近年、日本企業全体においてDXを推進する動きが見られます。物流業界も例外ではありませんが、どのような取り組みをすればいいのかわからないという人も多いかと思います。
本記事では、物流業界が抱える課題やDXが必要な背景に触れつつ、物流DXとは何か、取り入れるメリットなどを解説します。物流DXの事例や活用できるサービスも紹介していきます。
目次
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、組織や企業がデジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを変革することを指します。DXによって、従来のアナログな手法をデジタル化し、効率的な業務プロセスを可能とします。
物流DXは、物流業界においてDXを推進することを目的としたものです。デジタル技術を活用した物流管理システムの構築や配送の自動化などの推進を通じ、物流業界の変革を目指しています。
顧客のニーズに合わせた配送サービスを提供できるようになるだけでなく、配送のスピード・正確性・安全性の向上にも寄与します。
近年の物流業界は、次に挙げる課題を抱えています。
近年はECサイトの利用者が多く、物流業界では小口配送が増加傾向にあります。配送する荷物の数は多いものの、1つの配送先に対して少量の荷物を配送するケースが多く、不在による再配達が発生することも多々あります。
小口配送が増加することで労働環境や業務効率が悪化する恐れがあり、早急な対応が必要です。
物流業界では、以前からドライバー不足が指摘されてきました。近年では前述のECサイト利用者の拡大による小口配送の増加によって、配送ドライバーの人手不足が深刻化している状況です。
国土交通省が発表している「最近の物流政策について」(2021年1月22日)という資料によれば、2019年の時点で約70%の企業においてトラックドライバーが不足していることが分かっています。
また、2020年6月時点での全職種平均の有効求人倍率が0.97倍であるのに対して、トラック運送業界は1.92倍となっていることからも、業界での人手不足が深刻であることが分かります。
物流業界が抱える課題の1つが、労働環境の過酷さです。小口配送の急増や人手不足が影響して、物流業界では長時間労働が常態化しています。
既出の「最近の物流政策について」では、トラック運送業界の労働時間は全職種平均の労働時間と比較して約2割長いうえ、年間賃金は約1~2割低いことが分かっています。
燃料コストが高騰していることもあり、賃金を上げやすい状況とはいえず、物流業界の労働環境は年々過酷になっているといえるでしょう。
働き方改革関連法が施行されたことで、大企業は2019年4月(中小企業は2020年4月)から時間外労働時間の上限規制が適用されました。
物流業界においては上限規制の適用に5年間の猶予が与えられていましたが、猶予期間が2024年3月に終了し、2024年4月1日から自動車運転業務での時間外労働時間の上限は年間960時間までに制限されます。この制限によって発生するさまざまな問題が、2024年問題です。
人手不足や慢性的な長時間労働に陥っている物流企業は、業務の効率化や人材の確保、労働環境の改善などが急務になります。
物流DXの推進は、物流業界の課題解決に直接つながります。物流DXによって何が実現できるのか、詳しく見ていきましょう。
物流における重要な要素となるのが在庫管理ですが、現状の方法での在庫管理は人員や工数が必要になる他、発注元によって管理方法が異なるなどの課題があります。また、管理方法や仕組みなどが担当者に属人化するケースもあるでしょう。
物流DXが進み管理システムがデジタル化することで、在庫管理を大幅に効率化できるようになります。たとえば非接触型のタグを利用することで、バーコードスキャナーに通す作業が減り、在庫を一元的に管理できるようになります。
また、複数拠点で在庫管理をする場合、クラウドを活用して同じシステム・ルールのもとで管理することで、在庫管理を正確かつスピーディに行えるでしょう。
物流DXを導入すれば、倉庫内で行う作業にも変化が生まれます。たとえば、自動棚搬送ロボットを導入すれば、倉庫内での荷物のピックアップを自動化できます。
