【DX戦略】企業がDXを推進する目的と戦略立案に役立つフレームワーク

公開日:2023.05.02 更新日:2023.05.02

新たなデジタル技術を活用したビジネスモデルの変革を表す「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が注目を浴びていますが、DXに取り組んでみたものの、十分な成果が出ていないケースも散見されます。DXの実現は掛け声をかけて終わりではなく、現場のDXに対する意識を変革し、戦略的に推進する必要があります。今回は企業がDXを推進する必要性やDX戦略を立てる際に役立つフレームワークをご紹介します。

DX戦略とは?

DX戦略とは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進める際の指針です。まずはDXを推進する理由についてみていきましょう。

企業がDXを推進する目的

社会のあらゆるシーンでデジタル化が進んでいます。クライアントや市場のニーズの変化が早く、技術革新によって技術の陳腐化や製品のコモディティ化が起こりやすいため、製品やサービスのライフサイクルは短くなっています。このような状況の中で、企業はDXを推進し、デジタル化社会において自らの競争力を維持・向上させようとしています。ビジネスを成功させるカギとなる要素がデータ活用です。たとえば、従来は技術的な制約などにより膨大な量のデータ、いわゆるビッグデータのビジネスへの活用は困難でしたが、現在はハードルが下がっています。

DX戦略が必要な理由

DXを推進する上で重要なポイントは、DXは業務効率化・業務プロセス自動化といったIT化・デジタル化の枠を超えた、「変革(トランスフォーメーション)」のための手段であるということです。DXはIT部門やDXを推進する専門組織だけではなく、全社一丸となって取り組むことが欠かせません。DX実現のための戦略を描き、DX人材の採用・育成、推進体制の構築、業務プロセスの見直しなどに取り組む必要があります。

DX戦略の立て方

DX戦略の策定は以下の3つのステップで進めると良いでしょう。

1.DX化の目的を定義する

DX化を通じて何を実現したいのか、その目的を定義します。目的を明確に定義することで、DX化がIT化やデジタル化のレベルにとどまることを防ぎます。

2.現状把握と目標設定

自社のDXの現状把握と到達目標の設定を行います。現状把握にあたっては、後述するフレームワークが役立ちます。

3.目標達成に必要な施策の明確化

AIやクラウドサービスを導入するのか、あるいはデジタル人材を採用・育成していくのかなど、目標を達成するための施策を明確にします。

DX戦略の進め方

経済産業省は2020年12月に「DXレポート2(中間取りまとめ)」を発表し、企業のDX実現までの道筋を「DX加速シナリオ」として提示しました。ここでは、このシナリオに沿って、企業がDX推進に向けて取るべきアクションを短期的対応・中長期的対応に分けて見ていくことにします。

1.DX推進に向けた短期的対応

取り組むべき1つ目の課題は、DX推進体制の整備です。DX推進に関わる当事者間で、DXの必要性や実現方法についての共通理解を形成します。また、CIO(Chief Information Officer)/CDXO (Chief DX Officer)が担う役割の明確化や柔軟なリモートワーク実現のためのインフラ整備を行います。

2つ目は業務プロセスの見直しです。顧客視点で業務プロセスをデジタル化し、デジタル化後も恒常的な見直しを実施します。3つ目はDXの推進状況の把握です。DX実現のために実行する施策を決定するためには、DX達成までの進捗を正確に把握することが欠かせません。国のデジタル経営改革のための評価指標「DX推進指標」などを活用し、推進状況を客観的に把握できるようにします。

2. DX推進に向けた中長期的対応

1つ目はデジタルプラットフォームの形成です。従来、日本では業務システムの開発をシステム開発会社(SIer)に依頼し、自社の業務プロセスに合わせた独自のシステムを構築していました。業務プロセスを標準化し、SaaSやパッケージソフトを利用することにより、コスト負担を減らすことができます。IT投資の効率化を実現するためには、企業の垣根を超えたデジタルプラットフォームの形成が期待されます。

2つ目は産業変革のさらなる加速です。ベンダー企業の役割は、大規模ソフトウェアの受託開発から、ユーザー企業のエンジニアを中心とした小規模ソフトウェア単位での内製開発の支援にシフトします。3つ目は、DX人材の確保です。職務内容を明確にしてふさわしい人材を採用する「ジョブ型雇用」の導入や組織のDX戦略をリードする人材確保が求められます。

