自治体DXをわかりやすく解説!現状の課題や事例8選を紹介

公開日:2023.04.28 更新日:2023.10.04

「自治体DXとは?」「自治体DXの現状や課題点は?」などと気になっていませんか?


近年、企業だけでなく自治体においてもDXの推進に向けた動きが見受けられます。総務省も「自治体DX推進計画」を策定し、デジタル技術やAIを活用した業務効率化を目指しています。

ただし、DX推進を実施するには技術者不足や情報セキュリティリスクなどの問題点もあります。そのため、導入前には他の取り組みを参考にしながら進めることが大切です。


本記事では、自治体DXの詳細をまとめつつ、現状や課題点について解説しています。自治体のDX推進に向けて総務省が策定した計画の概要や導入事例もまとめています。ぜひ参考にしてください。

「自治体DX」とは?

自治体DXとは、自治体(地方公共団体)のデジタルトランスフォーメーション(DX)を指します。自治体が最新のデジタル技術を活用し、サービス向上や業務効率化などを目的とした取り組みです。

たとえば、公共サービスの提供や事業運営、情報共有などをデジタルツールを活用して行います。スマートフォンやインターネットなどのデジタルツールを活用すれば、情報管理もしやすくなるでしょう。


昨今、自治体のDXの取り組みを日常の中で実感している方も多いのではないでしょうか。

自治体DXが求められる背景

自治体DXが求められる背景として考えられる理由は、大きく分けて以下の5つです。


  • 多くのサービスを求める地域社会のニーズに対応するため
  • 手続きや処理を自動化し、効率的なサービスを提供するため
  • 情報共有や連携をスムーズにし、より良いサービスを提供するため
  • 産業やビジネスの促進を目指すため
  • 公共サービスをスマート化し、便利で高品質なサービスを提供するため


自治体DXが必要とされる背景には、少子高齢化問題や新型コロナウイルスが関係しています。少子高齢化によって役所の職員が足りなくなれば、将来的にアナログシステムでは対応できなくなるという問題点が出てきたのです。


また、新型コロナウイルスによって組織間でのデータ管理やネットワーク化が求められました。しかし、自治体のほとんどがオンラインに対応していなかったため、自治体のDX推進が叫ばれるようになったのです。

自治体DX推進によって解決できる課題

自治体DXを推進することで、次に挙げる課題の解決が期待できます。


  • 人手不足の解消
  • アナログ文化の解消
  • 労働環境の改善
  • 提供するサービスの質の改善


それぞれ詳しく解説します。

人手不足の解消

自治体DXを推進することで業務効率化を図れるため、人手不足を解消できます。


地方公務員の職員数は、ピーク時と比較して減少しているのが現状です。総務省によると地方公務員の総職員数は、1994年(平成6年)に328万2,000人でしたが、2022年(令和4年)4月1日時点で280万3,664人とピーク時から48万人減少しています。


予算が限られ、潤沢に人材を確保するのが難しい地方自治体によって、自治体DXの推進は人手不足解消の起爆剤となる可能性があるでしょう。

アナログ文化の解消

地方自治体に根強く残るのが、アナログ文化です。一般社会ではオンラインでの手続きが普及していますが、地方自治体の多くではいまだに紙ベースでの手続きが必要になり、行政サービスの利用者だけでなく、職員も不便に感じている場合があります。


行政手続きや対応業務にデジタル技術を導入することで、行政サービスが利用しやすくなる他、職員の業務効率化につながるでしょう。

労働環境の改善

人手不足に加えて、ライフスタイルの多様化によって、地方自治体での業務量は増加傾向にあります。たとえば、新型コロナウイルス感染症が拡大した際には、感染対策や経済支援、子育て支援など、さまざまな業務が増加しました。


今後の行政の方針や経済などの情勢によって、地方自治体の業務量はさらに増加する可能性があります。自治体DXを導入することで業務効率化が図れるため、限られた人員でも業務を円滑に処理できるようになる他、増加する業務に対応しやすくなるでしょう。

提供するサービスの質の改善

住民が行政に対して求めるサービスが多様化しており、地方自治体は住民の幅広いニーズに応える必要があります。


しかし、前述のようなアナログ文化が継続されている状況では、スピーディーな対応はもちろん、どのような要望があるのか集計するために時間や手間がかかってしまうため、住民が満足するサービスを提供するのは難しいといわざるを得ません。


自治体DXを推進することによって業務効率化やデジタル技術の導入が進む他、住民の要望をデータ化運用できるようになるため、質の高い行政サービスを提供できるようになります。

自治体DXの現状と推進における課題

自治体DXの推進が求められる中、導入には大きな課題もあります。ここでは、自治体DXの現状をまとめつつ、課題点を見ていきましょう。

 自治体DXの現状

デジタル技術の普及や技術の進歩により、企業だけでなく自治体への導入も増えてきています。デジタル人材の採用にも力を入れ始めており、アナログ文化の脱却を目指しているのが現状です。

デジタル技術を活用すれば公共サービスの質が向上し、より多くのサービスを提供できるようになります。DXに必要なスキルを習得した優秀な人物が増えれば、さらなる業務効率化が期待できるでしょう。

自治体DX推進における課題

自治体のDXを進めていくならば、以下の課題に向き合う必要があります。


  • コストの高さや人材不足
  • 地域格差の拡大
  • 技術者不足
  • 情報セキュリティリスク


自治体には予算や人材などの制限があり、最新の技術をすぐに導入できない場合も多くあります。デジタル技術の導入には高額な費用がかかるケースもあるため、地域によっては導入が遅れる傾向にあります。


他にも、デジタル技術を活用するには専門的な技術者が必要ですが、対応できる人材は十分ではありません。デジタル技術が発展する一方で情報漏洩リスクの高まりも懸念されるため、慎重にDXを進める必要があります。

総務省が策定した「自治体DX推進計画」とは

総務省はデジタル社会の実現に向けて、「自治体DX推進計画」の策定を行いました。自治体DX推進計画は住所や性別、年齢などに関係なく、全ての国民が安心して暮らせるデジタル社会の実現を目標とした取り組みです。


対象期間は2021年1月〜2026年3月となっており、2020年12月に総務省は以下の6つの重点取組事項を明示しました。


  • 自治体の情報システムの標準化・共通化
  • マイナンバーカードの普及促進
  • 自治体の行政手続のオンライン化
  • 自治体のAI・RPAの利用促進
  • テレワークの推進
  • セキュリティ対策の徹底

参照:自治体DX推進計画概要


それぞれ詳しく解説します。

自治体の情報システムの標準化・共通化

現時点において、自治体ごとに情報システムがバラバラであることが問題視されています。システム統一のため、2025年までに新システム「Gov-Cloud(ガバメントクラウド)」への移行を目標としています。

参照:「地方自治体によるガバメントクラウドの活用について(案)」(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室

国民年金や健康保険、税務手続きといった基幹系17業務を同一化することで作業効率化を可能とします。システムが標準化・共通化すれば、職員の手入力による人的ミスも起こりにくくなるでしょう。

マイナンバーカードの普及促進

マイナンバーカードの普及促進も計画の一環です。全体像が掴みにくいと言われているマイナンバーカードですが、所有していると以下のメリットがあります。


  • 住民票の写しや印鑑登録証明をコンビニで印刷可能
  • 確定申告や児童手当、保育所の入所手続きがオンライン上で可能
  • 健康保険証としての利用が可能


マイナンバーカードの必要性を感じなかったり、情報漏洩のリスクを心配する人も少なくありませんが、さまざまな施策により普及率は伸びてきています。今後は健康保険証だけでなく運転免許証としての利用も検討されているため、促進活動はさらに加速していくでしょう。

自治体の行政手続のオンライン化

全国にある市区町村によって、行政手続きのオンライン化が推奨されています。近年dでは、オンラインによる転出届・転入予約ができるようマイナポータルの改修が行われました。


また、マイナンバーカードの利便性向上を目指し、オンライン手続きを可能とするための準備も進めています。行政手続きを全てオンライン上で完結させられるように、今後も優先的に進められることでしょう。

