DXに必要なビジネスアーキテクトとは?役割や育成ポイントを解説

公開日:2023.12.28 更新日:2023.12.28

企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が高まるにつれて注目を集め始めた職種「ビジネスアーキテクト」。職種名だけでは、どのような役割を担う人材なのかイメージしにくいかもしれません。

今回は、ビジネスアーキテクトの役割や求められるスキル・知識を解説し、ビジネスアーキテクト育成に役立つ資格や研修プログラムなどを紹介します。

ビジネスアーキテクトとは?

ビジネスアーキテクトとは企業内でどのような業務を行う人材なのか、解説します。

DXの仕組みを構築し施策を推進するデジタル人材

ビジネスアーキテクトとは、企業内でDXに取り組むにあたり、事業のビジネスモデルやビジネスプロセスなどの仕組み(アーキテクチャ)を構築して、一連のプロジェクトをリードするデジタル人材です。

DXは新規事業開発や既存事業の価値向上、社内業務の効率化などを目的として行われます。DXの目的を果たすためにはデジタル技術に関する専門的な知識・技術だけでなく、これらのスキルを活用してビジネス変革につなげる必要があるため、ビジネスアーキテクトの存在は重要視されています。

経済産業省・IPA策定の「DX推進スキル標準」

ビジネスアーキテクトは、経済産業省やIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が定める「DX推進スキル標準」において、企業のDX推進に欠かせない5つの人材類型のうちの一つです。ビジネスアーキテクトのほかにはデータサイエンティスト、サイバーセキュリティ人材、ソフトウェアエンジニア、デザイナーが挙げられています。

参考:DX推進スキル標準(DSS-P)概要(IPA)

デジタルを活用したビジネスを設計・推進する

ビジネスアーキテクトには、企業がDXに取り組む目的に合わせてデジタル技術を活用したビジネスモデル・ビジネスプロセスを設計する役割があります。また、DX推進にあたり、デジタルツールの選定や仮設検証、導入後の効果検証などプロジェクトの各工程に一貫性を持たせる役割も担います。

関係者間の協働関係を構築する

DXを実現するためにはプロジェクトに関わる人材同士が密に連携する必要があるため、ビジネスアーキテクトは関係者間で良い協働関係を築けるようにリードする役割も担います。

たとえば新しいサービスを検討する場合、ソフトウェアエンジニアとは最新技術・ツールの観点から、デザイナーとは顧客ニーズの観点からアイデアを出し、それぞれの専門領域の意見を踏まえた案を考えるのがビジネスアーキテクトの役割です。

ビジネスアーキテクトに必要なスキル・知識

DX推進においてプロジェクトをリードするビジネスアーキテクトには、ビジネス変革スキルやデータ活用スキル、テクノロジー・セキュリティ関連の知識が求められます。

ビジネス変革スキル

ビジネス変革スキルとは、企業単位や製品・サービス単位でDX(変革)を実現するために必要なスキルを指します。

たとえば、企業全体のDX推進に取り組むために重要なスキルには以下のようなものがあります。

変革マネジメント 組織の制度や業務プロセスなどに潜む変革の阻害要因を把握
して施策を講じ、多くの関係者を変革に巻き込む
プロダクトマネジメント 自社プロダクトの価値を定義して収益につなげるプロセスを
考える
システムズエンジニアリング システム開発においてさまざまな専門領域にまたがる価値を
考慮しながら全体最適を実現する
エンタープライズアーキテクチャ 企業の業務やシステムを外部環境の変化に対応できるよう
最適化する

製品・サービス単位でDXを実現するためには、以下のようなビジネス変革スキルが求められます。

ビジネス調査 ビジネスのトレンドや業界の成長性、社会課題
などを正確に把握する
ビジネスモデル設計 製品・サービスの販売経路やコスト構造などを
検討し、収益を上げる仕組みを設計する
ビジネスアナリシス 製品・サービスの理想像や現状を可視化して、
重要度が高いビジネス活動を特定する
検証(ビジネス視点) 製品・サービスの持続可能性や競争優位性を検証
する

参考:デジタルスキル標準ver.1.1|独立行政法人情報処理推進機構・経済産業省

データ活用スキル

データ活用スキルとは、DX推進において事業や顧客、組織課題などに関する情報をビジネスモデル・ビジネスプロセスの設計に役立てるスキルを指します。具体的には、統計資料やデータ分析結果を正しく読み解く力や、データ・AIを活用した課題解決策を考案する力、データをもとに導き出した解決策を実際の現場に反映する力などが求められます。

