近年、企業戦略の一つとして、ますます重要視されている人材育成。
人材育成は企業の組織全体をマネジメントする必要があるため、同時に複数の課題を抱えてしまうことも少なくありません。
本記事では、そんな悩みをもつ人材育成担当者の方に向けて、起こりやすい課題や、その解決方法について、実例を踏まえて解説していきます。
目次
人材育成を実行するうえでありがちな課題は以下の3つです。
人材育成に十分な時間やリソースを割くのが困難というケースは多くあります。
特に気を配るべきなのは人的リソースです。多忙な社員にとっては、日常業務や目の前の成果目標に追われ、人材育成に取り組む余裕がないかもしれません。
また、取り組み以前に人材育成の計画やマネジメントを行う人事部が他の業務で手一杯という場合も起こりうるので、注意しましょう。
育成が必要な社員の成長意欲が薄かったり、育成する側のスキルが不足していたりする場合、人材育成がうまく進まない原因になります。
この場合、社員のモチベーションや、教える側の指導スキルを向上させるためにマネジメント側からフォローを行うことが課題になります。
人材育成は、成果を生み出すまでに時間がかかるため、長期的な視点が必要です。それにも関わらず、明確な目的が定まっていなかったり、それが社員に伝わっていなかったりすると、社内の協力が不足し、表面的な施策の実行に終わってしまうことも考えられます。
マネジメント全般にいえることですが、期待する成果を得るには、組織全体に最終目標や取り組みの意義を共有することが欠かせません。
人材育成の課題を分析するための2つのアプローチを以下にご紹介します。
課題の現状を把握するためには、まず現場の社員に直接ヒアリングを行い、正確な情報を洗い出すことが先決です。
社員が実際に課題意識を抱えていること、チームに不足している能力などを聞き出すことで、より効果的かつ納得感のある人材育成の計画が立てられるでしょう。
厚生労働省「株式会社富士通マーケティング 事業本部の技能レベルの把握」を加工して作成
スキルマップとは、企業が社員に求める能力を一覧表にして可視化したものです。
多くの場合、職種や階級ごとに必要な技能や経験、スキルを整理したシートを作成し、社員それぞれに対する自己評価や上司からの評価を記入します。
これにより、社員個人の不足するスキルが明確になり、具体的な育成計画を立てたり、進捗を管理したりしやすくなります。また、具体的な計画があれば、社員のモチベーションも上がりやすく、リソースの確保もしやすくなるでしょう。
また、前述のヒアリングをこのスキルマップと照らし合わせながら行うことができれば、課題点をさらに詳しく洗い出すことができるでしょう。
ここまでに紹介した人材育成の課題を解決するための方法を4つ紹介します。
前述の通り、人材育成は成果を生み出すまでに長い期間を要するうえ、企業組織全体をマネジメントする必要があります。
したがって、人材育成を効果的に推進するには、企業理念や経営目標に基づき、取り組み全体の最終目標を定める必要があります。
目標から逆算することで人材育成の価値が明確になり、具体的な計画の作成や、リソースの確保がスムーズになるのです。
課題解決のためには、指導側の育成が不可欠です。具体的には、指導者に求められるティーチングスキルやコーチングスキルについて、研修などを通じて教育する場を設けるとよいでしょう。
プレーヤーとして優秀な社員であっても、必ずしも部下にスキルを教えたり、部下のモチベーションを管理する能力が優れているとは限りません。
マネジメント層からも、指導側の教育スキルアップを手助けできるよう工夫をしていきましょう。
人事評価制度は、人材育成の方針と一貫性のあるものになっていることが望ましいです。つまり、人事評価の達成項目と人材育成において要求するスキルの目標が合致している必要があるのです。
この2つの指標にずれや矛盾があると、目的が不明瞭になってしまいます。また、社員の努力の方向性も定まらないので、チームのモチベーションダウンに繋がる可能性があります。
既存の人事評価制度と人材育成の指標は相関する内容になるよう、気を配るとよいでしょう。
オンラインの環境で研修や講座を提供する「eラーニング」の導入は、時間やリソースの不足という課題への直接的な解決策になります。
eラーニングなら、社員は空き時間や移動時間を活用してインプットができ、通常の集合研修やセミナーに比べて大きな時間の削減ができます。
近年では、動画で学習したり、学習者同士で気軽に交流したりできる安価なプラットフォームも充実してきているので、これらを活用すれば手間や予算も削減できます。
実際に人材育成の課題解決に取り組み、成功している企業を2例紹介します。
2015年、サントリーホールディングス株式会社は大掛かりな人材育成プロジェクト「サントリー大学」を発足。
シニアマネージャー層に向けたハーバード大学提携の集合研修、eラーニングシステムによるビジネススキルの講座提供など幅広い取り組みを行っています。
2017年には、サントリーに「自ら学ぶ風土」を育てることを目的とした学びのプラットフォーム「寺子屋」を新設しました。
このプラットフォームでは、「サントリーグループ社員約20,000名を対象に無料で参加できる仕組みで、ビジネススキルや一般教養に関する講義を受講して学びを得たり、自らが講師となり社内外で得た知識を他の社員に自由に共有すること」ができるとのこと。2021年には延べ30,000人以上の参加者が利用し、数ある施策の中でも大きな成功を収めています。
参考:従業員と響き合うダイバーシティ経営・人材育成|サントリーグループ
ヤフー株式会社は古くから、人材育成に対する先進的な取り組みで有名な企業でもあり、今では有名になった「1on1ミーティング」を2012年に先駆的に導入、人材育成の軸として位置づけています。
1on1ミーティングとは、上司と部下が定期的に1対1で話し合い、部下の成長のために対話を行う取り組みのことです。
ヤフー株式会社では、社員一人一人が経験を内省し、学びと成長につなげることを重要視しており、他にもユニークな取り組みとして「ななめ会議」とよばれる管理職の評価システムがあります。ななめ会議では、管理職の社員を部下やその他の関連メンバーから評価し、1on1ミーティングやチーム運営に関するフィードバックを行います。
指導側の教育スキルを伸ばすことで、チーム全体の成長を加速させる意図がうかがえますね。
人材育成の課題や解決策について解説しました。
つまずきがちなポイントを押さえることで、問題の発生にも備えることができ、効果的な人材育成戦略を実行できます。
本記事で紹介した成功事例や手法を参考に、人材育成に取り組んでいきましょう。