建設業における研修の重要性と選ぶポイント|研修の種類や内容も紹介

公開日:2023.12.29 更新日:2024.01.10

建設業界は、技術革新、安全基準の厳格化、労働人口の変動といった、近年の大きな外部環境の変化に伴い、かつてないほど多くの課題に直面しています。

これらの課題は、現場作業員から経営層に至るまで、業界全体に影響を及ぼすものです。ここにあって、研修は単なる付加価値ではなく、これらの課題への対応策であり、業界が将来にわたって競争力を維持するための重要な鍵となっています。

この記事では、建設業に従事する若手からベテラン、人事部門や管理職を含む幅広い読者を対象に、研修の全体像を包括的に概観します。

建設業の現状と直面する課題から、研修の重要性、選択方法に至るまで、詳細に解説しました。

この記事を通じて、建設業における研修の輪郭を把握し、今後の研修の設計や選択のための参考にしていただければ幸いです。

建設業界の現状と課題

建設業界は、国の経済成長に直結する重要なセクターです。

都市化や経済のグローバル化により建設需要が増加していますが、人手不足、利益率の低下、コスト管理の難しさといった複数の課題に直面しています。

以下では、これらの課題に焦点を当て、建設業界が現在抱える主要な問題点を整理します。

 1. 労働力不足 - 若年の建設業離れと熟練労働者の減少 

若年層の建設業離れが進んでおり、新たな労働者を呼び込むことが困難な状況にあります。令和二年度の統計を見ると、建設業就業者のうち3割以上が55歳以上であり、29歳以下は1割程度となっています。肉体労働や危険作業というイメージが若者を敬遠させ、業界への関心を低下させています。

出典:建設業の働き方改革の現状と課題(国土交通省)

また、高齢化に伴い、経験豊富な熟練労働者の退職が増加している点も問題です。

2. 技術革新の遅れ - 建設業界のデジタル化と自動化への挑戦

建設業界は、デジタル化と自動化の面で遅れを取っており、これが生産性の向上とコスト削減に影響を及ぼしています。

デジタル化が進まない要因には、建設プロジェクトの複雑さと、長年の人手依存によるデジタルツールや技術の導入への抵抗感が挙げられます。

3. 安全管理の必要性 - 建設現場のリスクと改善への取り組み

建設現場での事故は依然として多く、労働者の安全が重要な課題です。

令和二年度の統計では、死傷者数は全産業中第4位、死亡者数では建設業が全産業の3割という高い割合を占めトップとなっています。

参考:労働災害の現状|一般社団法人全国建設業労災互助会

安全管理の強化には、従業員への安全教育や、現場での定期的な安全点検、および事故発生時の迅速な対応計画の策定など、多角的なアプローチが必要です。

4. 環境配慮の必要性 - サステナブルな建設への転換

現代の建設業界は、環境保護の観点から、サステナブルな建設方法への移行が求められています。

単に環境に優しい建築物を造るだけでなく、環境全体への影響を考慮して、グリーン建築やエコ素材の使用などを含む包括的なアプローチが求められます。

5. グローバル化の影響 - 国際的プロジェクトと外国人労働力の活用

グローバル化の進展に伴い、建設業界は国際的なプロジェクトの増加と外国人労働力の活用という問題に直面しています。これには、国際的な標準と規制への適応、異文化間のコミュニケーション、そしてさまざまな国の法律と業界の慣行への理解が必要です。

6. コスト管理の難しさ - 複雑さを乗り越え利益率を向上させる

建設プロジェクトは、原材料の価格変動や労働コストの上昇など、経済的圧力にさらされています。これらの課題に対応するためには、革新的な技術の導入、効果的な人員配置、リスク管理計画の策定など、多角的なアプローチが必要です。

建設業における研修の重要性とメリット

建設業が直面する課題に対応するためには、従業員の意識改革と新技術への適応能力の強化が急務です。

研修は、課題に対処する手段の一つで、重要性は一段と高まっています。

建設業における研修の重要性

建設業界における研修は、新たな労働力の育成、技術革新への対応、安全意識の向上、そして従業員のモチベーション向上などの課題に対処する鍵となります。これらは、企業および業界の持続可能な成長に不可欠です。

