経営理念が浸透しない理由とは?解決のために取り組むべき施策

公開日:2023.11.18 更新日:2023.11.18

経営理念の浸透は、企業の発展と持続性に不可欠な要素です。
理念は、マネジメント層だけでなく、全従業員に理解され、日常業務に反映されている状態が理想的です。
しかし、多くの企業からは、「理念はあるが、十分に浸透していない」という嘆きが聞こえてきます。
浸透しない原因はどこにあるのでしょうか?そして、理念を効果的に浸透させ、企業のパフォーマンスを高めるには、どのようなアプローチが必要でしょうか?
本記事では、経営理念が浸透しない5つの理由と、それを解決するための4つの具体的な施策について詳細に解説します。
この内容を自社の状況と照らし合わせ、改善の方向性を見つけるための参考にしてください。

経営理念が浸透しないという問題

ここでは、経営理念の定義と、この理念が持つ重要な役割について整理します。

経営理念とは「企業の目指す姿を明文化したもの」

経営理念は、経営者の哲学および信念を具体化した、企業が追求すべき基本的な活動方針および核心的な価値観です。
企業が目指す理想の姿を明確にし、全従業員が一致団結して働くための方向性を示します。具体的には、企業が社会にどのように貢献するか、どのような商品やサービスが必要か、そして従業員がどのような環境で働くべきかなどを示します。
経営理念は、時の経過とともに変化することがありますが、その核となる価値観や哲学は、多くの場合不変です。
この「不変の価値観」は、従業員が業務を進めるうえでの土台となるため、その明文化と共有は非常に重要です。
経営理念と似たような用語に「企業理念」「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「社是・社訓」「経営方針」などがあります。これらは、それぞれ異なる意味や目的を含みます。たとえば、企業理念は、企業そのものの存在意義を示すものであり、ミッションは企業が果たすべき使命を示す用語として使われます。

経営理念は企業経営に重要な役割を果たす

経営理念を単なる「お題目」として軽視する人もいますが、適切に策定し、浸透させることで、企業経営において多くの重要な役割を果たします。


会社にフィットする人材を確保し定着させる

経営理念を明文化することで、「自分たちがどのような会社で何を大切にしているのか」を明確に示すことができます。
明確に示された理念には、同じ価値観を持つ人材を引き寄せる効果があります。
企業の目標やビジョンに初めから共感して入社する人は、会社への愛着を高めやすく、エンゲージメントも高まります。エンゲージメントが高い従業員は、企業とのつながりや帰属意識を強く感じるでしょう。その結果、「働き続けたい」と考える人が増え、離職率を低下させる効果も期待できます。


従業員の仕事へのモチベーションを高める

経営理念の浸透は、従業員が「自分がどのような会社で、何のために働いているのか」を理解する手助けとなります。
特に、経営理念に社会貢献や従業員の未来を明るくするような要素が含まれている場合、これがモチベーションの向上に寄与します。
「自分は世の中に影響を与える仕事をしている」という認識や、「これは自分の未来への投資だ」という考えが、従業員が仕事に対する意味を見出す助けとなるでしょう。


従業員の一体感を強め、チームワークが高まる

経営理念は、従業員にとって進むべき方向性を示す重要な要素です。
理念の共有によって、従業員は同じ価値観や行動指針を持つようになり、一体感が生まれ、経営目標に対する取り組みが強化されます。
2010年に発表された研究によれば、経営理念の浸透において「上司」が重要な役割を果たすことが示されています。上司の経営理念に対する姿勢や言動は、組織全体の一体感やチームワークに影響を与えるとされています。

参考:経営理念はパフォーマンスに影響を及ぼすか(高巖)|麗澤大学論文検索


従業員の自律的な行動が増える

経営理念は従業員の行動や判断の基準となる土台です。
理念がしっかりと浸透している場合、従業員は判断に迷った際にも経営理念を参考に自らの行動や選択を行います。
従業員が自律的に規律をもって行動することは、マイクロマネジメント(部下の作業を細部にわたって監督すること)や細かいマニュアルを不要にします。結果として、管理コストの削減にも寄与します。


