東京都が都庁のDX施策の一つとして導入した「デジタルスキルマップ」。DX人材の採用・育成に役立つと言われていますが、どのような内容なのでしょうか。
今回は、デジタルスキルマップの具体的な構成や活用方法、導入メリットなどを紹介します。
目次
デジタルスキルマップの概要や、デジタルスキルマップを導入した東京都の取り組みについて紹介します。
デジタルスキルマップとは、デジタル人材が持っている各種スキルを可視化した図表です。それぞれのデジタル人材がどのようなスキルをどれくらいのレベルで保有しているのか、ひと目で把握できます。
たとえば以下の表は、あるUI/UXデザイナーのスキルを表した架空のデジタルスキルマップです。デザインのスキルに加えてマーケティングやサービスデザイン、データアナリティクスに関する基本的なスキルを持っていると分かります。
東京都デジタルサービス局「東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver1.0」を参考に編集部で作成
東京都は、都庁のタレントマネジメント(適切な人員配置や人材採用・育成)を目的に2022年からデジタルスキルマップを導入しました。東京都のデジタルスキルマップは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のITスキル標準やトレンドのスキルなどを参考にしつつ、都庁・行政の業務内容に合わせた内容になっています。
2019年から本格的なDX推進に取り組んできた東京都は、2021年に都庁のDXを先導する職種「ICT職」を新設しました。ICT職は技術面でDXをサポートする高度専門人材と協働しながらプロジェクトを進める必要があり、行政に関する専門性に加えて一定以上のデジタルスキルが求められます。デジタルスキルマップは、ICT職のデジタルスキルを正確に把握するために導入されました。東京都は今後デジタルスキルマップのデータを蓄積し、組織全体の長期的なタレントマネジメントにつなげる方針を検討しています。
東京都が導入したデジタルスキルマップは、22種類のスキル項目と10種類のジョブタイプで構成されています。
以下の図のとおり、スキル項目には「ITストラテジー」「サービスデザイン」などDX戦略・企画策定に関わるスキルや、「UXデザイン」「Webアプリ設計・開発」などの制作スキル、「サイバーセキュリティ」「システム監査」などの保守・運用スキルなどがあります。
出典:東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver1.0|東京都デジタルサービス局
各スキルは習熟度に応じたレベルが設定されているため、同じ項目のデジタルスキルを持っている人材でも「指導のもとで業務ができる人材」「一人前のプレイヤーとして活躍できる人材」「プレイヤーに対して指導できる人材」などに分けて把握することができます。
ジョブタイプは以下の図のとおり、「ビジネスデザイナー」「プロデューサー」などのビジネス系や「アプリケーションエンジニア」「インフラエンジニア」などのエンジニアリング系のほかに、「UI/UXデザイナー」「データサイエンティスト」などの専門職種が含まれます。
東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver1.0|東京都デジタルサービス局を加工して作成
それぞれのジョブタイプには、スキル項目別に求められるレベルが定められています。たとえばシステムアーキテクトの場合、「システムアーキテクチャ」と「クラウドサービス活用」は指導者レベル(レベル3)、「プロジェクトマネジメント」は一人前のプレイヤーレベル(レベル2)想定のスキルが必須とされています。
東京都のデジタルスキルマップは都庁の業務に合わせた仕様になっているため、自社でデジタルスキルマップを導入する場合は事業内容や経営戦略などに応じてスキル項目やジョブタイプを整理する必要があるでしょう。
各従業員が持つスキルをひと目で把握できるデジタルスキルマップは、「組織のデジタルスキル状況の分析」や「従業員のキャリア開発」などの場面で活用できます。
各従業員のデジタルスキルマップのデータを一覧化すれば、組織全体のデジタルスキル状況を簡単に把握・分析できます。
たとえば以下の図は、とある職種のデジタルスキルを項目別にグラフ化した例です。図を見ると、プロジェクトマネジメントのスキルを持った従業員が多い一方で、マーケティングやデータエンジニアリングに関する知見がある人材は少ないと分かります。
※上記の表は「東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver1.0」を参考に編集部で作成
職種別、部門別、階層別、中途社員限定など参照するデータの基準を変えて分析すれば、組織のデジタルスキルの傾向をより多角的に捉えられます。
それぞれの従業員のデジタルスキルマップを利用すれば、能力に合ったポジションや業務を検討しやすくなります。
たとえば東京都のデジタルスキルマップを参考にすると、マーケティングやサービスデザインに関する豊富な知識・経験がある人材には、ビジネスデザイナーのポジションを提案できるでしょう。
東京都デジタル人材確保・育成基本方針ver1.0|東京都デジタルサービス局を加工して作成
タレントマネジメント施策の一つとしてデジタルスキルマップを導入すると、「組織の人材採用・育成施策を検討しやすくなる」「従業員が効率的にデジタルスキルを磨ける」などのメリットがあります。
デジタルスキルマップをベースとした人材管理が定着すれば、今の組織に足りていないスキルを正確に把握できるため、採用すべき人材の条件を具体的に考えやすくなります。たとえば、エンジニア部門のデジタルスキルマップからサイバーセキュリティに強い人材が不足していると分かれば、「中途採用でレベル3相当のセキュリティエンジニアを入れる」といった採用条件を決められます。
人材育成の面でも、経営方針や事業計画とデジタルスキルマップのデータを照らし合わせれば今後強化すべきスキルが明確になるため、研修・セミナーの実施、資格取得の推進、勉強会の開催など効果的な育成施策を打てるようになります。
デジタルスキルマップを従業員の定期面談・査定などに活用すれば、従業員は今の自分にどのような能力が足りていないのかを明確に把握できるため、継続的にスキルを磨くきっかけになるでしょう。
また面談を行う上司も、デジタルスキルマップを根拠としてフィードバック内容を考えれば、部下に対して客観的・論理的なアドバイスができます。面談の準備にかける時間や精神的な負担も減らせる可能性があります。
デジタルスキルマップは、東京都が都庁のタレントマネジメントを目的に導入した、デジタル人材が持つスキルを可視化した図表です。各従業員のデジタルスキルをひと目で把握できるだけでなく、個々のデータを統合すれば組織全体のスキル状況を理解しやすくなります。デジタルマップを導入すれば、よりロジカルな人材採用・育成施策を検討しやすくなり、従業員のスキルアップも効率的に行えます。
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