テクノロジー関連の知識

テクノロジー関連の知識とは、生成AIやIoTなど、デジタル技術を活用したビジネスモデルを考えるうえで必要な知識を指します。ビジネスアーキテクトにはテクノロジー分野における高い実践力や専門性は必要ありませんが、ソフトウェアエンジニアやデータサイエンティストなどの高度専門人材と協働するために基本的な知識は身に付けておく必要があります。

たとえば、ソフトウェア開発のプロセスや、人間とデジタルデバイスをセンサー技術でつなぐフィジカルコンピューティング技術、デジタル技術の最新トレンドなどに関する知識は重要です。

セキュリティ関連の知識

セキュリティ関連の知識とは、デジタル技術を活用したビジネスモデル・プロセスの設計において必要なサイバーセキュリティの知識を指します。DX推進のプロジェクトにおいてサイバーセキュリティ担当者がいれば、ビジネスアーキテクトにセキュリティ関連の高い専門性は求められません。しかし、担当者とスムーズに連携するために基本的な知識は身に付けておく必要があります。

特に、プライバシー保護に関する法制度や対策、サイバー攻撃や内部不正などが発生した場合のインシデント対応などに関する知識は重要になります。

企業がビジネスアーキテクトを育成するには?

ビジネスアーキテクトに求められるスキル・知識はマネジメント・データ活用・テクノロジーなどさまざまな分野に横断しているため、一つの教育プログラムだけで育成することは難しいです。DXに関連する資格の取得推進や、DX人材育成研修の実施など、複数の教育施策を並行して取り組む必要があります。

DX関連資格の取得を推進する

ビジネスアーキテクト育成施策の一つとして、ビジネスモデル構築やマネジメントに役立つDX関連資格の取得推進が考えられます。たとえば、IPAではITストラテジスト試験やプロジェクトマネージャ試験、データベーススペシャリスト試験といったIT資格試験を定期的に実施しています。

DX人材育成研修を実施する

ビジネスアーキテクト育成施策の一つとして、ビジネス戦略の考え方やマネジメントのコツなどを学べるDX人材育成研修を実施する方法も有効です。自社で育成カリキュラムを作成・実施できない場合は、外部の研修プログラムを活用する方法もあります。

ビジネスアーキテクト育成におすすめの資格

ビジネスアーキテクト育成に役立つDX関連資格・試験を6つ紹介します。

ITストラテジスト試験

ITストラテジスト試験は、IPAが実施する、企業の経営戦略に沿った事業・業務環境の調査・分析やIT戦略の策定・評価に関する能力を問う資格試験です。試験は年1回、春期に実施されます。2023年度春期の合格率は15.5%で、難易度が高い試験と言えます。

参考:ITストラテジスト試験|独立行政法人情報処理推進機構

考:統計情報(応用情報技術者試験、高度試験、情報処理安全確保支援士試験) 統計資料(令和5年度)|独立行政法人情報処理推進機構

ITコーディネータ試験

ITコーディネーター試験は、特定非営利活動法人ITコーディネータ協会が運営する、IT経営・業務改革プロセス・IT利活用プロセスなどの知識を問う資格試験です。ITコーディネーター試験は年に2回、CBT方式(Computer Based Testing:コンピュータを用いて行う試験方式)で各期間50日程度実施されます。試験の合格率は60~70%前後です。

参考:ITCとは|特定非営利活動法人ITコーディネータ協会

プロジェクトマネージャ試験

プロジェクトマネージャ試験は、IPAが実施する、ITプロジェクトの計画作成・調整やチームマネジメントに関する能力を問う資格試験です。試験は年1回、秋期に実施されます。2022年度秋期の合格率は14.1%で、難易度が高い試験と言えます。

参考:プロジェクトマネージャ試験|独立行政法人情報処理推進機構

参考:統計情報(応用情報技術者試験、高度試験、情報処理安全確保支援士試験) 統計資料(令和5年度)|独立行政法人情報処理推進機構

データベーススペシャリスト試験

データベーススペシャリスト試験は、IPAが実施する、データ資源管理やデータベースシステムの開発・運用・保守などに関する能力を問う資格試験です。試験は年1回、秋期に実施されます。2022年度秋期の合格率は17.6%で、難易度が高い試験と言えます。

