AI人材を育成するには?企業事例や育成プログラムを紹介

公開日:2023.12.13 更新日:2023.12.13

顔認証システム、自動運転、ChatGPTなどAI(Artificial Intellegence:人工知能)技術が日常生活やビジネスシーンで積極的に活用され始め、各企業ではAI人材の獲得が急務となっています。そこで今回は、AI人材育成をテーマに企業の育成事例や育成プログラムを紹介します。

そもそもAI人材とは?

AI人材とは具体的にどのようなスキルを持つ人を指すのか、AI人材の定義や区分について説明します。

AIに関する知識・技術を持つ高度IT人材

AI人材とは、プログラミング・データサイエンス・機械学習などAI(人工知能)に関する知識・技術を持つ人材です。主にシステムの受託開発や運用・保守を行う「従来型IT人材」と異なり、第4次産業革命の時代において最先端技術を用いて新しい付加価値を生み出す「高度IT人材」に分類されます。

AI人材の3区分

経済産業省は、能力や役割の違いによってAI人材を「AIサイエンティスト」「AIエンジニア」「AIプランナー」の3種類に分けています。

AIサイエンティストは、AIを実現する数理モデルについて研究する人材です。博士号を取得しているなど、高度な専門性と学術的な素養が求められます。

AIエンジニアは、最適なアルゴリズム(問題解決手順)を検討し、AI機能を搭載したソフトウェアやシステムを開発・実装する人材です。機械学習に関する豊富な知識と高度なプログラミング技術が求められます。

AIプランナーは、AI技術を活用した製品・サービスを企画し、開発プロジェクトを進行・管理する人材です。AIやデータサイエンスに関する基本的な理解に加え、プロジェクトを進行するためのプレゼンテーションスキルやマネジメントスキルなどが求められます。

AIサイエンティストは学術面のバックグラウンドが必要であるため企業内での育成は難しいですが、AIエンジニアやAIプランナーの場合は、すでにIT関連業務に携わっている人材にAIの知識・技術を習得させることで企業内育成が可能であると考えられています。

参考:IT人材需給に関する調査 調査報告書|経済産業省

AI人材育成が企業の急務である理由

各企業がAIエンジニアやAIプランナーの育成に取り組む必要がある背景には、日本全体のAI人材不足や、求められるデジタルスキルの変化が関係しています。

2030年には最大14.5万人のAI人材が不足

先端技術の急速な発達に伴ってAI人材の需要が高まる中、AI人材の需要と供給のギャップが日本のビジネスにおいて大きな課題の一つとなっています。文部科学省の試算では、2030年には最大14.5万人のAI人材が不足するという結果も出ています(AI需要が年率16.1%で拡大し、AI人材の生産性が上昇しないと仮定した場合)。

AI人材が全体的に不足している日本の市場においては、採用だけに力を入れても必要な人材を確保できない可能性があります。そこで、自社の社員をAI人材としてリスキリングする「企業内育成」の必要性が高まっているのです。

参考:IT人材需給に関する調査 調査報告書|経済産業省

参考:令和6年度科学技術関係概算要求 科学技術・学術政策局主要事項|文部科学省

DXリテラシー標準に生成AI関連スキルが追加

2023年8月、文部科学省はDX(デジタルトランスフォーメーション)に関わる全てのビジネスパーソンが身に付けるべき知識・スキルを定義した「DXリテラシー標準」を改訂し、生成AIに関する文言を追加しました。生成AIとは、文章や画像などのコンテンツを新しく生み出せるAI技術です。自動化が主な機能であった従来のAI技術よりも活用シーンが増え、社会に急速に普及し始めています。

生成AIはビジネスにおいてもDXの進展を加速させると期待されており、生成AIを活用して企業の競争力アップや業務効率化、生産性向上につなげられる人材が以前にも増して必要とされるようになりました。

参考:デジタルスキル標準|文部科学省

自社でAI人材を育成するには?

