DXとIT化・デジタル化の違いは?DX推進の方法と企業事例

公開日:2023.04.28 更新日:2023.04.28

最近はDXという言葉をよく耳にするようになりましたが、IT化やデジタル化と混同されることも少なくありません。DXの取り組み方が分からない、必要な人材が不足しているなど、DXへの取り組みが不十分な企業も多いようです。今回はDXの意味、企業がDXを推進する理由や日本における現状について解説します。最後に、DX推進に積極的に取り組む2社の事例をご紹介します。

DX推進とは?

DX推進とは、企業がDXを推し進めていくことです。DXはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって提唱されました。DXの定義はさまざまですが、従来のIT化やデジタル化よりも広い意味で用いられます。令和3年版情報通信白書は、DXを「デジタル技術の活用による新たな商品・サービスの提供、新たなビジネスモデルの開発を通して、社会制度や組織文化なども変革していくような取組」としています。

DXとIT化の違い

DXとIT化の違いは、IT化は業務の効率化を目的としていることです。IT化の一例として、稟議システムの導入について考えてみましょう。稟議とは、物品の購入などの際に書類(稟議書)を作成・申請して上司(承認者)・決裁者から印鑑をもらうという一連の流れを指します。稟議システムの場合、申請が上がると、適切な承認者と決裁者に対してメールで通知が届き、承認者と決裁者はシステム上で電子承認印によって捺印します。システム導入により稟議申請・承認業務が効率化され、稟議をスムーズに進めることができます。

DXとデジタル化の違い

デジタル化はIT化と同じ意味か、やや広い意味で用いられます。なお、デジタル化に含まれる概念として、アナログ・物理データのデジタル化を表す「デジタイゼーション(Digitization)」と業務プロセスのデジタル化を表す「デジタライゼーション(Digitalization)」があります。

企業がDX推進する理由

DX推進の機運が高まったきっかけは、経済産業省の「DXレポート」(平成30年9月発表)です。このレポートは、企業が競争力を維持・強化するためにはDXの実現が不可欠であり、実現できない場合は2025年以降多大な経済損失が生じる可能性がある(レポートはこのことを「2025年の崖」と呼んでいます)と指摘しました。

日本のDX推進の現状/課題

日本におけるDX推進への取り組みは不十分です。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2021」によると、日本でDXに取り組んでいる企業の割合は約56%に対し米国では約79%です。また、米国では情報通信業以外でもDXへの取り組みに積極的であり、製造業における全社でDXに取り組んでいる企業の割合は、日本が20.1%であるのに対し、米国は44.1%と大きな差がついています。

DX推進を担う人材確保も課題です。「DX白書2021」によると、事業戦略上の変革を担う人材の量の確保について尋ねたところ、「過不足はない」と回答した企業の割合は、日本が15.6%であるのに対し、米国は43.6%でした。また、人材の質の確保については、「過不足はない」と回答した企業の割合は、日本が14.8%、米国が47.2%でした。

DX推進の方法

DXは企業の急務ですが、どのようにして進めていけばよいのでしょうか。DXを3つの段階に分けて考えてみます。

1.デジタイゼーション

社内のアナログ・物理データをデジタル化する段階です。紙媒体のドキュメントを電子化する、いわゆるペーパーレス化はデジタイゼーションの1つです。手書きの伝票をシステムに手入力する代わりに、OCR(文字認識)で読み取って入力することもデジタイゼーションに分類されます。

2.デジタライゼーション

デジタイゼーションは単に情報をデジタル化したにすぎません。デジタライゼーションは業務プロセスのデジタル化を指します。RPA(Robotic Process Automation)による定型業務の自動化などがデジタライゼーションに該当します。

3.デジタルトランスフォーメーション(DX)

デジタイゼーションおよびデジタライゼーションという段階を経て、DXが実現されます。デジタル技術によるビジネスモデルや組織の変革が達成された段階です。

DXの企業事例

日本企業がDXで国際的に遅れを取っているという現状を改善するため、日本は国を挙げてDXを推進しています。経済産業省は、DX推進に積極的に取り組む企業を「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」として、2020年から毎年選定しています。ここでは2022年にDX銘柄に選定された企業のうち、特に優れた取り組みを行った企業としてDXグランプリ2022に輝いた中外製薬と日本瓦斯の2社の事例をご紹介します。

中外製薬株式会社

中外製薬は、がん領域の医薬品や抗体医薬品で国内シェア1位の医薬品メーカーです。近年、新型コロナウイルス感染症の治療薬でも注目された同社は、成長戦略「TOP I 2030」の重要な要素の1つにDXを位置付けています。デジタルに関わる方針「CHUGAI DIGITAL 2030」を掲げ、「デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになる」ことを目指しています。

「CHUGAI DIGITAL 2030」は、社内デジタル人材育成の仕組みや大容量データのセキュアな利用のためのクラウド基盤構築といった「デジタル基盤の強化」、治験のデジタル化やデジタルプラントの実現などの「すべてのバリューチェーン効率化」、AI創薬、デジタルバイオメーカー開発、リアルワールドデータの利活用といった「デジタルを活用した革新的な新薬創出」の3つを基本戦略として策定しています。

日本瓦斯株式会社

日本瓦斯(ニチガス)はLPガスや都市ガスを供給するエネルギー企業で、LPガスの小売りシェアは関東圏1位を誇ります。2018年には電力小売り事業に参入し、ガスと電気のセットプランの販売を開始しました。ニチガスは小売り事業からエネルギーソリューション事業へのビジネスモデル転換を目指す「NICIGAS 3.0」を掲げています。

DXの具体的な取り組みとしては、デジタルツイン化システム「ニチガスツイン on DL」を開発し、2021年に川崎市のLPガスハブ充填基地で運用を開始しました。これはLPガス事業に関するIoTデータや物理資産を仮想空間上に再現し、遠隔による状態の把握や操作を可能にする他、ディープラーニングによってLPガスの配送を効率化するものです。従来はガスボンベを2本1組で提供し、1本を使い切るごとに交換していましたが、システム運用後はガスの残量を正確に把握できるため2本まとめて交換できるようになりました。

まとめ

今回はDX推進について見てきました。DXはIT化やデジタル化にとどまらない、ビジネスモデルや組織の変革を指す概念であり、企業が競争力を維持・向上させるためにはDXの実現が欠かせません。しかしながら、日本におけるDXへの取り組みは遅れており、意識改革や人材育成が急務とされます。今回紹介した事例を参考にしながら、DXに取り組んでみてはいかがでしょうか。

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