DX戦略に役立つフレームワーク

DX戦略を立てる際の現状把握には、フレームワークの活用が有効です。そのフレームワークの1つが3C分析です。

3C分析

3C分析は、経営コンサルタントでビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏が、1982年に『The Mind of the Strategist』という著書の中で提唱した手法です。3CはCustomer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)から頭文字をとったもので、自社が置かれている環境をこの3つの視点から分析し、経営課題の解決に活かそうとする分析手法を3C分析と呼びます。3C分析はマーケティング手法としてだけでなく、経営分析にも用いられるようになりました。3C分析により顧客との差別化を図り、顧客価値を最大化するDX戦略を立てることができます。

<視点ごとに分析すべきポイント>

顧客:顧客ニーズ、市場規模・成長性、購買プロセス

競合:競合の強み・弱み、競合の商品・サービスの特性

自社:自社の強み・弱み、市場シェア

4C分析

DX戦略を顧客視点で考える際に役立つフレームワークです。3C分析は顧客、競合、自社という3つの観点からの分析でしたが、4C分析は以下の4つの観点から分析を行います。

・Customer Value(顧客価値)

製品やサービスを利用することで得られる、顧客にとっての価値

・Customer Cost(顧客コスト)

製品やサービスを利用する際の金銭的な負担や費やした時間

・Convenience(利便性)

製品やサービスの入手のしやすさ

・Communication(コミュニケーション)

顧客とのコミュニケーション

4P分析

4P分析は、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販売促進)という4つの観点で分析するフレームワークです。どのような製品をいくらで、どこで販売し、いかにして販売を促進するかを分析します。4C分析が顧客視点の分析であるのに対し、4P分析は企業視点での分析です。DXにより各観点において変革できる点はないか、検討してみると良いでしょう。

DX戦略の企業事例

経済産業省は、東京証券取引所と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)と共同で、DX推進に積極的に取り組む企業をDX銘柄として選定しています。DX銘柄2022に選ばれた富士フイルムとSGホールディングスの事例をご紹介します。

富士フイルムホールディングス株式会社

カメラのフイルムからデジタルへの変化に対応し、デジタル領域への事業転換を果たすなど、以前からDXに積極的に取り組んできた企業が富士フイルムです。取り組み開始の2014年当初は現場主導での活動が中心でしたが、2021年にCEOを議長とする「DX戦略会議」を設置し、トップダウンでDXを推進しています。

富士フイルムは、製品・サービス、業務、人材と、その土台であるITインフラの4つから構成されるDX基盤を整備し、デジタル活用によるイノベーティブな顧客体験創出と社会課題解決に貢献するという「DXビジョン」の実現を目指しています。製品・サービスにおける具体的な取り組みとしては、世界の医療課題をDXで解決するため、2021年にAI技術を活用した健診センター「NURA」をインドのベンガルール(旧バンガロール)に開設しました。今後2030年度までに196か国すべての国と地域に医療AI技術を導入したい考えです。

SGホールディングス株式会社

宅配事業を手掛ける佐川急便を傘下に収めるSGホールディングスは、SGホールディングスグループ全体のDX戦略策定を担っています。少子高齢化に伴う労働人口減少により、日本の物流業界では必要な人材の確保が難しくなっており、SGホールディングスグループはテクノロジーの活用による自動化・省力化を進めています。また、宅配にとどまらないトータルロジスティクスを提供するため、「サービスの強化」「業務の効率化」「デジタル基盤の進化」という3つの施策により、社会・顧客課題の解決を図るというDX戦略を策定しました。

1つ目の「サービスの強化」では、自社グループだけでなく、顧客や同業他社とのデータ連携・API連携による物流プラットフォームサービスの拡充に取り組んでいます。2つ目の「業務の効率化」では、AIによる配送ルート最適化やAI-OCR(AIを取り入れた光学文字認識機能)による伝票デジタル化などを実現しました。3つ目の「デジタル基盤の進化」は、開発・運用/保守の内製化やレガシーシステムの撤廃の次のステップとして、アジャイル開発(短期間の開発サイクルを何度も繰り返す開発手法)の加速、AIやIoTといった先端技術の活用、DX投資の拡大に取り組んでいます。

まとめ

今回はDX戦略の目的や進め方についてご紹介しました。国内においては、デジタル変革への危機感を持ちながらも、DXの取り組みを始めている企業と取り組めていない企業の二極化が進んでいます。DX推進に積極的な企業は変化への順応力が高く、コロナ禍の環境変化にもいち早く対応することができました。DX実現のためのロードマップを描き、戦略的にDXを進めていきましょう。 

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