自社でAIエンジニアやAIプランナーなどのAI人材を育成するために企業が取り組むべき施策の案を2つ紹介します。

AI人材に特化した人事評価制度を整える

優秀なAI人材を育てるためには、AI人材に特化した人事評価制度を整えて、社員がAIスキルを磨きやすい環境をつくる取り組みが大切です。たとえば、AI人材専用のキャリアコースを設定して通常より早い段階から実案件に関われるようにする、AI人材の給与ランクを通常よりも数段階上に設定するなどが考えられます。

外部の育成プログラムを活用する

AI人材のスキル強化に使える案件が少ない、育成プログラムの設計にかかるコスト・時間の負担が大きいなどの理由で社内での人材育成が難しい場合は、外部のAI人材育成プログラムを活用する方法があります。

外部の育成プログラムは、AIに関する知識・技術だけでなく社会人教育やリスキリングに関するノウハウも体系化されているケースが多いため、参加者が効率的に学習を進められる点がメリットです。また、座学だけでなく演習の機会も十分確保されているため、自社で育成に活用できるAI案件が少ない場合でも実践的なスキルを身に付けることができます。

企業のAI人材育成事例

以下では、AI人材育成計画を検討する際の参考として、先駆的にAI人材育成に取り組む3社の事例を紹介します。

株式会社サイバーエージェント

インターネット広告事業やメディア事業などを展開する株式会社サイバーエージェントは、2023年11月にAI人材育成施策「生成AI徹底理解リスキリング」を開始しました。

同施策では社員を「全社員」「エンジニア」「機械学習エンジニア」の3階層に分けて、それぞれの階層に対応するプログラムを用意しています。全社員を対象としたプログラムでは、ChatGPTや同社独自の日本語LLM(大規模言語モデル)の活用や、生成AI活用に関連する法務・セキュリティ知識を学びます。エンジニアを対象としたプログラムでは、LLMを活用して製品に組み込むスキルを学びます。最も専門性が高い機械学習エンジニアを対象としたプログラムでは、LLMのモデル構築やファインチューニングを通して事業・プロダクトの課題を解決できる人材の育成が目的とされています。

参考:サイバーエージェント、全社的なAI人材育成に向けて「生成AI徹底理解リスキリング」をスタート|株式会社サイバーエージェント

株式会社東芝

株式会社東芝はグループが保有するビッグデータを活用したAI研究開発を進めており、AI分野における社会人教育の知見を持つ東京大学大学院情報理工学系研究科と共同で、2019年11月に「東芝版AI技術者教育プログラム」を開始しました。

同プログラムの参加者は、5日間の講義・演習を通して、機械学習やディープラーニングなどのAI手法を学習するだけでなく、同社がこれまでの幅広い事業展開で蓄積したビッグデータを活用して、実践的なAI技術を習得します。講義・演習終了後は約1ヶ月間最終課題に取り組み、ポスター発表会で最終課題の検討結果を披露します。

株式会社東芝は上記のプログラムで年間100人規模のAI人材育成に取り組んだうえで、積極的な企業内人材育成と新規採用を実施し、2019年時点でグループ全体で750名しかいなかったAI人材を、2022年度には2100名まで増強しました。

参考:東京大学大学院情報理工学系研究科と共同でAI技術者育成プログラムを開発、AI技術者を現在の約3倍に増強|株式会社東芝

日本電気株式会社(NEC)

日本電気株式会社(NEC)は、2013年10月からグループのAI人材育成に取り組みはじめ、2021年時点でNECグループ全体で1800名の育成に成功しました。

2013年~2015年は、AIの活用を牽引するオールラウンダーの短期育成を目標に、必要なスキルを20日間で身に付けるブートキャンププログラムを行いました。2016年~2019年はAIをビジネス実装するスペシャリストの育成をテーマとして、人材認定制度の整備や分析コンテストの開催などを実施。2020年以降はAIを業務で活用するユーザー育成を目的として、全社で知識共有するためのポータルサイト運営や現場部門でのOJTなどに取り組みました。

現在では、グループ内の取り組みで培った育成ノウハウを体系化したプログラム「NECアカデミーfor AI」を外部向けに開校しています。

参考:NECアカデミー for AIとは?|日本電気株式会社

参考:NECにおけるAI人材育成の取り組み|東京大学数理・情報教育センター

法人向けAI人材育成プログラム7選

法人向けのAI人材育成プログラム7つについて、プログラムの概要や特徴を紹介します。

株式会社アイデミー「Aidemy Business」

企業のDX推進・AI/DX内製化支援事業を行う株式会社アイデミーは、オンラインのDX人材育成サービス「Aidemy Business」を展開しています。Aidemy Businessでは、AIマーケター育成講座やディープラーニング基礎など、AI/DXに関連する180種類以上の学習コンテンツが取り揃えられています。また、専任のカスタマーサクセスによる人材育成サポートや受講生の学習進捗・理解度を確認できる管理者向けの機能もあります。

