企業として生産性を向上させ、持続的な成長を達成するために従業員の能力を活かす「タレントマネジメント」が注目を集めています。主観的な人材配置ではなく、従業員の持つスキルや能力、性格などを加味して戦略的な人材配置や育成を行うことが特徴です。
本記事ではタレントマネジメントの概要から、どのようなやり方が効果的なのか、実際の企業事例などを交えて解説していきます。
目次
タレントマネジメントとは、従業員が持っているスキルや能力を重要な経営資源と捉え、能力を最大限に発揮させられるような配置や人材獲得を行い、パフォーマンスを最大化させることで自社の成長につなげていくマネジメント手法です。
自社が掲げている企業目標を達成するために、採用から育成、人材配置や評価に至るまで、人事戦略と密接に関係し、戦略的に行なっていくのが特徴です。タレントマネジメントは自社に所属している全従業員が対象で、正社員と派遣社員、パートなどで区別されることはありません。人材の流動性が激しいアメリカで提唱され、転職が当たり前となってきた日本でも取り入れる企業が増えてきています。
タレントマネジメントを行うことで、以下のような効果が期待できます。
タレントマネジメントでは従業員一人ひとりの特性に合わせて人材配置を行なっていきます。その人の持つスキルや能力、職歴、所持しているノウハウなどが、どの部署だったら最大限の力を発揮するのかという視点で人材配置を行います。
たとえば、営業部では力が発揮できない人材でも、管理部では大きな力になるなどの可能性がありますし、逆のパターンもあります。従業員が輝ける人材配置を客観的な視点から行うことで、組織の強化につなげていきます。
また、タレントマネジメントではスキルや能力をデータに基づいてスコアリングしていきます。そのため、人事評価を行う際にも主観が入ることなく、全従業員が公正な評価を受けることができ、会社に対する従業員からの信頼度アップが期待できます。
人事評価体制だけでなく、タレントマネジメントを活用すれば、配置した理由も客観的に説明できます。今、持っているスキルや新しい配属先で身につけてほしいスキルなどの共有も容易になり、従業員は自分が会社から求められている役割をしっかりと把握できます。
自分のスキル向上が会社への貢献につながると実感しやすくなり、従業員のエンゲージメントの向上につながります。エンゲージメントが向上すれば、離職防止など企業の持続的な成長にもつながっていきます。
タレントマネジメントによる生産性向上も効果の一つです。能力や個性に応じた適切な部署への配置を行うため、パフォーマンスが最大化され、生産性の向上が期待できます。従業員それぞれの生産性の向上により、組織全体の生産性向上も期待できます。
タレントマネジメントは、従業員の特性に合わせて配置を行うものですが、従業員の強みだけでなく弱みについても把握することができます。従業員が抱えている課題が可視化されれば、課題に応じた適切なマネジメントにもつなげられます。さらに従業員のキャリアビジョンを共有することにより、目標達成に向けた研修の実施なども行えます。
自社でタレントマネジメントを導入するには、以下のステップに沿って進めていくと良いでしょう。
それぞれのステップで具体的にどのようなことを行うかを解説していきます。
まずはタレントマネジメントを行う目的を明確にしましょう。将来的に自社がどのような姿でありたいのかをイメージし、そのビジョンの実現のためにはどのような人材が必要かを定めていきます。部署ごとに必要となるスキルや能力、どういった人材が適しているのかを確認したうえで、全体を設計していきます。
タレントマネジメントでは客観性が重要なため、自社に所属している全従業員の情報をデータ化することは必須の作業です。全従業員の現在の業務だけでなく、これまでの職歴、所持しているスキルやキャリアプランなども可視化していきましょう。
その際、現在の仕事に対するモチベーションや会社へのエンゲージメントなども合わせて調査すると、データの精度が上がっていきます。
目的を設定する際に見えてきた、各部署が必要とするスキル・能力を所持する人材や、性格的に向いている人材などを、可視化されたデータを元に明確にしていきましょう。
ただし、スキルや能力上は適した人材だったとしても、個人のキャリアプランを無視する形になってしまうのはよくありません。会社としても従業員個人としても持続的な成長がのぞめるようなマネジメントが大切です。
必要な人材が明確化したら、人材確保のための施策を実行していきます。
新たな人材の採用や既存の従業員の育成など、必要な人材を確保する手段はさまざまです。それぞれの施策のメリット、デメリットも確認し、自社の目的達成に適している施策を実行していきましょう。
必要な人材を確保したら、適材適所に配置し活用していきます。ただし、データなどから適切と判断した配置先が本人の希望と合致しない場合や、スキルや能力が素晴らしい人材でも、残念ながら現場の管理職がマネジメントしにくいケースもあるでしょう。
従業員にも管理職にも感情があります。状況を把握し、妥協点を見極めながら進めていくことが求められます。
施策を実行したら検証と改善を行なっていきます。想定以上の成果を上げた、思ったほど成果が出なかったなどさまざまな結果が出てくるでしょう。芳しくない成果だった場合は、なぜそうだったのかを徹底的に検証し、改善していくことが大切です。
設計の際には完璧だと思っても、どこかに歪みは生じるものです。次の施策に向けてブラッシュアップしていくことがタレントマネジメントで成果を出すコツになります。
タレントマネジメントを実践している企業事例として、以下の2つの企業を紹介します。
サントリーホールディングスでは、従業員一人ひとりがプロフェッショナルとして自立し、新たな価値を生み続ける集団を目指すという目的を掲げ、従業員の多様さを前提とした「ダイバーシティ経営」を行なっています。
従業員を適材適所に配置し、成果は全て実力主義で評価する体制を整えています。さらに評価された人材を希望のポジションにつけるようにするなど、従業員のモチベーション管理体制も構築されています。
サントリーの企業風土として「やってみなはれ」という精神があり、今後も挑戦を続ける企業として成長し続けるため、「働きがい」と「働きやすさ」の両立を目指した制度と職場環境を整えていく方針です。
ANAホールディングスでは、統合人事パッケージ「POSITIVE」を活用して、36,000名の従業員のタレントマネジメントを行なっています。POSITIVEは、これまでの職歴や資格などが一元管理でき、グループ会社を横断して異動するシミュレーションなども行えます。
ANAでは人材を「人財」と称し、最大の資産であると考えています。多種多様な人材を抱える航空業界だからこそ、適切な人材配置を行い、生産性向上につなげています。
企業は人材をより有効的に活用しなければ、これからのビジネスの変化に対応できず淘汰されてしまいます。適切な人材配置や戦略に直結するタレントマネジメントを行うことは、自社の持続的な成長にもつながっていきます。
自社の将来像を見据えて、長期的な視点から必要な人材を考え、会社の成長へとつながるタレントマネジメントを導入することをおすすめします。