キャリア開発が注目される背景とは?キャリア開発による企業のメリットや進め方

公開日:2023.06.28 更新日:2023.06.28

日本の企業、特に大企業では、新卒社員が幅広い部署および業務を経験する「ジョブローテーション」が行われています。ジョブローテーションは会社の全体像の把握を容易にし、ジェネラリストの育成には効果が期待できますが、すべての社員がジェネラリストを目指すとは限りません。ジョブ型雇用で特定領域のスペシャリストとして働く社員もいるでしょう。会社が取り組むべきことは、社員のキャリア形成のサポートです。今回はキャリア開発とは何か、キャリア開発を行うことによる企業のメリットやキャリア開発の進め方についてご紹介します。

キャリア開発とは?

キャリア開発(Career Development)とは、社員一人ひとりの希望や適性、企業ニーズに合わせた中長期的なキャリアプランを立て、本人のスキルや能力を向上させようとするものです。キャリア開発はキャリア形成とも呼ばれます。キャリア開発のための仕組みが「キャリア開発プログラム(CDP: Career Development Program)」です。

キャリア開発が注目される背景

キャリア開発が注目される背景には、終身雇用の崩壊や年功序列の撤廃が挙げられます。新卒で入社して社歴を重ねるごとに給与が上がっていき、定年まで勤め上げる、という形態が当たり前だった時代は、企業主体のジョブローテーションなどによるキャリア開発が行われてきました。しかし、終身雇用や年功序列が過去のものとなった現在、社員自らが主体的にキャリア開発に取り組み、それをサポートすることが企業には求められているのです。

キャリア開発をおこなうことで得られる企業側のメリット

自律型人材の創出

株式会社リクルートマネジメントソリューションズの組織行動研究所が2020年9月に発表した「自律的に働くことに関する実態調査」によると、一般社員、管理職ともに、回答者の8割が所属企業から「自律的に働くことを期待されている」と回答しています。

キャリア開発は自律型人材の創出につながります。企業を取り巻く環境はめまぐるしく変化しており、社員も変化への柔軟な対応が求められます。会社が作成したマニュアル通りに動くのではなく、自分が置かれた状況に合わせた行動をとらなければなりません。社員が自己のキャリアを会社任せにするのではなく、主体的に決定していくことによって、社員の自律性が高まり、どのような状況下でも能動的に業務を遂行できます。

定着率向上

社員がキャリアを積めない環境は離職の原因になります。厚生労働省の「令和3年雇用動向調査結果の概況」は転職入植者が前職を辞めた理由別割合を調査しており、これによると「能力・個性・資格を生かせなかった」という理由による離職が男性で4.3%、女性で4.8%を占めています。1日の多くの時間を職場やテレワークで仕事に費やす中で、自己の成長につながらない職場は働く意義を見出しづらいと言えます。言い換えれば、キャリア開発にしっかりと取り組んでいる企業は定着率向上が期待できます。
厚生労働省の「令和2年転職者実態調査の概況」によると、転職者が現在の勤め先を選んだ理由は、「仕事の内容・職種に満足が行くから」(41.0%)が最も多く、「自分の技能・能力が活かせるから」(36.0%)、「労働条件(賃金以外)がよいから」(26.0%)、「賃金が高いから」(15.1%)と続きます。新しい職場選びに際し、労働条件や賃金よりも自分のスキルや能力を発揮できる環境を重視している点は注目に値します。

キャリア開発の進め方

キャリア開発は以下の4つのステップで進めます。

1. 社員の希望や適性の把握

面談や自己申告などにより社員の希望および適性を把握します。適性を把握する方法としては、面談や自己申告の他、業務遂行に必要なスキルを一覧にした「スキルマップ」の活用や適性検査の実施があります。

2. 経営戦略や人材計画との照合

社員の希望や適性を経営戦略や人材計画に照らし合わせ、必要な職務経験や研修内容を明確にします。

3. 異動および研修

必要な職務経験を積める部署への異動や研修の実施を行います。

4. 状況確認および軌道修正

異動先や研修の状況、本人の希望などを定期的に確認し、必要な場合は軌道修正をします。

キャリア開発の事例

厚生労働省は、キャリア形成支援について模範的な取り組みを行っている企業を表彰する「グッドキャリア企業アワード」を実施しています。ここでは、グッドキャリア企業アワード2022大賞を受賞した5社のうち、トラスコ中山と雪印メグミルクの2社の取り組みをご紹介します。

トラスコ中山株式会社

作業工具や測定工具などの工場用副資材の卸売業を展開するトラスコ中山は、ジョブローテーションによる能力開発を行っていましたが、「キャリア形成が困難である」「チャレンジの機会が少ない」という課題を抱えていました。同社はこの課題を解決するため、3つの取り組みを始めました。

1つ目の取り組みは、2022年1月に新設したHRサポート課や事業所責任者との面談の実施です。HRサポート課の社員は、面談を希望する社員や事業所責任者との面談を実施し、現場の声を参考にして人事方針や支援策を随時見直しています。

2つ目は全社員が希望部署を会社に申告する制度です。1on1面談で上司が部下の希望を尋ねてタレントマネジメントシステムに入力します。自社独自のキャリアプランシートを作成し、キャリアの振り返りや面談時の会話のきっかけが生まれました。

3つ目はエンゲージメントサーベイの実施です。教育担当の知識や感覚に頼るのではなく、データに基づく人材育成の課題の把握や研修内容の変更ができるようになりました。

雪印メグミルク株式会社

乳製品をはじめとする食品の製造・販売を手掛ける雪印メグミルクは、3つの取り組みを行っています。

1つ目はグループ人材育成の推進です。同社はOJTを中心とする人材の計画的育成・キャリア支援の他、階層別研修や専門研修を実施し、次世代リーダーの育成に力を入れています。社員アンケート調査によると、人材育成に対する社員の評価は前回調査時よりも大幅に向上しました。

2つ目は社員一人ひとりのキャリア形成支援です。同社では、全社員にキャリアデザインの冊子が配布され、年齢別のワークショップが開催されています。人生100年時代に向けてシニア社員向けのワークショップも企画中です。上司による部下のキャリア面談や社内キャリアコンサルタントのカウンセリングの機会が設けられています。

3つ目は、多様な人材が活躍できる職場づくりです。女性活躍を推進するために女性社員研修やアンコンシャスバイアスに関するセミナー、男性の育児参画を目的とする「イクメン・イクボス紹介」などを実施しています。また、年に1度、筆記試験と面接試験の結果に基づいて非正規社員を正社員に登用する機会を設けています。

まとめ

今回はキャリア開発の意味やキャリア開発に取り組むことで得られる企業側のメリットについてご紹介しました。人に仕事を割り当てる「メンバーシップ型雇用」から、仕事の内容を特定した上で人を割り当てる「ジョブ型雇用」へのシフトは、会社主体のキャリア開発から社員主体のキャリア開発への転換を意味します。社員の自律性を促すきっかけにもなるキャリア開発を、自社で取り組んでみてはいかがでしょうか。

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