企業価値・ブランドイメージの向上

経営理念は、企業価値・ブランドイメージの向上の担い手でもあります。
企業価値やブランドイメージ向上は、良好な顧客関係の構築、優秀な人材の確保、売上や業績の向上などにつながります。
また、経営理念を社外に発信することで、社会的信頼を得るきっかけとなり、新規顧客の獲得や企業の認知度アップにも効果的です。


企業のパフォーマンスの向上

研究によれば、経営理念を実際の行動に反映させることが、仕事への一体感やこだわりを高め、パフォーマンスを向上させるとされています。経営理念に「イノベーションや革新」が含まれている場合、メンバーは革新的な志向性が高くなる傾向があります。この影響は大企業に限らず、中小企業でも同様であり、2014年の研究によれば、経営理念を公開している会社は未公開の会社よりも業績が高いと確認されています。

参考:「日本の中小企業における経営理念と経営計画の実態と業績に関する実証分析」(小椋,俊秀)|小樽商科大学学術成果コレクション

しかし過半数の企業では「経営理念が浸透していない」

ところが、調査結果によれば、経営理念の浸透は多くの企業で課題となっています。
2023年パーソル総合研究所が行った「企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査」によれば、企業理念について「内容を十分理解している」と回答したのは41.8%、また「内容について同意できる」と回答したのは44.5%でした。

参考:企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査 - パーソル総合研究所



2019年にエニワン株式会社が中小企業の従業員1,019名を対象に実施した『企業理念・ビジョンの浸透に関するアンケート』では、「企業理念を理解しているか」との問いに、6割近くの方が「いいえ」と回答しています。

参考:【経営者必見!】7割近くの方が「企業理念を浸透させることは必要である」と回答!一方で、企業理念・ビジョンをしっかりと理解している方の割合とは…? | エニワン株式会社のプレスリリース


2017年に労務行政研究所が行った「経営理念の策定・浸透に関するアンケート」では、経営理念策定の目的のうち、達成できていないと自己評価した項目が「社員の目的意識を合わせる」「企業風土・企業文化をよくする」で、それぞれ22.8%でした。

参考:経営理念の策定・浸透に関するアンケート 労務行政研究所 | 『日本の人事部』


これらの調査結果から、経営理念の浸透が企業にとって一般的な課題であることがわかります。

※「経営理念」と「企業理念」は厳密には異なる概念ですが、ここではその浸透状況を共有する目的で、両方に関する調査結果を紹介しました。


経営理念が浸透しない5つの理由

では、なぜ経営理念は浸透せず、従業員の共感を得られないのでしょうか。その理由を以下で詳しく解説します。

1 経営理念がわかりにくい

経営理念のわかりづらさは、浸透を阻む最大の要因です。
理念が抽象的すぎると、従業員は明確なビジョンを持つことができません。さらに、従業員間で理念の解釈が異なる可能性もあります。
曖昧で分かりづらい表現は、「何が言いたいかわからない」と拒否されてしまうことすらあります。
また、時代に合わせた表現である点も重要です。内容が「時代錯誤」と感じられしまうと、従業員の共感は得られません。

2 経営者自らが真剣に取り組んでいない

経営者自身が理念に対して真剣に取り組んでいない場合、それが浸透を妨げる要因となります。
たとえば、経営者が企業理念に対して腑に落ちていないなどの理由で真剣に取り組んでいないことがあります。この場合、その不誠実な態度が従業員に伝わります。
経営者や管理職が経営理念に従った行動をしないと、従業員は「自分たちの経営理念に従う必要がない」と考えてしまう可能性が高くなります。

3 経営理念浸透させる取り組みを行っていない

単に経営理念を発表するだけでは、その理念は社内で浸透しません。具体的な施策や工夫が必要です。
浸透には、「知ってもらう(認知」「わかってもらう(理解)」ことが必要です。従業員の理解を促進するよう、伝え方を工夫したり、伝える頻度を増やすなど、具体的な施策を考えましょう。
また、また、経営者やマネジメント層が自ら積極的に経営理念の背景や目的を丁寧に伝えることも重要です。