研修は、迎え入れた人材に必要な業界知識やスキルを効率的に提供し、現場への速やかな適応を支援します。また、既存従業員のスキルアップや意識改革にも寄与し、自信の強化と不安の解消に役立ちます。

さらに、研修による自己成長の機会は、従業員のモチベーションを高め、結果として人材の定着率を向上させます。

 建設業において研修を行うメリット

建設業界において研修の実施は、個人や企業に長期的な利益をもたらします。

以下に、研修により得られるメリットを5つに整理しました。

メリット 内 容
1. 企業に利益をもたらす - 研修を通じた従業員のスキル向上が、生産性と
顧客満足度を向上させる
- 安全管理の強化により、事故に関連する損失
リスクが減少する
- 研修への投資は企業の社会的責任の表れとして
認識され、ブランドイメージを強化する
2. 個人を成長させる - 研修は、個人にキャリアアップと収入増加の
可能性を提供する。これは長期的な企業の成長
と業界の発展に寄与する
- 継続的な学習による自己実現は、職場での満足
度とモチベーションを高める
3. 法規制への適切に対応できる 従業員が最新の法規制に精通することで、違反
による罰金や事業停止のリスクを避けられる
4. チームワークが強化される 研修は知識共有の場として機能し、チーム
ワークと協調性を高め、プロジェクト成功率
を向上させる
5. ノウハウが承継できる 組織全体での知識共有により、特に高齢人材
の退職によるノウハウ損失を防ぐ

建設業における研修の種類と内容

この項では、建設業で提供されている研修について整理します。まず、建設業の研修内容について述べたあと、実際に行われている研修を対象者ごとに分類します。

建設業における研修内容の特徴

建設業界における研修は、持続可能で安全な建設活動のための人材育成を目的としています。これには、全業界共通の研修内容(たとえば一般的なビジネスマナー)と、建設業界特有の内容(安全管理や専門技術に関する研修)が含まれます。

さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション: デジタル技術を活用してビジネスを変革するプロセス)、多様性、SDGsといった新たなビジネス概念に対応するための研修も増えています。こうした研修の増加は、持続可能な社会構築における建設業界の役割が高まっていることを象徴するものです。

建設業における研修の対象者別分類

ここでは、建設業における研修を、対象者基準で分類してご紹介します。いかに幅広い範囲をカバーしているかを理解するうえで、参考にしてください。

対象 目的
新入社員向け 業界や会社に慣れ、必要な基礎知識や
スキルを身につける
- 内定者・新社会人向けビジネス基礎講座
- 新入社員の現場配属前研修
- 新入社員半年フォロー研修
若手社員・技術者 基礎知識やスキルをさらに発展させ、
より専門的な知識や技術を習得する
- 若手(社員・技術者)フォローアップ研修
- 中堅社員レベルアップ講座
現場作業者 現場で直面する具体的な課題に対処し、
安全で効率的な作業を行うための
能力を高める
- 特定の器具の使用に関する研修
- 危険作業特別教育
- 安全管理・書類作成研修
現場監督・管理職 組織内で担うリーダーシップと管理の
役割を効果的に果たすための
スキルと知識を強化する。
- 職長・安全衛生責任者教育
- 管理職向け離職防止研修
- 技術者を育てる指導者研修会
経営者・リーダー 組織運営やプロジェクト管理における
高度なスキルと知識を身につける
- リーダーシップ
- リスクマネジメント研修
- 災害対応研修
全社員 組織全体の能力向上と文化の醸成を
図る
ハラスメント防止研修
- 業務効率化と生産性向上の方法
- ダイバーシティ&インクルージョン研修
- メンタルヘルス研修
特定の専門 専門知識の更新と深化、実務スキルを
向上させる
- 施工管理概念研修
- 建設業基礎研修
- 写真管理実務研修

建設業界向け研修・サービス~総合ページ|インソースを参考に作成

教育・研修(建設)|日本コンサルタントグループを参考に作成

研修内容 | 日本建設技術教育センター(J-CTEC)を参考に作成

建設業の研修プログラムを選択する

建設業における研修プログラムの選択は、個々のニーズ、キャリアの段階、および組織の目標に基づいて慎重に行う必要があります。

研修を選ぶ際のポイント

以下は、研修を選ぶ際の主要なポイントです。

 1. 組織の戦略的目標と整合させる

組織の長期的な戦略や目標と研修内容が一致しているかを確認します。自社で求める技術や、自社が進もうとしている方向に不可欠な知識を特定し、それを獲得できるような研修を選ぶことが大切です。


