「人材育成マネジメント」とは、近年重要視されている「人材育成」の取り組みを計画・組織化すること。
人材育成に本格的に取り組む企業が増えている昨今、マネジメント手法にもさまざまな手法、フレームワークが生まれてきています。
本記事では、「人材育成マネジメントの進め方を知りたい」という方々に向けて、具体的なやり方や、必要とされるスキルについて紹介していきます。
目次
「人材育成」とは、自社の継続的な成長のために、社員を育て成長させることです。
近年、IT化や採用市場における人材不足などにより、社内人材の育成はますます重要視されるようになっています。人材を育成することで、企業にとっては生産性の向上、企業理念の浸透、社員満足度アップによる離職率の低下などさまざまなメリットがあります。
代表的な人材育成の仕組みにはOJT、Off-JTなどがあり、これらの仕組みづくりを通して社員が企業組織に役割を見つけ、成長し、組織の中核の一端を担えるようなサイクルを作り出すことが目的とされます。
人材育成は複雑かつ長期的な取り組みで、成果が目に見えるまでに多くの時間や労力を要するため、成功させるには組織や計画のマネジメントが必須になります。
具体的には、現状の社員のスキルを把握したうえで、自社が求める人材のスキルをゴールに設定し、その差分を埋めるための計画を練る必要があります。
組織が大きくなるほど、育成にかかわる人の数も増え、部署や担当者によって対応がずれてしまうケースも見られます。
加えて、企業が必要とするスキルを検討するうえでは、経営戦略に基づく根拠が必要です。人材の価値を最大限に引き出すことで企業価値の向上に取り組むこの手法は「人的資本経営」ともよばれ、2020年9月に経済産業省から「人材版伊藤レポート」が公表されて以降、ますます注目を浴びているのです。
出典:「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート〜2.0~」(経済産業省)
人材育成のマネジメントをするために必要なスキルとしては、次の要素が挙げられます。
人材育成のマネジメントにおいて成果を生み出すには、社員一人一人が抱える課題を正確に把握し、組織全体の現状を確認する必要があります。
システム開発の事業を行う富士ネットシステムズでは、「職業能力評価シート」とよばれるスキルチェックシートを導入し、社員の業務経験や技能を把握できる仕組みを作りました。
参考:「キャリアマップ」、「職業能力評価シート」を活用した企業の取り組み事例について(厚生労働省)
これにより、社員の技能を網羅的に把握し、成長に向けた効果的な目標を設定することが可能になったのです。
以上のように、企業全体の業務実態や、獲得が必要な人材・スキルを明確にして初めて、人材育成の計画が立てられるのです。
人材育成のマネジメントにおいて最も重要なのが、計画を立てるスキルです。つまり、目標とそれに応じた具体的な施策を定めることができる必要があります。
人材育成には、前述したOJT、Off-JTをはじめeラーニング、メンター制度など様々なアプローチがあり、施策も多岐にわたります。中長期的なコミットが必要なため、正しい計画を立て、管理しなければ、期待通りの成果につなげることも難しくなります。
マネジメント全般にいえることでもありますが、部署やチーム全体の進捗を管理し、調整するスキルが人材育成のプランニングにおいては特に重要となります。
人材育成のマネジメントには、部下とのコミュニケーションスキルが大きく問われます。社員の人間性と能力を含めた成長を促すためには、チームの信頼関係と綿密な指導が不可欠だからです。
日頃から雑談や気遣いを意識し、コミュニケーションを通じて、部下が主体的な挑戦をしたり、困ったりしたときに相談できる関係性を構築していく必要があるでしょう。
人材育成のマネジメントは、メンバーへのフィードバックという重要な役割も担っています。会社から社員一人一人に求める課題点を明確に伝え、成長をサポートするための継続的なフォローを行うことが求められるのです。
メンバーのビジョンに寄り添い、実務的にも感情的にも支援しながら並走することは、部下へのコーチングともいえます。自己成長に対し積極的にコミットしてもらうためにも、1on1ミーティングなどを通して相互理解を深め、適切なフィードバックを行っていきましょう。
人材育成でも特に価値が高いのは、中堅社員を対象とした次世代リーダーの育成。人材をマネジメント層へ育成するには、以下のステップで取り組むとよいでしょう。
社員の役職が上がり、より大きな組織のマネジメントを担当すると、事業や会社全体の動向を把握し、より長期的・大局的な視点で動くことが求められます。そのためには、幅広い部署・役職・業務のことを深く理解している必要があります。
どんな業務も、それを経験した者にしか分からない事情やナレッジがあるものです。ジョブローテーションによって異なる職種を経験したり、部門横断的なプロジェクトチームを編成することで各部門の業務に対し理解を深めたりと、様々な方法で業務の知識を広げることが将来のマネジメント能力の向上に繋がります。
ジョブローテーションの成功事例で有名なのが、ヤマト運輸株式会社です。ヤマト運輸では、新入社員が2年を掛けて集配業務、コールセンター、営業業務、人事総務と幅広い業務を経験するジョブローテーション制度を導入しています。これにより、社員に会社全体の「仕事のつながり」を体感し、理解する機会を与えているのです。
マネジメントとは、組織を運営し管理すること。知識のインプットも重要ですが、臨機応変な判断が求められるマネジメントを習得するには、経験のステップを踏むことも不可欠です。
実際に部下をまとめ、教える立場になり、部下が成果を挙げるまでのプロセスを繰り返し経験することで、実践的なマネジメント能力が身につきます。
そして、将来的にはチーム全体、事業全体のマネジメントに関する知見も育っていくでしょう。
マネジメント層には、大きな決断を迫られることも少なくありません。その際に必要となるのが、限られたリソースのなかで広い視野と長期的な視点をもち、状況を判断する能力。
将来のマネジメント層を担う社員には、あえて責任の大きな業務を担当させ、自由な裁量のなかで難易度の高い仕事をこなす経験を与えるのも一つの手段でしょう。
適度な期限やプレッシャーのある環境でプロジェクトの成功経験を積むことで、将来のマネジメントにも必要な、リーダーとしての自信とスキルを習得することに繋がります。
人材育成のマネジメントに必要なスキルやアプローチについて、解説してきました。
人材育成マネジメントは、企業が長期的に競争力を伸ばすためには欠かせません。また、人材が成長できる仕組みづくりを通じて、企業だけでなく働く社員一人一人にも成長実感やモチベーションが与えられ、高いパフォーマンスを発揮しやすい環境が整っていきます。
大きなリソースと人手が掛かる人材育成ですが、目標を明確にし、粘り強くマネジメントに取り組んでいきましょう。