中小企業にとって人材育成は重要課題ですが、費用や時間の確保がネックになりがちです。そんな悩みを解決できるのが「人材開発支援助成金」、中でもおすすめは「事業展開等リスキリング支援コース」です。これは、単なる研修補助ではなく、事業成長と人材戦略を両立できる制度です。この記事では、その活用ポイントをわかりやすくご紹介します。
目次
人材開発支援助成金は、企業が従業員の能力開発やスキル向上のために行う研修に対して、国がその費用の一部を助成する制度です。中小企業にとっては、コストを抑えながら人材育成に取り組める有効な支援策といえます。
本制度は厚生労働省が所管しており、研修の種類や目的に応じて複数のコースが用意されています。中でも「事業展開等リスキリング支援コース」は、事業の転換や新規分野への進出に伴うスキル習得を支援するものです。
リスキリングとは「再教育」や「学び直し」を意味し、急速な技術進化や経済環境の変化に対応するために必要な取り組みです。政府はデジタル人材の育成や人的資本の強化を目的に、リスキリングを積極的に推進しています。
「事業展開等リスキリング支援コース」はその一環であり、企業の競争力強化と従業員の雇用安定を図る重要な施策と位置づけられています。
この助成金の対象となるのは、事業再構築や新規分野への進出など、事業展開を見据えた人材育成に取り組む企業です。特に中小企業は優遇措置が設けられており、助成率も高めに設定されています。
業種は問わず、製造業・IT業・サービス業など幅広い分野で活用可能です。ただし、対象となる研修内容や受講者の条件には一定の要件があるため、事前の確認が重要です。
1. 事業の再構築や新分野進出など「事業展開」を予定している企業
2. 事業展開に必要なスキル習得を目的とした「訓練(研修)」を実施する企業
3. 雇用保険適用事業所であること
4. 計画的に研修を実施できる体制があること
厚生労働省へ提出する「訓練実施計画書」に基づき、計画的かつ適正に研修を実施・管理できる体制が求められます。
本コースの最大の目的は、企業の事業変革に必要なスキルを従業員が習得し、円滑な事業推進を可能にすることです。たとえば、新しい業務へのシフトや新製品の開発に必要な知識・技術を学ぶための研修が対象になります。結果として、企業の持続的成長と従業員のキャリア支援の両立が可能となります。
助成対象となる研修は、事業展開に直接関連するものが基本です。たとえば、営業職のデジタルスキル研修、製造現場における新技術の導入研修、ITリテラシーの向上などが該当します。また職種に関しては制限は少なく、現場作業者から管理職まで幅広く対象となります。ただし、単なる自己啓発や趣味的な研修は対象外です。
▼具体的な研修内容
分野 | 研修内容の例 |
---|---|
生成AI・LLM | ChatGPTやClaudeなど生成AIの活用研修/業務自動化への応用/AIリテラシー教育 |
DX(デジタル変革) | DX概論/デジタルツール導入/業務プロセスの見直しと改善/社内DX推進の基礎 |
Webマーケティング | SEO・コンテンツ戦略/リスティング広告運用/Googleアナリティクス活用法 |
SNS運用講座 | X(旧Twitter)、Instagram、LINEなどのSNS活用/企業アカウント運用・分析 |
上記はすべて「実務に直結したスキル」として助成対象となり得ます。特に「新事業の立ち上げ」「デジタル化推進」など事業展開との関連性が明確な研修が好まれます。eラーニング・集合研修・外部講師など、形式は柔軟に対応可能です。
中小企業の場合、対象経費の最大75%が助成されます。1人あたりの上限額や総助成額には限度がありますが、適切に計画を立てれば数十万円から数百万円規模の支援を受けることも可能です。
助成率・助成限度額 | ||
---|---|---|
経費助成率 | 中小企業 | 75% |
大企業 | 60% | |
1事業所1年度あたりの助成限度額 | 1億円 |
受講者1人あたりの経費助成限度額 | ||
---|---|---|
訓練時間 | 中小企業 | 大企業 |
10時間以上100時間未満 | 30万円 | 20万円 |
100時間以上200時間未満 | 40万円 | 25万円 |
200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
新たなスキルを持つ人材の育成は、企業の競争力を高める鍵となります。リスキリングによって、事業の新展開やイノベーションを支える基盤が整います。実際に、営業職のデジタルツール活用や製造ラインの自動化研修などにより、業務効率の向上と利益拡大につながった事例も多く報告されています。
従業員にとっても「会社が成長の機会を提供してくれている」と感じることで、職場への満足度が向上します。その結果、離職率の低下や社内のエンゲージメント向上が期待できます。教育投資は人材流出防止にもつながる重要な戦略です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進には、社員一人ひとりのデジタルリテラシー向上が不可欠です。助成金を活用することで、コストを抑えつつデジタル人材の育成が可能になります。特に中小企業にとって、DX人材の確保は喫緊の課題であり、制度の活用がその第一歩となります。
助成金申請の第一歩は、研修計画の策定です。自社の事業展開に必要なスキルや研修内容を明確にし、対象となる従業員を選定します。この段階で専門家(社労士など)に相談することもおすすめです。
研修計画が整ったら、所定の「訓練実施計画届」を管轄の労働局に提出します。認定を受けてからでなければ助成対象にならないため、タイミングには注意が必要です。必要書類には、研修スケジュールや費用見積もりも含まれます。
計画に沿って研修を実施し、経費を支出します。研修の進捗や出席状況などは記録として保存しておく必要があります。費用の領収書や支払い証明も適切に管理しておきましょう。
研修終了後、一定期間内に支給申請を行います。申請内容の審査を経て、助成金が支給されるまでには1〜3ヶ月程度かかるのが一般的です。書類の不備や記録の不足があると支給が遅れることもあるため、注意が必要です。
助成金は「事前申請」が原則です。研修前に必要書類を提出していない場合、助成の対象外になります。また、申請書の記入漏れや記録ミスもトラブルの元になります。書類は必ずチェックリストに沿って準備しましょう。
趣味的な内容や、事業と無関係な研修は対象になりません。例えば、語学留学やビジネスマナー研修など、実務と関連が薄い内容はNGです。「事業展開との関連性」がキーワードです。
研修の出席記録、使用教材、経費の内訳などは、後日提出を求められる場合があります。これらを適切に保管しておかないと、助成金の返還を求められるケースもあります。社内で記録管理体制を整えておきましょう。
人材開発支援助成金の制度内容や申請要件は年度によって変更されることがあります。誤った情報で手続きを進めないためにも、厚生労働省の公式サイトで最新情報を確認することが重要です。(公式サイト:厚生労働省-人材開発支援助成金)
申請にあたっての具体的な手続きや書類の書き方については、地域の労働局やハローワークで相談可能です。地域ごとの細かな運用や審査基準についてもアドバイスを受けられるため、積極的に活用しましょう。
助成金の申請は、書類作成やスケジュール管理が煩雑になりがちです。不安がある場合は、助成金申請に精通した社会保険労務士などの専門家に相談・依頼することで、手続きのミスや漏れを防ぎ、スムーズな申請につながります。
中小企業にとって、人材の育成は事業の未来を左右する重要な投資です。「事業展開等リスキリング支援コース」を活用すれば、コストを抑えながらも戦略的にスキル習得や組織力の強化を図ることができます。申請手続きや要件には注意が必要ですが、適切に活用すれば自社の成長を後押しする強力な支援策となるでしょう。今こそ、助成金制度を有効に活用し、人材力を高める第一歩を踏み出してみませんか。
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