域、スマート化領域、IoTなどさまざまな分野に対する投資を行っているのも特徴。生産性の向上や外部からのノウハウ・リソースの獲得を目指しながら、企業のさらなる成長を促進しています。
参考:野村不動産ホールディングス|中長期経営計画2023年3月期~2031年3月期
DX銘柄2020にも選出されている株式会社GA Technologiesでは、BtoC・BtoB領域でさまざまなサービスを提供し、不動産業界全体におけるDX推進を行っています。
BtoC領域ではAIを活用して角度の高い不動産物件を紹介する不動産投資サービス「RENOSY」(リノシー)や、オンライン内覧を利用できる不動産賃貸サービス「OHEYAGO」(オヘヤゴー)を提供しています。
BtoB領域では同社が開発した、不動産投資用ローンの申し込み・審査をオンライン化して作業時間を最大75%削減できるSaaS「MORTGAGE GATEWAY by RENOSY」、申し込み状況や契約状況などの物件情報がリアルタイムに更新される業者間サイト「ITANDI BB」を提供。不動産業界におけるさまざまな分野で、DX推進のためのシステムやサービスを開発・提供しています。
参考:GA MAG.|GAグループが取り組む不動産業界のDX|GAグループのニュース解説#02
不動産DXに活用できるサービスを紹介します。
それぞれのサービスについて解説していきます。
従来、紙で行なっていた契約を電子契約に移行するサービスは、不動産業界でも需要が伸びています。契約書類を紙ではなく電子ファイルで作成・保管することで、ペーパーレス化や省スペースの実現ができます。
さらに電子契約は電子署名を用いることで、改ざんなどが簡単に行えない仕様になっているため、セキュリティ面でも大きな効果を発揮します。2022年5月から改正宅地建物取引業法によって、不動産の取引時に必要な書類の電子化が認められたため、今後ますます導入が進むことが予想されます。
GOGEN株式会社が提供する「Release(レリーズ)」は、不動産業界に特化した電子契約システムで、宅地建物取引業法施行規則などにも対応しており、自社で個別に法対応する必要がありません。ユーザーに対して契約の確認から書類の受け渡しまでをワンステップで行えるため、やり取りを最小限に抑えての契約業務が可能です。また、社内での承認フローの設計やワークフローの設定ができるため、契約に関する業務はすべてRelease上で完結できます。紙でのやり取りが発生しないため、承認印を待つなどの必要もなく、業務効率化が期待できます。
VRとは「Virtual Reality」の頭文字を取った言葉で、仮想空間と訳されます。これまで、現地に足を運んで実際の住宅を見るのが当たり前だった不動産業界ですが、VRを活用すれば自宅や遠方からでもオンラインで内見することが可能です。
担当者とのコミュニケーションもリアルタイムで取れるなど、オフラインとほとんど変わらずに内見を行えます。移動時間が短縮できたり、いくつかの物件を簡単に比較できたりする点から、顧客満足度も高いのが特徴です。
「Spacely(スペースリー)」は株式会社スペースリーが提供するクラウドソフトウェアで、全国TOP100の賃貸管理・仲介の30%以上が利用している不動産VRです。簡単にバーチャル空間に物件を製作でき、顧客とのやり取りでは、見たい物件のURLをLINEなどで共有することで簡単に閲覧が可能になります。またVR内見中は、インテリアや家具をバーチャル空間上に設置することもできるため、顧客は生活イメージがしやすくなり、成約率のアップにつながります。
Iを活用して不動産価格を自動的に計算してくれるシステムの導入も、不動産DXには最適です。従来は専門的なスキルを持った人材が、一つひとつの物件を確認しながら、数日かけて査定を行なっていました。しかしAI査定では、査定に必要なデータを入力すると、AIがこれまでのデータと照らし合わせながら、自動的に不動産価格を算出してくれます。
時間も数日ではなく数十秒でできるなど、短時間で算出が可能なため、業務効率化に大きく貢献します。
「スピードAI査定」は、東急リバブルが提供しているAI査定で、「マンション」「戸建て」「土地」のそれぞれの査定を行ってくれます。登録者数は1万人以上となっており、誰でも簡単に利用ができます。
株式会社いえらぶGROUPが提供する「いえらぶCLOUD」は不動産業務の総合支援システムです。不動産での賃貸・売買の仲介業務、管理業務、ホームページ制作に至るまで、幅広い領域をワンストップでサポートするサービスとなっています。
すべての業務について1つのシステムでカバーできる他、あらゆるデータが紐づけされるため、データを再入力する必要はありません。また直感的に操作できるデザインで物件入力やチラシ作成も簡単に行えます。
専門スタッフがシステム導入後もサポートやコンサルティングをしてくれるため、システムを活用した事業の成長や拡大を期待できるサービスとなっています。
