【2024年開始】建設業の働き方改革とは?取り組む際のポイントや事例を紹介

公開日:2023.12.05 更新日:2024.01.10

建設業の働き方改革として、2024年4月1日から時間外労働の上限規制が適用されます。この記事では、建設業の働き方改革の概要や改革が求められる背景などについて解説しています。また、具体的に求められる取り組みや改革に取り組む際のポイント、具体的な事例なども取り上げているため、ぜひ参考にしてください。

厚生労働省が示す2024年以降の建設業の働き方改革の概要

建設業では、2024年4月1日より、時間外労働の上限規制が適用されます。こちらは罰則付きの規制となっているため、各企業では遵守が求められます。

厚生労働省のホームページによると、具体的な規制としては、以下のような点が挙げられます。

  • 1日の労働時間は原則として8時間であり、1週間で40時間まで
  • 36協定(企業が法定労働時間を超えて労働させる、つまり残業を命じる場合に必要となる労使協定)を結んでいる場合でも、原則として45時間/月、360時間/年までの時間外労働しか認められない
  • 特別条項付き36協定を結んでいる場合は休日労働を覗いた720時間/年まで時間外労働が認められる

なお、一時的な業務量の増加に伴い時間外労働が増えることもありますが、そのような時でも上限が定められています。ただし、災害などの復旧・復興に関する労働に関しては、一部上現規制が適用外となります。

建設業では、2024年4月からこれらの時間外労働の上限規制による働き方改革が本格的に始まりますが、ほかの産業ではすでにこれらの取り組みが始まっています。大企業の場合2019年4月から、中小企業でも2020年4月から開始されました。建設業には5年間の猶予期間が与えられていましたが、この背景としては、長時間労働や人手不足など、業界が抱える課題により一般企業と同じタイミングで上限規制を適用することが難しいと判断されたためです。

参考:適用猶予業種の時間外労働の上限規制 特設サイト はたらきかたススメ | 厚生労働省

建設業で働き方改革が求められる背景


建設業の働き方改革が求められる背景としては、業界が抱える長時間労働と人材不足という課題が挙げられます。

厚生労働省が発表した2022年度の毎月勤労統計調査の結果によると、建設業における総実労働時間(一般労働者)は168.5時間/月で、他の産業よりも多い傾向にあります。

毎月勤労統計調査 令和4年度分結果確報(厚生労働省)を加工して作成

勤務日数に関しても業界全体で週休2日を実施できていないケースが多く、4週4休で仕事をしている人が少なくありません。休みが少なく、なおかつ長時間労働によっていまの建設現場が支えられているのが現状です。

また、60代など比較的高齢の人材が多いのに対して、20代などの若手が少ない点も大きな課題です。背景としては少子高齢化に伴う人材不足が挙げられます。国土交通省が2023年に発表した「最近の見津行を巡る現状について【報告】」によると、建設業で働いている人のうち55歳以上が約36%であるのに対して29歳以下は約12%となっており、若手人材の確保、ベテラン人材が持つ技術の継承などが課題となっています。

このような点が建設業における働き方改革が求められる背景として挙げられます。 

建設業の働き方改革が「無理」「できない」といわれている理由

他の産業よりも5年間の猶予期間が与えられていることからもわかるように、建設業における働き方改革は非常に難しいものだといえます。

その理由の1つが、建設業は正確な労働時間を把握しにくいことです。建設業の場合、現場での作業が多くなっており、勤務場所も分散してしまうため、日報やタイムカードによって勤怠管理が行われています。しかし、このようなやり方は日報の報告もれやタイムカードの打ち忘れなどが発生する可能性があり、それに伴い正確な労働時間を把握しにくくなってしまいます。また、アナログな勤怠管理であり、集計も手作業となるため集計ミスが発生する可能性もあるでしょう。それに伴いダブルチェックを実施するなどの手間もかかります。こういった点が、建設業における働き方改革を難しいものにしていると考えられます。

国土交通省が求める建設業の働き方改革に向けて必要な取り組み

では、建設業で働き方改革を進めるためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか。ここでは、国土交通省が求める建設業の働き方改革実現に向けて必要な取り組みを紹介します。

長時間労働を是正する

働き方改革を実現するためには、長時間労働の是正が欠かせません。先ほども触れたように、建設業では4週4休で働いている人が少なくありません。まずは週休2日を確保できるようにすることが大切です。たとえば公共工事において週休2日の工事を実施する団体を増やせば、民間企業でもそのようなモデルを取り入れやすくなり、業界全体に週休2日が浸透するきっかけとなるでしょう。

ほかにも、長時間労働の是正に取り組む企業を評価する仕組みなどもあると、効果的だと考えられます。

給与・社会保険の整備

給与や社会保険の整備も求められます。現場で働く人たちの技能や経験にあった処遇を実現する点が重要ですが、そのためには、発注関係団体や業界団体に対して適切な賃金水準の確保を求めなければなりません。建設キャリアアップシステムを活用することも適切な処遇の実現に役立つでしょう。

そのほかにも、発注者が社会保険に加入している業者のみに発注するようにすることで、社会保険への加入がミニマムスタンダードになり、処遇改善につながります。

参考:建設キャリアアップシステム

生産性向上

長時間労働の是正にもつながる部分ですが、生産性向上に努めることも大切です。詳しくは後述しますが、たとえば、IoTやICTの活用によって少ない人材でも効率よく業務に取り組めるようになります。また建設業では工事の実施に伴い各種申請が必要となりますが、申請手続きを電子化へ切り替えていくことも同様に生産性向上が期待できます。これらの施策の実施が、結果的に長時間労働の改善にもつながっていくことになるでしょう。

