総務省が発表した「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」の中でデジタル人材の育成が課題に挙げられるなど、デジタル化に向けた職員のリスキリングの重要性が高まっています。
そこで今回は、自治体が取り組むべきリスキリングの内容や他自治体の先行事例などを紹介します。
目次
まず、各自治体が職員のリスキリングに取り組むべき理由を解説します。
自治体による職員のリスキリングが重要視される理由の一つとして、デジタル化による行政サービスの利便性向上が挙げられます。
たとえば北海道北見市では、役所の窓口手続きをデジタル化する「書かないワンストップ窓口」という取り組みを実施しています。住民の同意の下、職員が要件を聞き取りながら受付システムに入力して申請書を作成するため、住民は書類にサインをするだけで済みます。また、複数の書類作成が必要な場合でも最初に入力した個人データを転用できるため、住民にとっては同じ内容を何回も記入する手間が省けたり窓口を何個も回らなくて済んだりします。
この取り組みにより、北見市の来庁者の手続き時間は届出1件あたり2分、証明書交付1件あたり3分短縮されました。
上記のように行政サービスのDXを進めるためにはシステムやデジタルツールを使いこなせる人材が必要であり、リスキリングによる職員のDXリテラシー向上が重要となります。
参考:書かないワンストップ窓口|デジタル田園都市国家構想(内閣官房)
自治体が職員のリスキリングに取り組み組織のDXが進むと、業務が効率化され人的資源の有効活用にもつながります。
上記の北海道北見市の例でも、ワンストップ窓口の導入によって一部の申請手続きの自動化や重複作業の削減が実現し、サービスの利便性向上だけでなく職員の業務負担の軽減にも成功しました。たとえば、自動処理した証明発行件数は窓口受付分の約70%にあたる年間7万2,000件に上っています。
デジタル化により業務が効率化されれば、職員は住民とのコミュニケーションや他職員の業務のサポートなど、より時間と労力を割くべき重要な業務に集中できるようになります。
参考:書かないワンストップ窓口|デジタル田園都市国家構想(内閣官房)
自治体のDXや職員のリスキリングに取り組むコミュニティの一つに「全国自治体リスキリングネットワーク」があります。
以下では、同コミュニティの概要や特徴を紹介します。
全国自治体リスキリングネットワークは、DX人材育成に取り組む自治体が、それぞれの実施内容やノウハウを共有する参加形コミュニティです。株式会社ベネッセコーポレーションが全国の45の自治体とともに2023年5月に発足しました。
2021年に同社が自治体を対象に調査した結果、「部門や職員によってIT知識に差異があり、話を進めるのが難しい/話を進めるのに時間がかかる」「DXと言ってもどこから手を付けて良いのかわからない」など、多くの自治体が共通の課題を抱えていることがわかりました。
そこで自治体同士の横のつながりをつくり、定期的に情報交換できる場として全国自治体リスキリングネットワークが誕生したのです。
参考:全国自治体リスキリングネットワーク|株式会社ベネッセコーポレーション
参考:行政DX通信2021 Vol.01|株式会社ベネッセコーポレーション
全国自治体リスキリングネットワークでは、参加自治体に対してメールマガジンを通して専門家のセミナーレポートや取材記事が配信されるため、DXの最新情報や先進自治体の成功事例などを知ることができます。
また、参加自治体が各々の取り組みを共有する定期共有会も半期に一度開催されています。
参考:全国自治体リスキリングネットワーク|株式会社ベネッセコーポレーション
自治体が取り組むべき職員のリスキリング施策としては、DX推進リーダーの育成や一般職員のDXリテラシー向上などが挙げられます。
総務省が発表した自治体のDX推進計画では、積極的に取り組むべき人材育成施策としてDX推進リーダーの育成が挙げられています。
DX推進リーダーとは、デジタル分野の専門知識を持ち、デジタル技術・ICTなどに精通した高度専門人材や一般職員と連携してプロジェクトの中核として施策を進められる人材です。施策の目的に合わせてデジタルツールを活用できる、要件をまとめて高度専門人材に発注できるなどの能力が求められます。
DX推進リーダーを育成するには、研修や定期的な面談などを通してデジタル知識とリーダーとしてのマインドセットの両方を身につけられるカリキュラムが必要です。
参考:自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第2.1版】|総務省
組織全体にデジタル活用を浸透させるためには、一部の専門人材の育成だけでなく、一般職員のDXリテラシー向上も重要になります。
DXリテラシーとは、AIやクラウドなどのデジタル技術に関する知識やデータツールの使い方だけでなく、デジタル技術を用いた組織改革の方法や、DXに取り組むべき社会的な背景なども含めて理解している状態を指します。また、常識にとらわれない発想や変化への適応などのマインド・スタンスもDXリテラシーの重要な要素です。
職員にDXリテラシーを身につけてもらうためには、資格取得の推進や勉強会などを通してデジタルスキル習得を促す、他自治体の事例を参考にDXの方針を考えるワークを行うなどの取り組みが必要です。
2021年3月に「福井県DX推進プログラム」を策定した福井県は、デジタルを前提とした課題解決や組織の意識改革を目指し、デジタル人材の育成プログラムを整理しました。
整理したプログラムでは、マネジメント層、リーダー層、一般職員などの役職区分ごとに保有すべきスキル・知識や必須研修が設定されています。研修の受講状況やDXの実践状況はダッシュボードで可視化され、所属単位で評価する仕組みを採用して職員の行動を促しています。
参考:自治体DX推進参考事例集【2.人材育成・確保】|総務省
愛知県豊田市はデジタル人材の育成を目的に、AI勉強会やデジタルツールの研修会を開催する、ITパスポートの勉強方法や資格合格者のインタビューを庁内のWEBに掲載するなど、個人のデジタルスキルを伸ばす取り組みを多数実施しています。また、情報部門職員に対しては情報処理技術者試験の取得も推進しています。
同市の取り組みは2022年に開催された「第1回日経自治体DXアワード」(共催:日経デジタルフォーラム、自治体DX白書)でデジタル人材育成部門の部門賞を獲得しました。
参考:自治体DX推進参考事例集【2.人材育成・確保】|総務省
参考:報道発表資料 豊田市が「第1回日経自治体DXアワード」で2つの部門賞を受賞|愛知県豊田市
茨城県つくば市は高いデータリテラシーを持つ人材の育成に力を入れており、人事課が作成する職員研修計画にデータ利活用研修を組み込み、一定の職層になると必ず研修を受ける仕組みを採用しています。同市は、2030年までに全職員約2,000人の受講を目標としています。
データ利活用研修の内容は職層によって分けており、主事級・主任級、主査級など実務にあたる職員にはデータ理解やデータツールの使用方法について学んでもらい、管理職員には部下のデータ利活用のバックアップができるようなプログラムが組まれています。
参考:自治体DX推進参考事例集【2.人材育成・確保】|総務省
社会のデジタル化が進む中で、DXに取り組む自治体では職員のリスキリングが組織課題の一つとなっています。具体的な取り組みとしてはDX推進リーダーの育成やDXリテラシーの向上などが挙げられます。他自治体の先行事例を参考にしながら組織のリスキリングの方向性を検討してみましょう。
リスキリングナビでは、本記事の他にも自治体やDX、リスキリングに関するコラムを多数掲載しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
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