優秀な人材で構成された組織であるにもかかわらず、各メンバーの意識にずれがあったり、組織で十分な意思疎通を図れなかったりして、期待していたようなパフォーマンスを発揮できないというケースがあります。今回は組織を活性化するためのフレームワークや組織活性化に取り組む企業事例をご紹介します。
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組織活性化とは、組織のメンバーがいきいきと働き、目的遂行が効率的に行われている状態を指します。
全社員が企業理念・ビジョンを共有し、コミュニケーションが活発な状態が、組織が活性化されていると考えられます。
どの会社も企業理念やビジョンを掲げていますが、形ばかりで共有されていないケースは少なくありません。多くの社員が企業理念やビジョンを十分に理解しないまま、仕事に時間を費やしているのです。
3人のレンガ積み職人の話を聞いた方は多いでしょう。旅人は3人のレンガ積みの職人と出会い、何をしているのかと尋ねます。1人目の職人は親方の命令で仕方なくレンガを積んでいると答え、2人目は食べるためにレンガを積んで壁を作っていると答え、3人目は大聖堂を立てるためにレンガを積んでおり、このような仕事ができて光栄であると答えます。3人とも業務内容は同じですが、3人目の職人は自分の使命を理解して仕事に取り組めています。
社員が仕事を単なるタスクとしてこなしていくのか、経営理念やビジョンを意識して熱意を持って取り組めるのかでは大きな違いがあります。企業理念やビジョンの共有を実現している企業がスターバックス コーヒー ジャパン株式会社です。スターバックスのケースは後ほど取り上げます。
コミュニケーションが活発である状態は、組織が活性化された状態であるといえます。社内における情報共有と生産性の向上は関係しています。一人だけで完結する業務はまれです。チームの他のメンバーと積極的にコミュニケーションを取り、業務を進める必要があります。自組織で解決できない問題に対処しなければならないときは、他部署の助けを借りる機会も出てくるでしょう。自分で手に負えない問題が生じたときは上司に相談しなければなりません。社員が自由に発言できる環境からは新しいアイディアも生まれやすいでしょう。
コロナ禍においては、従来の対面でのコミュニケーションからリモートワークでのコミュニケーションに切り替わり、企業のあり方や働き方に大きな影響を与えました。積極的に雑談の時間を設けるなど、多くの企業がリモートワークでもコミュニケーションが生まれやすいような工夫をしていました。しかし、リモートワークではオフィスで働いていたときのような偶発的なコミュニケーションが起こりづらいことは事実です。コロナが落ち着き、リモートワークの良さを認めつつも、社員に出社を求め、対面でのコミュニケーションの機会を増やそうとする動きがあります。freee株式会社が取り組んだ「出社したいと思うオフィスづくり」については後述します。
GROWモデルやマッキンゼーの7Sは組織活性化に役立つフレームワークです。ここでは、この2つのフレームワークについて見ていきます。
GROWモデルは、Graham Alexander、Alan Fine、Sir John Whitmoreによって1980年代後半に提唱されたコーチングフレームワークで、上司が部下とキャリアに関して1 on 1を行う際などに取り入れられています。GROWモデルによって部下の自主性向上が期待できます。部下はただ上司の指示に従うのではなく、自ら何をすべきか考えて率先して行動できるようになるでしょう。GROWモデルでは、以下の4つのステップに従ってキャリアについて話し合います。
ステップ1. Goal:目標の明確化
質問例「1年度、3年後、5年後までにどのような目標を達成したいですか?」
ステップ2. Reality:現状の把握
質問例「目標に向けて何を行い、どういった実績を上げましたか?」
ステップ3. Option:選択肢の検討
質問例「目標を達成するための障害物や困難はありますか?」
ステップ4. Will:意思の確認」
質問例「目標に向けて一歩を踏み出すために、最初に取り組みたいことは何ですか?」
マッキンゼーの7Sは、組織を7つの観点から分析するためのフレームワークです。このフレームワークにより、組織のどの部分に課題があるのかを特定し、課題解決につなげることができます。7つの観点はハードの3つの観点、ソフトの4つの観点から構成されます。
【ハードの3S】
戦略(Strategy) …目標達成のための計画や行動方針
組織構造(Structure)… 組織の仕組み
システム(System)…組織運営のためのルールや制度
【ソフトの4S】
共通の価値観(Shared Value)…企業理念や行動指針
スキル(Skills)…組織が保有する知識、技術、ノウハウ
人材(Staff)…組織のメンバー
組織風土(Style)…社風、組織文化
組織活性化に取り組み、成果を上げている事例としてスターバックスとfreeeの2社を紹介します。
全国にコーヒーチェーンを展開するスターバックスは、企業理念と行動基準を「Our Mission and Values」として定めています。スターバックスでは、従業員は社員・アルバイト問わずパートナーと呼ばれます。接客マニュアルは存在せず、パートナーは企業理念であるOur Mission「人々の心を豊かで活力あるものにするために―ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」を実現するために自発的に行動しているのです。
スターバックスでは、Our Mission and Valuesの理解を促し、行動を強化するための仕組みとして、行動基準であるOur Valuesを体現しているパートナーに、Thank youと書かれた「グリーンエプロンカード」を贈るという施策を取り入れています。このカードは5種類あり、それぞれにOur Valuesの要素が1つ記載されています。また、4か月に1回行うパートナーの人事考課の面談で、5年後、10年後のなりたい自分を尋ね、理想の自分に近づけるようにOur Valuesと照らし合わせて目標を設定します。
クラウド型会計ソフトを手掛けるfreeeは、2020年3月から新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため全社でリモートワークに切り替えました。リモートワークは通勤時間の削減などのメリットがあり、さまざまな施策を通じて生産性は維持されたものの、対面でのコミュニケーション機会が減少し、部署をまたいだアイディアの創出などが生まれづらいという問題が生じていました。コロナ禍でも従業員数は約2倍、サービス利用者数も約2倍と急成長を遂げる中、対面コミュニケーションの機会を増やし、さらなる組織の発展を遂げるため、2022年8月に本社オフィスを拡大移転しました。同社は原則週3日以上の出社を呼び掛けています。
freeeが目指したことは、行きたくなるオフィスの実現です。社内SNSで意見を募ったところ、216件の応募がありました。新オフィスには、駄菓子が食べられる会議室、オーブンや食洗器などが備え付けられた会議室、テントやハンモックが用意されたキャンプスペースなど、出社したくなるような工夫がされています。フォンブース(電話やWeb会議ができる個室空間)の設置やフリースペースの増設の他、空席情報をリアルタイムで確認できるセンサーが搭載されています。
今回は組織活性化の意味や組織活性化に役立つフレームワークについてご紹介しました。組織が活性化されていない状態では、社員は十分なパフォーマンスを発揮できません。会社として組織活性化に取り組み、それぞれの社員がいきいきと働ける職場づくりを目指しましょう。