製造業のDXはなぜ進まない?スマート工場化に向け取り組むべきこと

公開日:2023.09.26 更新日:2023.09.27

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、現代の企業戦略に欠かせない要素であり、生産性向上や競争力強化に役立つ重要な手段となっています。しかし、製造業におけるDXの実装は他の業種と比べてもおくれを取っている傾向にあり、DX導入が上手く浸透していないのが現状です。そのため、どのようにしてDXを製造業に取り入れればよいのか、疑問を抱いている担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで当記事では、製造業におけるDX導入の意義や、製造業がDX導入を成功させるためのポイントについて詳しく解説していきます。ぜひ、最後までご覧ください。

製造業のDXとは?

製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIなどの先端技術を使ってデジタル化を推進し、業務の効率化を図ることによって、製品の利用者のライフスタイルを向上させることを目指した試みです。
製造業界ではまだ多くのアナログ作業が存在していますが、DXの導入によりその成長を後押しすることができると期待されており、多くの企業が可能性を見出しています。

製造業でDXが進まない4つの理由

他業種で導入が進んでいるDXですが、とりわけ製造業でDXが進まない理由は何なのでしょうか。
具体的には以下のような4つの理由があります。

設備投資に消極的になっている

製造業の中には、IT機器の導入に躊躇している企業や、既存の生産設備の老朽化が進行している事例が見受けられます。そのような設備投資に対する消極的な姿勢の背後には、不確定性を増すVUCA(※)の時代背景、設備導入に伴う高額なコスト、そして設備操作に必要なスキルを持つ従業員の不足など、さまざまな課題が存在します。
さらに、IT技術の導入が生産効率の向上にどのように寄与するのか具体的にイメージすることが難しく、また技術担当者やリーダーの不足などが、製造業のDX進行を妨げている主な要因となっています。
このような状況が続けば、新たなIT技術の導入を避け、従来の生産方法を堅持する企業は、進行するグローバル化に伴う市場の変動や技術革新への対応力を失いかねないことになります。

※VUCAとは、社会やビジネスにおいて不確実性が高く、将来の予測が困難な状況を表す造語です。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったもので、2010年以降のビジネスの世界では「VUCAワールド」「VUCA時代」として使われています。
VUCAの4つの単語が示すように、VUCA時代は非常に不安定で不確実、複雑で曖昧な社会状況を表しています。

必要な人材を確保できない

製造業では、ITスキルを持った人材が不足している状況が見受けられます。
それ以前に、製造業全体が慢性的な人材不足に陥っているため、DXを推進するための人材を育てることが難しいという企業が多い現状があります。
日本の製造業界では2020年3月の時点で失業率は3%以下という低さであり、それ以後も低下の流れが見受けられます。また、製造業の労働力不足感は、2014年から「足りている」と回答する割合が「不足している」と回答する割合を上回っています。
2019年の第1四半期から2020年の第1四半期にかけては、大手企業から中小企業まで、製造業における人材の不足感は減少傾向にあることが確認されていますが、依然として日本の製造業の人手不足は深刻化しています。

出典:2020年版ものづくり白書-第1部第1章第3節 製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進-(経済産業省)

社内のDX理解度が低い

組織内でDXの理念が共有されていないとその推進は難しく、中には製造業でのDXの推進が業務負荷増加につながるといった誤った認識を持つ従業員もいます。
DXの導入により、業績向上とともに適正な労働時間を維持できるようになるなど、労働者に対する利点やメリットを分かりやすく説明する必要があります。

DX導入のための環境が整っていない

製造業におけるDXの推進は、各種ツールやシステムの導入が必須となります。
導入するツールによっては高額な投資が必要となり、適切な資金計画が求められます。現行システムの維持に多大なコストを費やしていると、DX推進のための新システムへの投資が困難になることもあるでしょう。
しかし、市場や消費者ニーズの変化に対応する経営を行うためには、DXの導入が不可欠です。現行のシステムから段階的に離れ、ITツールやAI技術の導入に向けて、資金計画の策定を始める準備を進めましょう。

製造業でDXを推進するメリット

製造業の課題解決には、DXによる業務の改善が有望とされています。
ここでは、DXを進めることで得られる具体的なメリットについて解説します。

生産コストの削減が期待できる

DXを通じた業務最適化は、労力や人手の削減によるコストダウンを期待できます。
製造工程のある部分をシステムによる自動化に置き換えられれば、人の介入が不要な段階が生まれ、結果的にコストの節約が可能になるでしょう。
製造業では1つの製品を作り上げるために多くの工程が必要となりますが、これらの各工程を見直し、改善を進めることで業務の効率化が実現できます。

生産性が上昇する

製造業の世界で生産効率の向上を目指す際、最も優先すべきなのがIT技術の採用です。
IT技術によって、工場の設備を全自動化または半自動化することが可能となり、大規模な人手の削減、生産効率の維持や向上が期待できます。