加えて、自動仕分けができる機械があれば、大量にある荷物を正確に素早く仕分けることが可能です。
物流業界は長時間労働に加えて低賃金というイメージが定着しており、人材確保が難航しやすい状況にありますが、物流倉庫内を自動化すれば、働き方が大きく変わる可能性があるでしょう。
物流DXによって配送データを活用したり、デジタル化したりすることで、配送ルートを最適化できます。また、データ活用とシステム導入によって、トラックごとの積載効率を上げることも可能になっています。
配送ルートを最適化できれば運転ルートによる無駄がなくなり、配送にかかる時間も減らせるでしょう。配送時間の短縮は、運輸によるCO2の排出量・環境負荷の低減や、前述したドライバーの労働時間の改善にもつながります。
物流DXを推進することで、勤務状況の可視化も可能になります。
同じ倉庫内でも、曜日や時間帯などによって忙しいエリアとそうではないエリアが生まれるケースがあります。勤務状況の可視化によって、忙しいエリアに人員を多く配置すれば、人員配置の無駄を減らせます。
また、ペーパーレス化によって日報やシフト表などを自動生成できるようになる他、紙による伝票の受け渡しが不要になります。他にも、人材への公正な評価が可能になるなど、勤務状況の可視化によってさまざまな領域で好影響となる可能性が高いでしょう。
物流DXの推進により、これまで人が担当してきた業務が減るため、限られた人材をうまく活用できるようになります。
たとえば、管理業務や輸送業務、荷積み、積み替えなどは、AIが搭載された機械に代行させることが可能です。多くの人員を割いてきた業務が自動化されることで人員が削減され、その分の労働力を他の業務に充てられるようになるため、人手不足を解消できる可能性があります。
また、配送データを利用して配送ステータスをリアルタイムに顧客に通知するサービスの提供により、顧客が配達時間を把握しやすくなります。配達時間に在宅していたり、あらかじめ配達時間を指定したりする顧客が増えれば、再配達にかかる人員も削減できます。
物流事業をメインとする会社の中で、すでにDXを進めている事例を紹介します。
それぞれ詳しく解説します。
Amazonはデータ分析やAIなどを活用した物流DXを通じて、配送スピードや配送精度の向上に努めています。たとえば、Amazonは配送中の物品のトラッキング情報をデジタル化することで、配送のスムーズさや精度の向上に成功しました。
また、配送ルートの最適化や配送車両の最適利用を行うことで、配送コストの削減を可能としています。顧客とのコミュニケーションの自動化や配送スタッフのタスクの自動化など、物流業務におけるワークフローの最適化も特徴の1つです。
ダイキン工業は、物流センターにおいてハンドリフト牽引型の自動搬送装置(AGV)を導入し、物流現場のDXを推進しました。装置の導入により生産性が15%向上し、従来の手動によるハンドリフト運搬に比べて運搬にかかる時間も短縮され、作業時間が劇的に削減されました。
従来は1人が1台のハンドリフトを運用していたのに対し、新システムでは1人が3台を同時に操作することが可能です。作業効率が向上しただけでなく、作業員が手動で運ぶ際に発生していた負荷の軽減にも繋がっています。
湯浅運輸は輸送業務支援ソリューション「SSCV-Smart」の導入で、運行指示書などの輸送業務をデジタル化しました。SSCV-Smartを導入したことで以下の作業を効率化し、事務員の負担軽減を実現しています。
SSCV-Smartには運行指示書発行機能も搭載されており、ケアレスミスによるコンプライアンス違反を防ぐことにも成功しました。SSCV-Smartの中で受発注業務も完結するため、書類整理の時間削減とペーパレス化を図ることができています。
航空運輸事業を展開する日本航空株式会社はKDDI株式会社と提携し、全国規模でのドローン運行を管理する体制を構築することを発表しています。
1人の操縦者による複数のドローン運航(1対多運航)を実現する技術開発の実現に取り組むとしており、具体的にはドローンの遠隔制御や自立飛行を実現する運行管理システムに、日本航空が培ってきた空の移動に関する安全管理・運航管理などのオペレーションや技術、知見などを組み合わせながら、飛行制御システムの開発を進めるとのことです。
