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2022年11月30日にChatGPTが“research preview”として一般公開されたことをきっかけに、生成AIは一気に注目を集め、ビジネスの現場でも使われるようになりました。
実際、メール文面のたたき台、要約、調査の下準備など、日常業務のいろいろな場面で生成AIを取り入れる企業が増え、組織での活用が広がっているという調査結果もあります。
こうした活用だけでも効果はありますが、生成AIは「便利なチャットツール」で終わるものではありません。企画や意思決定の補助、業務フローの一部実行まで視野に入れると、DXをもう一段進めることができます。
今回の記事では、生成AIの使い方を4段階に整理し、それぞれの段階でどんなDXが進めやすくなるのかを説明します。なお、この4段階は、IPAや経産省のDXの考え方、各社のAI成熟度の議論などを参考にしながら、実務向けにまとめたものです。
従来のDXは、一般に次のような段階で整理されます。
デジタイゼーション:アナログ情報をデジタル化する
デジタライゼーション:業務やプロセスをデジタルで改善する
デジタルトランスフォーメーション:全社の変革や新しい価値創造を含む、ビジネスモデルの変革
生成AIは、こうした変化を早める力を持っています。ただし、「高性能なAIツールを入れたらDXが完了する」というわけではありません。組織の成熟度やデータ整備の状況に合わせて、無理のない順番で進めることが重要です。
この記事では、AI活用を次の4つのステップで整理します。
1.個人レベルの支援(アイデア出し・壁打ち)
2.特定業務の自動化(単一タスクの代替)
3.業務フローの自律化(AIエージェントの導入)
4.組織運営の自律化(AIファースト組織)
ざっくり言えば、AIの役割が「人の手助け」から「業務を実際に動かす側」へ広がっていく流れです。ただし、どこまで進められるかは業界や企業規模、データ環境によって大きく変わります。
この段階は、現在もっとも広く浸透している使い方です。対話型AI(LLM)を個人の業務の補助として使います。
企画書の構成を一緒に考えたり、海外ニュースの要点をまとめてもらったりと、生成AIは「考える作業」を助ける相手として便利です。専門的な準備がなくても、チャットに指示を書くだけで使い始められます。
注意したい点は主に2つです。
事実誤認(ハルシネーション):正しそうに見えても、誤った内容を返すことがあります。
情報漏洩:機密情報をクラウドAIに入力すると、リスクになる場合があります。
企業としては「入力してよい情報の範囲」「利用ガイドライン」「学習への利用をオフにする設定(データコントロール等)」を整備し、最終的な判断と責任は人が持つ、という前提を徹底することが大切です。ChatGPTには学習への利用を停止するデータコントロール設定がある旨が案内されています。
第2段階では、個人利用にとどまらず、チームや部署で特定業務にAIを組み込んでいきます。
汎用LLMは、社内の就業規則や商品仕様、過去のトラブル対応など「社内だけの情報」を参照できません。そのため、正確性や根拠を担保しにくい場面があります。そこで有効なのがRAG(Retrieval-Augmented Generation)です。 RAGは、社内外の文書を検索して取り出し、その情報を踏まえて回答を作る仕組みです。根拠となる文書に沿った回答を出しやすくなり、精度向上が期待できます。
この段階で効果が出やすいのは、広告文の作成、伝票処理の補助、問い合わせの一次対応、レポート作成などです。 ただし、よくあるのが「ある部署だけで成果が出て終わる」ケースです。全社で使える形にしていくには、データ基盤、利用ルール、リテラシー教育などを含む“使いこなせる状態”づくりが欠かせません。教育で扱うべき観点(バイアス、正確性、プライバシー、限界理解、プロンプト等)も公的議論で整理されています。
第3段階では、AIが単発の作業ではなく、複数の工程をまたいだ業務フローを(ツール連携を前提に)まとめて進める方向に進みます。
AIエージェントは、目標に向けて計画し、必要なツールを使いながら、ユーザーの代わりにタスクを進める仕組みとして説明されています。 たとえば「競合調査レポートを作成して」と頼むと、(ツール連携が整っていれば)検索→データ整理→グラフ化→ドラフト作成まで、一連の流れを自分で組み立てて進める――というイメージです。
エージェントが業務担当者のように動くほど、人は目的を決め、途中を確認し、最後に承認する、といった役回りに寄っていきます。
現時点では、エージェント型AIは注目度が高い一方で、本格運用はまだ一部に限られ、PoC中心のケースが多いのが実態です。Gartnerは「2027年末までにエージェント型AIプロジェクトの40%以上が中止される」と予測しており、コストや価値の不明確さ、いわゆる“agent washing”などを背景として挙げています。 一方で同社は、2028年までにエージェント型AIが企業ソフトウェアや意思決定に広がるという予測も示しています。
最終段階は、AIが業務フローを超えて、組織運営の多くを担う未来像です。
研究や実証の文脈では、複数のAI(マルチエージェント)が役割分担し、議論しながら企画案を作るアプローチも扱われています。また、投資・成熟度の議論の中で「マルチエージェント」を到達点の一つとして扱う論調もあります。
完全に自律したAI組織は、現時点ではまだ概念に近く、説明責任、ガバナンス、バイアス、透明性、安全性などの課題をクリアする必要があります。加えて、使う側の教育・リスキリングも重要で、組織として“安全に使いこなす前提”を整えることが欠かせません。
DXとAI活用は、いきなり最終形を目指すものではありません。まずは自社の現状を把握し、段階的に進めるのが現実的です。
Step 1:個人がAIを相棒として使う
Step 2:特定業務の自動化を実現する(社内データ連携も検討)
Step 3:複数業務をつなぎ、エージェント的な自律実行を試す(小さくPoCから)
Step 4:組織全体をAI前提で再設計する(ガバナンス含む)
まずは社内でのAI利用状況を棚卸しし、「誰が・どんな業務で・どのAIを使っているか」を見える化してみてください。それだけでも、次に着手すべき領域が見えてきます。AIを“点”で使うだけでなく、業務フロー全体やビジネスモデルに広げていく設計を行うことで、DXは次のステージに進みやすくなります