2. 対象者のキャリア段階を考慮する

受講者のキャリア段階に合わせて研修を選びましょう。各段階で必要なスキルや知識は異なりますので、対象者の現在の役割と将来のキャリアパスを考慮する必要があります。

3. 現場で活かせる研修を選ぶ

研修を選ぶ際は、理論だけでなく、実践的なスキルが獲得できる内容を見極めましょう。学んだ知識やスキルが実際の職場で適用できるかどうかを慎重に検討しましょう。

4. 変化する市場や技術の動向に対応する

市場や技術の進歩に対応するための内容を選ぶことも重要です。競争力を維持し、業界の最新動向に適応するプログラムを選択しましょう。

現場で活かせる研修を選ぶポイント

前項で挙げた「現場で活かせる研修を選ぶ」ためには、以下のポイントに注意をしてください。

  1. 研修が建設現場での安全基準や事故防止に直接関連しているかを確認する
  2. 研修内容が更新されており、最新の技術や規制に関する情報が含まれているかを確認する
  3. 自社の現場が有する特有の課題やニーズを特定し、これらに対応するための研修を選ぶ
  4. 実際の機器を使用した実践的なトレーニングが含まれているかを確認する

建設業向けの研修サービスを提供している会社

ここでは、建設業務向けに研修サービスを提供している3社をご紹介します。

株式会社インソース

インソースは、建設業界に特化した多様な研修サービスを提供する会社です。同社は、業界の労働力不足、高齢化、多重下請け構造などの業界固有の問題を克服するためのプログラムを提供しています。

提供される研修プログラムには、安全基準や事故防止に関するもの、管理職や現場リーダーのためのマネジメント力向上プログラム、多様な人材の活用支援、デジタル化と生産性向上のため内容が含まれています。

参考:建設業界向け研修・サービス~総合ページ:現場で使える研修ならインソース


日本コンサルタントグループ

日本コンサルタントグループは、企業診断・改善支援、人材育成・能力開発など、多角的なビジネスサービスを提供する総合経営コンサルタント企業です。

建設業界に特化した研修プログラムでは、業界が変化に適応し、競争力を維持するための人材育成に重点を置いています。

提供される研修には、新入社員からベテラン技術者を対象とした施工図理解、建築設備工事・土木工事の基本、SDGs活用、eラーニングを用いた基本教材、新入社員教育、フォローアップ研修などが含まれ、体験型研修やゲームを通じた学習も取り入れられています。

参考:教育・研修(建設) - 日本コンサルタントグループ


日本建設技術教育センター(J-CTEC)

⽇本建設技術教育センター(J-CTEC)は、建設業界に特化した研修機関です。

業界の実務経験に深い知識と経験を有する講師陣による実践的な指導が特長で、ビジネスマナーから施工管理の基礎・応用、さらに職長・安全衛生責任者教育まで、幅広い研修を提供しています。

最新の学習環境、たとえばVR体験や最新測量機器、CAD研修を導入し、現場で直接活用できる知識と技術の習得をサポートしています。また、顧客のニーズに応じて研修内容をカスタマイズするほか、必要に応じて講師派遣も行います。

参考:研修内容 | 日本建設技術教育センター(J-CTEC)

研修は建設業界の未来をつくる「知識と技術の源」である

この記事では、現代の建設業界が直面する課題と、これに対する一つの解決策としての「研修」について解説しました。

建設業界が変化に適応するためには、継続的な学習とスキルアップが不可欠です。全従業員が学び続ける文化を根付かせることで、企業はその土台を強化し、持続可能な成長を達成できるのです。

継続的な学習には、研修プログラムだけでなく、オンラインコースや各種メディアなど、身近なリソースの活用も有効です。これらは、業界の最新トレンドや必要なスキルを獲得するうえで貴重なツールとなり得ます。


『リスキングナビ』では、教育や研修を含む多様なテーマについての解説記事を提供しています。ご活用いただき、知識と技術の向上に役立ててください。

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