2023年7月19日
リスキリングナビ 編集部
監修者
新條 隼人
株式会社ドットライフ 代表取締役CEO
2012年一橋大学商学部卒業後、株式会社ネットプロテクションズ入社。セールスマネージャー、新卒採用、育成担当者を経て2014年1月株式会社ドットライフ創業。webメディア、コンテンツマーケティング事業を経て、2022年よりリスキリング事業を展開。
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2023年3月期より、上場企業などを対象に「人的資本開示(企業の人材戦略を定性的かつ定量的に社内外に向けて明らかにすること※国際標準化機構の定義より)」の義務化が行われました。各社が人という資本にどう向き合うかを発信する今回の開示は、日本企業の人的資本経営の現在地を確認する機会となります。
リスキリングナビは企業のリスキリングに特化した情報発信を行い、国内外の様々なリスキリング事例を発信しています。今回は独自の情報発信の一環として、「人的資本開示におけるリスキリングの取り組みの普及率」についての調査を行いました。
各社の人材戦略においてリスキリングはどのような位置付けなのか、業種や企業規模、地域などでどのような差があるのか。以下調査結果をお届けします。
2023年3月決算の有価証券報告書:2355社
2023年3月決算の有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」などの項目中に「リスキリング」の記載があった企業※:162社(※リスキリングに関連する事業を提供しており、事業内容の文脈でに言及されている企業を除く)
金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム(EDINET)に掲載の情報をもとに編集部が独自観点で調査
リンクアカデミー社が2023年5月に実施した「リスキリング対象者層のITスキル教育」に関する調査結果では、リスキリング施策導入者層(人材育成担当者など)の52.6%が「既に取り組んでいる」と回答したのに対し、今回の人的資本開示でのリスキリングの言及は6.9%に留まる結果となった。
eラーニングの導入者社内制度の変更など、足元の動き出しは行っているものの、経営戦略や人材戦略の柱となる施策として投資家に開示するレベルに至っている企業(またはそのレベルで投資を行っている企業)は多くないことが分かる。
リスキリングの言及率が高いのは銀行、保険業などの金融業界。独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」によると、先述の2業種はDXに取り組む企業の割合も他業界に比べて高い。DXとリスキリングの取り組みの積極性はやはり一定の相関があると言える。
言及率最上位の銀行業については、全国各地の地銀がリスキリングに注力する傾向が見られた。背景として、金融庁が地銀の人的資本の調査を行う方針を言及※しており、明確な必要性を突きつけられることで人材育成の変革が進む一例と言える。(※各地銀の人員構成や採用、人材育成、職場環境などのアンケート調査を実施予定)
四季報によると都道府県別の上場会社の本社数上位は東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、兵庫県。本調査の記載企業も同様の分布となった。一方で、各地方自治体レベルでのリスキリング推進の取り組みなども進んでいるため、この一二年でリスキリング先進地域が生まれる可能性もある。
各市場区分の上場企業数は、2023年7月14日時点で、東証プライム市場(1,834社)、東証スタンダード市場(1,442社)、東証グロース市場(541社)である。リスキリングへの言及という意味ではプライム市場が2位のスタンダード市場の2倍以上の記載率となった。企業規模の大きい大企業の方が中期人材投資をしやすい点などの影響が考えられる。
リスキリング施策の内容については、ある種反対のベクトルの単語が上位に並ぶ。自律的学習は、従業員のキャリア自律の考え方を背景とした、一人ひとりが自らのキャリアやスキルの専門性を考えて自発的に行う、言わばボトムアップ的な考え方だ。一方、DXやデジタルの言及は、人材ポートフォリオに基づき、今後の経営計画を実行していく人材不足からのニーズが中心。組織全体でのリスキリングの成功にはこれらの両輪が機能することが重要である。
基本的にはリスキリングの対象者は全社員という記載が多かったが、対象者が特定される場合はシニアへの言及が多い。シニア社員は専門性や経験を持っているという前提の上で、それらを今後の新しい環境でも生かしていけるようなスキルの再習得が重要、そうすることで長期間活躍できることを目指す、という論旨が目立った。
日本は先進国の中でGDPにおける人材投資の規模が非常に低い(社外学習・自己啓発について「何も行っていない」人の割合が52.6%で世界一位※)ため、「世界一学ばない国」と評されています。
そんな日本企業の中で、人的資本経営においてリスキリングがどのような位置付けにあるかを調査した結果、以下3つの傾向が見受けられました。
岸田政権による新しい資本主義の計画が発表された昨年以降、様々な場でリスキリングという言葉が言及され、巷の調査ではリスキリングの認知度、導入度共に数値が伸びている印象を受けます。一方で、今回の調査によると、人的資本開示における記載率は一桁。つまりは、投資家に開示するレベルのインパクトを持った施策としてリスキリングを行っている(投資している)企業の数がまだまだ多くないことが分かります。裏返すと、リスキリング先進企業・先進地域になる余白があるという解釈もできます。今後、「リスキリング・リーダー企業」の成功事例が生まれることで市場全体のリテラシーや習熟度が加速度的に向上していくと予測されます。
他での調査でも近しい結果が出ている通り、DXとリスキリングの推進度は相関性が高いことが分かります。中期的に事業の変革を迫られる企業が、人材ポートフォリオのギャップを、採用だけでなく育成で埋めていく。リスキリングの成功事例として語られる米国企業の話はこのパターンがほとんどです。(特に米国では採用コスト>リスキリングコストという構造が生まれており、一層リスキリングの加速につながっていると言われています。)日本におけるリスキリングでも間違いなくこの方向性が主流となっていくでしょう。そのためには、経営陣がリスキリングについて正しく理解し、投資判断を行うことが重要です。
②とは反対にボトムアップ型でリスキリングを進めるのが、キャリア自律を促進し、一人ひとりが自発的に学ぶ方法です。このパターンのリスキリングを行う企業の特徴は、人材育成の期待成果を、直接的な事業成果でなく、従業員のエンゲージメント向上に置いているように見受けられる点です。外部環境の変化が大きくなっても、社内に学び続ける環境があり、変化適応を後押ししてくれる。手を挙げれば機会がある。企業内にそういった環境を構築することが従業員のロイヤリティや採用力に貢献するという、元来の発想であれば副産物に近い要素に重きが置かれているように見えるのは興味深い傾向です。一方で、これまで会社主導でキャリア形成を行ってきた大企業の中でいきなり個人に自律を促すのは非常に難しいのも現実です。個人のリスキリングで頻出する「何を学んだら良いかわからない」という課題も同じ原因です。単なる学習教材の導入だけでなく、学習の動機付けが重要なテーマとなるでしょう。(※パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)」)
「時代や社会に合わせて変化する人を支援する」というミッションの元、企業のリスキリングに特化し、人材育成担当者やDX担当者の方に情報発信を行うwebサービスです。
・リスキリング事例検索…国内外の企業のリスキリング事例を検索することができます。企業規模や業種、スキルの種別(デジタルスキル標準に準拠)などの切り口での検索も可能です。
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会社名:株式会社ドットライフ 所在地:東京都目黒区目黒1-4-16目黒Gビル7F 代表者:新條 隼人 設立: 2014年1月23日 URL: https://dotlife.co.jp/ 事業内容:企業向けリスキリング支援サービス「リスキリングナビ」運営
リスキリングナビ広報担当 info@dotlife.co.jp