申請よりもまず宣言。190社を超える企業が取り組む、広島県独自のリスキリング支援施策の全貌とは。

公開日:2023.08.22 更新日:2023.10.31

岸田政権の「新しい資本主義」の中核を担う施策として注目を浴びるリスキリング支援の推進、各地方自治体でも独自の取り組みが生まれている。中でもものづくり分野の企業を多く抱える広島県では企業のリスキリングについて独自の支援を行っている。今回は、広島県産業人材課リスキリング支援グループの濵中 俊典(はまなか としのり)氏に、広島県がリスキリングに注力する理由や、支援施策の全貌を伺った。

取材対象者

濵中 俊典

広島県庁 商工労働局産業人材課  主査(リスキリング支援グループリーダー)

2007年入庁。
商工労働総務課、民間派遣、職業能力開発課等を経て、2022年より現職。主に広島県内企業のリスキリング推進支援を担当。

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「申請する前に宣言してもらう」行動ファーストのコミュニティを醸成

広島県では、将来が見据えにくい時代の重要な人材確保、生産性向上の手段としてのリスキリングを推奨支援している。同県が支援の取り組みを始めたのは2022年4月、広島県リスキリング推進検討協議会を発足させた。


県内外の有識者を招聘した協議会で、取得すべきスキルの検討や学び方、制度などの環境整備を行うことと併せて、リスキリングの機運醸成の一手目として始めたのが「広島県リスキリング推進宣言制度」だ。


「従来、行政の宣言制度は認定基準を達成した企業が行うものなのですが、今回のリスキリング推進宣言については、企業が自由に宣言して良いと定めています。むしろ、まず企業のHPなどでまず情報を開示してください、その上で県に申請書を提出してください、という順番にしています。企業が自らの責任で、まずオープンに発信することが重要だと考えました。」(濵中氏)


推進宣言を行うことで、県では以下4つのメリットが享受できると説明する。

参照元:広島県リスキリング推進宣言

「金銭的なメリットはもちろんのこと、人材育成に取り組む中で発生する課題を乗り越えるためのコミュニティに参加できることがインセンティブになるようにしたいと考えています。実際、過去に県で実施した研修事業で参加企業同士のグループワークを設けた際に、横のつながりができ、前向きな反響をいただいたことから、企業同士のコミュニティでリスキリングに取り組む、というテーマに期待しています。」

ITリテラシーを持った世代が入社する前に、地盤整備を

他にも広島県では、国の人材開発支援助成金を活用する場合の申請事務等を、社会保険労務士等に業務委託する経費を補助する「人材開発支援助成金活用支援補助金」やITパスポート取得支援補助金、リスキリングの機運醸成のためのイベント企画などを行っている。ITパスポートについては、資格取得が目的化されるケースも散見され、事業成果につながらないのではといった声もあるが、濵中氏は、今後新しい世代が県内企業に入社した際のデジタルリテラシーのギャップ発生が大きな課題となる点を指摘する。


「義務教育、高等教育で情報科目が必須になり、ある程度デジタルリテラシーを身につけた世代がもう数年すると県内企業に入社します。そんな中、そもそもIT化が遅れた職場は選ばれづらいでしょうし、入社後も社内で議論が噛み合わないといったことが起きてくるのでないかと懸念しています。まずはそういった格差をなくすことを目的に、従業員のリテラシー習得状況が把握しやすいよう、国家資格であるITパスポートの取得を支援しています。」


実際に、ITパスポートの取得を推進する県内企業からは、これまでデジタルツールの導入にあたり、分かる人だけが発言し、他の人は黙っている状況だったのが、打ち合わせの場でも議論に積極参加できるようになったという声が上がっている。

“宣言企業”は190社超え。今後は実践支援に注力していく

県の精力的な広報活動もあり、広島県リスキリング推進宣言制度の企業数は初年度105社(目標100社)、2年目の本年度は191社(2023年8月8日時点)と順調に数を増やしている。濵中氏曰く、実際に県内企業に宣言制度の話をして回ると、良い意味で期待と異なる回答をもらうことがあるそうだ。


「最初は、新しいテーマなので比較的大企業中心の取り組みになるかと考えていたのですが、小規模な企業もスピード感を持って取り組んでいただけることが良い意味での驚きでした。背景として、リスキリング自体の必要性を理解してもらえないことがほとんどないことが大きいです。「これは必要だよね」とか「今までやってきたことを生かせるかも」というお声をいただくことも多々あります。」


県内の中心産業である自動車や造船は多くの取引事業者が存在するため、リーダー企業が実施し始めると、他企業に広まるまでのスピードが速いという事例もあるようだ。


順調に宣言企業が増えてきたことで、今後の支援テーマは実践支援に移っていく。県内企業が行政に求めるものを汲み取りつつ、課題を一緒に乗り越えていくためのコミュニティを作っていくことが次の一歩になる。


「リスキリングは新しいテーマのため、企業の中でも試行錯誤しながら取り組んでいる部分があります。学習時間の確保や、何をどう学んだら良いかの明確化など、民間企業とも連携して支援をしていきたいと考えています。」

広島県×リスキリングナビの取り組み

2023年8月22日プレスリリース 「企業のリスキリングを支援するリスキリングナビが広島県と連携。県内企業のリスキリング支援を共同で推進。」


2023年10月11日プレスリリース【広島県 × リスキリングナビ共同調査】「広島県リスキリング推進宣言」企業向け、人材育成調査結果レポート〜ITリテラシーを中心とした全社底上げが中心で、配置転換を伴うリスキリングは少数という結果に〜


【広島県×リスキリングナビ】広島県リスキリング推進宣言企業向け専用プログラム

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