戦略人事とは?目的とメリット、人事戦略との違いや導入事例

公開日:2023.04.25 更新日:2023.04.25

人事部門の業務は、採用・育成、組織開発、評価制度の導入・運用、労務管理、入社・退社手続き、安全衛生管理と多岐にわたります。いわゆるオペレーション業務も少なくありませんが、近年は「守りから攻めの人事」への変革が必要であると言われるようになりました。従来の管理的業務を中心とする人事から、経営戦略と一体化した人材マネジメントを意味するキーワードが「戦略人事」です。今回は戦略人事について解説します。

戦略人事とは?

戦略人事とは、戦略的人的資源管理(SHRM:Strategic Human Resource Management)の略で、経営戦略と連動した人材マネジメントを指します。この概念は、ミシガン大学教授のデイビッド・ウルリッチ氏により、『MBAの人材戦略』(原題:Human Resource Champions)という著書の中で提唱されました。

人事が担う役割

ウルリッチ氏は人事が担う役割を4つに分類し、これらを有機的に機能させることにより、競争力を持った組織づくりが実現されるとしました。それぞれの役割と活動は以下の通りです。

<人事が担う4つの役割>

戦略パートナー(Strategic Partner):人的資源と事業戦略の連動

管理エキスパート(Administrative Expert):組織プロセスのリエンジニアリング

従業員チャンピオン(Employee Champion):社員への傾聴と対応

変革エージェント(Change Agent):変革のマネジメント

横軸に人とプロセス、縦軸に未来・日常という要素を取り、4つの役割を図で示すと以下のようになります。

戦略人事と人事戦略の違い

戦略人事と似たキーワードに「人事戦略」があります。人事戦略は、従来の人事の枠組みの中での採用・人材育成・配置、業務の生産性向上に関する戦略であるといえるでしょう。一方、戦略人事は、人事領域へのデジタルトランスフォーメーション(DX)導入など、人事が経営戦略にも関与するという点が異なります。例えば、全社でDXを推進するため、デジタル人材を採用したり、育成のための環境を整えたりすることは戦略人事に該当します。従来のオペレーションを主体とする人事は「守りの人事」、戦略人事は「攻めの人事」と呼んで区別されることがあります。

戦略人事の目的

戦略人事は、人材マネジメントを経営戦略と連動させることによって、他社との差別化を図ったり、企業の競争優位性を保ったりすることを目的としています。

戦略人事のメリット

現代はVUCAの時代と呼ばれます。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉です。ビジネスを取り巻く環境はめまぐるしく変化します。これまで有効とされていたビジネスモデルが通用しなくなったり、常識が覆されたりすることがあります。戦略人事によって、企業がそのような変化に迅速に対応し、重要な経営資源である人材を適切にマネジメントすることが可能となります。

戦略人事の進め方

戦略人事は以下の4つのステップで進めます。

1.経営戦略の把握

戦略人事は経営戦略との連動を前提としているため、経営戦略の正確な把握に努めます。

 2.人材ビジョンの策定

経営戦略を踏まえ、事業展開にどのような人材が必要であるかという「人材ビジョン」を明確にします。

3.中長期計画の立案

中長期経営計画と照らし合わせながら中長期人事計画を策定します。

4.人材採用・育成計画の立案

具体的に必要な人材の数や年間の育成計画を立てます。

企業の戦略人事事例

企業の戦略人事の事例として、オムロンの企業理念を実践する取り組み「TOGA」と、アシックスのグローバルリーダー育成プログラム「Asics Academy」・女性社員のキャリア形成を支援する研修「キャリアデザイン研修」を取り上げます。

オムロン

オムロンはオートメーションのリーディングカンパニーを標榜し、制御機器、電子部品、社会システム、ヘルスケアと幅広い分野で事業を展開する電子機器メーカーです。オムロンは2022年3月に新長期ビジョン「Shaping the Future 2030」を発表しました。そして同年4月には最初の中長期計画「SF 1st Stage」をスタートさせ、「ダイバーシティ&インクルージョン」を加速させる人材育成施策の取り組みの1つとして、「TOGA(The OMRON Global Awards)の進化」をあげています。

2012年にスタートしたTOGAは、チームで企業理念に基づくテーマを宣言してエントリーし、選出されたテーマをグローバル全社で共有することによって企業理念の実践を促す活動です。創業記念日である5月10日から1年間をかけて実施されます。

2022年9月に開催された第10回TOGAグローバル大会では、日本の社会システム事業のチームが住民同士の送迎サービス「meemo(ミーモ)」の取り組みを発表しました。このサービスは、少子高齢化と人口減少による公共交通機関の担い手不足に直面する日本の地方都市の問題解決を目的としており、大会ではチームの挑戦がグローバルに共有されました。

早稲田大学大学院教授の菅野寛氏は、オムロンの「統合レポート2022」の中で、TOGAは費用対効果が高く、企業理念と自分の仕事との関連性を考えるという点での人材育成や社内外との連携によるイノベーション創出などに貢献しており、結果として企業価値の向上につながっていると指摘しています。

アシックス

アシックスはスポーツ用品等の製造および販売を手掛ける企業です。海外売上比率が約70%を占めるグローバル企業であり、SNS分析プラットフォームを提供するTalkwalker株式会社がHootsuite社と共同で発表したレポート「Love Brands 2022」で、世界で最も愛されている企業ブランドに選ばれました。

アシックスは、2030年までの長期方針「VISION 2030」の実現に向けた「中期経営計画2023」の重点戦略に経営基盤の強化を掲げており、これを実現するための人的資本強化に力を入れています。次世代のグローバルリーダーを育成する選抜型プログラム「ASICS Academy」を2016年にスタートさせ、選抜対象者は期待されるレベルに合わせて経営知識や戦略思考を学ぶだけでなく、プログラム終了後もキャリア開発を継続できる環境が整備されています。

また、女性社員を対象とした「キャリアデザイン研修」を実施し、女性社員が管理職を目指す意欲を高めています。キャリアデザイン研修は、「管理職に就く自信がない」「育児と両立ができるか不安」という女性の悩みと向き合い、継続的なキャリア形成を支援するものです。なお、同社はグローバル全体での女性管理職比率を2023年までに35%、株式会社アシックス単体で20%に引き上げたい考えです。

まとめ

今回は戦略人事の目的や実現の手順についてご紹介しました。人事管理システムなどのITツールの導入により、人事・労務関連のオペレーション業務は効率化が進んでいます。人事部門は経営戦略にも関わり、ビジネス環境の変化に応じた柔軟で迅速な人材マネジメントを行うことが求められます。戦略人事を実現させるためには、関係部署とコミュニケーションを密にとり、導入目的や方法を十分に理解してもらうことが重要です。

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