SS Technologies株式会社が提供する「SSクラウドシリーズ」は、不動産業務の効率化を実現できるクラウドシステムサービスです。業務効率化が可能な17種のSaaSが提供されており、自社で効率化したい業務の機能だけを選択して利用できるのが特徴です。
たとえば、不動産斡旋会社向けに空室物件だけをWeb限定で公開する「SKIPS 空室一覧クラウド」や、空室確認を音声やチャットで24時間自動応答できる「SKIPS 物確クラウド」、内検予約を自動受付できる「SKIPS 内見クラウド」など、さまざまなサービスが提供されています。
月額1,000円の低コストから導入できるため、段階で導入や試験導入もしやすいサービスとなっています。
ククレヴ・アドバイザーズ株式会社が提供する「ccReB AI」(ククレブAI)は、不動産ニーズへの効率的な営業アプローチに効果的なクラウドサービスです。
大手企業の中期経営改革や有価証券報告書をAIエンジンが解析してスコアリング。不動産の売買や流動化、新規出店、工場新設など、不動産ニーズのある企業を効率的に抽出できます。
不動産営業に必要なアタックリストを最短1分程度で作成できる他、上場企業の保有固定資産のリスト化や企業の不動産売買動向の予測値をスコア化するなど、法人不動産営業の効率化に大きく貢献するシステムとなっています。
先程、契約書類の電子化サービスとして紹介した「Release(レリーズ)」には、本人確認サービスもあります。
GOGEN株式会社が提供する不動産売買取引に特化したデジタル本人確認サービスで、身分証明書を読み取ることでスムーズなデータ取得・一元管理が可能になり、営業部門と管理部門のタイムラグや手間を解消できるため、業務を円滑に進められます。
マイナンバーカードでデータを作成した場合、ICチップの記録情報や画像データを電子契約に活用できるため、本人証明の確実性がアップする他、契約締結までの時間を短縮できるのも魅力です。
他にも反社チェック機能で瞬時に簡易判定ができるなど、本人確認業務の効率化を期待できるシステムとなっています。
最後に、不動産DX領域で注目される3社のスタートアップ企業を紹介します。
株式会社TERASSは、エージェント提案型の住宅探しサイト「Terass Offer」を運営しています
「Terass Offer」は、不動産のプロであるエージェントからユーザーに最適な不動産が提案されるマッチングサイトで、簡単な質問に答えるだけで登録でき、購入に適した物件提案や売却査定が届きます。ユーザーが許可するまで匿名で利用できるため、営業メールや営業電話に対応する必要はありません。
2023年1月時点での同社の月間取扱高は約50億円に到達しています。同年の累計資金調達額が20億円を超え、8月には海外不動産情報の提供を開始するなど、順調に成長を続けています。
株式会社AGE technologiesは、相続によって発生した自宅や土地といった不動産の名義変更手続きサービス「そうぞくドットコム不動産」を運営する企業です。
不動産物件数や価格、相続人数に関わらず、一律料金かつオンラインで不動産の名義変更が完結するのが特徴で、名義変更の手間を大幅に削減できるサービスです。
2019年には株式会社デジタルガレージが主催する「OpenNetworkLab Seed Accelerator Program 18th Demoday」(ベンチャー企業の成長を加速させるためのプログラムで、事業資金・メンタリング・活動場所などの提供を受けられる)において、最優秀賞を獲得。
2023年4月には総額5.9億円の資金調達を実施しています。DX推進企業として各メディアにも取り上げられるなど、業界の注目を集めています。
TRUSTART株式会社は不動産ビッグデータに関連するサービスを展開する企業です。これまで不動産業界でのみ活用されてきた不動産情報を、他の業界に向けてカスタマイズして提供することで、新たなビジネスチャンスの創出に貢献しています。
他にも、不動産の仕入れや仲介、管理替えなどの案件獲得に有効なデータを厳選してサブスクリプションで提供するサービスや、建物のビッグデータを組み合わせた不動産オーナーデータ、指定した不動産をモニタリングして異動情報をスムーズに提供するサービスも手掛けています。
2023年には第三者割当増資による4.5億円の資金到達を実施したことを発表。累計資金調達額は6億円に達しています。
不動産業界のニーズは大きく変化してきています。こうした変化に対応するためには、これまでのアナログ的な商習慣からDXを推進したデジタルへの移行が不可欠です。
DXを推進することで、業務効率化の達成や新たなビジネスモデルの構築にも貢献できます。
不動産DXを推進する際は、短期的ではなく長期的な視点から、自社ではどのようなDXを推進するのが効果的かを考えてみてください。
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