4 経営者と従業員の関係性に問題がある

経営者と従業員の間に信頼関係が築かれていない場合、経営理念の浸透は困難です。
たとえば、従業員がマネジメント層との距離が遠いと感じていたり、関係ができていない場合は、経営理念を伝えられても「一方的に押し付けられた」と感じてしまうかもしれません。理解や共感どころか、反発につながることもあり得ます。

5 経営理念に基づいた体制・制度になっていない

経営理念に対応するような体制や制度が整っていない場合、その理念は真に浸透しません。
たとえば、人事評価制度や昇進の基準が経営理念と連動していないと、従業員のモチベーションも低くなります。
経営戦略に経営理念を反映させ、理念の理解と体現を促すことが重要です。

「経営理念が浸透しない問題」を解決する4つの施策

経営理念の浸透には、「認知」「理解」「習慣化」の3つの段階が存在します。
まず、どの段階に課題があるかを明確にしつつ、以下の施策を検討することが重要です。

1 経営者自らが定期的に経営理念を伝える

経営理念はしばしば抽象的な言葉で表され、その深い理解には丁寧な説明が必要になります。
理解を促進するためには、経営理念が生まれた背景やストーリーの共有が有効です。こうした情報があってはじめて、従業員は経営理念により深く共感できるようになります。
理念の浸透には時間がかかります。ですから、経営理念の説明は一度きりではなく、定期的に行うことが大切です。
特に、経営者自らが直接、自分の言葉で焼き直したり、理念のある部分に注目して「ミッション」として打ち出すなどの工夫が必要でしょう。
また、経営幹部などの上位階層から理解し、実践し、広く伝えていくことも重要です。部門においても日常的に、従業員が集まる場で繰り返し説明を行うと良いでしょう。

2 経営者自らが経営理念のモデルとなる

経営トップや管理職が自ら経営理念を体現することは、その浸透に非常に効果的です。
従業員が経営理念に共感し、積極的に行動を変えるためには、経営トップや管理職が模範となる行動を継続的に示す姿勢が重要です。
たとえば、ブリヂストンは「コンプライアンス重視」の姿勢を明確にしており、その取り組みは「経営トップから始まる」と内外に示しています。このような経営トップの姿勢は、中堅幹部にも影響を与え、従業員全体の意識に変化をもたらすと考えられます。

参考:コンプライアンス・公正な競争 | サステナビリティ | 株式会社ブリヂストン

3 経営理念を戦略や制度に組み込む

理念は、全ての事業活動や業務行動に反映されるべきであり、そのためには「理念に沿った行動を評価する仕組み」の導入が非常に有効です。
このような仕組みが存在することで、従業員は理念に基づいて積極的に行動する意欲が高まります。
特に、人事・評価制度に経営理念を取り入れる場合、理念と評価基準が一貫していることが重要です。一貫性があると、従業員は評価される基準が明確であると感じ、より積極的に理念に沿った行動を取るでしょう。

4 経営理念に常に触れられる環境を作る

経営理念の浸透には、「説明会」だけでなく、多様な方法で日常的に触れる機会を増やすと良いでしょう。
たとえば、社内ポータルサイトや社内報で、経営理念の背景をコラム形式で掲載する、社内研修で従業員同士が経営理念について話し合う時間を設けるなどの施策が有効です。
また、社内に掲示したり、定期ミーティングで経営理念を振り返るなど、日常の業務に取り入れる方法も検討すべきでしょう。
経営理念は「上層部が決定した指針」ではなく、「日常的に触れ、行動の基準として活用できる身近なもの」であるべきです。

経営理念の浸透は「継続」が鍵!

この記事では、経営理念が企業内で浸透しない主要な理由と、その問題を解決するための実践的な施策を解説しました。

経営理念の浸透は、企業の成長と持続性に密接に関わる重要な課題です。その解決には、組織の体制を見直し、コミュニケーションを強化し、習慣化を促進するといった多角的なアプローチが求められます。

経営者や組織のリーダーが率先して取り組むことで、理念は徐々に従業員に浸透し、企業文化として確立されるでしょう。


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