昨今では働き方改革の影響もあり、人材を適材適所に配置し、効率的に成果を上げる人材マネジメントが求められています。
こうした人材マネジメントに有効活用できるのが「人材ポートフォリオ」です。自社の人材を細かく把握することで、経営戦略や事業戦略に基づいた人材配置や人材の育成に活用できます。
本記事では人材ポートフォリオの概要から、なぜ人材ポートフォリオが求められているのか、実際の作り方なども含めて解説していきます。
目次
人材ポートフォリオとは、自社にいる人的資源を事業内容に照らし合わせて、どのように構成されているかを分析したものです。
企業としての経営目標や事業目標を達成するために、人材ポートフォリオでは以下のようなものを示します。
それぞれを可視化させ、適切な人材配置に活かすために人材ポートフォリオは用いられます。
たとえば人材ポートフォリオを作成することで、ある事業の人材が理想よりも足りていない、理想としているスキルを持った人材を配置できていないなどの課題が見えてきます。
社内に適した人材がいない場合は、人材育成や採用戦略に応用することで、人材マネジメントにつながります。
人材ポートフォリオを作る最終的な目的は、企業として効率的に成果を上げることです。人材ポートフォリオの活用によって、適材適所な人材配置が可能になりますが、それは手段であって目的ではありません。
人材ポートフォリオを作成すること自体が目的であると間違わないようにしましょう。
働き方改革や少子高齢化による労働人口の不足によって、企業は効率的に成果を上げる必要が出てきました。とくに労働人口の不足は大きな影響をもたらすと考えられており、パーソル総合研究所が2018年に発表した「労働市場の未来推計2030」では、2030年には644万人の人手不足が発生するとされています。すでにDXを推進する人材が不足して企業間で奪い合いになっているなど、企業にとって労働力の確保は死活問題となっています。
つまり人手不足に対応し、企業としての持続的な成長や成果を上げるためにも、人的資源の有効活用が求められます。こうした背景から、人材ポートフォリオの必要性が増してきています。
人材ポートフォリオを作るメリットとしては、主に以下の3つが挙げられます。
それぞれのメリットについて解説していきます。
人材ポートフォリオを作る最大のメリットと言えるのが、適切な人材配置が行えることです。人材ポートフォリオの作成によって、従業員それぞれの強みや弱み、スキルや経験、キャリアプランなどが明確になるからです。
企業側は事業目標を達成するために最適な人材を客観的にピックアップでき、従業員側は自身の強みを活かせる仕事やポジションに配属されるようになるため、モチベーションの向上や生産性向上が期待できます。
主観的ではない、客観的な人材配置が可能なのは人材ポートフォリオの大きなメリットです。
人材ポートフォリオを作成することで、従業員それぞれの特性を把握できます。そのため従業員のキャリアプランが共有でき、実現に向けたサポートも個別に行えます。
現在ではキャリアプランも多様化してきており、専門的な分野を極めたいと考えている人、将来的にマネジメント職種を考えている人、さまざまな分野を網羅的に経験したい人など、未来像は人それぞれです。
企業側には、従業員満足度を向上させ自社で長く働いてもらうためにも、従業員の志向にあったキャリア形成の支援が求められます。人材ポートフォリオによって、従業員のキャリアプランが具体化されれば、希望を考慮した人材配置やキャリアプランを実現するための人材配置、そして、なぜその場所に配置されるかの説明も説得力を持って行えます。
また、従業員のキャリアプランの把握は中長期的な経営戦略にもつながります。
人材ポートフォリオを作ることは、自社の組織体制の把握にもつながります。どのような考え方を持っている従業員が多いのか、どのようなスキルを持った人材が多いのか、事業を行なっていく上で不足している人材のタイプはどのようなものかなどです。
それぞれを把握することで、事業内容に適したスキルを持つ人材の配置、自社の弱い部分を補える人材の採用といった人材戦略に活かすことが可能です。
他にも雇用形態や、業務の中での役割も明確化されるため、自社の人材を無駄なく適切に配置できます。そのため余計な人件費が削減できるなど、コスト面でのメリットも出てきます。
人材ポートフォリオを作成する際は、以下の手順に沿って進めていきます。
それぞれの手順について解説していきます。
繰り返しになりますが、人材ポートフォリオは作成することが目的ではなく、作成して企業としての成果につなげることが目的です。
成果を出すためには、ビジョンや事業計画を具体化させ、実現するための方向性を明確にする手順が必要です。方向性が明確になれば、成果を出すためにどのような人材が必要かが見えてきます。
