【事例あり】食品DXとは?解決できる課題と活用できるサービスも紹介

公開日:2024.03.12 更新日:2024.03.12

近年、DX(デジタル・トランス・フォーメーション)の推進が叫ばれており、一部の企業ではDX推進による業務効率化や働き方改革の前進といった効果が見え始めています。どの業界においてもDX推進は大きなテーマとなっており、食品業界もDXを進めたい業界の1つです。

今回は食品業界のDX(食品DX)がどのようなものなのか、食品DXの推進によってどのような課題が解決できるのか紹介します。加えて、DXの導入事例や活用できるサービスも紹介するので、ぜひ参考にご覧ください。

食品DXとは

食品業界におけるDXとは、AIやIoTなどのデジタル技術を駆使して、人手不足やフードロスなどの課題を解決しながら、生産性の向上・工場での一貫管理を目指すための取り組みのことです。

DXの推進によって人的ミスの抑制やサービスへの付加価値向上も期待できます。

ただし、国内の食品業界を見ると、DXはまだまだ進んでいないといえる状況です。

食品業界の課題と食品DXが必要な背景

食品業界が抱えている課題と食品業界でのDX推進が必要な理由として、以下の3つが挙げられます。

  • 働き手の人手不足
  • 国内食品市場の縮小
  • 深刻なフードロス

 それぞれ詳しく見ていきましょう。

働き手の人手不足

食品業界では慢性的な人手不足が続いています。

若年層の人材が減少していることに加え、近年の円安や原材料費の高騰などによって賃金が上昇しにくく、より良い条件の企業に人材が流失しやすい状況にあります。

特に中小企業では人材の確保が難しく、経験者が持つ技能を伝承できないため、食品製造に関する知識やスキルが乏しくなっていくケースも見られます。

また、人手不足により従業員の役割が増えることで、残業時間が増加したり、作業中の事故につながったりするなど、働き方改革の停滞や安全面での懸念が表面化しています。

国内食品市場の縮小

日本では少子高齢化が進んでおり、国内の食品市場への需要が減少しています。

また、価値観の変化による健康志向やダイエット志向などが影響して、食の多様化やニーズの変化も見られます。

需要と供給がミスマッチを起こしやすい状況で、食品市場に影響を与えているといえます。

また、消費者が高品質かつ低価格な食品を求める傾向が強まっており、食品開発や品質管理にコストが掛かりやすい状況になっています。

さらに、需要の低下により商品の価格競争が加速していることから、企業によっては市場からの撤退を余儀なくされる場合もあるなど、さまざまな要因や問題が複雑に絡み合っている現状があります。

深刻なフードロス

フードロス問題が国内の食品業界の大きな課題となっており、過剰な生産コストや廃棄コストが発生して経済的な損失を招いている状況です。

食品業界の商習慣として、小売側で欠品や品切れが発生した場合、製造側がペナルティを受ける仕組みがあります。そのため、製造側は欠品を避けるために過剰に生産せざるを得なくなりますが、食品には消費期限や賞味期限があるため、販売できる期間が短く期限が近い商品は購入されにくくなります。

結果的に廃棄される食品に対する多額のコストが発生してしまうのです。

このような問題は解決されるべきと認識されているものの、実際にはほとんど解決されておらず、社会問題化しています。

食品DXが進まない理由

さまざまな業界でDXが推進され始めている状況にありますが、なぜ食品業界ではDXが進まないのでしょうか。その理由として、以下の3つが影響していると考えられます。

  • DXを推進できる人材の不足
  • DXに関する知識やノウハウが不足している
  • 予算が確保できない

 それぞれ詳しく見ていきましょう。

DXを推進できる人材の不足

食品業界に限らずにいえることですが、DXを推進できる人材の不足はDXが進まない大きな理由の一つです。

経済産業省が発表している「デジタル人材育成プラットフォームの取組状況について」によれば、日本国内の76%もの企業が、DX人材が足りていないと感じていることがわかっています。

出典:デジタル人材育成プラットフォームの取組状況について|経済産業省

全社的に従業員の学び直し(リスキリング)を実施している企業は7.9%にとどまっているほか、学び直しを検討すらしていない企業が過半数を占める状況にあります。

出典:デジタル人材育成プラットフォームの取組状況について|経済産業省


また、日本では年功序列制度が根強く残っており、年齢を重ねた従業員が会社からリストラを受けたり、解雇されたりするリスクはそれほど高くありません。

新しいスキルを習得するメリットが少なく、ベテランの従業員が会社に残りやすいことから、後進の人材が育ちにくいといった課題も生まれています。

ITに関する知識や関心が乏しい企業は、IT関連の戦略立案・推進を外部企業に委託するケースも多く、企業にITに関するノウハウが蓄積されない場合もあります。

DXを推進したくても、社内にデジタルサービスを構築できる人材がおらず、ITに関する知識もないため、外部に丸投げしてもDXがなかなか進まないということになるわけです。

