新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行し、多くの企業がリモートワークを導入しました。しかし、経理担当者は紙の請求書の処理のために出社しなければならなかったというケースも少なくないようです。経理業務でアナログなやり方を続けていることがコロナによって露呈したわけですが、裏を返せば経理業務はDXを進める伸びしろが大きい領域であるとも言えます。今回は経理DXとはどのようなものか、経理DXが必要とされる背景やDXの事例についてご紹介します。
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デジタル技術によるビジネス変革をDX(デジタルトランスフォーメーション)と呼びます。DXは他社との差別化を図る上で重要な役割を果たします。経理業務におけるDXが経理DXです。
アナログな請求書処理は経理業務の課題と言えます。SBIビジネス・ソリューションズ株式会社が2022年1月に実施した調査によると、請求書関連業務の中で紙を印刷していると回答した経理担当者は約8割にものぼります。しかし、経理業務で紙の書類を扱うことには問題があります。その一つが書類を探すために手間がかかることです。膨大な書類の中から目的とする書類を見つけるのは大変ですし、増え続ける書類を保管する場所の確保も必要となります。また、重要な書類を紛失するセキュリティリスクも懸念されます。
電帳法改正とインボイス制度開始に伴う経理業務の負担増加は、デジタル変革を後押しすると考えられます。
電帳法(電子帳簿保存法)とは、原則紙の書類での保存が義務付けられていた帳簿書類について、一定の要件を満たした上で電子データでの保存を可能とすることや電子取引情報の保存義務等を定めた法律です。電帳法改正(令和4年1月1日施行)により、自社で電子データとして作成した帳簿や決算関係書類は電子データのまま保存、自社・取引先間における書面の請求書・領収書や控えはスキャナで読み取って電子データ化して保存することが可能となりました。
電子取引の電子データを紙に印刷して保存しているという事業者の方も多いのではないでしょうか。電帳法改正で注意したい点は、自社・取引先間における電子データでの請求書・領収証や控えは、電子データのまま保存が必要であるということです。請求書や領収書等の電子データをやり取りする取引は電子取引に該当します。令和3年までは電子データを印刷した書面をもって保存義務を果たすとされていましたが、令和4年以降の電子取引は電子データの保存が義務付けられました。その後、令和4年度税制改正により、令和5年末までの宥恕(ゆうじょ)措置として、やむを得ない事情がある場合は書面データでの保存が認められます。しかし、令和6年1月からは電子データの保存が必要です。
インボイス制度(適格請求書等保存法式) は令和5年10月1日からスタートします。インボイス(適格請求書)には、現行の区分記載請求書に「登録番号」「適用税率」「税率ごとに区分した消費税額等」の記載が追加されています。インボイス制度の下では、買い手(課税事業者)が仕入れ税額控除を受けるためには、原則として売り手(取引先)から交付されたインボイスが必要です。売り手はインボイス発行事業者として登録することでインボイスの発行が可能となります。
免税事業者(課税期間における基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者)の売り手は、インボイス発行事業者としての登録を受けないという選択肢もあります(ただし、インボイスを交付できないことで買い手の納付税額が大きくなります。なお、インボイス制度開始後6年間はインボイス発行事業者以外からの仕入れ税額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています)。買い手は現行の区分記載請求所よりもチェックすべき項目が増えるとともに、インボイス発行事業者とそれ以外の事業者とを分けて会計処理をする必要があります。
経理DXを推進する主なメリットして、ベテラン社員のコア業務への集中と働き方改革の実現が挙げられます。
経理業務は知識やスキルを備えたベテラン社員に頼りがちです。これは、ベテラン社員が業務量の増加で専門性を要するコア業務に十分な時間を割けないという状況をつくってしまいます。AIによる仕訳チェック機能を備えた財務会計システムを導入すれば、ベテラン社員は意思決定が求められる高度な業務に集中し、定型業務は経験が浅い社員に任せるといった業務のすみ分けが可能になります。また、チェック漏れの防止にも役立ちます。
育児や介護などの理由から出社が難しい、あるいは出社を減らしたいという社員もいます。政府は国を挙げて働き方改革を推進しており、企業としてもこのような社員がリモートワークで働けるような環境整備が求められることは言うまでもありません。経理DXによりペーパーレス化が進めば、社員の出社機会を減らすことができます。
経理DXの事例として、日本空港ビルデングとエアプラスの2社を取り上げます。
羽田空港などの旅客ターミナルビルを運営する日本空港ビルデング株式会社は、クラウド請求書受領システム「TOKIUMインボイス」を導入し、導入初月で約80%の請求書のペーパーレス化に成功しました。紙の請求書を利用していたときは問い合わせがあった際、保管場所に探しに出向いていましたが、システム導入によりその必要がなくなり、リモートワークができるようになりました。
個人向け旅行サイトを運営するエアプラス株式会社は、銀行入出金明細の自動取得サービス「MoneyLook BIZ」を導入しました。顧客からの注文を受けて代金が入金されていない場合、代金は売掛金として処理されますが、入金後はこの売掛金を取り消す「入金消込」の作業が必要です。同社はこれまで人が毎日インターネットバンキングにログインして入出金明細データを取得し、入金消込を行っていましたが、サービス導入後はこれらの作業を自動化することができました。
AI-OCRとRPAは経理DXに活用できます。
OCR(Optical Character Reader)とは光学文字認識機能を指します。紙の書類をスキャナで読み取ると、書類に記載されている文字を認識してデジタルデータに変換します。OCRにAI機能を搭載したAI-OCRは、請求書や納品書などの記載情報をAIが抽出し、テキスト化してくれます。紙の伝票を手入力する手間を省いたり、データ入力のミスがなくなることでチェック業務の時間を減らしたりできます。具体的なサービスとしては、株式会社リコーの「RICOH 受領請求書サービス/RICOH 受領納品書サービス」が挙げられます。
RPAはロボットによる業務プロセスの自動化を指します。経理業務の定型業務はRPAによる自動化が有効です。たとえば、Excelの交通費申請書のチェックもRPAで自動化できます。申請書に入力されている出発駅と到着駅で路線検索サイトを検索して料金を確認、申請書の金額と比較して、正しい金額であるかどうかを判定してくれます。Excelにもマクロ機能はありますが、他のアプリと連携させようとすると大変です。RPAは複数のアプリ(交通費申請書の場合はExcelとブラウザ)との連携が簡単にできます。株式会社FCEプロセス&テクノロジーの「ロボパットDX」の場合、エンジニアに依存せず、事業部門だけで自動化を実現可能です。さまざまなRPAツールがリリースされていますので、自社のニーズに合った製品を選ぶと良いでしょう。
今回は経理DXについてご紹介しました。経理業務では依然として紙の書類を扱う機会が多いなど、効率化が図られていないケースが多いようです。しかし、電帳票改正やインボイス制度開始に伴う業務負担の増加が予想されるため、一刻も早いDXの導入が望まれます。