日本はデジタル化で海外諸国に後れを取っています。デジタル人材の不足は日本の大きな課題であり、企業はデジタル人材の育成に早急に取り組み、自社の競争力を高める必要があります。今回はデジタル人材育成の方法や事例をご紹介します。
目次
デジタル人材とは、デジタル技術を活用し、ビジネスに新たな価値を提供することができる人材です。エンジニアやデータサイエンティストを始めとする、デジタルイノベーションを生み出す人材を指します。
日本はしばしばデジタル後進国であると言われます。経済大国である日本がデジタル化で海外に後れを取っているとは信じがたいという方も多いでしょう。しかし、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2022年9月に発表した世界デジタル競争力ランキング2022によると、日本のデジタル競争力は63か国中29位です。「デジタル/技術スキル」は62位と著しく低く、全体の順位を下げる結果となっています。
順位 | 国名 | 順位 | 国名 |
---|---|---|---|
1 | デンマーク | 16 | 英国 |
2 | 米国 | 17 | 中国 |
3 | スウェーデン | 18 | オーストリア |
4 | シンガポール | 19 | ドイツ |
5 | スイス | 20 | エストニア |
6 | オランダ | 21 | アイスランド |
7 | フィンランド | 22 | フランス |
8 | 韓国 | 23 | ベルギー |
9 | 香港 | 24 | アイルランド |
10 | カナダ | 25 | リトアニア |
11 | 台湾 | 26 | カタール |
12 | ノルウェー | 27 | ニュージーランド |
13 | アラブ首長国連邦(UAE) | 28 | スペイン |
14 | オーストラリア | 29 | 日本 |
15 | イスラエル | 30 | ルクセンブルク |
総務省「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」を元に作成
それでは、どのようにデジタル人材を育成すれば良いのでしょうか。主な方法を3つご紹介します。
1つ目は研修を実施して社員にデジタルスキルを身に付けてもらう方法です。社員が講師を務めても構いませんが、「社内に教えられる人材がいない」「講座の準備をする時間的な余裕がない」という場合は、外部講師を活用すると良いでしょう。外部講師を自社に招いて研修を実施する集合型研修、研修をライブ配信して社員の自宅や会社の会議室で実施するオンライン型研修、社員がスクールの施設で学ぶ通学型研修などがあります。受講にあたっては講師の経歴や得意とする領域を確認しておくことをおすすめします。
2つ目は実務経験を積ませることです。研修で得られた学びは業務の中で実践することが欠かせません。日本では大卒新卒者に対して、先輩社員がビジネスにおける心構えや業務の進め方を指導するOJT(On the Job Training)が広く行われています。OJTは、若手新入社員が研修の学びを定着化させるための良い機会です。
しかし、デジタル人材の育成は多くの場合社員任せであり、大卒新卒者へのOJTと同様の取り組みは広がっていません。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2023年2月に公表した「DX白書2023」では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する人材の育成方法を日米の企業でアンケート調査を行い、この中で米国は「DX案件を通じたOJTプログラム」を会社として実施している割合が60.1%と日本の23.9%よりも大きいことを示しています。
3つ目は社員の資格取得を会社として支援することです。IT・Web系の資格は実に数多く存在します。資格取得には肯定的な意見と否定的な意見があり、「資格取得は必ずしも業務のパフォーマンスと直結するものではないため、取得する必要はない」と考える方も一定数いることは確かです。しかし、学習を通じて意識の向上や知識の整理を図ることができる点を考慮すると、資格取得にチャレンジするメリットは大きいと言えます。社員の資格取得を促すため、資格に合格した社員に対し、毎月の資格手当や一時金として合格報奨金を支給する企業も多く見られます。
デジタル人材の育成事例として、複合機メーカーのリコーと化学メーカーの旭化成の事例をご紹介します。2社とも企業内大学を設け、特定の社員だけではなく、全社員のデジタルスキルの底上げを図っていることが特徴です。