自社の方向性を明確にしたら、必要なタイプを分析して定義していきます。タイプの定義には「四象限」を活用していくと良いでしょう。
四象限とは、以下の図のように4タイプに分類を行う方法です。たとえば「個人で行う仕事」と「組織で行う仕事」を縦軸に取り、「クリエイティブな仕事」と「ルーティンの仕事」を横軸に取ることで、それぞれがどの業務に当てはまるかを見ていきます。
上記の図であれば、「組織で行う仕事」で「ルーティンの仕事」に当てはまるなら、定型業務が得意な人材が必要であるとわかります。
これらの軸の設定は、自社の経営戦略の目標と実施する事業内容に合わせた軸であることが大切です。たとえば縦軸を個人と組織ではなく、「総合職」と「専門職」で分ける方が効果的な場合もあります。
自社の方向性を確認し、将来を見据えた分析が必要です。
定義したタイプに沿って、自社の従業員がどこに属しているかを当てはめていきます。
分類する際は担当者の主観ではいけません。適性試験の結果など客観的な指標を用いた分類が必要です。
分類された従業員が、自分はなぜここに分類されたのか納得感を持つことが大切です。
分類の結果から、自社の従業員に偏りがないかなど現状を分析していきます。
たとえば「ルーティンの仕事が多いが、マネジメントの人材が足りていない」などです。他にも「マネジメント人材の年齢層が高くなっており、次世代の人材が揃っていない」などの課題が見えてくるかもしれません。
成果を上げるために理想とした分類との差などを見ていくと、より具体的な現状把握につながります。
分析した結果、出てきた課題に対しての解決策を具体化していきます。主な解決策は以下のようなものが挙げられます。
適した人材を適した場所に配置することが目的ですから、これらの解決策は闇雲に行ってはいけません。たとえば不足しているポジションを採用で補おうと考えても、コスト面や従業員の特性を見ると育成に力を入れた方が良いといったケースもあります。
人的資源を有効活用する解決策になっているかという観点から考えていくと良いでしょう。
実際に人材ポートフォリオを実践している企業事例を3つ紹介します。
旭化成株式会社では、経営戦略と連動した人財ポートフォリオに基づく採用と育成を行っています。自社で採用すべき人財の質と量を、事業と機能の両面から全社的に洗い出すことで、課題を把握し、必要な人財確保につなげています。
また、高度専門職の人員を毎年増加させ、当てはまった人財には役割の明確化や処遇の向上を実施しているのも特徴です。高度専門職についての状況は、企業として毎年モニタリングすることで質を担保しています。
DXの推進においても、人財をレベル1からレベル5まで定義し、「デジタルプロフェッショナル人財」と位置付けたレベル4以上の人財を、2021年度末までに230名育成する目標を掲げました。
結果として見事に育成目標を達成しており、人財ポートフォリオを有効活用していると言えます。
オムロン株式会社は、グローバルリーダーの育成に人材ポートフォリオを活用しています。
企業理念を体現し、組織を牽引する最重要ポジションとして「グローバルコアポジション」を約200設定。人財の発掘から、適切な配置および育成に役立てています。
これらの取り組みで明確なKPIが設定しているのも特徴です。さらに人財の活躍を支援するために、重要なエンゲージメント項目を特定し、課題を把握しやすいように工夫がされています。
社員の能力、経験、志向を見える化させることで、社員の満足度と適材配置の両立を目指しています。
花王株式会社では、中期経営目標達成を目指すために、自社の従業員一人ひとりの活力を最大化することを目標としています。具多的な施策として、OKR(Objectives & Key Results)を2021年度から導入しました。
OKR(Objectives & Key Results)は、従業員一人ひとりが目指す中長期的な理想の姿を描き、ゴールから逆算した目標を設定するものです。企業側は従業員のOKRをグループで共有することで、同じ目標に向かう従業員同士を連携させるなどの取り組みを行っています。
花王では、目標への挑戦によって、従業員一人ひとりが成長し、結果的に社会や会社への貢献に還元されることを目指しています。
人材の流動性が激しくなった現代において、優秀な人材を確保し、自社を持続的に成長させることは、どの企業にとっても大きな課題です。
企業側はこうした変化に対応するために、人的資源を有効活用し、効率的に成果を上げる必要が出てきています。そのためには人材ポートフォリオの活用が不可欠です。効果的に活用することで、自社の課題把握や過剰人材の適切な把握、経営戦略や事業戦略への落とし込みが可能になります。
今後、さらに重要性が増していく人材だからこそ、闇雲に施策を打つのではなく、人材ポートフォリオを活用して適切な企業設計を行ってみてください。