GXとは、温室効果ガス排出量の削減と経済の成長を実現するための取り組みです。近年、世界規模で取り組まれており、日本においても企業活動に大きな影響を与える可能性があります。一方でGXという言葉を聞いても意味や必要性、具体的な取り組み方法を説明できない方もいるのではないでしょうか。
そこで今回はGXの意味や注目されている背景について、わかりやすく解説します。この記事を読めば、GXの重要性を理解し、自社の事業でどのように実施できるのかをイメージできるでしょう。後半では国内・海外企業のGX事例についても紹介しています。ぜひ最後までお読みください。
目次
GXとはグリーントランスフォーメーションの略称で、CO2などの温室効果ガス排出量を削減するとともに、その活動を通して経済成長を実現する取り組みのことです。石油や石炭などの化石燃料をできるだけ利用せずに、CO2を排出しないエネルギー源を活用しつつ、自社事業の発展を目指します。
よく似た言葉としてDX(デジタルトランスフォーメーション)があげられますが、GXとは意味が異なります。GXがクリーンなエネルギー源で変革を進めるのに対し、DXはAIやIoTなどのデジタル技術を活用して新しい価値の創出や生産性の向上を目指すための取り組みです。
カーボンニュートラルとはCO2の「排出量」と「植物による吸収量」を均衡させ、全体としてのCO2排出量を実質ゼロにすることです。温室効果ガスの排出量を抑えるGXは、カーボンニュートラルを実現する取り組みの一つといえます。
GXが注目されている背景は以下のとおりです。
それぞれ、順に解説します。
GXが注目されている背景として、地球温暖化による気候変動の進行があげられます。地球温暖化とは、CO2などの温室効果ガス排出が原因となり、地球全体の平均気温が上昇する現象です。地球全体の気温が上昇し続けると気候変動が進行し、暴風雨や洪水、干ばつなどの気象災害が発生するリスクがあります。実際に気象庁の「気候変動監視レポート2022」によると、世界では以下のような異常気象が見られるようです。
地球温暖化が進行すると異常気象が頻発するため、その原因となる温室効果ガスの排出を削減する必要があります。政府はカーボンニュートラルの実現を経済成長の機会として捉え、GX推進を進めています。
脱炭素社会とは、カーボンニュートラルを目指す社会のことです。地球温暖化の背景を踏まえ、世界中の国々がカーボンニュートラル宣言を表明しています。経済産業省の資源エネルギー庁によると、2050年までを期限とするカーボンニュートラル宣言を表明した国は、2021年4月時点で125か国・1地域となっています。アメリカや中国、EUをはじめとして国際社会全体がカーボンニュートラルの実現を目指していることがわかります。
参考:経済産業省資源エネルギー庁ホームページ「令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)第1部 第2章 第2節 諸外国における脱炭素化の動向
GXは、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において重点投資の一つとなっています。日本は周囲を海で囲まれエネルギー資源が乏しいため、脱炭素に関する技術の研究開発が盛んでした。世界中がカーボンニュートラルの実現を目指すなか、日本の強みである脱炭素技術を活用することは国際的な競争力の強化につながります。政府はGXが日本の経済を成長軌道へ戻す起爆剤となることを期待しており、今後もさまざまな施策を打ち出す予定です。
参考:内閣官房「新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」
GXに関連する補助金事業の情報や法律の整備を把握するためにも、日本政府の動きを常に把握しておくことがおすすめです。ここでは日本政府が現在おこなっているGX実現の取り組みをご紹介します。
GXが注目されている背景は以下のとおりです。
それぞれ、順に解説します。
「GX実現に向けた基本方針」は、今後10年を見据えたロードマップとして2023年2月に閣議決定された方針です。
脱炭素社会を実現するための計画や方法を決める法律を作る方針が述べられています。具体的な法律としては、GX移行債(脱炭素に向けた投資を支援するための国債)の発行や、炭素の排出量に応じて割賦金を納める制度などです。脱炭素に関する投資や経済の動きを見ながら、計画や方法を変える必要があれば変更する予定としています。
GX実現に向けた基本方針については、以下のコラムでも詳しく解説しています。
GX基本方針のロードマップや企業が取り組むべきことをわかりやすく解説
「GX実現に向けた基本方針」を具体化するために、2023年5月に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律(GX脱炭素電源法)」が成立しました。
GX推進法はGX投資を支援するための「GX経済移行債」の発行や、企業が排出する炭素に値付けをする「カーボンプライシング」などについて具体的なルールを定めています。GX炭素電源法では、GX実現に向けた5つの法改正をおこなうことを定めており、原子力発電や再生可能エネルギーを積極的に活用するための環境や規制の整備がおこなわれます。
GX推進法とGX脱炭素電源法については、以下のコラムでも詳しく解説しています。あわせてお読みください。