DXに関する知識やノウハウが不足している

Dxに関する知識やノウハウが不足しているのも、食品業界でDXが進まない要因です。

ITに関する知識が乏しければ、DXに関する知識もほとんどないはずです。中には、DXが何なのかはっきり理解していない場合もあるでしょう。

一企業でDXを推進する場合、社内全体の協力が必要不可欠ですが、知識がないためにDXの推進によって業務が増えると勘違いされる場合もあります。

このような状況では、DXは決して推進できないでしょう。

予算が確保できない

DX推進の予算がないのも、DXが進まない理由です。

経営陣のDXに対する知識やノウハウ、意識が乏しい場合、DXのための予算が付くことはまずありません。

そのため、人材の確保や育成、システムの導入などができないのです。

また、経済産業省が発表している「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討 ~ITシステムに関する課題を中心に~」によれば、企業予算のうちIT関連費用の8割は、現行システムの維持管理(ラン・ザ・ビジネス)に利用されています。

短期的な観点でシステム改修を繰り返した結果、長期的な保守・運用の費用が高騰し、これを返済できないことが、戦略的なIT投資に資金や人材を割り振れない原因(=DX推進の足かせ)となっています。

参考:デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討 ~ITシステムに関する課題を中心に~

このように、企業内で新しい予算を確保できないために新システムの導入や開発ができず、DXの推進が進まないというケースも多いようです。

食品DXによって解決する課題

食品業界でDXが実現されれば、以下の課題を解決できる可能性があります。

  • 人手不足を解消できる
  • 人為的なミスを削減できる
  • 適正な在庫管理ができる
  • サプライチェーンを一貫してマネジメントできる
  • 製造工程を一貫管理できる

それぞれ詳しく見ていきましょう。

人手不足を解消できる

食品業界のDXが推進されれば、人手不足を解消できる可能性があります。

デジタル化によって製造業務が効率化されるためです。

また、AIが搭載されたロボットを導入すれば、新たな労働力として活用できます。

労働コストや労働時間の削減を達成でき、働き方改革につながる可能性もあるでしょう。

人為的なミスを削減できる

DXの推進によって人為的ミスを削減できます。

工場のDXを推進してスマートファクトリー化できれば、業務の自動化や工数削減を実現できるためです。

スマートファクトリー化とは、IoT(Internet of Things)やAI、ビッグデータ、ロボットなどを活用して、工場内の設備のデータを可視化・自動化することです。スマートファクトリー化によって、業務プロセスや生産性を向上させられます。

デジタル技術の導入によって、数え間違いや発注ミスなど、人為的なミスの大幅な削減が可能です。

適正な在庫管理ができる

DXを導入すれば、在庫管理を適正化できます。

デジタル技術によって欠品を減らせるためです。

欠品を削減できれば、機会損失も減少させられるため、企業利益を最大化できる在庫量を維持できます。

また、必要なタイミングで必要な商品やサービスを提供できるため、顧客満足度もアップします。

サプライチェーンを一貫してマネジメントできる

DXの推進によって、サプライチェーンを一貫して管理できるようになります。

サプライチェーンとは、原材料や製品、サービス、顧客までのつながりを指す言葉で、サプライチェーンを管理して最適化することをサプライチェーンマネジメントといいます。

サプライチェーンの課題としては、以下のようなものがあります。

  • 消費者ニーズの把握が遅くなる
  • 想定外のリスクに対応しにくい
  • 関係部門との調整が必要になる
  • 情報が見えにくい 


DXが進めば、情報の可視化や部門間での情報の共有・統合、データ活用の最適化が可能になり、サプライチェーンを管理しやすくなります。

ただし、サプライチェーンには複数の企業が関係するケースもあるため、一気に最適化できないケースもあります。

製造工程を一貫管理できる

食品企業がDXを進めることで、製造工程を一貫して管理できます。

製造業の中でも、食品業界は生産管理項目が多く、トレーサビリティ(生産から消費までを追跡・把握できる状態にすること)の要求にも対応しなければなりません。

DXの推進によってデジタル技術を駆使した製造工程の管理やデータ化が実現すれば、管理に掛かる負担も軽減できるでしょう。

食品DXの成功事例

食品業界でDXを導入して成功した事例を紹介します。

  • マルハニチロ株式会社
  • 三島食品株式会社
  • 日本ハムファクトリー株式会社

それぞれ詳しく見ていきましょう。

マルハニチロ株式会社

総合食品メーカーのマルハニチロ株式会社では、キヤノンITソリューションズと協力して新しい生産管理システムを構築しました。


作業の属人化の解消やミスの未然の防止、手作業に依存している業務の共通化・高速化・可視化、業務プロセスの標準化、データの統合を目指してシステムを導入しました。結果として配合ミスや軽量ミスが激減したほか、現場担当者の精神的負担の軽減にも繋がりました。

また、品質管理をはじめとしたさまざまな業務が改善され、工場や部署により異なる業務プロセスの効率化と標準化、データの一元管理が可能になったとのことです。

参考:マルハニチロが工場のデータ統合管理基盤をキヤノンITSと構築~キヤノンITSとB-EN-Gは食品製造業向け基幹業務ソリューションの事業を強化~

三島食品株式会社

ふりかけの製造で有名な三島食品株式会社では、昔から生産状況を可視化していましたが、リアルタイムで変化する状況をうまく把握できない課題を抱えていました。

そこでウイングアーク1st株式会社が提供するBIダッシュボード「MotionBoard」を導入しました。BIダッシュボードとは他システムのデータをパソコン上で収集・分析・可視化できるシステムです。

