「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、デジタル技術を活用してビジネスの変革を促し、市場における競争優位性を確立することです。さまざまな業界で「DX」の活用が進められており、飲食業界においても導入を進める店舗が増えてきています。 本記事では、飲食店DXとはそもそもどのようなものなのかという点から、必要とされる背景、実際に活用できるサービスまでを解説していきます。
目次
飲食店DXとは、デジタル技術を活用して業務を効率化させ、顧客と従業員の満足度向上や新しいビジネスチャンスの創出を目指すものです。 たとえば、注文の際の伝票やスタッフのシフト管理を紙からスマホアプリ等に移行させ、システムによる一元管理によって利便性を向上させるなどが挙げられます。その他にも、電話による予約管理からアプリを活用した予約管理にすることで、業務負担を減らすといった改善なども挙げられます。 注意すべきなのは飲食店のデジタル化を行うことが、飲食店DXではないという点です。飲食店DXの目的は、顧客と従業員の満足度の向上や、新しいビジネスチャンスを生み出すことにあるため、飲食店の仕組みをデジタル化すれば良いというわけではありません。デジタル化はあくまでも目的を達成するための手段です。デジタル化によって顧客や従業員の満足度が上がるのか、ビジネスモデルを変革できるかという視点が最も大切になります。
現在の飲食業界には、以下のような課題が挙げられます。こういった課題を解決するためにも、DXの導入が必要とされています。
飲食業界は慢性的に人手不足を抱えており、従業員に対する業務負担は非常に大きくなっています。こうした人手不足に対応し、安定した店舗運営を行なっていくためには、DXを導入して業務効率化を実現する必要があります。
加えて新型コロナウイルス感染症拡大が、飲食店のビジネス環境に大きな変化をもたらしています。外出規制や営業時間の制限などが課され、売上が落ち込んだ店舗は多いでしょう。経営への打撃を少しでも改善するために、またコロナ禍で広がった利用者の新たなニーズに応えるために、デリバリーやテイクアウトのサービスが増加しました。
さらに店舗における感染症対策をきっかけとして、キャッシュレス決済やタブレットによるオーダーシステムなど、非接触サービスも高まりを見せています。
このように、人手不足やビジネスモデルの変革、新たなニーズへの対応のために、DXの導入が必要とされています。
飲食店DXを推進することで、以下のようなメリットがあります。
それぞれのメリットについて解説していきます。
飲食店は慢性的な人手不足とされていますが、新型コロナウイルス感染症拡大によって、さらに人手不足が加速しています。帝国データバンクが行なった「人手不足に対する企業の動向調査」(2022年7月)によれば、飲食店における非正社員の人手不足の割合が73%と、すべての業種の中で最も高い結果となっています。なお、同調査では2020年7月の段階で飲食店における非正社員の人手不足の割合は、38.6%だったため、急速に人手不足が加速したことがわかります。 DXを推進することにより、こうした人手不足への対応ができます。たとえばモバイルオーダーシステムを活用すれば、従業員は注文受付に用いていた時間を他の業務に使えるようになります。このように、省人化に寄与する点は飲食店DXの大きなメリットといえます。
DXの推進は売上向上とコスト削減にもつながります。AIを活用して顧客データの分析を行えば、効果的なメニュー開発やマーケティング施作につながるでしょう。 売上情報や顧客情報、商品ごとの売上記録などを自動的に集計してデータ化できるPOSシステムを導入し、AIシステムと連携させれば、実績を基にした施策を行えるようになります。ターゲットを明確にしたキャンペーンによる売上向上や、実績に基づいた仕入れ管理でムダを減らし、コストを削減することも可能です。 他にも曜日や近隣のイベントなどと関連付けて、その日の来客数を予測できるAIを活用した来客予測システムなども有効です。来店客数の多い曜日や時間帯が可視化されることで、週末だからという根拠の乏しい理由で人員を増やすのではなく、データに基づいた的確かつ効率的な人材配置も可能になります。
