長期的かつ安定した経営を実現するためには、リーダーや幹部の育成が不可欠です。しかし、多くの組織がリーダー候補の選抜と育成に苦労しているのもまた現実です。
本記事は、組織を次の段階へと導くリーダー候補の選定と育成に焦点を当て、このプロセスが直面する課題点を深く掘り下げるものです。
まず、リーダー候補の選定がなぜ難しいのか、そして有能な候補者でも活躍できないのはなぜかを探ります。そのうえで、多角的評価と継続的な支援の必要性について説明します。
経営者、管理職、人事担当者の皆さまに向けて、新たな洞察と解決策の提供を目指しています。ぜひ、本記事をリーダー候補の選定にお役立てください。
目次
リーダー候補の育成は、組織の持続可能な成長と将来の成功に不可欠です。
適切なリーダー育成の重要性や組織が享受できるメリットについて解説します。
リーダー候補の育成は、経営の連続性と知識伝承に欠かせません。組織を長期的に安定させるとともに、将来の競争力を維持するうえでも非常に重要です。
新世代のリーダーは、現代の複雑な課題に対して新たな視点をもたらし、イノベーションを推進します。これにより、組織は市場や社会のニーズの変化に迅速に対応する能力を身につけます。
リーダー候補は、若い世代の従業員と価値観を共有し、自らを中心として世代間の協力と調和を促進します。候補者の存在が、組織内でのスムーズな世代交代を支える役割を果たすのです。
リーダー候補の育成は、組織が人材に投資する姿勢を示します。従業員が自身のキャリアパスに対して前向きな見通しを持つことを促し、結果としてモチベーションを向上させる効果も期待できます。
技術に明るいリーダー候補の育成は、組織が技術進歩に迅速に対応し、競争優位性を保持するうえで重要です。このようなリーダーを育成できれば、戦略的な意思決定を行い、持続的な成長を達成するための基盤を築く一助となります。
リーダー候補の見極めが難しい理由は、リーダーシップが複雑で多面的な能力であることと、候補者の評価に際して生じる一連の課題に起因します。
この点を踏まえて、リーダー候補の見極めを難しくしている主要な要因を説明します。
多くの経営者は自分と似た背景や経験を持つ人材を好む傾向があります。こうした傾向は、多様な視点やスキルを持つ有望な候補者が見落とされるリスクにつながります。
多くの組織では、候補者の人物像を正確に把握するための適切な手順が欠けています。そのため、伝聞、噂話、何気ない観察などの曖昧な情報に基づき評価されてしまう場合があります。
リーダーシップは、多くのニュアンスと機微を含む複雑な能力です。ある状況で成功をもたらす特性は、別の状況では失敗をもたらすケースもあり、リーダーシップは一律の基準による評価が非常に困難であると言えます。
経営層は、偏りや歪みのある情報に基づいて意思決定を行ってしまう傾向があります。また、「ハロー効果」として知られる現象、つまり特定の属性を過大評価し、他の重要な属性を過小評価する意思決定の誤りを犯しがちです。
過去の業績は、かならずしも将来のリーダーとしての成功を約束しません。たとえば候補者の過去の業績が、マイクロマネジメント(細部にわたる監督やコントロール)の結果である場合、より規模の大きな組織を率いる立場になったときの成功につながらないケースもあります。
また、オペレーションをうまくこなすからといって、長期的な思考や戦略的思考に長けているとは限りません。
チームプレーヤーやコンセンサス・マネジャー(協調重視の管理者)であることは、円滑なチーム運営により好意的にとられがちですが、必ずしも良いリーダーの資質であるとは限りません。チームプレーやコンセンサスを優先すると、優柔不断でリスク回避的な行動をとったり、意思決定が遅くなったりします。
経営層は、人前でのパフォーマンスやプレゼンテーションスキルを過大評価する傾向があります。この能力はもちろん重要ですが、1対1の社会的スキルの欠如など、より難しい欠点を覆い隠してしまうリスクもあります。
難しいリーダー候補の選定を、より効果的に行うにはどうしたら良いのでしょうか。
リーダー候補を選定し、育成するプロセスについて見ていきましょう。
最初に、組織がリーダー候補に求めるリーダーシップの基準を明確に設定します。
以下は、リーダー候補に求めるリーダーシップスキルの例です。組織の現状やニーズに応じて、さらに詳細かつ明確に定義すると良いでしょう。
スキル | 内 容 |
---|---|
戦略的思考能力 | 組織の目標とビジョンを理解し、それに沿っ た長期戦略を立案できるか。 |
決断力 | 難しい状況でも、迅速かつ的確な決断を下せ るか。 過去にそうした決断をした経験があるか。 |
リスク管理能力 | リスクを適切に評価し、管理できるか。 |
主体性 | 課題を特定し、みずから計画を立て実行でき るか。 |
コミュニケーション能力 | 他者を理解し、動機付け、影響を与えられる か。 他人の意見に注意深く耳を傾け、理解し、業 務に反映できるか。 組織の幅広いレベルで、より良い対人関係を 築けるか。 |
チームワーク | チームメンバーと協力し、協働できるか。 他者の成功を支援し、モチベーションを高め る能力はあるか。 |
柔軟性と適応性 | 外部環境および内部環境の変化に柔軟に適応 し、チームを導けるか。 |
柔軟性と適応性 | 外部環境および内部環境の変化に柔軟に適応 し、チームを導けるか。 |
倫理観と誠実さ | 強い倫理観を持ち、誠実かつ信頼できる行動 をする人物か。 |
