デジタル人材の重要性は以前から認識されていますが、デジタル人材の不足という課題は一向に解決しないばかりか、より深刻化しています。今回はデジタル人材不足が今後どうなるのか、デジタル人材不足が起きる理由と企業が取るべき対策について解説します。
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デジタル人材とは、デジタル技術を駆使して企業に新しい価値を提供できる人材を指します。単にデジタル技術に精通しているだけでなく、自社のビジネスをよく理解している人材がデジタル人材に該当します。近年、AI・IoT・DXと新しいテクノロジーが登場し、世界に大きな変化をもたらしています。しかし、著しいデジタル化に対し、エンジニアをはじめとするデジタル人材の供給が追い付いていないというのが現状です。
デジタル人材の現在の需給状況と今後の見通しについて見ていきましょう。国内のデジタル人材の需給に影響を及ぼすと考えられる、政府のデジタル田園都市国家構想についても触れておきます。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「DX白書2023」によると、2022年度に「DXを推進する人材の量が充足している」と回答した日本企業は、「やや過剰である」(1.3%)と「過不足はない」(9.6%)を合わせて10.9%に過ぎません。
人材の質についても、「過不足はない」と回答した日本企業は6.1%とごく少数であり、DXを推進する人材が日本では量・質ともに足りていないことを示しています。
2019年3月にみずほ情報総研株式会社が公表した「IT人材需給に関する調査 調査報告書」(経済産業省委託事業)では、IT需要の伸びを「高位」「中位」「低位」の3つに分け、IT人材需給の試算を行っています。この調査によると、2018年時点のIT人材の需給ギャップをゼロとしたとき、「高位シナリオ(需要の伸び:約9~3%)」では2030年に約79万人不足、「中位シナリオ(需要の伸び:約5~2%)」では約45万人不足、「低位シナリオ(需要の伸び:約1%)」では約16万人不足と試算しています。
政府は、デジタル技術活用により地方の社会課題を解決し、地方の活性化を図る「デジタル田園都市国家構想」を掲げています。本構想を実現させるためには、デジタル技術活用の担い手となるデジタル人材の育成および確保が欠かせません。本構想では、2022年度から5年間で、ビジネスアーキテクト、データサイエンティスト、エンジニア・オペレーター、サイバーセキュリティスペシャリスト、UI/UXデザイナーといった「デジタル推進人材」を230万人育成する計画です。なお、この230万人という数字は、デジタル社会の推進に最低限必要な人数を330万人と推定し、現在の情報処理・通信技術者の人数(100万人)を差し引いた数です。
デジタル人材不足の状況で企業が取るべき対策として、人材像の設定・周知とデジタル人材育成のための支援の2つが挙げられます。IPAのDX白書2023の調査結果を参考にしながら、デジタル人材不足のための企業の対策を考えてみます。
DXを推進する人材像を設定し、かつ周知している企業は日本では18.4%にとどまっています(米国では48.2%)。人材像を設定していないという企業は日本では40.0%(米国では2.7%)に上ります。
人材の量が充足していると回答した割合は、人材像を設定している日本企業が25.4%(「やや過剰である」「過不足ない」の合計)であるのに対し、人材像を設定していない日本企業では5.1%という結果でした。このように人材像を設定している企業は人材の量が充足していると回答する割合が高く、人材像の設定と人材の量の充足に相関があると考えられます。
自社でデジタル人材を必要とするとき、まずは社内にデジタル人材がいないか確認することをおすすめします。自社が求めるデジタル人材が明確化されておらず、社内のデジタル人材を見落としている可能性もあるためです。社外に目を向ければ、デジタル技術に詳しい人材はいくらでも見つかりますが、その知見を自社のビジネスで生かせるとは限りません。一方、社内人材は自社のビジネスを深く理解しているという強みがあります。
デジタル人材の人材像を設定する際の注意点は、何でもできる人材を求めないことです。ハイスペックな人材は引く手あまたであり、働いてもらうためには魅力的な報酬を提示しなければなりません。自社でどういったデジタル施策を展開し、そのためにどのような人材が求められるのかを明らかにしましょう。
新卒入社社員に対する社会人研修やOJT(On the Job Training)に代表されるように、一般的に日本は海外と比較して人材育成に積極的であるとされます。しかし、DXを推進する人材の育成に関しては、日本は米国と比較して消極的な姿勢がうかがえます。
日米で人材の育成方法について尋ねたところ、「DX案件を通じたOJTプログラム」を「会社として実施している」と回答した日本企業は23.9%(米国60.1%)、「デジタル技術研修」については19.0%(米国42.5%)、「資格取得の支援、推奨」については20.3%(米国40.9%)という結果でした。他の育成方法を含めて、「実施・支援なし」と回答した日本企業は4~7割に達しており、米国の1~2割と大きな差があります。
また、DXを推進する人材に対する予算を増やしたと回答した割合(「大幅に増やした」「やや増やした」の合計)は、日本が33.7%だったのに対し、米国は65.8%に上りました。
さらに、DXで成果が出ている企業は日米ともに人材育成のための予算を増やす傾向が見られます。「DX成果あり」とした日本企業42.8%(米国企業70.5%)が予算を増やした一方、「DX成果なし」とした企業のうち、予算を増やした日本企業は21.0%(米国企業27.3%)にとどまっています。予算増加がDXの成果につながったと捉えることもできます。
デジタル人材を確保する方法は、自社でデジタル人材を育成する方法と外部のスペシャリストを活用する方法の2通りがあります。外部のスペシャリストを活用する方法は、必要な人材を必要なときに調達でき、コストを低く抑えられるという点がメリットですが、社内にノウハウが蓄積されづらいという点がデメリットです。すべてのデジタル人材を自社で育成できれば理想的ですが、戦力になるまでに一定の期間を要するため、外部のスペシャリストを活用しながら自社でデジタル人材の育成に努めることが現実的な方法となります。デジタル人材の育成にあたっては、スキルアップを社員任せにするのではなく、会社としても何らかの支援をすることが求められます。
今回はデジタル人材不足についてご紹介しました。日本はデジタル人材が質・量ともに不足しているだけでなく、デジタル人材の東京・神奈川・千葉・埼玉といった東京圏への一極集中、デジタル人材が非IT企業に少ない点など、さまざまな課題を抱えています。デジタル人材の不足は今後も続くと予想されるため、まずは自社にとってのデジタル人材の明確化や人材育成に取り組んでみてはいかがでしょうか。