多くの企業で必要性が叫ばれているDXですが、実は大学でもDXの必要性が議論されています。
そこで本記事では、大学DXの概要や大学がDXを推進するメリット、事例や活用できるサービスについて詳しくご紹介します。
目次
大学DXは、オンライン授業などに代表されるように、従来アナログ・対面で行われていた教育や大学の運営をDX(デジタルトランスフォーメーション)し、より効率的・効果的な教育体制に変革しようとする動きのことです。
大学DXは多岐にわたる取り組みが考えられており、民間企業との連携による教育のデジタル化、DX推進課の設置、大学内の相談機関のオンライン対応、大学独自のクラウドストレージサービスの設置なども大学DXに含まれます。
大学にDXが求められるようになった背景には、従来からの政府の動きや社会の変化があります。ここでは、大学DXが必要な背景とその課題について解説します。
大学DXが必要な背景の1つには、リモート授業への対応の必要性があげられます。
新型コロナウイルスの流行によって長期間大学に集まることが難しくなり、大学では早急なリモート授業への対応が求められるようになりました。
今後に向けた感染・災害リスクへの対策として、いつでもどこでも大学の授業を受けられる体制の整備が必要になりました。
もう1つの背景には、教育効果そのものの効率化・最適化にあります。
文部科学省では、小中学校における教育効果を最適化するために、デジタル技術を活用して各生徒のデータを抽出・分析することで、各人に最適な教育を提供する「GIGAスクール」構想を打ち出しています。
また、高校・大学においても、オンライン・オフラインどちらでも授業を受けられるハイブリッド教育研究環境の整備や数理・データサイエンス・AI教育の推進を打ち出しています。
こうした背景から、大学においてもDXを推進し、大学の経営合理化と教育の最適化を進めようとする動きが活発化するようになりました。
大学がDXを推進する上での課題は主に以下のとおりです。
大学においてDXが求められるようになったのは最近であり、大学内ではまだDXに関する知識や人材が不足している状況です。また、デジタルインフラを整備するには新たにコストが発生するため、こうした人や労力、金銭コストがDXの足かせになっているケースもあります。
DXを進めるにあたっては、多言語対応や障がい者への対応など、DXによって特定のマイノリティや社会的弱者が取り残されることのないよう配慮する必要もあります。DXは大学だけが利益を受けるものではなく、学生にこそ利益があるものでなければなりません。
さらに、大学にはDXのような変革を好まない古い価値観・古い慣習も存在します。こうした環境からどのようにDXによる大学変革の意識を醸成するかも課題のひとつです。
大学DXを推進するメリットは、主に次の3つです。
DXによりリモート授業化が進めば、生徒は好きな時間に好きな場所で受講が可能になります。
通学時間を大幅に減らせるので、プライベートの時間をより充実させることができるでしょう。オンデマンド型の授業であれば、繰り返し講義の視聴が可能で、復習や理解を深めることにも役立ちます。それぞれのライフスタイルや進度にあわせた学習を進めることができます。
コロナが長期化した後は、ほとんどの大学でリモート授業が実施されるようになりました。
大学DXを進めるメリットの一つに、学習成果の見える化があります。
たとえば、授業を完全オンラインに対応させれば、生徒の受講状況や試験結果が数値化でき、学習の習熟度などの評価に利用できます。
これまで大学教員は多くの生徒を一度に担当しなければならず、個別の学習習熟度まで確認するのは困難でしたが、DXによりきめ細かなサポートも可能になります。
オンライン授業を導入すれば、リアルでの授業に比べて一人当たりにかける授業の費用を抑えることができます。
オンライン授業化が進んだ大学では、今後講義スペースなどを縮小し、授業のコストを削減するケースも出てくるでしょう。
授業のコストを抑えられれば、授業料など生徒側の負担も軽減されることが期待できます。
次に、大学DXの事例について詳しく見ていきましょう。
大阪府東大阪市にある近畿大学は、早くからオンデマンド授業の導入に踏み切った大学として知られています。
あらかじめWEB上にアップロードされた動画を生徒が好きな時間に閲覧し、何度も学習することができます。
さらに、近畿大学では2020年から株式会社schooと提携し、オンデマンド授業の質の向上に取り組んでいます。
神戸大学では、LMSシステムに表情認識機能を搭載することで、授業中の生徒の表情を分析し、生徒の集中力の傾向を可視化することに成功しています。
LMSシステムはIT技術が活用された学習システムを指し、生徒の学習内容や学習の進捗状況の確認、生徒と教員のコミュニケーションを助けるシステムです。
このシステムに表情認識機能を搭載することで、生徒から得られた情報が学校側にフィードバックされ、より良い授業のために役立てられています。
獨協医科大学では、AIによる先進的な学習支援の事例が見られます。
同大学では、オンライン授業での学生の行動や発言をAIが分析し、参加度や理解度を可視化しています。
AIによって分析したこれらのデータは、学習や生活で支援が必要な生徒を早期に発見することに役立てられています。
その他の大学DXの事例は、文部科学省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」のサイト上でも確認できます。
参考:文部科学省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」DXにはITサービスの活用が不可欠です。ここでは、大学DXに活用できるサービスを4つご紹介します。
WEB会議システムは、大学DXを進める上で簡単に導入できるシステムのひとつです。
ZoomなどのWEB会議システムを導入すれば、大勢の生徒に向けて一度にリモート授業を行うことができます。
録画機能を使えば、一度行った授業を生徒が何度も見返すことができるようになります。
生徒側も無料で使うことができる、DXの第一歩として最適なツールです。
電子決済システムは、決裁書や報告書などの書類を所定のフォーマットで作成してくれるシステムです。
電子決済システムは、決裁の進捗や内容を各人がPCで確認できるため、チームのマネジメントや進捗管理に役立ちます。
また、チーム内で進捗共有ができると、不在者を後に回すなど、決裁の効率化が可能になります。
大学によってはアナログで決裁書や報告書を回覧しているところもあります。時間や手間を省くためには、今後導入が必須のシステムです。
多くの民間企業で導入されいているSlackやChatworkなどのビジネスチャットは、離れた場所からでもお互いに迅速なコミュニケーションを取ることができて便利です。
今後大学職員もリモートワーク化が進むようになれば、ハイブリッドワークを前提として、ビジネスチャットでコミュニケーションを取った方が仕事のやり取りがスムーズになるでしょう。
また、大学の全体的なイベントやお知らせ、報告などを各人が知る際にも、社内SNSが適しています。
LMSとは学習管理システムのことで、現在多くの大学がLMSを取り入れた大学DXに取り組んでいます。
具体的には、LMSはeラーニングを実施するために必要な教材の配信、学生の成績の保管、分析機能などが統合された管理システムです。
LMSを導入することによって、学生一人ひとりの習熟度のチェック、習熟度にあわせた最適な学習方法などを提示できます。
このように、LMSは大学DXの中でも重要なシステムといえます。
現在、大学DXはまだ過渡期であり、大規模なDXに踏み出している大学はそれほど多くありません。
しかし、今回ご紹介した事例のように、最新のIT技術やシステムを用いれば、これまでわからなかった学生の習熟度やモチベーションを個別にチェックすることができるようになります。
今後、大学DXが進めば、大学はさらに学生一人ひとりにパーソナライズされた学習教材を提供できるようになるでしょう。