新型コロナウイルス感染症拡大によって、「お家時間」が増え、外食からデリバリーの活用が増加しました。こうした飲食における行動変容への対応もDXを推進することで可能になります。 ここ数年で一気に認知度が高くなったフードデリバリーサービスは、スマートフォンアプリを利用して飲食店と配達員、顧客を結ぶサービスで、多くの企業が参入しています。フードデリバリーサービスを活用すれば、近隣エリアへの商圏拡大が可能になり、来店する手間を省きたい顧客にもサービスの提供が行えます。 今後も拡大していくと予想される中食市場の顧客ニーズに、DX推進により対応できます。
コロナ禍によるソーシャルディスタンスをきっかけに、さまざまな業態で非接触サービスが求められるようになりました。
飲食店では注文や商品の提供時、会計時など顧客と接するシーンは多くあります。飲食店DXの導入により、こうした接触が必要な業務においても非接触サービスが実現できます。たとえば会計時のキャッシュレス決済です。昨今ではクレジットカードやデビットカード、電子マネー、QRコード決済、仮想通貨決済など、さまざまな決済手段が浸透しています。キャッシュレス決済を導入すれば、会計時に顧客と接触することなく、会計を完了できます。
コロナをきっかけに急速に広まったキャッシュレス決済は、顧客ニーズに応えるとともに、会計にかかる時間の短縮や釣り銭の受け渡し間違いの防止など、飲食店の業務効率化というメリットにもつながっています。
飲食店DXの代表的な事例として、以下の2社を紹介します。
株式会社すかいらーくホールディングスは、ファミリーレストランのガストやジョナサンなどを運営している飲食企業です。すかいらーくではDXを主要戦略の一つとして取り入れており、配膳ロボットやキャッシュレス決済の導入により、非接触サービスや業務効率化を実現させています。さらにモバイルオーダーから注文されたデータを収集し、マーケティングにも活用しています。メニュー開発やターゲット顧客に合わせたアプローチも行なっており、今後さらに飲食店DXを推進していく考えです。
株式会社ゼンショーホールディングスは、すき家やなか卯などを展開している飲食企業です。同社は国が定める「DX認定事業者」となっており、DXの取り組みが高い評価を受けています。具体的にはキャッシュレスPOSやモバイルオーダー導入による顧客の利便性向上、デリバリーシステム導入による行動変容への対応などです。
同社が2022年に発表した中期経営計画では、さらなるビジネスの拡大や生産性改善のために、DX分野に対して以後3年間で1,700億円強の投資を重点施策として掲げています。
実際に飲食店で活用できるDXサービスを紹介します。
それぞれのサービスについて、どのように活用できるかを解説していきます。
「Airペイ」は株式会社リクルートが提供している決済サービスです。クレジットカード、電子マネー、QRコードなど36種の決済手段に対応しています。iPhoneかiPad、専用のカードリーダーを用意すればすぐに利用を開始できるのが大きなメリットです
Airペイを利用している事業者は2021年11月末で26万店舗と発表されており、今後もさらに導入する店舗が増える見込みです。決済手数料は、VisaやMastercardなどのクレジットカード、交通系電子マネーが3.24%と業界でも最安水準となっているため、非常に人気が高い決済サービスです。
「Square レストランPOSレジ」は、モバイルオーダーにも対応したPOSレジです。店舗に訪れた顧客が設置してあるQRコードを読み取ると、読み取ったスマートフォンから自身でオーダーが可能になります。 注文されたオーダーはPOSレジに自動送信されるため、従業員側の負担は一切かかりません。クレジットカードやデビットカード、電子マネーなどの豊富な決済手段に対応しており、顧客の支払いニーズにも柔軟な対応が可能です。
「TORETA」は、株式会社トレタが提供している飲食店向けの予約管理サービスです。iPadのアプリ上で予約台帳や顧客に関する情報の集計および分析が行え、手書きのメモを残すこともできます。自店舗のWebサイトやSNSに予約専用ページのURLの掲載ができるのはもちろんのこと、20以上のグルメサイトと連携できるのも強みになります。 LINEと連携すれば、自動で予約したユーザーに予約完了通知や前日確認なども送れます。従業員側はもちろんのこと、顧客にとっても利便性の高いサービスです。
国をあげてDXの取り組みが進められる中で、飲食業界でもDX推進は避けては通れないものとなっています。デジタル技術の活用やビジネスモデルの変革への柔軟な姿勢を持てなければ、店舗運営は厳しくなってしまうでしょう。 まずは、自社の課題を見つめ直し、効果の高い業務からDXの導入を進めてみてください。