参考:Aidemy Business|株式会社アイデミー

株式会社スニフアウト「PromptCamp」

生成AIの社内導入・開発支援を行う株式会社スニフアウトは、生成AIに特化した動画学習オンライン教育プログラム「PromptCamp」を開講しています。PromptCampには、生成AIに対する指示「プロンプト」の専門知識を身に付ける「プロンプトエンジニアリングコース」と生成AIを用いた開発・実装を行うエンジニア向けの「生成AIエンジニアリングコース」があり、月額3万円から受講できます。

参考:PromptCamp(プロンプトキャンプ)|生成AI人材育成プログラム|株式会社スニフアウト

株式会社SAMURAI「業務改善AI活用研修」

IT教育事業を展開する株式会社SAMURAIは、ChatGPTの活用法やプロンプトエンジニアリング、Pythonを使ったデータ処理・自動化を学べるDX人材育成プログラム「業務改善AI活用研修」を実施しています。研修のインストラクターは現役エンジニアで、AIを活用した実践的な業務効率化の手法を学ぶことができます。

参考:業務改善AI活用研修 | 侍エンジニアのオーダーメイド法人研修|株式会社SAMURAI

株式会社スカイディスク「製造業向けAI人材育成サービス」

国内製造業に特化したDX支援事業を展開する株式会社スカイディスクは、AI開発の実案件とデータ分析を並行的に学ぶ製造業向けAI人材育成サービスを実施しています。プログラム内容は、各企業のAIプロジェクトの進行状況や現場で取得したデータなどに合わせてカスタマイズされるため、自社の現場状況に適したAI人材の育成が可能です。

参考:自社に最適なAIプロジェクト実現のための「製造業向けAI人材育成サービス」を提供開始|株式会社スカイディスク

NABLAS株式会社「iLect」

AIの人材育成・研究開発・社会実装を手がけるNABLAS株式会社は、業務課題を解決できるAI人材の育成を目指す法人向けプログラム「iLect」を開講しています。プログラム内容は演習中心で、学習者は本格的なデータを活用して実践的なスキルを身に付けることが可能です。また、講座カリキュラムは企業の課題に合わせてカスタマイズできます。

参考:iLect|NABLAS株式会社

トレノケート株式会社「AI人材育成トレーニング」

法人向けの人材育成を専門とするトレノケート株式会社は、AIプランナーとAIエンジニアの両者を育成できる複数のトレーニングコースを設けています。

AIプランナー育成については、AIを活用したビジネス企画の考え方を学ぶコースや、AI導入のプロセス・AIビジネスの最新動向を学ぶコースなどがあります。AIエンジニア育成については、Pythonプログラミングを学ぶコースやビッグデータの分析・活用方法を学ぶコースなどが設けられています。

参考:AI人材育成トレーニング|トレノケート株式会社

株式会社Schoo「AI研修」

ライブ動画学習サービスを展開する株式会社Schooは、法人向けのAI研修パッケージを提供しています。研修コンテンツの対象者は幅広く、はじめてAIについて学ぶ社員や文系社員向けの入門講座や、最新技術を学びたい中堅エンジニア向けの機械学習・ディープラーニング講座などが含まれています。

参考:AI研修 | オンライン研修・人材育成 - Schoo(スクー)法人・企業向けサービス

まとめ

AI人材とは、AIに関する豊富な知識や高度な技術を持つIT人材です。各企業ではAI人材のうち、AIを活用したビジネス企画を立案できるAIプランナーや、AI機能を搭載したシステムの開発・実装を担うAIエンジニアの育成が急務となっています。AI人材を自社で育成するには、専用の人事制度を整える、実践的なスキルを効率的に身に付けられる外部の育成プログラムを活用するなどの取り組みが重要になります。


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