2023年2月に経済産業省から「GX実現に向けた基本方針(GX基本方針)」が発表されました。GX基本方針とは、化石燃料からクリーンエネルギーへの転換と経済成長・変革の実現を目指すための取り組みについて、今後の方針をまとめたものです。
本記事ではGX基本方針における背景や概要についてわかりやすく解説します。また後半ではGX基本方針をうけて「企業が取り組むべきこと」も紹介しているので、ぜひ最後までお読みください。
目次
GXとは、温室効果ガス(CO2)などの排出削減の活動を通し、経済成長を実現するための変革のことです。経済産業省が発表したGX基本方針とは、地球温暖化の防止とともに経済成長に向けて社会全体を変革していくための取り組みの方針を指します。
GXの詳しい内容については「GXとは何か?注目される背景や国内・海外の実施事例もわかりやすく解説」をご覧ください。
GX基本方針について、以下の順に沿って解説します。
GX基本方針が閣議決定された背景として、主に以下3つがあげられます。
近年、地球温暖化が進行し、世界中でハリケーンや高温多雨などをはじめとした異常気象が多発しています。自然災害の発生を抑えるためにも、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出を削減し、化石エネルギー中心の産業・社会構造をクリーンエネルギーを中心としたものへ転換することが必要です。
2021年4月時点において125か国・1地域が「カーボンニュートラル(温室効果ガスを実質ゼロにすること)」を宣言しているように、世界規模で脱炭素に向けた活動がおこなわれています。
また2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が発生し、ロシア産のエネルギーに依存してきた国々に大きな打撃を与えました。日本にとってもエネルギー安全保障上の課題を再認識する出来事となっています。
以上の背景から、日本政府は国全体で脱炭素化と社会システムの変革を目指し、GX実行会議や有識者のパブリックコメントをもとにしてGX基本方針を取りまとめました。
GX基本方針の主軸は、以下の2つです。
エネルギーを安定的に供給する仕組みを整えつつ、経済の成長を促します。具体的には省エネルギーの推進や再生エネルギー(風力・太陽光など)の主力電源化、原子力の活用などがあげられます。
成長志向型カーボンプライシング構想とは、日本が2050年までにカーボンニュートラルを実現するための構想です。GX経済移行債(GXのための国債)を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシング(化石燃料に対する税金や負担金をかけること)による投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などが含まれています。
GX基本方針は、GX実現に向けた今後10年を見据えるロードマップで、これからの取り組みの方針となっています。経済産業省によると、ロードマップの全体像は以下のとおりです。
GX基本方針のロードマップには、2023年から2030年代までに政府や企業が取り組む内容や投資対象、予定する支援などが紹介されています。
たとえば、エネルギー安定供給の確保を大前提とした GX に向けた脱炭素の取り組みについて、以下のような内容が記載されています。
GXの実現を通して、我が国企業が世界に誇る脱炭素技術の強みをいかして、世界規模でのカーボンニュートラルの実現に貢献するとともに、新たな市場・需要を創出し、日本の産業競争力を強化することを通じて、経済を再び成長軌道に乗せ、将来の経済成長や雇用・所得の拡大につなげることが求められる。
参考:「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」(経済産業省)
ほかにも産業・分野ごとに具体的な取り組み方針がまとめられているため、確認しておくことをおすすめします。
経済産業省のGX基本方針の参考資料によると、GXを実現するためには今後10年間で約150兆円の官民投資が必要とされています。一般的に官民投資とは国の政策に沿って政府と民間企業が共同で出資することです。また、官民投資に加えてGX経済移行債による20兆円規模の先行投資支援も実施するとしています。
約150兆円の内訳について、事例とGX投資額を以下の表にまとめました。(一部抜粋)
投資対象の事例 | 今後10年間のGX投資額(試算) |
