組織のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進には、デジタルスキルに加えて「従業員のデジタルマインドセット」が必要と言われます。デジタルマインドセットとは具体的にどのような内容なのでしょうか。
今回はデジタルマインドセットの概要や必要性、従業員にデジタルマインドセットを持ってもらう方法などを紹介します。
目次
まず、デジタルマインドセットとは何か、DX推進においてどのような必要性があるのかを解説します。
デジタルマインドセットとは、DXに取り組むデジタル人材に求められる、仕事に対する姿勢です。「DXマインドセット」と呼ばれる場合もあります。
デジタル技術は2000年代のICTインフラ整備とともに少しずつ日本社会に浸透し始め、今ではAIやIoTなどデジタル技術を前提とした高度な社会構造になりつつあります。社会の高度化によってビジネス環境も急速に変化しており、企業はデジタル技術を活用した社内業務の効率化(IT化)に加えて、既存事業の付加価値向上、新しいビジネスモデルの創出など事業面での改革(DX)にも取り組む必要が出てきています。そのため、DXを推し進められるマインドセットを持ったデジタル人材の需要が高まっているのです。
DXというと既存の事業や業務にデジタルツールを導入するイメージが強いかもしれませんが、ツール導入はあくまで手段の一つに過ぎません。DXにおいて本当に必要な取り組みは「マインドセットの変革」です。
DXは事業改革・組織改革であり、決まり切った方法論はありません。各企業は自社の状況に合わせて、試行錯誤しながらDXに取り組む必要があります。そのため、デジタル人材にはスキルだけでなく、DXのさまざまな困難を理解したうえで粘り強く改革を推し進められるマインドセットが求められます。
今回はIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が「DXに対応する人材の適正因子」として仮説づけている6つの要素を参考に、デジタル人材に求められるマインドセットを紹介します。
デジタル人材には、上からの指示を待つのではなく、取り組むべき課題を自分で設定する主体的な姿勢が求められます。デジタル技術を活用した事業・組織改革には無限の可能性があるため、DXプロジェクトにおいてどのような状態を組織の理想とするのか、理想を実現するうえで解決すべき課題は何か、などはDXに携わるメンバーで考える必要があります。
課題設定のコツは、現状に満足せず「デジタル技術を活用してもっと成果を出せないか」「さらに生産性を上げられないか」と改善点を探すことです。現状維持でいいと考えると画期的なアイデアが生まれにくく、DXを実現できません。
DXを進めるためには、計画変更をいとわず臨機応変に取り組む姿勢が大切です。デジタル技術は日々進歩しており、新技術を活用したビジネスも次々と登場しています。また、関係者からの意見や経営陣の方針変更によってプロジェクトが当初の計画どおりに進まないケースも多々あります。そのためDXには、最初のプランにこだわりすぎず、状況に合わせて思考を切り替えられる人材が適しています。
事業・組織のDXにおいては、プロジェクトに直接関わっていない従業員や取引先など外部の人間も巻き込む姿勢が重要です。
DXプロジェクトによって組織体制や業務内容が大幅に変わると、従業員は新しい仕事に慣れるために労力を割かなければならず、一時的に現場の負担が増えてしまう可能性があります。場合によっては、以前の方針に慣れ親しんだ従業員から反対の声が上がるかもしれません。現場の協力が得られなければ組織全体にDXを定着させられないため、事業部門の管理者やチームリーダーなどを巻き込み、力を貸してもらえるよう打診する必要があります。
また、社内業務の中には契約手続きや請求処理など取引先の企業が関わる部分もあるため、自社のデジタル化を徹底するうえで他社の協力は欠かせません。デジタル人材には、取引先の担当者に相談して両社のデジタル化を同時に進められないか検討するなど、社外の関係者もDXに巻き込む姿勢が求められます。
DX推進において、デジタル人材には失敗を恐れずにチャレンジする姿勢が必要です。
DXそのものが近年生まれた新しい概念であり、これからDXに取り組もうとしている企業がほとんどです。参考にできる過去の事例が少ない中で、最初からDXプロジェクトを成功させることは難しいでしょう。また、デジタル技術の進歩やビジネス環境の変化が激しい今の時代、当初の予想が大きく外れる可能性も十分あります。
もちろん、失敗のリスクをできる限り抑える努力は必要です。しかし不確実な要素が多いDXにおいては、積極的にPDCAを回してより大きな成功につなげる姿勢も同様に重要と言えます。
DXに限らず、組織改革を成功させるうえでは企業全体の課題や与えられた業務に対して従業員一人ひとりが自分なりの意味づけをし、高い当事者意識を持つことが大切です。
仮に、企業の上層部で最先端のデジタル戦略を検討したり壮大なDXプロジェクトを企画したりしても、実際に戦略や企画を形にするのは現場で働く各従業員です。そのため、DXに携わる従業員には「事業のデジタル化がなぜ今必要なのか」「新しい業務はどのような成果につながるのか」など、自分自身でDXの意義を理解し、腹落ちした状態で業務に当たってもらう必要があります。
DXは多くの企業にとって前例のない取り組みであり、どれだけリスクマネジメントに取り組んでも予想外のトラブルが起きる場合があります。そのためデジタル人材には、問題が発生しても試行錯誤して状況を改善しようとする粘り強さが求められます。
これまで紹介したデジタルマインドセットの要素を振り返ると、デジタルマインドセットはDXに限って必要であるわけではなく、どのような仕事であっても基本の心構えとして従業員に持ってもらいたい内容であると言えます。
参考:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査~詳細編~|IPA(独立行政法人情報処理推進機構)
従業員にデジタルマインドセットを持ってもらうためには、具体的にどのような取り組みが必要になるのか解説します。
組織全体にDXの必要性や有益性を啓発すれば、従業員の間に「DXに取り組まなければ」という危機感が醸成され、デジタルマインドセットを持つ人材が増えると考えられます。啓発活動の例としては、企業のトップから従業員に対してDXの取り組みを強化するメッセージを発信する、他社のDX事例を学ぶセミナーを実施するなどがあります。
従業員の中にはデジタルやテクノロジーに対して苦手意識を持っている人もいると考えられるため、啓発活動の際には「誰でも使いやすいツールを導入する」「デジタル化の移行期間を長めにもうける」などIT初心者への配慮を伝え、従業員の拒絶反応を少しでも減らすとより啓発の効果が期待できるでしょう。
DX推進に特化した組織を企業内に設けるとプロジェクトや施策、従業員に対するメッセージに一貫性を持たせやすくなり、従業員のデジタルマインドセットを醸成しやすくなります。
たとえば、画像認識AI技術を活用した新規事業をローンチした富士フイルム株式会社では、優れた課題設定力を持つ従業員を選出して「デジタル変革委員会」を設置し、全社で取り組むべきDXのテーマ設定やプロジェクト進行を委員会が担当する仕組みを採用しています。
参考:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査~詳細編~|IPA(独立行政法人情報処理推進機構)
デジタルマインドセットは、「自分で課題を設定する」「臨機応変に計画を変更する」「外部の人間を巻き込む」など、DXに取り組むデジタル人材に求められる姿勢です。DX推進においては、デジタルツール導入よりも従業員のマインドセット変革が重要になります。全社に対してDX啓発活動を行う、DX推進専用組織をつくるなどして、従業員のデジタルマインドセット醸成に取り組みましょう。
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