人事制度という言葉を聞いたことがあっても、どのように構成されているのか、どのように運用していくのかを認識していない人は少なくありません。また、近年では働き方改革や意識の変化によって、人事制度にも変化が求められています。
本記事では人事制度についての概要から、現在のトレンド、制度を見直すべきタイミングなどを解説していきます。
目次
人事制度とは、企業が従業員に対する処遇を決定する仕組みのことです。福利厚生や育成制度、報酬制度や等級制度など、あらゆる制度を包括的に担っており、人材管理の仕組みとして扱われます。
人手不足が叫ばれるようになった昨今において、企業は長く自社で働いてくれる人材の確保や、そのための育成制度を整備することが急務になっています。人事制度を構築すれば、人材確保のために必要な労働条件の提示や、企業ビジョンが明確になるため、効果的な人材マネジメントにもつながります。
現在の人事制度は、以下の3つの柱によって構成されています。
それぞれの柱について解説していきます。
等級制度とは従業員の能力や持っているスキル、職務内容によって等級を定め、人材を序列化していく制度のことです。人事制度の骨格となる部分を担う非常に重要な制度です。
それぞれの等級ごとに「どのような役割を担っているのか」「どのような行動をする必要があるのか」「どのような能力が求められているのか」などを明確にすると、従業員がどのようにステップアップをしていけば良いのかがわかりやすくなります。
代表的な等級制度としては、「職能資格制度」「職務等級制度」「役割等級制度」などが挙げられます。どのような等級制度を取り入れるかは企業ごとに異なりますので、求める人物像に照らし合わせながら定める必要があります。
等級制度の例としては、以下のようなものがあります。
1等級 | 取締役 |
2等級 | 部 長 |
3等級 | 課 長 |
4等級 | 主 任 |
5等級 | 一 般 |
企業が定めている行動指標をベースとして、一定期間内の従業員の能力やスキル、業績への貢献度などの評価基準を明確にするのが評価制度です。「どのように評価をするのか」「誰が評価するのか」「何を評価するのか」などの評価基準を明確にすることで、従業員に対して公平な評価ができます。
評価制度には「能力評価」「職務評価」「役割評価」「成果評価」などがあり、企業によって取り入れているものが異なります。たとえば成果評価は、従業員に目標を設定を行い、期間中にどれくらい達成できたかを評価するものです。
評価制度に基づいて行なった評価によって、従業員個々の報酬や人材配置に活かしていきます。
報酬制度とは、従業員の給与や賞与などを決定する制度のことです。設定した等級制度や評価制度に基づいて適切な報酬が決まっていきます。報酬とは月々の基本給、通勤手当や住宅手当などの手当、賞与や退職金などです。
等級が高い方が報酬も高くなり、評価制度も厳しくなる分、賞与も高めに設定するなどを決めます。
人事制度においては、報酬制度は一番最後に決める項目です。等級制度や評価制度を定めてから報酬制度を決定します。
働き方改革の影響や新型コロナウイルス感染症の感染拡大などによって、人々の働き方に対する意識や考え方が変化してきました。
人事制度は時代に合わせた変化も求められるため、トレンドを押さえておくことは非常に重要です。現在の人事制度のトレンドとしては、以下のようなものが挙げられます。
それぞれのトレンドについて解説していきます。
人的資本経営とは、「人を資本として捉え、価値を最大化させることで、企業が持続的な成長を目指す経営」のことです。2020年9月、経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」によって、人材に関する注目度が加速しました。人材版伊藤レポートは改定が盛り込まれ、2022年5月に人材版伊藤レポート2.0が発表されています。さらに2021年6月にコーポレート・ガバナンスコードが改訂され、上場企業における「人的資本の情報開示」が義務付けられたのも大きなトピックして挙げられます。
岸田内閣においても「人への投資」が重要事項とされ、2022年12月には、個人のリスキリング(学び直し)の支援に5年で1兆円を投じると表明されました。
このように、国をあげて人的資本への重要性が増してきており、企業側は個人に対してスキルアップできる環境を整えることが求められています。環境を整えるためにも人事制度の見直しが必要と考えられており、各企業で対応が進められています。
ジョブ型人事制度とは、企業が従業員に対して職務内容を明確に定義したうえで雇用契約を結ぶ手法のことです。
従来の日本では「メンバーシップ型」の雇用が一般的でした。メンバーシップ型とは、採用後にジョブローテーションを行い、従業員に合った仕事を見つけていく手法です。
ジョブ型は仕事や業務に対して人を付けるという考え方のため、スキルや経験、実績が求められます。ジョブ型の考え方の広まりによって、ジェネラリストではなくスペシャリストが求められる時代に突入してきたと言えます。
2021年6月、育児・介護休業法が改正され、「産後パパ育休制度(出生時育児休業)」が創設されました。
男性の従業員が、子どもの出生から8週間以内に4週間までの休業を取得できる制度になります。
育休に関しては女性が取得するものとされてきましたが、男性にも広がったことで、企業側は人事制度の見直しが求められるようになりました。
自社の人事制度を見直すべきタイミングとして、以下の2つが挙げられます。
それぞれのタイミングについて解説していきます。
企業が変革を行う時は、主に新たな市場に挑戦したり、組織規模が大きくなったりする時などが考えられます。新たな市場に挑戦する際は、綿密な経営戦略が必要です。十分な経営戦略を整えるためには、どのような人材が必要となるのかなど、人事制度は欠かせません。人事制度を整えていなければ優秀な人材が集まらず、経営目標を達成するのは難しいと言っても良いでしょう。
また、会社の規模によって適切な人事制度は変わるため、組織規模が大きくなった時も見直すタイミングです。
このように会社が変革を迎える時は、人事制度を見直すタイミングと言えます。
もう一つが社会情勢が変化した時です。実際に新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、テレワークが急速に普及しました。これまでとは異なる働き方が広まったことで、人事制度を見直す企業も増えました。
他にも働き方改革の影響で変化した従業員の考え方に対応するために、変革を行った企業もあります。自社内部だけではなく、外部環境が変わった場合にも人事制度を見直すタイミングが訪れます。
時代に合った人事制度でなければ、従業員の不満を誘発する要因となってしまう可能性があります。社会情勢が変化した際には、早急に見直しを検討しましょう。
実際に人事制度の改定・見直しをする際に注意すべき2つのポイントについて解説します。
それぞれのポイントを見ていきましょう。
人事制度を改定する前後で、公平性が担保されていることが最も重要です。改定によって特定の従業員が優遇されてしまうと、多くの従業員のモチベーションが低下する事態を招きかねないからです。
改定や見直しは、これまで曖昧だった評価基準などを明確にするチャンスでもあります。達成した成果に対する評価基準はもちろんのこと、成果につながるプロセスについても「何をどこまで達成できたのか」など、どの従業員にとっても公平に評価できるものになっているかを意識することが大切です。
人事制度の改革を行う際には、従業員に対して適切なフィードバックをしましょう。
適切なフィードバックを行えれば、従業員の現在地が明確になると共に、次回に向けた目標設定が容易になります。従業員からすると課題の把握ができ、自分がどのような業務を遂行し、どういった成果を出せば、どれくらいの報酬が与えられるかがわかるため、モチベーションの向上も期待できます。
ポジティブなフィードバックを積極的に行うと良いでしょう。
人事制度を整えることは、企業の未来に大きな影響を与えます。時代に即し、すべての従業員にとって公平な人事制度であることが重要です。
企業が持続的に成長ができる人事制度となっているか、不公平感のあるものになっていないかを常に確認しながら見直しを行っていきましょう。