人材戦略の立て方とフレームワーク、事例について解説

公開日:2023.04.24 更新日:2023.12.13

企業を取り巻く環境は厳しさを増しています。目まぐるしい変化が起こる中で企業が競争力を維持するためには、場当たり的な人事施策ではなく、中長期的な視点に立った人材戦略が欠かせません。本記事では人材戦略の立て方と戦略を立てる際に用いられるフレームワーク、そして人材戦略の事例についてご紹介します。

人材戦略とは

経営目標達成のために「どのような人材がどのくらい、どの場所に必要であるか」および「これをいかにして実現するか」といった、人材に関する計画および施策を人材戦略と呼びます。

人材戦略の必要性

なぜ人材戦略が必要とされるのでしょうか。「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」は4大経営資源と呼ばれますが、ヒト(人材)がいなくてはビジネスが回らないという点を考慮すると、最も重要な経営資源は人材であるためです。経営戦略と連動した人材戦略により、経営目標の実現が可能となります。

これからの人材戦略で重要なポイント

これからの人材戦略で考えるべき重要なポイントとして、グローバル化・デジタル化・少子高齢化の3つが挙げられます。

グローバル化

国内需要が縮小する一方、海外市場は拡大しています。酒造メーカーが海外市場に販路を見出そうとするなど、国内企業が海外に目を向けるのは珍しいことではなくなりました。グローバルなビジネスでは、クライアントは日本人であるとは限りません。海外展開を主導することができるグローバル人材の確保および育成が求められます。

デジタル化

ビジネスのあらゆる分野でデジタル化が進んでいます。デジタル技術をいかに活用し、新しい価値を創出できるかがビジネスの成功を左右します。高度な技術に関わるエンジニアやデータサイエンティストといったIT系デジタル人材はもちろん、ビジネスモデルや業務プロセスの設計に関わるビジネス系デジタル人材の両方が求められます。

少子高齢化

少子化の影響で若手社員の採用が難しくなっています。他社よりも魅力的な採用条件を提示したり、第二新卒を積極的に採用したりするなどのケースが見られます。他方、社内のシニア人材が全社員に占める割合は増加するため、知識や経験を持つシニア人材の活用が課題となります。人手不足解消を目的として、女性を含む多様な人材を受け入れたり、さまざまなニーズに合わせた柔軟な働き方を取り入れたりする機会が増えるでしょう。

人材戦略の立て方

人材戦略の策定は以下のステップに沿って進めます。

1.経営戦略の把握

たとえば、経営戦略で注力していく事業セグメントが異なれば、人材戦略における採用方法や育成方針が変わってきます。経営戦略と人材戦略は連動させる必要があるため、人材戦略の立案にあたり、経営戦略の把握から始めます。

2.現状の分析と課題の洗い出し

自社の特徴や取り巻く環境を分析し、現状とあるべき姿のギャップを明らかにします。経営目標を達成するための課題を洗い出し、それらに優先順位をつけていきます。

3.目標の設定

課題を解決するための具体的な目標を設定します。達成の度合いを客観的に判断できるよう、できる限り数値目標を設定するようにします。

人材育成を進めるならリスキリングも検討すべき

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人材戦略で使えるフレームワーク

人材戦略を立てる際、状況を分析するためにフレームワークを使うと便利です。ここでは2つのフレームワークをご紹介します。

SWOT分析

SWOT分析とは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)という4つの観点で評価するフレームワークです。「強み」と「弱み」は企業の内部要因(企業が自らコントロール可能な要因)、「機会」と「脅威」は外部要因(企業を取り巻く外的要因)です。SWOT分析により「強み」「弱み」「機会」「脅威」を明らかにした後、それぞれの要因を掛け合わせて戦略を立てます(この手法をクロスSWOT分析と呼びます)。

「強み」×「機会」…自社の強みを活かし、機会を得るための戦略は何か?

「強み」×「脅威」…自社の強みを活かし、脅威を克服するための戦略は何か?

「弱み」×「機会」…自社の弱みを補い、機会を得るための戦略は何か?

「弱み」×「脅威」…最悪の状況を回避するための戦略は何か?

PEST分析

PEST分析は、外部要因が企業に及ぼす影響を把握するためのフレームワークで、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)という4つの観点から分析を行います。具体的な人材戦略の立案には、PEST分析とあわせて内部要因の分析も必要ですが、PEST分析の実施は人材戦略の方向性を導く際に役立ちます。各要因と最近の具体例を以下に挙げます。

政治的要因…定年引上げ、働き方改革、リスキリング推進、賃上げ要請

経済的要因…コロナウイルス流行やウクライナ情勢の悪化などによる原油価格・物価高騰

社会的要因…少子化による労働人口減少、環境問題に対する関心の高まり

技術的要因…AIやロボットの導入、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速

企業の人材戦略事例

人材戦略の事例として、日立製作所とオリックスの2社を取り上げます。日立製作所はグローバル人材やデジタル人材の採用・育成、オリックスは女性社員やシニア社員の活躍推進に力を入れています。

日立製作所

日立製作所は、人材戦略を経営戦略の重要な一部ととらえ、経営戦略と連動させています。2024年度中期経営計画の人材戦略では、「多様な人財と公正な機会、インクルーシブな組織を通じた事業への貢献」というミッションを掲げています。

日本が世界第2位の経済規模だったときは、日本人の男性正社員を中心とした人材で組織が構成されていました。しかし、海外市場の拡大を背景にグローバル展開を進める現在では、さまざまな国籍や性別から構成された人材が、国や地域を超えてチームとして業務に取り組んでいます。

また、Lumada(同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援するソリューションやサービス、テクノロジーの総称)事業の目標と連動して、デジタル人材の確保・育成が不可欠であるとしています。2021年度は1.4兆円だった売上収益を、2024年度に約2倍の2.7兆円に伸ばすという目標を達成するため、2021年度は6万7,000人だったデジタル人材を、2024年度には9万8,000人に増やす計画です。

オリックス

オリックスは人材を最も重要な財産であると位置づけ、「Keep Mixed」という考えのもと、多様な人材を受け入れ、各社員が自らの能力や専門性を最大限発揮できる環境づくりを進めています。

2030年3月期までにグループの女性管理職比率を30%以上とすることを重要目標に掲げるなど、特に女性社員の活躍推進に力を入れている点が特徴です。女性のキャリア形成を支援するため、入社4年目以降の女性社員を対象とした「若手社員向け女性フォーラム」、管理職昇格前の社員を対象とした「選抜型キャリアデザイン研修」、管理職向けの「女性マネージャー異業種勉強会」という研修を設けています。

また、シニア社員が活躍できる機会を提供するため、シニア社員を対象とした社内公募制度やキャリア面談、研修の制度もあります。

まとめ

今回は企業の人材戦略の立て方の流れとフレームワーク、そして国内企業の戦略事例を取り上げました。近年、株主総会で人材戦略が取り上げられる機会が増えたり、企業によっては株主や投資家を対象に人材戦略の説明会を開催したりするという事例は、人材戦略の重要性が高まっていることを表しています。自社の人材戦略が経営戦略と連動しているか、企業価値向上に結び付いているか、再確認してみてはいかがでしょうか。

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