参考:データベーススペシャリスト試験|独立行政法人情報処理推進機構

参考:統計情報(応用情報技術者試験、高度試験、情報処理安全確保支援士試験) 統計資料(令和5年度)|独立行政法人情報処理推進機構

PfMP®︎

PfMP®︎(Portfolio Management Professional )は、プロジェクトマネジメント協会(Project Management Institute)が認定している、ポートフォリオマネジメント(経営資源の最適な配分)の能力を証明する国際資格です。資格試験を受けるためには過去15年間で96ヶ月以上のビジネス経験や48ヶ月以上のポートフォリオマネジメント経験が必要(大卒者の場合)で、試験問題も英語で出題されることから、日本人にとってはかなり取得難易度が高い資格と言えます。

参考:Portfolio Management Professional (PfMP)®|Project Management Institute

TOGAF®︎標準

-TOGAF®︎標準

TOGAF®標準は、オープン・グループ(THE Open GLOUP)が認定している、エンタープライズアーキテクチャ(組織の業務やシステムを全体最適化し、顧客ニーズや社会変化に対応するフレームワーク)に関する国際資格です。資格を取得するには、オープン・グループが実施する4日間の研修コースの受講と認証テスト合格が必要になります。

参考:TOGAF®標準|オープン・グループ・ジャパン

ビジネスアーキテクト育成におすすめの研修

ビジネスアーキテクト育成におすすめの研修

ビジネスアーキテクト育成に役立つDX人材育成研修を4つ紹介します。

リスクマネジメント研修

リスクマネジメント研修では、業務におけるリスクの洗い出し方や予防策、リスクが顕在化した場合の対応策などを学ぶことができます。ビジネスアーキテクトはDX推進施策を推進する役割を担うため、リスクマネジメント研修の受講により、プロジェクトの進行を妨げる要素を把握し適切に対処できるようになると期待できます。

参考:リスクマネジメント研修~未然に防ぐ方法を学ぶ - 公開講座|インソース

ステークホルダーマネジメント研修

ステークホルダーマネジメント研修では、社内外の関係者と信頼関係を築くコツや調整者としてのリーダーシップの在り方など学ぶことができます。ビジネスアーキテクトにはDX推進に関わる多くの人材と協働関係を築く役割があるため、ステークホルダーマネジメント研修によってプロジェクト推進力アップにつながると期待できます。

参考:調整力発揮研修~ステークホルダーマネジメント編(1日間)|インソース

システムズエンジニアリング研修

システムズエンジニアリング研修では、システム開発や新規事業開発において、さまざまな専門領域にまたがる価値を考慮しながら全体最適を実現する「システムズエンジニアリング」の概念や有効性などを学びます。ビジネスモデル・プロセスを構築するビジネスアーキテクトにとって、システムズエンジニアリングのアプローチはさまざまな想定リスクに備えた企画の立案を助けてくれます。

参考:システムズエンジニアリング入門講座 | 株式会社豆蔵

参考:システムズエンジニアリング入門|インソース

ビジネスフレームワーク研修

ビジネスフレームワーク研修では、MECEやPEST分析など、課題解決や自社・市場の分析に役立つフレームワークの使い方を学びます。ビジネスアーキテクトはDX推進において製品・サービスの事業戦略を考える役割を担うため、ビジネスフレームワークを理解しておけばプロジェクトを多方面から俯瞰的に捉えられるようになると期待できます。

参考:ビジネスフレームワーク研修~戦略立案・企業分析で使えるツールを習得する(1日間)|インソース

まとめ

ビジネスアーキテクトは、DX推進においてビジネスモデルやビジネスプロセスなどの仕組みを構築する人材です。ビジネス変革スキルやデータ活用スキル、テクノロジー・セキュリティ関連の知識などが求められます。ビジネスアーキテクトの育成には、ITストラテジストやITコーディネータなどのDX関連資格取得を進める、リスクマネジメント研修やステークホルダーマネジメント研修などのDX人材育成研修を実施するなどの取り組みが必要です。


本記事ではビジネスアーキテクトについて解説しましたが、リスキリングナビではデジタル人材育成やリスキリングなど、さまざまなキーワードのコラムを掲載しています。ぜひ、あわせてご覧ください。

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