参考:建設業働き方改革加速化プログラム(国土交通省)

建設業の働き方改革を進めるうえでのポイント

ここでは建設業各社が働き方改革を進めるうえでのポイントを紹介します。自社ではどういったことができるのかいまいちわからないといった方は、ぜひ参考にしてください。

適切な工期を設定する

従業員の週休2日を確保するためには、適切な工期の設定が大切です。発注者は、工事従事者の休日や資材調達などを行う準備期間、後片付け期間、天候の影響による作業不能日数などを考慮しなくてはなりません。また、受注者側は適切な工期を算出したうえで発注者との交渉を行うことが求められます。受注を優先して、不当に短い工期になってしまうといった事態は避けなければなりません。

適切な見積もりを作成する

従業員の処遇を改善するためには、適切な見積もりの作成が求められます。必要経費にしわ寄せが来て利益が減ってしまっては元も子もありません。そのような事態を回避するためには、しっかりとした積算・見積もりを行い、適切な請負代金で受注することが大切です。

業務効率化に取り組む

業務効率化への取り組みは、生産性向上、ひいては長時間労働の是正につながります。特に、2024年4月から始まる時間外労働の上限規制に対応するためには、いかに効率よく業務を行うかがポイントとなります。

具体的な方法としては、IOTやICT建機の導入があげられます。IOTとは、「Internet of Things」の頭文字をとったもので、モノをインターネットに接続できるようにして、情報交換などができる仕組みのことです。たとえば建設現場であれば、ヘルメットにカメラをつけて遠隔地から現場の様子を確認するといった技術が活用できるでしょう。

ICTは「Information and Communication Technology」の頭文字をとったもので、ICT建機は、情報通信技術を搭載した建設用機器のことだと理解してください。たとえば衛星測位システムを使ったICT建機を導入すれば、測量の誤差を縮められます。

そのほかにも、各種申請手続きの簡素化、電子化なども業務効率化につながります。申請を全てオンラインでできるようにすれば、紙を印刷する手間やコストも省けます。

元請け・下請けの協力

業界全体で働き方改革を実現するためには、元請け・下請け間での協力が必要不可欠です。たとえば元請け企業には、週休2日を確保できるような配慮が求められ、下請け企業では、工事開始前の正確な工程表の作成や、元請けとの進捗状況のこまめな共有などが大切になってきます。双方で情報共有ができていれば、スケジュールの調整なども行いやすくなるでしょう。

発注者支援機関の活用

建設業には、発注者支援を行う外部機関があり、それらを活用することで業務の受発注をスムーズに行えるようになります。発注者支援期間とは、コンストラクション・マネジメントといった建設コンサルタント業務を行う企業のことです。特に公共工事を発注する場合、外部機関を活用することで適切な工期設定や処遇水準の設定などができる体制を整えやすくなります。

建設キャリアアップシステムの活用

国土交通省が加入を推進している建設キャリアアップシステムを活用することは、現場の処遇改善につながります。建築キャリアアップシステムとは、建設業に従事する人の経歴や技能などの情報を登録できるシステムです。情報登録することで客観的な評価が可能になり、一人ひとりにあった待遇を実現できます。

参考:建設キャリアアップシステム

建設業における働き方改革の事例

建設業ですでに働き方改革に取り組み、成功を収めているケースを紹介します。

- 大津建設株式会社

土木工事を中心に取り組む広島県の大津建設株式会社は、ICT建機を導入して生産性を高めました。生産性を高める方法の1つに外注の活用が挙げられますが、同社は、中山間地域に位置する会社ということもあり、外部の専門業者への外注が難しい状況にあります。そのため、ICT建機を導入するなどして、社内での内製化に取り組みました。その結果、従来は3人必要だった現場での作業が1人で行えるようになり、効率化、省力化に成功しました。

参考:大津建設株式会社|働き方改革特設サイト CASE STUDY 中小企業の取り組み事例(厚生労働省)

株式会社菊正塗装店

建設業というと、テレワークとは無縁のイメージがあるかもしれませんが、それを実現した事例もあります。茨城県水戸市の株式会社菊正塗装店は、大手ゼネコンの専門工事や官公庁発注の公共工事、民間企業直接発注など、比較的規模の大きい塗装工事を主に担当してきた企業です。同社では業務効率の悪さから、ツールを導入して業務の電子化・効率化に取り組みます。それまでは紙ベースで管理していた書類を電子化したほか、社内ポータルを導入することで情報共有を行いやすくしました。また、コロナの流行に伴う緊急事態宣言発出をきっかけに、事務の社員だけでなく、現場で働く社員にもノートパソコンとスマートフォンを貸与し、全社員のスケジュールを可視化できるようにしました。全社員が誰がどこにいるのかを確認できるため、社員は出社の必要がほとんどなくなっています。

参考:株式会社菊正塗装店|働き方改革特設サイト CASE STUDY 中小企業の取り組み事例(厚生労働省)

まとめ

今回は、建設業の働き方改革について解説しました。建設業では2024年4月より、時間外労働の上限規制が適用されます。それに伴い、業界全体として長時間労働の是正や給与・社会保険の整備、生産性向上などへの取り組みが必要となります。働き方改革と聞くとイメージしにくいかもしれませんが、適切な工期・見積もりの作成やIOT・ICT建機などの導入による業務効率化、書類の電子化など、自社にできる取り組みから始めてみてください。


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