---|---|
自動車産業 | 約34兆円~ |
再生可能エネルギーの最大限の導入 | 約20兆円~ |
住宅・建築物の省エネルギー化 | 約14兆円~ |
脱炭素目的のデジタル投資 | 約12兆円~ |
次世代ネットワーク(系統・調整力) | 約11兆円~ |
水素・アンモニア導入 蓄電池産業 | 約7兆円~ |
航空機産業 | 約5兆円~ |
鉄鋼業 化学産業 ゼロミッション船舶(海事産業) バイオものづくり | 約3兆円~ |
資源循環産業 | 約2兆円~ |
セメント産業 | 約1兆円~ |
表に示した投資額は見込みであるため、今後変更される可能性があります。
GX実行会議は、GX基本方針の実施状況や成果を定期的に評価し、必要に応じて見直しや追加措置を講じるとしています。GX実行会議とは、岸田内閣総理大臣を議長とし、関係閣僚や民間有識者等が参加する会議のことです。
2021年7月27日から開催されており、GX基本方針の策定に向けた議論や、各省庁が取り組むべき具体的な施策や目標値等を示した「GX実現に向けた具体的な施策」を取りまとめています。
GX実行会議により、2022年2月28日にGX推進法が閣議決定されています。GX基本方針に基づいて必要となる関連法律の改正を行うことを目的としています。
具体的には、再エネ導入促進や原子力活用に関する法改正、GX基本方針の策定・見直し、国民への周知・啓発などがあげられます。またGX推進法は、GX基本方針の実現に向けた国家戦略としての位置づけを明確化することで、国内外に対して我が国の強い意思表示を示すことも目的です。
GX基本方針をうけて企業が取り組むべきことについて具体的に解説します。
それぞれ順に解説します。
GX基本方針には再生可能エネルギーや原子力などのクリーンエネルギー、そして新たな脱炭素燃料として注目が集まる水素・アンモニアの導入や開発など、さまざまな分野での取り組みが示されています。企業は、自社の事業領域や関連性に応じて、これらの取り組みを把握し、自社の強みや弱みを分析することが重要です。
また、GX実行会議による進捗評価やロードマップの見直しにも注目し、最新の情報を入手することも求められるでしょう。政府が発表する情報や世界におけるGXの動向をキャッチアップすることが重要です。
GX投資とは、GX基本方針に沿った事業や技術への投資のことであり、脱炭素と経済成長の両立を目指すものです。企業は自社事業においてGX投資を促進することで、市場における優位性やサステナビリティを高められるでしょう。
GX投資を促進するためには、成長志向型カーボンプライシング構想に沿って、GX経済移行債やカーボンプライシングによるインセンティブを活用したり、新たな金融手法を利用したりすることが有効です。
GX基本方針には「国際展開戦略」などを策定しているように、国内だけでなく海外でもGXを展開する重要性が示されています。日本はほかの国々と比べて脱炭素化技術が発展しているといわれており、GXを国家の競争力を強化する機会と捉えているためです。
また企業は海外市場への参入によって、自社の事業規模や収益性を拡大することができます。政府のGX基本方針や今後の施策に沿い、GX事業をグローバルに展開することが重要です。
経済産業省のGX基本方針では、GX関連技術や金融、気候変動などの知見を有する人材が必要であるという見解を示しています。そのため政府はGX人材の支援を実施する予定です。
たとえばGX基本方針における中堅・中小企業のGXの推進では、中小企業などの取り組みをサポートする支援機関において人材育成をおこなうとしています。支援機関向けの講習会の実施や脱炭素化に関する資格の認定制度などを創設する予定があります。
参考:「GX実現に向けた基本方針~今後10年を見据えたロードマップ~」(経済産業省)
そのため企業は今後打ち出される人材育成の支援に沿い、GXを進める環境整備を実施しながらGX人材の育成をおこなうことが求められるでしょう。GX人材を育成すれば、企業価値の向上や新たな事業の創出など、企業の成長につながるさまざまな変革が見込めます。
GX基本方針の概要や背景、企業が取り組むべきことについて解説しました。2023年8月には、政府が2024年度予算の概算要求でGX分野に2兆円超を求める案を提示。GXへの注目度は高まるばかりです。この機会に、自社のGX推進への方向性を考えてみてはいかがでしょうか。
下記ページでは、GX人材の育成やパートナー企業について紹介しています。気になる方は、ぜひご覧ください。