教育現場にAIが与える影響とは?メリット・デメリットや事例を解説

公開日:2023.11.14 更新日:2023.12.05

近年急速な技術進化を遂げているAI(Artificial Intelligence:人工知能)。私たちの生活に少しずつ浸透し始め、教育現場に導入されるケースも出てきました。しかし「生徒が自ら考える機会が奪われる」と子どもに対するネガティブな影響も懸念されています。

今回は、AIの活用が教育現場にもたらすメリット・デメリットや活用事例などを紹介します。

教育分野におけるデジタル化・AI活用の現状

まずは、日本の教育分野でデジタル化やAI活用がどれくらい進んでいるのか解説します。

「ICT教育」が加速

近年の教育現場ではパソコン・タブレットなどのデジタル機器やインターネットを活用した「ICT教育」の普及が加速しています。ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略称で、たとえばコロナ禍で全国的に展開されるようになったオンライン授業もICT教育の一環です。

ICT教育が積極的に導入され始めた背景には、2050年ごろに実現すると考えられている社会「Society 5.0」が関係しています。Society 5.0では、すべての人・モノがIoT(Internet of Things)でつながり社会全体で情報・知識が共有され、AI技術・ロボット・自動運転なども日常生活に浸透して地方の過疎化や少子高齢化などさまざまな社会課題が解決されると期待されています。

Society 5.0の実現によって人々のライフスタイルや職業、働き方も大きく変化すると予想されており、今学校で教えている内容が未来の社会では通用しない可能性が十分にあります。そのため、政府は2020年度の学習指導要領改正で情報活用能力(ICT活用能力)を「学習の基盤となる資質・能力」に位置づけ、学校のICT環境整備やICTを活用した学習活動を充実させると明記しました。

文部科学省の「GIGAスクール構想」

Society 5.0時代に適した教育体制を整えるため、2019年に文部科学省は内閣官房IT総合戦略室・総務省・経済産業省とともに「GIGAスクール構想」を発表しました。GIGAスクール構想とは、子どもたち一人ひとりに個別最適化された、創造性を育む教育ICT環境の実現を目指す取り組みを指します。

具体的には、デジタル端末・通信ネットワーク・クラウドをワンセットで教育現場に整備し、生徒の学習記録などをビッグデータで収集・分析して一人ひとりに最適化された教育コンテンツを提供することを想定しています。

生成AIを「教育現場」でどう活用するかが議論に

ICT教育の導入が積極的に進められる中で、学習したビッグデータを利用して文章や画像などを自動で作成できる人工知能「生成AI」については、教育現場での活用について慎重に議論されています。生成AIは利便性が高いものの発展途上の技術であり、子どもの思考力や創造性、学習意欲への影響が懸念されているためです。

文部科学省は2023年7月、生成AI利用に関する小・中・高校向けの暫定的なガイドラインを発表し「限定的な利用から始めることが適切」との見解を示しています。

教育現場にAIを活用するメリット

教育現場でのAI活用には「生徒一人ひとりの学習レベルに応じた教育ができる」「教師の負担を軽減できる」「データに基づいて授業や教材を評価・改善できる」といったメリットがあります。

生徒一人ひとりの学習レベルに応じた教育ができる

教育現場にAIを導入すれば、生徒一人ひとりの理解度に合わせたきめ細かな教育やフォローができるようになります。

たとえば、現在の学校の授業はクラスの平均的な学習レベルに合わせて構成されるため、苦手な部分でつまづいてしまった生徒は授業についていけなくなり、どんどん学習が遅れていくケースがありました。AI学習ツールを導入して学習データをクラウド上に記録しておけば生徒一人ひとりの理解度が把握でき、苦手分野の問題を中心にテスト問題を出すなどして遅れをカバーすることが可能になります。

教師の負担を軽減できる

教育現場でのAI活用は生徒だけにメリットがあるわけではなく、教師の業務負担軽減にもつながると期待されています。

たとえば、AIツールを導入すれば授業の出席確認やテスト採点、学習カリキュラムの作成などの業務を自動化・効率化できます。全体の業務量が減れば教師の長時間労働や人手不足といった課題の解決にもつながるでしょう。
また、AIに業務をサポートしてもらうことで、教師は生徒たちの学習意欲を引き出す方法を考えるなど生身の人間だからこそできる仕事に集中でき、教育の質の向上も期待できます。