ドローンは新しい空のインフラとして利活用が期待されており、物流業界においても人手不足の解消や働き方改革の推進につながる可能性があるでしょう。
グループ内で関連する製品の開発や販売、物流などを手掛ける京セラ株式会社では、物流倉庫における業務のデジタル化を推進しています。
同社が導入したのは、自社の業務に適したモバイルアプリを作成・活用できるサービス「Platio(プラティオ)」というツール。
現場主導で棚卸アプリを数時間で作成して業務に導入したところ、これまで紙で運用されていた棚卸のリストがアプリ化されたために、紙の受け渡しの手間が省けるようになったほか、スマートフォンで棚卸の報告が完結するようになったとのこと。
工数の減少だけではなく、コストの削減や在庫制度の向上、人的ミスの削減など、業務プロセスの改善につながっています。
物流業のDXを進める場合に活用できるサービスを紹介します。
それぞれ詳しく解説します。
Vecna Roboticsは自律的なスタッキング機能が備わった自動走行搬送ロボット(AMR)です。移動や搬送、仕分けやピッキングなど、物流業務に必要な機能を備えています。
また、ロボットの運用管理や作業のスケジュール管理、センサー情報の収集や分析などを統合的に行うのも特徴の1つです。他にも、AI技術を使うことでロボットが自律的に最適ルートを選択するため、作業効率の向上や作業ミスの削減が期待できます。
海外の物流業界を中心にサービスを展開していますが、国内でも利用可能です。
KeepTruckinは、トラック業界向けに開発された電子ログブックおよびフリートマネジメントソフトウェアです。運転手がトラックでの運行中に記録する電子ログブックを提供しており、運転時間の記録やドライバーの位置情報の追跡が可能です。
また、運転中に急加速や急ブレーキなどの運転行動が検出された場合、マネージャーに通知する機能も備えています。他にも、運行中のトラックの速度や燃費のデータを収集して分析を行うため、経営効率の向上に役立ちます。
海外を中心に利用されているサービスで、企業価値としては14億ドルまで達しています。2019年に伊藤忠商事が戦略的提携を発表しており、物流業界において稼働最大化を実現するためのソリューションを提供する新たなビジネスモデルの構築を目指しています。
参考:「米国のトラック輸送をデジタル化するKeepTruckin、企業価値14億ドルに」
参考:日本経済新聞「伊藤忠商事、車両運行管理ソリューション提供の米KT社への出資・戦略的提携について発表」
ProGlove LEOは、従業員の生産性を向上させ、作業時間を短縮するために設計された革新的な技術を備えた手袋型のバーコードスキャナーです。ProGloveを装着することで、従業員はスキャンのために手にスキャナーを持つ必要がなくなります。
高精度のスキャンが可能であり、バーコードの読み取りエラーを最小限に抑え、作業スピードと精度を向上させます。スキャンと同時にデータを収集して倉庫内の商品や在庫状況を追跡するため、適切な在庫管理が可能です。
海外を中心にProGloveは利用され、ピッキングエラーがなくなったり作業効率が上がったりと、大きな投資対効果をもたらしています。
参考:ウェアラブルスキャナ ProGlove LEO | ヒット株式会社
トラック簿は、トラックの受付管理や事前予約により、荷待ちの時間やバース(倉庫や物流センターでトラックが接車して積み下ろしをするスペース)の混雑を解消できるシステムツールです。円滑な倉庫運営に加え、荷主都合の待機時間など、現場の改善に必要なデータを収集・分析できます。
ボタン1つでドライバーを呼び出せるため、業務工数の削減が可能。また、スマートフォンやタブレットを使った倉庫への入退場の受付に対応しており、デジタルで正確な入退場管理が実現できます。
マルチ型のテナント倉庫の上層部に入居している流通センターでの導入事例では、トラック簿によるスマートフォン受け付けにより1階の待機場からの受付が可能に。これまで上層階まで受付のために上がっていたドライバーの負荷軽減につながりました。
また、倉庫内ではフォークリフト作業者がドライバー呼出しのために電話呼び出しを行っていましたが、トラック簿の導入で作業者の手元で受付確認とドライバーの呼び出しが可能になり、作業の簡素化に成功。単純計算で1日約2時間30分の作業時間削減を実現しています。