このシステムの導入により、温湿度管理や稼働状況などリアルタイムの情報の可視化を実現し、感覚ではなくデータに基づく設備保全作業ができるようになりました。


さらに、データ活用によって、業務効率化や製造物の品質向上にもつながっています。

 参考:赤しそふりかけ「ゆかり®」で有名な食品メーカーの三島食品がMotionBoardを導入工場の生産スケジュール管理や設備監視のリアルタイムな可視化を実現 データ分析の作業時間を最大10分の1以下に短縮

参考:赤しそふりかけ「ゆかり®」で有名な食品メーカーの三島食品がMotionBoardを導入工場の生産スケジュール管理や設備監視のリアルタイムな可視化を実現 データ分析の作業時間を最大10分の1以下に短縮

日本ハムファクトリー株式会社

大手食品加工メーカーの日本ハムのグループ会社・日本ハムファクトリー株式会社では全社でのDX推進を掲げ、IT活用による業務効率化を目指していました。

特に、全国5ヶ所にある工場のバックオフィス業務を手掛ける管理本部では、約3,000名の従業員に対して紙の給与明細書・源泉徴収票の発行を行っていたことから、コスト・工数削減のためのペーパーレス化を模索していました。


そこで導入されたのが株式会社SmartHR社の「SmartHR」です。同システムにより、オンライン上で給与明細の一斉配布が可能になり、担当者や責任者に掛かる手間の大幅な削減に成功しています。

さらに、本社と工場で情報共有がしやすくなり、書面上でのやりとりが減少したほか、印刷費や搬送費が削減されるなど、ペーパーレス化によるコスト削減につながっています。

参考:“シャウエッセン”など日本ハムグループの製造を一手に担う日本ハムファクトリー株式会社が、「SmartHR」を導入

食品DXに活用できるサービス

最後に、食品DXに活用できるシステムやサービスを紹介します。紹介するのは以下の3つです。

  • 食品業界向け商品開発DXソリューションズ
  • ツクルデSaaS
  • MerQuriusクラウド

それぞれ詳しく見ていきましょう。

食品業界向け商品開発DXソリューションズ|株式会社NTTデータビジネスシステムズ

株式会社NTTデータビジネスシステムズでは「食品業界向け商品開発DXソリューションズ」というサービスで、食品製造企業の商品開発におけるDX推進をサポートしています。

同サービスでは、企業に蓄積されてきたデータの活用をメインに、業務プロセスのデジタル化によって商品開発工程の最適化を実現できます。

データ活用とシステム連携によって商品の開発・販売促進の戦略が大きく広がるほか、関係部署間の連携が簡単にに行えるのが特徴です。

スピーディな商品開発、高品質な商品提供が可能になるほか、開発コストの平準化にもつながります。

参考:食品業界向け商品開発DXソリューション|株式会社NTTデータビジネスシステムズ

ツクルデSaaS|株式会社カンブライト

株式会社カンブライトでは食品製造に関するさまざまな領域をデジタル化する「ツクルデSaaS」というサービスを提供しています。

製造現場のペーパーレス化を推進する「ツクルデ記録」、案件管理や受注管理、請求業務の生産性向上が可能な「ツクルデ受発注」、期限別・保管場所別の在庫管理をデジタル化できる「ツクルデ在庫」といったサービスがあります。

また、担当者が現地でサポートする「伴走プラン」やサービス導入を一任できる「専任プラン」、オンラインでのやりとりで企業がシステムを運用する「自走プラン」があり、企業が抱える課題や企業規模、希望に応じてサービスを選択できるようになっているのが特徴です。

参考:ツクルデSaaS|株式会社カンブライト

MerQuriusクラウド|JFEシステムズ株式会社

JFEシステムズ株式会社では、食品メーカーの原料規格書管理と原材料表示作成業務を効率化できるクラウドサービス「MerQuriusクラウド」というサービスを提供しています。

「原料規格書を集めたい」「原材料表示作成をミスがないようにシステムでのサポートが欲しい」という食品メーカーの声を受けて開発されたサービスで、インターネットを介して原料規格書をデータベース化しているのが特徴です。

また、食品法規に則った原材料表示作成機能を搭載しており、属人的になりやすい原材料表示作成業務の標準化のサポートを支援しています。

参考:MerQuriusクラウド|JFEシステムズ株式会社

まとめ

食品業界では人手不足やフードロスなどの課題を抱えています。DXによって多くの課題解決が期待できるため、DX推進のための積極的で前向きな議論が必要です。また、食品業界のDXに活用できるさまざまサービスが提供されているので、DXによって解決したい課題が明確になっている場合は、導入を検討してみてください。


本記事を参考に食品製造企業でのDX推進を進めていきましょう。


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