近年、経済産業省が大掛かりに推進を行う「リスキリング」。
2022年10月の閣議決定にも「リスキリングの支援」が明記されたことは記憶に新しく、「DX」とともにますます重要なキーワードになってきています。
しかし、「リスキリングを耳にしたことはあるが、意味はよく知らない」という方もまだ多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、リスキリングの意味やメリット、具体的な取り組みについて解説します!
目次
経済産業省の説明によれば、リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」。
言い換えれば、「新しく必要になったスキルを学ぶ・学ばせる」ということです。
昨今では、ビジネス環境のデジタル化とともに、社会人としてのデジタルスキルの必要性も多く叫ばれるようになりました。そのため、リスキリングは企業の「DX」戦略の一部として耳にすることも多い言葉でしょう。
デジタル化はもとより、リスキリングとは「今はその会社に存在しない全く新しい職務やスキル」を「全社をあげて」キャッチアップするための取り組みを指します。つまり「企業の価値創造の全プロセスを変化させ得る取り組み」であり、その点が既存のOJTや役職別研修とは根本的に異なる概念なのです。
リスキリングは日本国内だけでなく海外でも重要視されており、米国をはじめ世界中でますます多くの企業が推進しています。
なぜ現在、リスキリングが注目されているのでしょうか?
それには、このような2つの大きな理由があります。
それぞれの理由について、詳しく解説していきます。
リスキリングが注目を集める第一の理由は、前述した通り「企業のDX推進が加速していること」です。
さまざまな産業において急速にデジタル技術の導入が進んだことで、仕事の進め方が大幅に変わったり、新しい職業が生まれたり、という現象は既に起こっています。今後も、加速度的に進んでいくでしょう。
一例として、アメリカ通信大手AT&Tは、2008年時点で「25万人の従業員のうち、未来の事業に必要なスキルを持つ人は半数に過ぎ」ないことを表明、そこから2020年までの間に10億ドルもの巨額を投資し10万人を対象にリスキリングを実行しました。
日本でも、岸田政権が「新しい資本主義」の一部として国を挙げて企業のDX推進を行っているので、DX推進人材やデジタル人材の需要はますます高まっていくでしょう。自社の未来のために「本格的にリスキリングに取り組まなければならない」と考える人事や経営陣の方々が増えているのもうなずけます。
「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策の効果」(内閣府)を加工して作成
リスキリングが注目されている2つ目の理由は、「コロナ禍による働き方の変化」です。コロナ禍により、多くの企業で以下のような変化が起こりました。
特にリモートワークは、業務のデジタル化を推し進める大きな要因となり、多くの人々が新しい業務の進め方を学ぶことを余儀なくされたはずです。
また、これらの変化が業務の効率化をもたらし、複数の企業で異なる職務をもつ人が増加したことも大きな要因となりました。
政府は副業の解禁やジョブ型雇用の推進を行っており、スキルを持つ人材が必要な仕事を得られるような社会基盤ができつつあります。そのため裏を返せば、企業にとっては優秀な人材の確保のために、リスキリングへの取り組みが不可欠になってきているのです。
リスキル講座(第四次産業革命スキル習得講座認定制度)とは、「IT・データを中心とした将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野において、社会人が高度な専門性を身に付けキャリアアップを図る、専門的・実践的な教育訓練講座を経済産業大臣が認定する制度」。
つまり、役に立つ専門ITスキルの講座に、経済産業大臣がお墨付きを与える仕組みのことです。
大きな特徴は、一部の講座が既存の教育訓練支援制度を通して受けられるという点。厚生労働大臣の指定を受けた認定講座については、以下の2種類の補助金が使えます。
人材開発支援助成金の制度では、経費の助成を45%(中小企業以外では30%)、賃金の助成を1人1時間あたり760円(中小企業以外では380円)受けることができます。
専門実践教育訓練給付金の制度では、受講費用の50%(上限年間40万円)に加え、受講を修了した後1年以内に雇用されている場合には、受講費用の20%(上限年間16万円)が追加で支給されます。
※参考:教育訓練給付制度|厚生労働省、人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)
「マナビDX(デラックス)」とは、経済産業省が提供するデジタルスキル向上のためのポータルサイトです。
一般社会人向けに、データサイエンス、AI、クラウドなど基本的なデジタル技術に関する400以上(2022年12月19日時点)もの講座を有償や無償で公開しています。入門から実践まで幅広い講座がそろっており、一部の講座では前述した人材開発支援助成金や専門実践教育訓練給付金の補助を受けることもできます。
補助金をもらいながら専門性の高い講座を受講したり、研修に活用したりすることで、効率よくデジタル人材の即戦力を身につけることができるでしょう。
半導体受託製造最大手のTSMCが、熊本県に子会社JASMを設立することを受け、大きなニーズが予想される半導体人材を九州全体で育成する取り組みが始まっています。それが産学官連携の共同事業体「人材育成コンソーシアム」です。
九州にある8つの高専を対象にしたプログラマー育成、熊本大での研究施設立ち上げなど、行政の支援のもと、先端技術人材を育成する様々な取り組みが行われています。
将来、企業のニーズに合わせて半導体人材を供給し、九州に集積させることで、「シリコンアイランド九州の復活」を目標としているのです。
高等教育機関における共同講座創造支援補助事業とは、研究開発人材の育成を目的として、大学などの教育機関で企業が共同講座やコース等を設置する場合に政府から費用の補助を行う取り組み。
1件3,000万円までを上限とし、費用の1/2を補助として受けることができます。
経済産業省が紹介する事例の中には、ダイキン工業が東京大学に設置した「ダイキン東大ラボ」が挙げられています。このプロジェクトでは、自社人材の育成や研究開発を目的として共同講座などを設置、100億円規模の出資を予定しているとのことです。
経済産業省は「人的資本経営の実現に向けた検討会」にて、経営と人事の戦略を連動させる「人的資本経営」の実践について議論を行っています。その報告書「人材版伊藤レポート2.0」では、リスキリングを含めた人的資本経営のポイントを以下の8つにまとめました。
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf