社員の「学び」に力を入れるドコモグループは、一歩踏み出す勇気を育む企業内大学「docomo academy」を、2020年から毎年開校しています。年齢、性別、役職に関係なく、グループ社員であれば誰でも参加可能で、受講者は半年間かけて、自分が本気で取り組みたい事業案をつくります。多様なジャンルの著名人による外部講師講話、メンターとの壁打ち、役職・年齢・性別を完全シャッフルしたクラス制など、新しい刺激や気づきを得られるプログラム設計です。 2023年度のdocomo academy参加者である西之上 航さんに、プログラムに参加した背景や事業開発スキルのリスキリングについての考えをお話いただきました。
プロフィール
西之上 航
2022年4月、新卒で株式会社NTTドコモへ入社。入社後は国際事業部へ配属され、ドコモユーザー向け国際ローミングサービスのプロモーション・フロントを担当。2023年10月からdocomo academyに参加。カンボジアの教育をテーマにした事業案を発表しファイナリストの上位三名に選出される。
目次
――まずは、ご経歴についてお聞かせください。
2022年に株式会社NTTドコモへ入社し、研修後は国際事業部へ配属されました。同事業部では、ドコモユーザー向け国際ローミングサービスのマーケティングを担当しており、Webコンテンツの作成やSNS運営などに携わりました。
――docomo academyに参加した背景を教えてください。
グローバルレベルで社会課題を解決できる人材としてのキャリアを歩みたいと思ったからです。
グローバルなフィールドで仕事がしたいと思っており、高校生の頃のアメリカ留学などを経て、上智大学外国語学部へと進学し、4年間のほとんどを英語や国際協力の勉強に費やしてきました。しかし、現職では国境を越えて働くチャンスがあまりなく、グローバルなキャリアを歩むためにはどうすればいいのかと考えているとき、docomo academyの存在を知り、参加を決めました。グローバルで活躍できそうな事業案の作成や、同じように自分の目標と向き合う仲間と交流がしたいと思ったのです。
また、社会課題解決、とくに東南アジアでの教育問題について関心があり、関連する事業案づくりにチャレンジしたい気持ちもありました。大学生のころカンボジアに計2ヶ月ほど滞在し、英語教育事業を行っていた経験から興味をもちました。自分のアクションで大きなインパクトが与えられることにやりがいを感じ、カンボジアのために何かしたいという気持ちをずっともっていました。
――docomo academyに参加を決めてから、今に至るまでにどのようなフェーズの変化がありましたか?
スタート直後から1ヶ月近くは「困惑期」でした。学長や講師の方々のパワーに圧倒され、「自分に何ができるのだろう」と自信を失っていました。
何に挑戦するか迷っているとき、たまたま1on1をしてくれたメンターが、過疎化した島の支援に携わっている方で、島民が受けられるオンライン診療などの生活基盤を整える活動をしていました。そのメンターの話が非常にパワフルで、取り組みに対する真剣さや愛のようなものを感じて、自分も負けていられないなと奮起しました。
メンターと同じぐらい情熱をもてる取り組みは何だろうかと考え、思い出したのは学生時代のカンボジアでの経験でした。具体的な事業のかたちは思いついていませんでしたが、とにかく何か始めなくてはと思い、発信活動をスタートしたのです。自分のことを「カンボジアン」と名乗り、毎日のようにdocomo academyの仲間に向け、カンボジアに関する情報を発信をしました。
また、別のメンターから、関係者にヒアリングをしながら進めることが重要だとアドバイスをいただき、国際協力関係の事業を営む方へのヒアリングも同時に進めました。有識者の話を聞くうちに、日本にいるだけではわからないことが多いとあらためて感じ、カンボジアへの現地ヒアリングにも踏み切ったのです。
カンボジアでは、SNSでつながった現地の有識者や、フリースクールの関係者の方とアポイントをとり、いろいろな場所を訪れました。現地の方々とディスカッションを重ねるなかで少しずつ、課題や解決の糸口が見えてきました。現地での学びから事業案をまとめ、中間発表会でプレゼンをすると、上位3名に選出いただき、自分のアイデアに自信がもてましたね。
――そこからの事業構想づくりは順調に進んだのでしょうか?
実はそうでもありませんでした。
私が取り組みたいと考えていた、現地の子どもたちへの教育機会の提供は、収益性を担保することが非常に難しい領域でした。これまでは動き回っているとヒントをもらえましたが、より高いレベルでの構想が求められると、何をしていいのかわからなくなり、動きが鈍化してしまいました。
そのような状況を抜け出すきっかけになったのは、講師の一人である株式会社ボーダレス・ジャパンの代表取締役社長である田口 一成さんのお話です。ボーダレス・ジャパンは、まさにソーシャルビジネスのリーディングカンパニーとして、ビジネスと社会課題解決の両立を実践されてきた会社です。そのような会社の代表が力強く「社会課題解決と収益性は両立できる」と話しているのを聞いて、大きなパワーを頂きました。まだ自分がたどり着けていないだけで、必ずできる方法はあると思えるようになり、理想のビジネスモデルを検証するため、もう一度カンボジアへ渡航しました。
――今まさに、業構想を詰めているところだと思います。現段階で、どのようなビジネスモデルを考えているのか教えてください。
カンボジアのフリースクールに通う子どもたちと、日本の子どもたちが交流できるメタバース空間を構築し、お互いに学び合うきっかけづくりや、社会人向けワークショップをカンボジア開催し、現地の教育組織とのコラボレーションを生むことができないかと考えています。クライアントは日本の学校や企業だと考えており、ゆくゆくは教育や研修プログラムの一つとして導入してもらえないだろうかと検討をしています。
――docomo academyがテーマとして掲げる「イノベーション」「変革人材」において、プログラムを通して得られたことについて教えてください。
発信力の大切さについて体感できたことは、自分にとって大きな学びでした。
毎日のようにカンボジアについての情報発信をするうちに、docomo academyの皆さんから認知されるようになり「私もカンボジア行きたい」「おかげでカンボジアのイメージが変わりました」と声をかけられるようになりました。そのおかげで多くの人と交流ができ、そこで得た沢山のフィードバックは事業構想の土台になりました。イノベーションの源泉は、人との出会いなのだと実感しました。
さらに私の場合、docomo academy内にとどまらず、社外の有識者に対しても発信をおこなっていました。その結果、私に興味をもってくださる人もいて、副業のようなかたちで事業に携わる経験もさせてもらえるようになりました。昔から憧れていた社会起業家の方と一緒に働ける経験は、docomo academyがなければ実現できなかったと思います。
――事業開発分野でのリスキリングを考えている方に、アドバイスをお願いします。
とにかく「アクションを起こしまくる」ことをまずは意識してもらえるといいのかなと思っています。
実は私も、docomo academyに参加するまでは社会人としてのアクションの起こし方に悩んでいました。それでも講師の方々やメンターをはじめ、多くの人に勇気をもらい、動いてみると世界が拓けました。docomo academyの運営メンバーの方から言われた「失敗しても、嫌われてもいいんだよ、どうせ10年後には誰も覚えていないんだから」という言葉は、今でも自分を奮い立たせてくれます。
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
まずは、今取り組んでいる教育事業をかたちにしたいです。
docomo academy自体は2023年10月から始まって、翌年3月には終わってしまいます。その先、事業を続けるのかは当人に任されており、私の場合は、どんなかたちであれ事業が立ち上がるまで続けるつもりです。カンボジアの教育から入って、最終的には東南アジア全体の活性化にも貢献できるような、社会に大きなインパクトを与えられればと思っています。
また、引き続き発信活動を続け、ドコモグループの中で「カンボジア/東南アジアと言えば西之上」というポジションも確立したいです。そのうえで、社内外での人脈形成を加速させ、自分自身の影響力を大きくしていければと思っています。イメージとしては、有名経済誌で「東南アジアを動かす100人」に選ばれるような存在になることです。世界の社会課題解決に貢献できる人材を目指します。