自治体のAI・RPAの利用促進

「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」や 「自治体におけるRPA 導入ガイドブック」を元に、総務省は自治体へのAI・RPAの利用促進を促しています。AIは人工知能を意味し、RPAはAIや人間に代わって実施できるルールエンジンを活用し、業務を代行・代替する取り組みです。


ガイドブックを読むだけで導入方法が理解できるため、業務の作業効率化も期待できます。DXが進み、すでにAIやRPAを導入している企業も増えています。自治体での本格導入もさらに進んでいくでしょう。

参照:「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」(総務省)

参照:「自治体におけるRPA 導入ガイドブック」(総務省)

テレワークの推進

自治体によっては、在宅勤務だけでなくサテライトオフィスでの勤務やモバイルワーク導入の動きが見られます。情報システムの標準化・共通化により、働き方だけでなく働く時間の見直しも行われています。

業務見直しをきっかけとして、テレワークによる業務拡大が期待されています。

セキュリティ対策の徹底

新しい働き方が導入されるにあたり、セキュリティ対策に気をつけなくてはいけません。新システム「Gov-Cloud(ガバメントクラウド)」の移行に向けて、システムエラーが起きないための準備を進めている段階です。

また、総務省は情報セキュリティは自治体が主体となって策定するものと定義しています。「情報セキュリティポリシーガイドライン」に従い、セキュリティ対策を徹底する必要があります。

参照:「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和4年3月版)」(総務省)

総務省が策定した「自治体DX推進手順書」とは

総務省では2022年11月から「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」を開催しており、「地方公共団体情報システム標準化基本方針」などを踏まえた「自治体DX推進手順書」を策定しました。


これは、2020年に発表された自治体DX推進計画をもとに、それぞれの自治体がDX推進に取り組むための手順などが示されたものです。

なお、自治体DX推進手順書は、次の4つから構成されています。


  • 自治体DX全体手順書
  • 自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書
  • 自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書
  • 自治体DX推進手順書参考事例集

自治体DX全体手順書

自治体がDXを推進する際に、現状想定される手順を示したものが「自治体DX全体手順書」です。総務省が策定したDX推進計画での「自治体におけるDX推進体制の構築」に対応しています。

先行してDXを推進している自治体の事例が示されている他、各自治体の状況に応じてDXを推進する際の参考として活用できるようになっているのが特徴です。


具体的には、DX推進の手順ごとの詳細や、DXを推進するための外部人材を採用する場合の標準的なスキルのイメージ(スキル標準)、外部人材確保のための支援の枠組みについての説明などが記載されています。

自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書

標準準拠システムへの円滑な移行ができるよう、各自治体で共通すると思われる自治体情報システムの標準化・共通化の作業手順を示したのが「自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書」です。


総務省は、各自治体に対してこの手順書を参考にしながら、システムの現状を把握して、設定された目標時期までのシステム移行に向けて、計画的に取り組むよう求めています。

自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書

行政手続きのオンライン化に対して着実に取り組めるよう手順を示したのが「自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書」です。


具体的には、自治体での行政手続きのオンライン化の取り組み方針や自治体での作業手順、標準的なシステム構成例、国の主な支援策などが示されています。

自治体DX推進手順書参考事例集

自治体DX全体手順書に示された「DX推進の手順」での4つのステップに関して、各自治体が実際に実施した取り組みを紹介しているのが、「自治体DX推進手順参考事例集」です。


さまざまな取り組みについて紹介されている他、今後はデジタル人材を確保・育成するための事例集も作成される予定になっています。

自治体DXの事例8選

最後に、自治体DXの事例を紹介していきます。DX導入を検討する際には参考にしてみてください。

窓口手続きのデジタル化

北海道や宮城県の自治体の中には、窓口手続きのデジタル化が進んでいるところもあります。市役所のバックヤードや窓口での手続きをシステム化した取り組みです。


これまで窓口で作成していた申請書をデジタル書類として作成し、内容が確認できたら申請完了となります。デジタル化のおかげで、窓口で待たされる住民の負担がなくなり、自治体の業務効率化が実現しました。