品質が向上する

DXは生産予定の製品品質を高める要因となります。具体的にはIoT機器の導入、ビッグデータによる分析、AIの画像認識技術などによって、品質の問題やその原因を迅速に特定することができます。
生産現場では、ラインのリアルタイム監視、品質検査の自動化と異常の早期発見、品質問題の原因の特定などで効果を発揮します。
これにより、高品質な生産プロセスが実現し、不良品の生産を防ぐメリットが生まれます。

業務の属人化防止につながる

DXの導入により、技術の個別化を回避するメリットが生まれます。
伝統的な工場環境では、特定のスキルや専門知識が限定的な作業員に集中しているケースがあります。このような個別化は、その作業員が欠勤したり、退職したりした際に対応できなくなるため、企業にとって大きな悩みの種となります。
DXにより、情報のデジタル化や視覚化を行うことで、特定の作業員に依存した個別化が克服され、技術者間での知識共有や技術の統一化が進みます。結果として、製品の品質も一貫性を保つことができます。
技術者間での技術の継承や保存も円滑になるため、生産ラインの安定化が実現できます。

製造業のDXを進めるための6つのステップ

製造業ですでにDXを導入している事例もあります。その実現方法を理解していれば、DXの達成は決して不可能ではありません。
以下の6つのステップを踏むことで、段階的なDXの導入ができるようになります。

現状を把握する

製造業のDXを推進するには、データを収集して分析することから始まります。データ収集により、現状の業務における課題点を把握でき、目標とのギャップが明確となります。
また、収集したデータを分析することで将来の予測やビジネスモデルの創出が図れます。これまで経験などに頼って判断していたような状況も、データを活用した分析により、経験が豊富ではない社員でも判断ができるようになります。

DX導入後の企業ビジョンを共有する

次に、DX導入後にどのような企業になりたいかといったビジョンを組織全体で共有しましょう。
企業のビジョンを明らかにすることで、企業が社会に提供したいと思っている本質的な価値を、より具体的な形にすることができます。そしてその価値の実現のための最善の方法を、組織全体で考えられるようになります。

DXに精通した人材を確保する

DXに向けたビジョンが明らかになったら、次はその実現に必要な体制を整えましょう。
たとえば、DX推進専門の部署を設けたり、デジタルテクノロジーやデータ活用に熟練した人材を確保したりする必要があります。人材採用の際には、専門家を外部から雇用することや、必要に応じて他の企業とパートナーシップを組むことも考慮に入れるべきです。
ただし、優秀な人材を多数確保できたとしても、必ずしも良い結果につながるわけではありません。DX専門チームの人数が増えすぎると、指示系統が複雑化するためコミュニケーションの負担が増大し、結果的にDXの進行が遅くなる可能性があります。
経営層や事業部門、情報システム部門などに少人数のDXチームを採用することでDXに成功した企業も存在します。DXを円滑に推進するためには、適切な人員配置についてもしっかりと考える必要があります。

現場の状況とデータをリンクさせる

次に行うべきステップは、現場の状況とデータを連携させることです。データは現場の具体的な状態を客観的に理解し、改善策を策定するための重要な道具です。
製造データをリアルタイムで収集・解析することで、生産の効率化や品質管理の強化が可能になります。リアルタイムでデータを収集するためには、IoTの利用が欠かせません。製造業において重視されているIoTとは、"Internet of Things"の頭文字を取ったもので、「モノのインターネット」とも呼ばれるものです。
具体的には、センサを使った製造プロセスの監視や予兆保全を通じて、生産効率の向上、品質の均一化、人員の削減などを実現するといった方法があります。

優先順位事項に沿って業務効率化に取り組む

DXは成果を得やすいもの、そして導入のハードルが低いものから進めていくことが推奨されます。
機器やツールは一度に全て更新するのが最適と考えられがちですが、それは非常に困難で現実的ではありません。大きな導入はリスクも伴います。段階を踏んで逐次的に導入することが望ましいです。
優先順位の決定については、状況が視覚化できるようなものや、効果が従業員に分かりやすく費用対効果が高いものから取り組みます。品質管理におけるセンサ付きカメラの利用や、スケジュール管理のデジタル化などが具体的な推奨事項です。

DX導入後も引き続き管理を行う

製造業界におけるDXは、システムを導入すれば完成するわけではありません。その後の継続的な改善のプロセスが、DXを推進するうえで重要になります。
たとえば、マーケティングツールを取り入れたとしても、毎月レポートを作成するだけではその効果を実感することは難しいでしょう。データの収集・解析、マーケティングツールを利用した見込み客の発見や育成、その後の結果検証という一連の流れが重要であり、DX導入後の各プロセスに改善がみられているかを評価する必要があります。
システム導入後の成果を受けて、業務改善計画を立案・実施・評価するというPDCAサイクルを回すことこそが、理想的なDXの進め方です。