複合機やプリンターといったデジタル製品の開発・販売を行うリコーは、デジタル人材の育成を加速するため、2022年4月に研修プラットフォーム「リコーデジタルアカデミー」を設立しました。同アカデミーは、グループ各社・各組織からの選抜者を対象にした「専門的能力強化」とグループ社員全員を対象としたデジタル技術習得とデータ活用を学ぶ「デジタルナレッジ」の2層 で構成されます。
デジタルナレッジ研修では、自社企画のオンライン研修に加え、Udemy社のオンライン学習プラットフォーム「Udemy Business」が導入されています。グループ会社でIT系資格取得のために活用し、社員の自律的な学びに効果を得られたことから、同アカデミーでも導入を決定しました。就業時間内外にスマートフォンなどから気軽に講座を受講できる、と社員から好評です。社員は必要なスキルに応じて受講する講座を選択でき、データサイエンス系、業務改善、開発、クラウド系の講座が多く受講されているようです。
総合化学メーカーの旭化成は、同社のDX戦略におけるデジタル創造期(2022年から2024年)の3つの柱のうちの1つにデジタル基盤強化を掲げ、デジタル人材育成を積極的に進めています。具体的には全社員4万人を対象にしたデジタル活用人材の育成と、現場密着型の2,500名を対象としたデジタルプロ人材の育成です。
デジタル活用人材の育成では、2021年6月にスタートしたDXオープンバッジ制度と呼ばれる人材育成プログラムにより、全従業員4万人のスキルを業務改善などにDXを活用できるレベル(オープンバッジプログラムのレベル3)に引き上げるとしています。また、グローバル全従業員のうち、デジタルプロ人材(オープンバッジプログラムのレベル4~5)を2024年度に約2,500名(2021年度比10倍)に増やす計画を立てています。
マナビDXとタレントマネジメントシステムは、デジタル人材育成に取り組む企業にぜひおすすめしたいサービスです。
マナビDXは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が運営する、DXに関する講座を紹介するポータルサイトです。社員がデジタルスキルを学べる講座を検索する際に役立つでしょう。登録・ログイン不要で、経済産業省の審査基準を満たした講座を無料で検索できます。デジタル人材に求められる役割やスキルを定義した「デジタルスキル標準」も掲載されており、何を学べば良いかについて迷うことはありません。有料講座ばかりでなく無料講座も多数紹介されています。
講座のレベルは、上位者の指導を受けて作業を遂行できる「レベル1」、上位者の指導の下で一部を独力で遂行できる「レベル2」、すべて独力で作業を遂行できる「レベル3」、プロフェッショナルとして専門スキルを駆使し、業務上の課題の発見・解決をリードする「レベル4」の4つに分けられています。
タレントマネジメントとは、社員のタレント(才能、素質、能力)やスキル、経験などの情報を一元管理し、人材配置や人材育成に役立てることを指します。情報の一元化を実現するためのシステムがタレントマネジメントシステムです。東京都デジタルサービス局は、都庁のデジタル人材のスキルを可視化する「デジタルスキルマップ」を活用する方針を打ち出し、株式会社ワン・オー・ワンのタレントマネジメントシステム「スキルナビ」の導入を決定しました。スキルナビは導入費用が無料、導入企業の96%がカスタマイズなしで運用しています。経済産業省が策定したITSS(ITスキル標準)に対応しており、定量的に測りにくいITエンジニアのスキルの見える化もできます。
今回はデジタル人材の育成についてご紹介しました。デジタル人材を確保するための方法としては外部デジタル人材の採用が挙げられますが、デジタル人材の需要増加に伴い、人材獲得競争は激化しています。まずはデジタル人材の原石が社内にいないか探してみましょう。外部人材の採用に代わる方法として、タレントマネジメントシステムによりデジタル技術への適性を持つ既存社員を選抜・育成するという方法が考えられます。また、デジタル技術に関心を持っている社員に対しては、研修への参加や自律的な学習の機会を与えることをおすすめします。
ドコモgaccoのDX人材育成プログラムは、経済産業省が定める「デジタルスキル標準」に基づいた体系的なカリキュラムの提供により、 DX人材育成のスタートにお悩みの皆様の課題を解決できます。
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