保険DXとは、AIやIoT、ビッグデータなどのテクノロジーと保険を融合させ、保険商品やビジネスモデルを変革することです。現在、保険業界は、お金に関する情報を扱う関係からさまざまなしがらみを持ちつつも、大きく変化する市場で生き残っていくために保険DXの推進を強く求められています。本記事では保険業界でDXが必要とされる背景や推進するメリット、保険DXの成功事例などを紹介します。
目次
DXとは、デジタル技術やAI技術、データなどを駆使して、従来のビジネスモデルを見直し、変革することを言います。DXの推進により、業務効率化や質の高い顧客体験の創出が実現します。市場変化が激しい保険業界で生き残っていくためには、多様化する顧客ニーズにいち早く対応していかなければなりません。
保険業界におけるDXの方向性は、大きく分けて次の3つに分類できます。
既存業務の効率化だけではなく、蓄積したデータをAIに分析させ活用することで、顧客ニーズをとらえるためのマーケティングおよび商品開発も可能となります。
保険業界は、少子高齢化や異業種からの保険事業への参入などを背景とした、さまざまな課題を抱えています。これらの課題を解決をするために、デジタル技術を活用したDX推進に関心が寄せられています。本章では、保険業界がデジタル化で解決したい課題やDXが必要な背景について解説します。
日本では深刻な少子高齢化が進んでいますが、保険業界もその影響を大きく受けています。
1つは、属人的に行っている業務の見直しが必要な状況である点です。簡易的な業務や定型的な業務はデジタル技術を用いて自動化していくことが求められています。
もう1つは、働き盛りの若い世代の減少に伴い、長期資産形成向けの保険商品の需要が減っている状況が挙げられます。このように市場縮小に直面する中で、保険業界は新たな事業戦略が求められているのです。
個人の生活習慣や働き方、趣味嗜好が多様化している中で、画一的な保険サービスでは十分な対応ができなくなっています。そのような背景から、アプリ診断を行ったり、データ分析の精度を向上させたりするなど、DX技術を用いて顧客一人ひとりに合ったサービス内容にカスタマイズできる商品開発が進んでいます。
昨今、特にIT業界などの異業種から保険業界に参入する動きが活発で、競争が激化しています。一方で、日本の人口は減少傾向が続き、契約者数はますます減っている状況です。また、顧客はインターネットを用いて自分で情報収集を行い、複数社の保険サービスを比較検討できるようになっています。こうした背景から強い競争力を確保するため、DXへの取り組みが喫緊の課題とされているのです。
保険DXを推進するさまざまなメリットについて、ここでは3点を挙げて解説します。
保険DXによって、契約手続きや保険金支払い業務などの定型業務を自動化・オンライン化できるようになります。その結果、書類管理や事務処理といった人的作業が削減され、人手不足の解消につながります。作業効率が上がるとともに人為的なミスのリスクも低下し、データの正確性が高まる点もメリットと言えるでしょう。
さらに、ネットやアプリなどを活用すれば、営業や顧客サポートもオンラインで行うことができ、省力化や費用削減につながります。
保険DXの推進により業務プロセスの最適化や効率化、コスト削減が期待できます。
保険サービスを通じて取得したデータをAIで分析することによって、より顧客ニーズに沿った形で営業活動を行えます。ビッグデータの中に含まれる年齢や性別、住んでいる地域、家族構成などの情報を解析することにより、質の高いマーケティングや商品開発が可能になります。
保険業界のDX推進による効率化やコスト削減については前述しましたが、、顧客にとってもよりスムーズな保険サービスを受けられるようになります。オンラインで簡単に保険加入手続きができたり、AIやチャットボットを活用した24時間体制のカスタマーサポートを受けられたりするなど、保険DXにより簡便で利便性が増したサービスの提供が可能になります。顧客満足度の向上とともに、従業員側の体験価値アップも期待できるでしょう。
保険業界のDX推進事例を紹介します。今回は、生命保険・損害保険・海外保険の3社を取り上げ、解説します。
明治安田生命は、業務効率化の観点から、給付金請求時に必要な領収書などの書類の読み込み・データ化作業に、AI-OCR(Artificial Intelligence - Optical Character Reade/紙文書をスキャナーで読み込み、書かれている文字を認識してデジタル化する技術)を導入しました。AI-OCRを利用することで、従来手入作業で行っていた帳票の読み取りや入力作業の自動化が可能になります。結果、正確で迅速なデータ化を実現し、書類作成の負担を軽減できました。
明治安田生命は、デジタル技術を用いてコスト抑制や生産性の向上を両立した業務運営を行うことで、社員が付加価値の高い業務や役割に集中できるサービスモデルの確立を目指しています。
参考:明治安田生命ニュースリリース|デジタル技術を活用した保険金・給付金請求におけるお客さま体験価値(CX) の向上について
東京海上日動は、2017年に国内損害保険で初めてドライブレコーダー付きの自動車保険サービス「ドライブエージェント パーソナル(DAP)」の提供を開始しました。交通事故の際は、ケガで動けなかったり、気を失ったりするケースがありますが、そのような事故の際、強い衝撃を感知したドライブレコーダーが自動で事故受付センターに連絡します。
従来の自動車保険とは異なり、事故が起きた瞬間から顧客の安心・安全をサポートできるサービスは、DX推進によって顧客志向の商品開発につながった事例と言えるでしょう。
参考:東京海上日動のドライブレコーダー付き自動車保険「ドライブエージェント パーソナル」
アフラックは、「コアビジネスの領域」と「新たな領域」の双方で価値を創出していくために、2022年にAflac Digital as a Service(ADaaS/アダース)の提供を開始しました。ADaaSは、マーケティングや商品開発、業務効率化などすべての観点からDXの実現を目指すサービス事例で、顧客、販売代理店、社内向けのシステムをプラットフォームとして束ねています。具体的には、販売代理店に来訪した顧客への新しいコミュニケーションを提供する「アフラックミラー」や、デジタル空間の店舗で場所と時間に捉われずに健康や保険に関する情報収集が可能な「デジタル保険ショップ」などがあります。
参考:DX@Aflac | アフラックの価値創造ストーリー | 企業情報
保険DXに活用できるサービスの一例をご紹介します。
Gateboxは、リアプロジェクション投影技術により、キャラクターをホログラムのように召喚し、音声でのコミュニケーションを楽しめるサービスです。Gateboxと損害保険ジャパン、ハニカムラボは共同で、このキャラクター召喚装置「Gatebox」を活用したWEB接客アプリケーションを開発しました。実証実験では、損保ジャパンのキャラクター「ジャパンダ」が、羽田空港と中部国際空港にて保険の販売勧誘・集客を実施。無人・非接触での誘導が可能なため、人件費削減や感染症予防対策に貢献できるサービスです。
参考:AIキャラクターによる海外旅行保険PR、正式稼働を開始 - Gatebox
今回は保険業界の課題や保険DXが必要な背景、メリット、成功事例について解説しました。
保険業界は大きな変革の過渡期に直面しています。保険DXを実現することで、既存の枠組みにとらわれず、さまざまな観点から新たな価値をの提供が可能になります。業務の効率化のみならず、保険業界としての新しい在り方を模索するためにも、保険DXをぜひご検討ください。
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