日立、日本製鉄、三井化学など様々な分野の大企業がデータサイエンティスト育成を掲げ、数百人から数千人の人材育成を目標に投資を行っている。経産省が定める「DX推進スキル標準」の人材類型にも定義されており、データサイエンティストは、DXを推進する企業にとってまさに必須の人材である。
実際に取得すべきスキルとしての市場の関心も大きい。日本最大級の動画学習サービス「gacco」を運営するドコモgaccoによると、2022年開講講座において受講者数が最も多かった講座は「社会人のためのデータサイエンス入門」「社会人のためのデータサイエンス演習」とのことだ。
そんなDXの必須科目とも言えるデータサイエンスだが、同社で企業むけのDX人材育成プログラムの開発を担当する横山 竜也氏は「企業でDX人材育成を行う際に取り入れる場合は注意が必要」と話す。企業のDX人材における落とし穴と、その対処法について、同社の調査や事例をもとに話を伺った。
取材対象者
横山 竜也
株式会社ドコモgacco 営業部 マネージャー
1987年 三重県津市生まれ(現在は東京都墨田区在住)
2006年 名古屋大学 理学部 入学
2010年 名古屋大学 大学院 環境学研究科 入学
2012年 株式会社NTTドコモ 入社
株式会社NTTドコモに入社後、ドコモショップのラウンダーを経験して、新規事業開発
部門でドコモデータを活用したリサーチ・プロモーションサービスの運営・グロースと
アライアンス等を担当。
2018年より、現職の株式会社ドコモgaccoにてeラーニングを中心とした人材開発
サービスの企画や営業のマネージャーと『DX人材育成プログラム』の開発に従事。
目次
横山氏曰く、データサイエンスは始めやすく成果が見えやすいため、DX人材育成のとっかかりとして非常に相性が良いとのこと。例えばソフトウェアの設計を学んだり、プログラミング言語を学んだりすることに比べて、データ分析は普段エクセルなどで触っているデータを活用するという意味で、既存業務からの飛躍が小さい。実際に、すでに存在するデータを整理・分析・活用することで業務改善に生かしたり、新しい施策を検討するところからDXに着手する企業が多いそうだ。
ドコモgacco社のDX人材育成プログラムを全社員で受講しているJTB社では、プログラムの一つである「データリテラシー向上セミナー」を通じて既存業務のデータ分析を行い、人員稼働率の分析など、業務上での活用のヒントを得られたという。
「DXを掲げていきなり事業やサービスを作ろうというのは非常に難しいので、こういう身の回りの小さな成功体験を積み重ねることから始めるのがモチベーションにも繋がり、とても有効です」と横山氏は語る。
では、企業の人材育成担当者はどこに注意すべき点があるのだろうか。
横山氏が警鐘を鳴らすのは、「個人のスキルアップの延長に企業のDXが必ずしもない」という点だ。例えば、ジョブ型の浸透により、自らが目指すべきジョブの内容や必要となる(推奨される)資格などが整備されることで、従業員が特定のスキルや資格を勉強するモチベーションは生まれやすくなっているという。先述のデータサイエンスのような既存業務への連携性が高いスキルであれば、着手のハードルも低くなる。一方で、それらの資格取得が全社のDX戦略のどこに紐づくかが不明瞭な場合、単なる個人のスキルアップに止まってしまう懸念もあるとのことだ。
前提として、企業のDXには先述のような全社員のリテラシーを高めてボトムアップでの推進と、自社の事業が将来向かうべき方向やビジネスモデルを定義し、そのために必要な変革をブレイクダウンするトップダウンでの推進の両輪が必要だという。
「現場のメンバーレベルでデジタイゼーション、デジタライゼーションを起こしていくことは非常に重要ですが、将来ビジョンや戦略から逆算したバックキャストの考え方が欠けていては企業のDXは実現しません」(横山氏)
そこで鍵になるのが、階層ごとのDX人材育成設計だ。
(図1:階層ごとのゴールと育成方法)
階層ごとにDX人材育成を行う例として、図1のようなゴールや方法が挙げられるという。メンバーレイヤーは先述のようにリテラシーを身につけて自身の業務に生かすというゴールに止まるのに対し、マネージャーはDX推進のビジョンや戦略を描く必要がある。ゴールが異なるのでスキルの育成プロセスも異なり、メンバー層がeラーニング主体を推奨されているのに対し、マネージャー層にはより実践環境に近いワークショップや伴走など、対面研修が推奨されている。
リンクアカデミー社の「リスキリング対象者層のITスキル教育」に関する調査結果(2023年5月8日)によると、リスキリング施策導入者層に、DX推進を阻む人的要因や課題をどのように解決したいと思うか尋ねた結果、「中堅層の(IT研修など会社主導での)育成」(31.3%)が最も多く、「管理職の(IT研修など会社主導での)育成」(30.3%)が上位2つで並ぶ。上が変わらないと、という感覚は実際に育成担当者の中にもあるのだろう。
先に例で挙げたJTB社は、全社員向けのDX人材育成プログラムと合わせて、選抜型のDX推進人材に着手しているという。
とっかかりやすいデータサイエンスと併せて、階層ごとのマネージャー、リーダー人材の育成を並行し、積み上げと逆算を両輪で回すことがDX人材育成の鍵と言えそうだ。
ドコモgaccoのDX人材育成プログラムは、経済産業省が定める「デジタルスキル標準」に基づいた体系的なカリキュラムの提供により、 DX人材育成のスタートにお悩みの皆様の課題を解決できます。
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