参考:トラック予約受付システム「トラック簿」 — 株式会社モノフル|すべての人に最適な物流を
ロジックスは、案件や配車、請求書の管理から売上や実績の可視化まで対応できる運送業向けの基幹システムです。
受注した案件を3クリックでシステムに登録可能。案件の抜けや属人的な対応がなくなる他、配車表をシステム上で簡単に作成できる機能が搭載されており、紙からの書き写しも必要ありません。また、労務管理システムによって、改善基準告示や労働基準法違反のリスクを考慮した配車が可能になり、働きすぎのドライバーをうっかり配車にあてがうミスを予防できます。
配車情報から1クリックで請求書をまとめて発行できるため、事務にかかる時間を削減できる他、売上や実績などの可視化によってスムーズな経営判断が可能になります。事務作業の工数・時間削減やデータ経営が可能になるなど、運送会社のデジタル化を実現できるシステムです。
Air Logiは、倉庫内の業務効率化が可能なクラウド型倉庫管理システムです。商品マスタや在庫管理、各種情報の一括登録など、基本的な倉庫管理システムに加え、Androidのアプリケーションを介することでコスト・機能・使いやすさを実現したハンディ機能、さまざまな種類のモールやカートに対応できるECサイト連携機能を搭載しています。
最大の特徴が、システム導入時のコストの低さです。運用コストが業界内でも最安値レベルとなっている他、ハンディーはネット環境不要かつレンタルで利用開始が可能なため、初期費用を抑えられます。
RPAやマッピング機能の活用によって、顧客ごとに異なる複雑なルールにも柔軟に対応できるのに加えて、システムの導入スピードが早く、場合によっては数日程度で運用を始められるのも魅力です。導入事例も多く、倉庫における課題解決をサポートできるシステムとなっています。
参考:クラウドWMS「Airlogi/エアロジ」 - 導入事例一覧
物流業界でのDX推進が進む中、物流DXを支援するサービスを提供するベンチャー企業やスタートアップ企業が登場しています。
ここでは、物流DXをサポートする注目のサービスを紹介します。
ITS事業やネットサービス事業を展開する株式会社ゼンリンデータコムでは、企業の物流DXを推進させる「ロジスティックサービス」を提供しています。
AIを活用した配車業務の最適化や、輸送・配送ルートを最適化するナビゲーションアプリの提供、運送車両の位置・走行距離などを管理できる車両動態管理システムなど、さまざまなツールやノウハウを活用することで、物流の効率化を図ることができます。
福岡市に拠点を構える株式会社セゲルでは、日本全国の荷主と配送パートナーの業務改善に活用できるサービス「allhaiso(オールハイソー)」を提供しています。
特に、配送ネットワークから動態管理まで可視化できる「物流DX」では、配送ネットワークの最適化による効率化や品質向上、物流コストの削減が可能に。また、日次配車計画の自動化や運送車両のリアルタイム勤怠管理など、デジタル技術による物流業務の効率化が可能です。
株式会社フレクトでは、配送車両の現状や走行実績などを簡単に把握できるクラウドシステム「Cariot(キャリオット)」を提供しています。
GPSを活用して配送車の状況をリアルタイムに把握できる他、依頼元から最も近い場所にいるドライバーを検索可能。また、運転実績の正確な把握や、急加速・急減速など事故につながりやすい危険挙動を検知できるなど、正確な情報の把握に時間がかかりやすいポイントを、可視化することですぐに確認できるのが特徴です。
物流業務の効率化に加えて、管理者・ドライバーの働く環境を改善できるツールとして注目されています。
物流業界は顧客ニーズの高まりやグローバル化によって、配送のスピードアップやコスト削減に向けた取り組みが必要です。DXが進めば、配送サービスの質の向上や顧客満足度の向上が期待できます。
ぜひ本記事の事例を参考にしながら、物流業のDX推進に取り組んでみてください。
リスキリングナビでは、物流業界以外にもさまざまな業界のDXの取り組みについて、コラムを掲載しています。興味のある方は、ぜひご覧ください。
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