DX(デジタルトランスフォーメーション)はビジネスモデルの変革を表す概念です。企業のDX推進への動きも活発化していますが、DX白書2023に「進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション』」というサブタイトルがついていることからも分かるように、デジタル化にとどまっている企業も少なくありません。デジタル化の次の段階に移行するためには何が求められるのか、そのヒントがDX白書で得られるかもしれません。今回はDX白書を通して日本企業が抱えるDXの課題と今後について考えていきます。
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IPA(情報処理推進機構)が公表している、DX推進に向けた課題や政策の方向性を整理した報告書が「DX白書」です。DX推進に必要な戦略、人材、技術に関する日米の比較調査の結果や国内外のDX推進に積極的に取り組む企業の事例・インタビューも掲載されるなど、DXを進める上で示唆に富む内容です。
IPAは2021年10月に「DX白書2021」、2023年2月に「DX白書2023」を公表しています。ただし、DX白書の2022年版はありません。
DX白書は、日本企業のDX推進の支援を目的としています。IPAはこれまでIT人材白書、AI白書を公表してきましたが、企業のDXを加速させるためには、戦略・人材・技術を経営的視点で統合的に整理する必要性があることから、2021年度にDX白書を新たに創刊することになりました。
「DX白書2023」の注目すべきポイントについてご紹介します。
DXに取り組む日本企業の割合は、2021年度の55.8%から2022年度は69.3%に増加し、米国(2022年度77.9%)との差は縮まっています。しかし、取り組みの成果については、2021年度の49.5%から2022年度は58.0%と増加したものの、米国(2022年度89.0%)との差は大きく開いたままです。
DXは、デジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタル化)とデジタライゼーション(業務効率化による生産性向上)というプロセスを経て実現されると考えられます。DXの取り組みで成果が出ていると回答した企業に対して、取り組み内容と成果について尋ねたところ、デジタイゼーションやデジタライゼーションについては日米でほとんど差はありませんが、DXに相当する「新規製品・サービスの創出」と「顧客視点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」については、成果が出ていると回答した日本企業は約20%、一方米国は約70%と両国に大きな隔たりがあります。
日本では先進的なデジタル技術のビジネス活用が遅れています。「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境構築」に取り組んでいる企業は、日本11.5%、米国57.0%という結果でした。「メタバースも含めたコンテンツ利用の拡大」については日本13.7%、米国52.1%、「FinTechの推進」については日本9.1%、52.8%となっています。
DX推進にあたり、DX人材を定義し、社内で周知することが欠かせませんが、DXを推進する人材像を設定し、社内に周知している企業の割合は、米国が48.2%であるのに対し、日本は18.4%に過ぎません。これは日本企業におけるDX人材の採用や育成の課題を引き起こす要因ともいえるでしょう。
DX人材の育成に関して課題を尋ねたところ、「支援はしていない(個人に任せている)」と回答した割合は、日本が20.5%、米国が3.7%と、DX人材の育成を本人任せにしている日本企業の多いことが分かります。人材育成の方法についてみると、「DX案件を通じたOJTプログラム」を実施している割合は、日本23.9%、米国60.1%であり、米国は実践的な経験を積ませることを重視しているようです。米国は研修の実施にも積極的で、「DX推進リーダー研修」「デジタル技術研修」「マインドセット/シフト研修」の受講割合は日米で約2~3倍の開きがあります。
社内の風通しがよく、情報共有が「できている」と回答した割合は、日本17.3%、米国66.8%でした。また、「リスクを取り、チャレンジすることが尊重される」ことが「できている」割合は、日本が15.0%、米国が42.5%となっています。オープンで新しい取り組みが理解される組織風土の醸成が求められます。
AIの導入目的は、日本は「品質向上」(日本35.0%、米国21.2%)、「ヒューマンエラーの低減、撲滅」(日本36.7%、米国22.4%)、「生産性向上」(日本39.2%、米国19.2%)といった業務改善に関する項目の割合が高い傾向がうかがえます。一方、米国では「新サービスの創出」(日本29.2%、米国43.6%)、「新製品の創出」(日本29.2%、48.1%)といったDX本来の意味である価値創出を目的にAIが導入されることが多いようです。
DX白書のほかにもさまざまなレポートが公表されています。ここでは、経済産業省、中小企業基盤整備機構、帝国データバンクのレポートをご紹介します。
「DXレポート」は経済産業省が公表しているレポートです。既存システムの複雑化・ブラックボックス化を解消し、データ活用できない場合、2025年以降最大12兆円/年の経済損失が発生する(「2025年の崖」と呼んでいます)ことを2018年に指摘しました。2020年にはDXレポート2を公表し、企業の経営・戦略の変革に向けた方向性を「DX加速シナリオ」として明らかにしました。その後2021年8月にDXレポート2.1、2022年7月にDXレポート2.2が公表されています。
独立行政法人中小企業基盤整備機構が中小企業のDXの理解度や必要性、取り組み状況や成果を調査し、2022年5月に公表した報告書です。本調査は規模の小さな企業ほどDXに対する理解度や必要性が低く、DXへの取り組みも遅れていることを明らかにしています。DXに期待する成果については、「ビジネスモデルの変革」や「新商品・サービスの創出」よりも、DX実現の前段階である「業務の効率化」「コストの削減」を期待する割合が高くなっています。
企業信用調査会社である帝国データバンクの調査結果です。2022年9月の調査によると、DXに取り組んでいる企業の割合は15.5%、人材やスキル、ノウハウの不足といった課題を抱える企業が4割超である他、リスキリングに取り組む企業は約5割に上ります。なお、同社は、DX推進とリスキリング取り組み状況の関連性を「リスキリングに関する企業の意識調査」として2022年11月に公表しています。
今回はDX白書から日本のDXの推進状況を確認してきました。取り組み状況は改善されていますが、求める人材の要件が定義されていなかったり、人材育成が社員の自助努力に委ねられていたりするなど、さまざまな課題が見えてきました。自社の現状と比較しながら今後のDX施策を進めてみてはいかがでしょうか。