授業や教材の評価・改善がしやすくなる

教育現場でAI活用が進めば、生徒のテスト結果や学習記録などの情報を通して授業・教材の良し悪しが見えるようになり、適切な評価や改善につながりやすくなります。

たとえば、テスト結果をAIツールで分析した結果、多くの生徒が間違った理解をしている単元があれば、その単元の教材をより分かりやすいものに更新する、補足の授業を追加で行うといった対策が取れます。

教育現場にAIを活用するデメリット・問題点

教育現場でのAI活用には「ICT環境整備やデータ蓄積が必要である」「生徒の思考力を養う機会が減る」「ハルシネーションによってトラブルが起きる可能性がある」といったデメリットがあります。

ICT環境整備やデータ蓄積が必要である

教育現場でAIツールを活用するためには、まず教育用コンピュータや無線LAN、高速・大容量のインターネットなどICT教育に最低限必要な環境を整える必要があります。

たとえばインターネット接続については、2022年に文部科学省が公開した調査結果によると、学校規模が大きくなればなるほどインターネットの同時接続率(2Mbpsの帯域でインターネット接続できる児童生徒の割合)が低くなることがわかりました。学校から直接インターネットへ接続する場合では、児童生徒数が800人を超える学校のうち6割以上が同時利用率10%未満で、大人数の同時利用にはまだ不安な環境の学校が多いといえそうです。

教育現場では一般の家庭と異なり数十人、数百人単位で一斉にインターネットに接続するため、AI活用を進めるためには高速で安定した通信環境の整備が欠かせません。

出典:文部科学省「校内通信ネットワーク環境整備等に関する調査結果」

生徒の思考力を養う機会が減る

授業や課題などで生成AIを無条件に利用すれば、生徒が生成AIに依存して考えることを放棄してしまい、生徒の思考力を養う機会が減ってしまう可能性が示唆されています。

たとえば、生成AIが出した答えを授業でそのまま発表したり、レポートの課題を生成AIに1から作らせたりする生徒も出てくるかもしれません。AIツールを活用しつつ生徒の能力を向上させるためには、さまざまなケースを想定した利用ルールやガイドラインの策定が必要になるでしょう。

ハルシネーションによって間違った理解につながる可能性がある

教育現場でAI活用を進める上では、ハルシネーション(Hallucination)によるトラブルにも注意する必要があります。ハルシネーションとは、生成AIが事実と異なる内容を回答として出す現象です。

生成AIがつくりだす答えはもっともらしく見え、生徒が生成AIの回答をうのみにして間違った理解をしてしまう危険性があります。生成AIの間違いに翻弄されないためには、情報リテラシーの授業などでAIが事実に基づかない回答をするケースがあることや、AIが出した答えをファクトチェックする重要性について伝える必要があります。

教育現場のAI活用事例

教育現場でAIを積極的に活用している事例を2つ紹介します。

英語の発話指導にAIアプリを活用

福岡女子商業高等学校は2023年、生徒たちにクリアな英語発音スキルを身に付けてもらうために、AIの音声認識技術を活用した発音支援サービス「ELSA Speak」を導入しました。

ELSA Speakでは英語の母音・子音の発音に加えてリズムやイントネーションなどの観点でも評価ができるため、従来の授業と比べてより実践的な発音指導ができるようになりました。

AI採点システムで教職員の業務負担軽減を目指す

岡山県では、特別支援学校を除く県立学校でAIによるデジタル採点システムを導入しています。採点システムは、解答用紙の内容をデータとして取り込むと、選択式の問題に対して「〇」「×」などの正誤が判定される仕組みです。記述式の問題は従来どおり教員が採点します。

先行導入した学校の教員に対するアンケートでは、平均7.8時間かかっていた採点業務が4.2時間に短縮されたという結果が出ていて、教員の業務負担の軽減につながっています。

まとめ

すべての人・モノがインターネットにつながるSociety 5.0時代に向けて、教育現場ではAIを含むICT関連の教育が積極的にすすめられています。AIを教育現場に導入することで、生徒一人ひとりの学習レベルに応じた教育や教師の業務負担軽減などの効果が期待されています。しかし現在の通信環境が完全とは言えず、生成AIが生徒の思考力を養う機会を奪う危険性もあります。AIの導入で生徒の学びや教師の業務をサポートするためには、適切利用に向けたルールの策定や環境整備が必要です。


本記事では、教育とAIに焦点をあてましたが、こちらのコラムでは教育現場のDXについて解説しています。

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