自己認識 | 自分の能力を過信せず、他者の意見や貢献を 尊重できるか。 自分の能力の限界を理解し、適切にタスクを 委任する能力はあるか。 |
学びと成長への継続的な 意欲 |
信念やマインドセットをシフトさせ、継続的 に学び、成長できるか。 |
レジリエンス(逆境やス トレスに対処して回復す る力) |
失敗を経験として捉え、それを成長とスキル 向上の機会として利用する姿勢があるか。 |
マルチタスク | 複数の責任を同時に担い、適切に対処できる か。 |
これらの基準に基づいて、リーダーのポテンシャルを持つ人物を選定します。
多様なスキルセットと視点を持つリーダー候補を選ぶため、社内のみならず、外部からの採用も検討すると良いでしょう。
前のセクションで確認したとおり、選定時の情報の偏りや意思決定の誤りは最適なリーダー候補の選定を難しくします。
これを防ぐため、多様な視点から多角的に候補者を評価するためのチームを編成します。
このチームは、候補者の直属の上司、その上司、そして候補者と直接仕事をした経験のある先輩や同僚を含めるのが理想的です。
直属の上司は日常の業務でのパフォーマンスを、上層部の管理者は戦略的な視点での貢献を確認することができます。同僚や部下は、チームワークや対人スキルに関する実際の経験を共有しています。
外部候補者の場合も複数のメンバーでチームを組織し、職歴、成果、推薦状、ならびに以前の職場でのパフォーマンスや評判に関する情報を収集し、その人物のリーダーシップ能力や適合性を判断しましょう。
これにより、一人の視点に依存せず、候補者の全体像をより正確に把握することが可能になります。
評価チームは「個人の印象や感想」を話し合うだけにならないよう留意しながら、以下のような「具体的な事例」に基づき、候補者を多角的に評価していきましょう。
現在の能力を評価する
評価チームは、候補者に関する具体的な質問に基づいて議論を展開します。たとえば、以下のような質問を用い、具体的な事例が示された項目はさらに深掘りします。
「この候補者は、過去に難しい課題に対処した経験はありますか? 」「その際どのように対処しましたか?」
「この候補者のチーム内の立ち位置はどんなものですか?」「 他の従業員を支援してプロジェクトを成功させた例はありますか?」
「この候補者の最も成功したプロジェクトは何ですか?」「その成果を達成する過程での具体的な貢献は何でしたか?」
具体的な事例が提示されない場合、その項目は評価において重視されなくなります。このアプローチにより、候補者の実際の能力と貢献について、より明確な理解が可能になります。
将来の活躍を予測
評価チームは、より責任の重いポジションにおいて、リーダー候補がどのようなパフォーマンスを発揮するかを予測する議論を行います。ここでも、質問と回答の繰り返しにより探求を深めます。
「この候補者がより高い責任を担った場合、【組織が過去に経験した事案】にどのように対処すると思いますか?」
「候補者が責任ある立場でどのように働くと予測しますか?」「 将来はどのように成長し、自身のスキルを広げていくと考えますか?」
「より大きな役割での活躍が、組織にどのようなプラスの影響をもたらすと考えますか?」
「候補者が失敗するとしたら、最も可能性の高い理由は何だと予測しますか?」
これらの質問を通じて、評価チームは候補者の潜在能力と現時点での不足点を特定します。
良い候補者を真のリーダーに育てるためには、就任前から地位を与えた後にいたるまで、継続的な教育と支援が必要です。
評価チームの議論を通じて、候補者の潜在的な弱点や改善の余地がある領域を特定します。たとえば、「未経験の事柄に不安と躊躇がある」や「部下の支援スキルが不足している」などです。
そのうえで、評価の結果をもとに、候補者がリーダーとして更に成長するための具体的な実務機会や研修などの教育支援を提供します。
資質があるにも関わらず、リーダーとしての力を発揮できないケースは少なくありません。
これは、リーダーシップが状況依存性(特定の環境や状況に依存する性質)を持ち、柔軟に変化する性質を有するためです。
たとえば、ある状況では高い決断力が評価されますが、別の状況では「強引で非協力的なリーダー」と見なされる場合があります。
リーダーは組織の一部であり、彼らが率いるチームと相互作用します。組織はリーダーが能力を最大限に発揮できるよう支援を継続し、リーダー自身も自己革新を続ける必要があります。
リーダー候補の選定における難しさを克服するための多角的評価方法について説明し、候補者がその力を最大限に発揮するための継続支援の重要性について解説しました。
多くの組織はリーダー人材の不足に悩んでいますが、リーダーとしての才能を持つ人材が未発掘であるケースもあります。
組織がリーダー候補を選び、育てるためには、リーダーシップの複雑さと多様性を理解したうえで、候補者の全体像を把握する多角的かつ包括的な評価が必要です。
リーダーになるためには継続的な学習が不可欠であると共に、人材を育てる側も常に学んで支援し続ける必要があります。
リスキリングナビでは、人材育成に関する多様なテーマのコラムを数多く掲載しています。ぜひこれらの記事もご一読ください。
現代における理想のリーダー像とは?リーダーの役割やタイプ別の種類、求められるスキルを紹介 | リスキリングナビ
職場のリーダーシップとは?成功するリーダーに求められるスキルと役割 | リスキリングナビ
優秀なリーダーの条件7つを紹介!人材育成方法も解説 | リスキリングナビ