AIによるチャットや電話での自動対応

住民からの質問に対して、AIがチャットや電話で自動対応を行うという取り組みも各自治体で実施されています。日々の業務において多くの自治体職員が電話対応に追われています。


しかし、AIによるチャットや電話での自動対応を取り入れたことで、応対業務が少なくなり、作業の効率化に成功しています。また、AIであれば24時間365日いつでも対応できるため、不在の場合でも対応を完了させることができます。

出勤簿廃止・勤怠管理システムの導入でテレワークを促進

京都府や愛媛県の自治体では、テレワーク促進のため出勤簿廃止・勤怠管理システムの導入を実施しています。従来は紙の出勤簿を活用していましたが、新型コロナウィルスの影響もあり勤怠管理システムが必要となりました。


システムを導入したことで残業や遅刻、有給の取得回数を把握しやすくなり、給与の計算も簡略化されています。各職員の出勤状況の確認が容易になると共に紙への記入も必要なくなり、ペーパーレス化にもつながりました。

行政事務のペーパーレス化

愛知県瀬戸市では電子決済機能付きの文書管理システムを全庁で運用し、行政事務のペーパーレス化を目指しています。


また、事務業務の効率化や文書管理体制の強化、ライフサイクルの厳格化を目指して、行政文書をファイリングシステムで管理することを決定。将来的な文書の電子管理・電子決済への完全移行を目標としています。

プレミアム商品券の電子化によるコスト削減

神奈川県平塚市では、2020年度からプレミアム商品券を電子化しました。

これにより、事業規模は約8億円から約15億円と倍増したものの、事務経費を1億4,800万円から5,400万円まで削減することに成功しています。また、電子化によってユーザーの消費行動のデータ化が可能になり、データ分析から施策の評価・企画立案がしやすくなるなどの効果が生まれました。

議事録作成支援システムの導入による議事録作成時間の削減

大阪府東大阪市では、議事録作成支援システムを導入し、議事録作成時間の削減に成功しています。

本来の議事録作成では、繰り返し音声を聞き直す必要があり、議事録作成まで会議時間の3~8倍の作業が必要でした。AIを活用した議事録作成支援システムを導入することで、議事録作成に係る時間を約3割削減できており、業務効率化を達成しています。

学童保育関係手続のオンライン化

広島県呉市では、行政手続のオンライン化をスモールスタートさせるために、学童保育の入会・変更などの手続きをオンライン化しました。

2021年度からオンライン化を開始したところ、ほぼ全ての保護者がオンライン申請を行い、各施設での受付事務がゼロになったとのことです。


利用者からも「書類提出のために児童館へ行かなくてもよくなったので便利」「手続きのために仕事を休む必要がないのでよかった」との声が聞かれています。

録画形式でのデジタル面接の導入

宮崎県都城市では、職員選考にお置いて録画形式のデジタル面接を導入しています。

職員へ応募した場合、本来は2次面接で対面面接を行っていましたが、事前に質問を収録した映像ファイルを応募者に送付することで、応募者の都合の良いタイミングでの受験が可能になりました。


また、映像ファイルの冒頭に市長がメッセージを挿入することで、全ての応募者に直接アピールできるようになったほか、選考を行う職員の負担も軽減したとのことです。

受験者からの評判も良く、好きな時間に受験できたことや、面接のための日程調整が不要になったことを評価する声が集まりました。

まとめ

近年、企業だけでなく自治体におけるDXの推進に向けた動きが加速しており、総務省は「自治体DX推進計画」を策定し、デジタル技術やAIを活用した業務効率化を目指しています。


導入にはいくつか課題もあるため、他の取り組みなどを参考にしながら進めると良いでしょう。ぜひ本記事にまとめた事例を参考にしながら、自治体のDX推進を目指してみてください。


また、DXと同じように昨今注目を集めているキーワードのひとつにリスキリングがあります。以下のコラムでは広島県が取り組むリスキリング支援施作についてご紹介しています。ぜひ、こちらもご覧ください。

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