製造業のDXに成功した企業例

ここでは、DXを進めて課題を解決した製造業のDX事例を3社紹介します。
それぞれの企業の取り組みを、自社にDXを導入する際の参考としてみてください。

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車は、日本を代表する自動車メーカーです。インダストリー4.0や他の業種からの競争に対抗するために、会社全体でのデジタル化、「工場のIoT」へと取り組んでいます。
開発部門、市場部門、製造工場がデジタル化を通じて連携し、市場のニーズに対応した高付加価値な製品作りを目指しており、製造工場や顧客から得たデータをリアルタイムで技術開発部署に提供するといった取り組みを実施しています。技術開発部署が収集したデータを設計の改良や新製品開発に活用することで、短期間での製品改善を可能にしています。
今後はデジタル化の推進と並行して、セキュリティの強化にも取り組む予定です。

参考:製造業DX取り組み事例集(経済産業省)

旭化成株式会社

旭化成株式会社はマテリアル、住宅、ヘルスケアの領域で多角的事業を展開している総合化学メーカーです。
同社は経済産業省、東京証券取引所、及び独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の共同プロジェクトである「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2023」に3年連続で選定されました。
旭化成のDXの推進は、多岐にわたる分野での包括的なデジタル化の取り組み、そしてDXを浸透させるための人材育成や組織文化形成が高い評価を受けています。
「Blue Plastics」という業界を超えたリソースサイクルプロジェクトや、CO2排出量を視覚化するためのCFP算定システムの推進などの活動を通じて、DXが実現されています。

参考:旭化成、3年連続で「DX銘柄」に選定

株式会社ブリヂストン

ブリヂストングループは世界最大のシェアを有しているタイヤメーカーです。ブリヂストングループのDX戦略は、「より大量のデータを、より迅速に、より簡単に、より正確に」をモットーに掲げています。現場で長年に渡って磨き上げられた卓越した「リアル」の技術と「デジタル」の力を結び付け、革新を加速させることを目指しています。

注目すべき取り組みとしては、先進的なデザインシミュレーションを利用した優れた製品開発が挙げられます。DX推進により、各顧客の運用状況に最適化したタイヤ設計や開発が可能となりました。
ブリヂストングループのデジタルソリューションツール「BASys」は、使用済みタイヤを工場に引き取り、検査、修理、再加工を行い、顧客に返却するまでの全工程の製造、品質、在庫などの情報を管理します。
BASysを用いて、各プロセスの情報をリアルタイムで把握し分析することにより、生産効率と品質の向上を図れます。また、蓄積されたデータから顧客の使用状況に合わせた最適なタイヤを推奨できるようになります。

ほかにも「Tirematics」と呼ばれる、タイヤ空気圧モニタリングシステム(TPMS)で取得したタイヤの空気圧と温度情報を遠隔監視できるデジタルソリューションツールも提供しています。
タイヤの空気圧と温度をリアルタイムで監視することで、日常のタイヤ検査の精度を向上させ、タイヤに起因する運行トラブルを未然に防止します。タイヤの空気圧や温度に異常が検出された場合には、車両管理者や運行管理者に通知し、同時にドライバーにも直接知らせるというシステムです。

さらに、遠隔でタイヤ状態と車両位置情報を確認できることで、全国に900以上の拠点を持つ「ブリヂストンサービスネットワーク(BSN)」を活用した迅速なメンテナンスサービスの提供も可能となります。

このように、ブリヂストンはDXの推進によって顧客の安全運行と安定的な稼働に貢献していますが、適切なタイヤ空気圧の管理は車両が走行中に排出するCO2量の削減にも繋がっており、環境負荷の軽減にも寄与しています。

参考:デジタルトランスフォーメーションを推進する企業として「DX銘柄2023」に4年連続で選定

まとめ

製造業にDXが浸透しない理由は、最新技術を敬遠しがちな製造業の体質と、慢性的な人材不足によってDX人材の育成が追いつかない点が挙げられます。

まずはメリットを従業員に周知するところから始めて、社内の同意を得られるようにしましょう。

同意を得られた後は実現可能なものから段階的に導入することが大切です。効果が従業員にわかりやすく伝わるものや、費用対効果が高いものから取り組みましょう。導入後もデータを集め、PDCAサイクルを上手く回せているのかどうかを確認しながら進めていく点も重要です。

DX人材育成に関しては、以下のコラムでも解説しています。ぜひ、参考にご覧ください。

DX人材育成3つの秘訣〜経産省「デジタルスキル標準」から学ぶ〜株式会社ドコモgaccoセミナーレポート | リスキリングナビ

DX人材に必要なスキルとは?日本企業における人材不足の課題と育成方法 | リスキリングナビ

おすすめの
パートナー企業