国土交通省はGX実現に向けた基本方針を踏まえ、交通や建築・インフラ分野における脱炭素に向けて施策を講じています。CO2排出量が多い自動車分野では事業用トラックやバス、タクシーにおいて電気自動車などの導入を促進します。インフラ空間を活用した再生可能エネルギーの導入も進めています。具体的には空港や道路などの空きスペースにおける太陽光発電施設の設置や、ダムの雨の量に応じて洪水を防ぐ機能を調整しつつ水力発電もおこなうハイブリッドダムの推進があげられます。海事分野では水素・アンモニアを燃料とする「ゼロエミッション船」の実証運航を開始するため、技術開発や受入環境の整備を実施する予定です。
参考:国土交通省「GXの実現に向けた政府全体の動向と国土交通省の取組について」
環境省は、GXの実現に向けて以下のような取り組みを実施しています。
取り組み | 内容 |
---|---|
脱炭素先行地域の取組の拡大 | 2025年までに100か所以上の脱炭素先行地域を選定し、GXの社会実装を後押しする。 (2023年4月28日、地域版GXモデルとして長野県生坂村と高知県須崎市・日高村を選定) |
住宅・建築物の脱炭素化 | 住宅省エネ2023キャンペーンや、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化の推進を実施する。 省エネ・断熱窓への改修、高性能な建材一体型太陽光発電システムの導入など、住宅・建築物の脱炭素を促進する。 |
サプライチェーンの脱炭素化・資源循環 | サプライチェーンのGXを推進する。 物流における商用車の電動化や、冷凍冷蔵機器の脱フロン・脱炭素化、金属リサイクルや静脈産業の脱炭素型資源循環システムを構築する |
新たな国民運動 | 国民の行動変容、ライフスタイル転換のムーブメントを起こすため、リアルとデジタルで脱炭素体験を提供する。 |
アジア・ゼロエミッション共同体構想等への貢献 | パリ協定6条実施パートナーシップを通じた国際連携の促進、日本の都市と海外の都市が連携した地域脱炭素を国際展開を実施する。 |
環境省は地域・くらしを中心に脱炭素化に向けた取り組みをおこなっています。日本の脱炭素化技術を用いて、世界のエネルギー危機や環境問題に対応するとともに、市場の創出やプロジェクトの拡大を目指します。
国内企業のGX事例を紹介します。
NTTは、2030年度に温室効果ガス排出量を2013年度比で80%削減し、2040年度にはカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げています。 NTTの取り組みの一例として、以下のようなものがあります。
トヨタ自動車は、自動車産業におけるカーボンニュートラルのリーダーとして、さまざまなGXに取り組んでいます。 トヨタ自動車は、2035年までに世界の自社工場で二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする目標を発表しました。 これまで達成目標としていた2050年から前倒ししています。トヨタ自動車の取り組みの一例として、以下のようなものがあります。
ENEOSはエネルギー・素材事業者として、カーボンニュートラル社会への貢献を目指しています。 「2040年長期ビジョン」では、2040年までにカーボンニュートラルを実現することを目標としています。 ENEOSの取り組みの一例として、以下のようなものがあります。
海外企業のGX事例を紹介します。
Appleは、自社の生産においてはすでに温室効果ガスの排出をコントロールし、カーボンニュートラルを達成しています。そのうえで、2020年7月に発表した「環境への取り組み」では、自社だけでなくサプライチェーン全体を2030年までに100%カーボンニュートラル化すると宣言しました。中核となるのは、低炭素の再生材料や、最新のリサイクル作業ロボットを用いたレアメタルの効率的な回収といった先端技術です。また、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の向上なども推進しています。
Microsoftは、2020年1月に発表した「気候変動への取り組み」で、2030年までに自社のすべての活動とサプライチェーンをカーボンニュートラルにするだけでなく、2050年までに創業以来排出したすべての温室効果ガスを除去するという野心的な目標を掲げました。そのために、炭素税制度の拡大や炭素除去技術への10億ドル規模の投資などを行っています。また、クラウドサービスやAIなどのデジタル技術を活用して、顧客やパートナーもカーボンニュートラルに近づける支援も行っています。
2019年9月に発表した「The Climate Pledge(気候変動対策に関する誓約)」で、2030年までに自社のすべての活動を100%再生可能エネルギーで運営し、2040年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げました。そのために、電気自動車やバイオ燃料などの低炭素輸送手段への移行、太陽光発電所や風力発電所などの再生可能エネルギー源の開発などを行っています。「Climate Pledge Fund(気候変動対策に関する誓約のための基金)」という名前で20億ドル規模の投資ファンドを設立し、気候変動対策に貢献する革新的な技術やサービスを提供する企業に資金提供しています。
GXの意味や注目される背景、日本政府の取り組み、GX事例について紹介しました。国内外で、今後ますますGXの注目度や重要性は上がっていくことでしょう。GXを推進するためには、GX人材の育成が必要です。自社でもGXを実施したいと考える方は専門家からのアドバイスを受けることもオススメします。GX推進のパートナー企業を下記ページで紹介していますので、ぜひ参考にしてください。